| 小規模個人再生は中小自営業者に活用されているか |
1.小規模個人再生と給与所得者等再生の関係
平成13年4月から施行された、個人債務者再生手続きは、申立時に、小規模個人再生と給与所得者等再生のいずれかを選択することになっている。
小規模個人再生は、主として個人事業主を対象と想定されており、給与所得者等再生は、主としてサラリーマンを対象と想定されている。
一方、給与所得者等再生は、小規模個人再生の特則と位置づけられているため、給与所得者等再生を利用可能な債務者は、同時に小規模個人再生を利用可能という関係になっている。
従って、サラリーマンに代表される給与所得者は、小規模個人再生と給与所得者等再生のいずれかを選択できることとなっている。
逆に、個人事業主は、小規模個人再生しか選択できない。
2.小規模個人再生の利用者は?
銀行法務21、No.604の特集として、「施行後1年、東京地裁の個人再生」の概要が記述されているが、それによれば、小規模個人再生と給与所得者等再生の利用割合は、3対7であるとしながら、最近では、小規模個人再生の利用件数が増加しており、最近4ヶ月間では4対6の割合になっていることを指摘している。
しかしながら、これは、けっして、中小自営業者による小規模個人再生が増えているというわけではなく、給与所得者であっても、小規模個人再生を申し立てるケースが多いことが指摘されているのである。
つまり、給与所得者等再生における可処分所得の額の定めが厳格で再生計画が立案できない者が、可処分所得基準のない小規模個人再生を選択するケースが多くなってきているとのことである。
実際に、筆者も施行後、数十件もの個人債務者再生手続の申立に関与しているが、給与所得者である申立人に対して小規模個人再生を選択したケースは多い。
そして、その理由は、上記に指摘された理由とまったく同じである。
より具体的に言えば、独身者である場合、政令に定められた最低生活費はかなり少額となっており、その結果、可処分所得額の2年分は200万円を超えることは多く、事案(つまり、申立人の年収によっては)によっては、400万円程度の可処分所得が算出されてしまうケースも少なくない。
このような事案で、給与所得者等再生を選択すれば、そもそも個人債務者再生手続を選択した意味が無くなってしまう。
そこで、やむなく、リスクを負いながら、小規模個人再生を選択することになるのである。
それでは、本来、法が予定していた個人事業主、中小自営業者の申立はどのくらいの割合であるのか。
大阪地方裁判所の個人再生事件推移表(クレサラ・商工ローン実務研究会IN大津資料124頁参照)によれば、施行から平成14年4月までの小規模個人再生申立総件数337件のうち、事業者の申立数は128件となっている。この数字をどう見るかであるが、そもそも事業者を想定していたのが小規模個人再生であるから、やはり積極的に活用されているとは言い難いのではないだろうか。
3.債権者の同意・不同意の実際
先述した理由により小規模個人再生を選択した場合、最大の関心事は、債権者による書面決議の賛否の行方である。
給与所得者であるにも関わらず小規模個人再生を選択する理由は、既に述べたとおり、返済総額を下げることにあることは明らかであるが、債権者が、申立人の可処分所得を算出することは簡単にできるわけであるから、可処分所得額の2年分と小規模個人再生における返済総額(多くは最低弁済額となろう)との開きがあまりにも大きい場合、このような申立人の選択に、債権者は同意しないのではないだろうか、という不安があっても当然であろう。
しかしながら、幸いにというべきかどうか迷うところではあるが、筆者の関与した給与所得者の小規模個人再生においては、書面決議が否決されたものは無い。
東京地裁においても、書面決議に至ったもの77件のうち、否決されたものは6件であり、全体の1.7%にすぎない(銀行法務21、No.604)。
また、その77件の書面決議に登場する総債権者数965人のうち、反対債権者数は、わずか57人であり、反対率は5.9%にすぎないのである(銀行法務21、No.604)。
ちなみに、給与所得者等再生における意見照会率は、事件数181件の総債権者数1930人のうち、意見提出者数わずか31人ということで、1.6%にすぎない(銀行法務21、No.604)。
この数字は、おそらく全国的に見ても大きく開くことはないものと思われるが、何を意味するのであろうか。
あくまで私見にすぎないが、「少なくとも自己破産を申し立てられるよりは弁済を受けることが出来る」ということよりも、むしろ、債務者が倒産手続の一つである個人債務者再生手続を申し立てることによって、債権者は、債権全額について、貸倒引当金の計上をし、償却の処理をすることが出来るからであろうと思われる(「法的紛争処理の税務」民事法研究会)。
そうであれば、税務上の取扱に大きな変動が無い限り、申立人によほどの事情が無ければ、債権者が敢えて積極的不同意を書面で提出することは今後も考えられないものと思われる。
4.中小自営業者に小規模個人再生が活用されていない理由(私的考察)
本稿は、「中小自営業者に小規模個人再生が活用されているか?」という考察であるが、既に述べてきたとおり、客観的なデータは発表されていないものの、どうやら、あまり活用されていないのではないか・・・という実感を筆者は持っている。
