1.ヤミ金融との闘いの経緯
ようやく、ヤミ金融規制法案が成立した。
2年以上前から、数え切れない数のヤミ金融業者と対峙することを余儀なくされてきた筆者にとっては、まさに「ようやく」というのが正直な感想である。
全国各地の「実務最前線」で闘ってきた数少ない司法書士も、同様の感慨