実際、筆者が、経験した中小自営業者の小規模個人再生もわずか数件に留まる。
では、何故、せっかく出来たこの小規模個人再生が、事業主の倒産は増加傾向にあるはずであるにも関わらず、中小自営業者にあまり活用されていないのか、筆者なりに考察を加えてみることにする。
@取引先の理解が得られにくい。
まず第一の理由として考えられるのが、取引先の理解不足又は取引先への説明不足であろう。拙稿でも述べたが、取引先に対する買掛金債務についても、「再生手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権」であれば、再生債権として同じ取り扱いを受ける(「クレサラ・商工ローン被害者のための個人再生手続活用法」全国クレジット・サラ金問題対策協議会)。
したがって、再生計画によらない弁済は禁止され、弁済額も再生計画の認可確定により一般的基準による権利の変更を受けることとなる。
申立後にも取引を継続させていかなければならない取引先に、この法的事実を受け入れてもらうことは想像以上に困難が伴うようである。確かに、中小自営業者の取引先の多くは中小自営業者であり、法的専門家が顧問になっているところは圧倒的に少数であろうし、気軽に相談をすることができる法律家すら居ないであろう。
そのように考えれば、つい感情的に「倒産手続に入るならこれで取引は打ち切り」という事態にもなりかねない事情も分からないではない。
こうした事情によって、個人事業主は、サラ金などの高利金融だけの整理が可能な特定調停手続を選択しがちになるのではないだろうか。
A会社組織が多数である。
次に、多くの中小自営業者は有限会社又は株式会社の組織形態を取っている、ということもあげられよう。
会社設立手続に多く関わっている司法書士としての実感から言っても、実際には個人事業主と何ら変わらないが、体裁上、会社組織の形態をとっている場合が非常に多いのが現状である。
対外的なイメージや節税対策というのが大きな理由であろうが、いずれにせよ、会社組織である以上、小規模個人再生が利用できないことは言うまでもない。
しかしながら、多くの有限会社や株式会社が実質的には個人事業主と変わらないというのが現状であれば、そのような会社にも小規模個人再生の適用の余地を与える法改正が検討されても良いように思われる。
B不動産を所有している場合、事業資金借入金の抵当権が設定されている。
また、実際にあった事案であるが、個人事業主である債務者が住宅を所有しており、住宅ローンの他に、政府系金融機関からの事業資金の借り入れに関する担保として当該不動産を提供している、という場合がある。
この場合、小規模個人再生を選択するメリットはあまり無い。少なくとも利用者にはそのように映るようである。
つまり、事業用借入金を担保する抵当権が住宅ローンを担保する抵当権の後ろに設定されていれば、住宅資金貸付債権に関する特則は利用できず、結果として、小規模個人再生の申立により、自宅を手放すことを余儀なくされる。
抵当権者との協定が別途成立すれば、事実上、住宅を守ることが出来ようが、現実問題としてこの協定成立にこぎつけるのは容易ではなかろう。
そうであるとしたら、こうしたケースの場合、いくら再生債権が相当の割合でカットされることになろうとも、利用者にとっての魅力は半減するようである。
C専門家に相談する時には支払不能状態であるケースが多い。
これも上記拙稿で述べたところであるが、現実問題として、相談が持ちかけられた時点において、すでに如何ともしがたい状況の事業者が圧倒的多数であることは、法律実務家としては頭の痛い問題である。
D小規模個人再生が知られていない。
そして、Cの原因にあることは、この手続があまりに知られていない、という事実なのであろう。早期の手続関与を可能たらしめるためにも、私たち法律実務家は、民事再生法のより効果的なPRを心がけなくてはいけない。
5.取引先である債権者の理解を得るために
以上、小規模個人再生が個人事業主たる中小自営業者に多く活用されていない理由を述べてきたが、個人的には、@の理由が最大のネックになっているものと考えている。
そして、それは、私たち法律実務家の入り込むべき隙間が依然として大きいことを物語るが、小規模個人再生を、より生きた手続にしていくためにも申立人の取引先である債権者に対する誠実な対応が求められよう。
その具体的なものの一つとして、申立直前における通知書記載例をあげておく。
債権者各位
拝啓 時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
さて、皆様方におかれましては、突然のご迷惑をおかけすることになりますが、当方はかねてより資金繰りが悪化し、複数の消費者金融等からの借り入れも多額となっており、支払不能の恐れがある状態に陥ってしまいました。
このままでは、支払不能となってしまい自己破産せざるを得ませんので、誠に遺憾ではありますが、何とか再建を図るべく、静岡地方裁判所に対し、小規模個人再生手続の申立をすることを決意いたしました。
当方の負債状況、今後の資金繰り予定、資産状況につきましては、同封いたしました別紙のとおりでありますが、それらを踏まえた上で当方が提出する予定の再生計画案は、手続開始前の買掛金債務につきまして、80%程度の免除をお願いすることになっております(なお、手続開始後の買掛金債務につきましては、全額の支払いが法的に認容されていまので、この点につきましてはご理解ください。)。
誠に勝手なお願いでたいへん申し訳なく思っているところですが、この手続には、債権者の皆様方の協力が不可欠であり、ご協力いただけないということになりますと、当方は自己破産手続を余儀なくされてしまいます。
仮にそのようなことになりますと、当方の資産状況を考えれば、配当に回せるだけの原資はありませんので、恐らく破産手続は宣告と同時に廃止となり、配当額はゼロということになるものと思われます。
以上の状況であり、債権者の皆様方には多大なるご迷惑をおかけすることをお詫びいたしますとともに、今後の諸手続にご協力をいただきたく、お願い申し上げる次第です。
重大なご連絡であるにもかかわらず、書面にてご連絡申し上げる無礼をお許し下さい。
平成14年5月17 日
静岡市********
****** 印
当然のことではあるが、こうした通知書の送付だけで取引先が納得してくれるわけではなかろう。
手続の節目ごとに文書や口頭によって、手続の進捗状況を報告するなど、誠意を持って対応しておきたい。
以下の書式は、日本司法書士会連合会で監修した再生手続支援ソフトに組み込まれているものであり、筆者も利用しているものであるが、再生計画案を提出する際に、このような文書を送付しておくのも一つの方法であろうと考える。
6.小規模個人再生に向く個人事業主とは(私的考察)
再生債権者各位
平成14年6月1日
* * * * 印
昭和 年 月 日生
再生計画案へのご同意のお願い並びに振込先のお尋ね
拝啓 時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
私は、静岡地方裁判所平成14年(再イ)第**号小規模個人再生事件の手続を遂行しておりますが、再生債権者の皆様のご協力のもと、裁判所に対し、いよいよ再生計画案を提出する運びとなりました。
再生計画案の具体的な内容は、近々裁判所から送付されるものと思われますが、私といたしましては、現在できうる限りの弁済を致したく、再生計画案を立案させていただきました。
仮に、債権者の皆様が不同意の決議をされますと、牽連破産となる可能性もあり、その場合には、債権者の皆様に対しまして配当がなされる可能性はほとんどありません。
従いまして、再生計画案に対し、ご同意いただけますよう、なにとぞご協力のほどお願い申し上げます。
なお、別途裁判所からご案内がありますように、再生計画案に対しご同意いただける場合には、同意書の提出等、同意の意思表示を行う必要はないこととされています。
また、再生計画案が決議され、認可決定が確定されました際には、再生計画に基づいて貴社に対する弁済を開始することとなりますので、貴社に対する弁済金の振込先をご指定いただきたく、別紙にご記入のうえ、FAXにてご回答いただけますようお願い申し上げます。
(別紙省略)
既に述べたような障害を持つ個人事業主の小規模個人再生ではあるが、最後に、比較的この手続による再建が容易であろうと思われる業種をいくつかあげておくことにする。
@飲食店
個人経営の小規模な飲食店は、商品の単価も安く、買掛金として予想されるのは、継続的な取引関係にある酒屋などの卸業者のみである。
従って、消費者金融業者を除けば再生債権者として予想されるのは、上記取引先のみであるが、それらも多数であることは希であろう。
また、継続的給付契約の取引先は、債務者が再生手続の申立をした後に給付した対価については、再生計画によらず、随時弁済を受けることができるという点(法50条)も、取引先にとってメリットは大きい(「クレサラ・商工ローン被害者のための個人再生手続活用法」全国クレジット・サラ金問題対策協議会参照)。
A委託運送業者
特定の業者からの委託により、運送業務を営むという形態の委託運送業者とも言うべき自営業者が増えている。
委託する側の業者にとっては、雇用という形態を選択するよりも経費面のメリットが大きい(ガソリン代に代表される経費負担は運送業者が負担する)という理由から、こうした形態が定着しているのであろう。
こうした委託運送業者は、特定の業者からの委託による収入がほとんどであり、比較的売上げは予測しやすく、一方において、経費もガソリン代程度であり、買掛金を生じているケースは少ない。
一方、仕事の要となるトラックであるが、所有権留保物件であるのが通常であろう。この場合、当該トラックの引き上げがなされてしまうようであれば、再生の可能性は薄くなるので、この点には注意が必要であろう。
7.最後に
以上、現段階における中小自営業者による小規模個人再生の活用状況などについて、私見を交えながら考察してきたが、たびたび引用している「クレサラ・商工ローン被害者のための個人再生手続活用法(全国クレジット・サラ金問題対策協議会)」に掲載された拙稿「小規模個人再生による個人事業主再建の可能性と問題点」で触れた問題点については詳述していないので、是非そちらも参考にされたい。
現在、国が推進している構造改革により、今後、中小自営業者の倒産が増加する可能性が大きいと言われている。そうであれば、その救済を可能たらしめるこの小規模個人再生の利用件数も大幅に増加していくことが考えられる。
法律実務家は、使い勝手の良い中小自営業者のための「小規模個人再生」を、早急に実現していく必要があろう。
(平成14年5月)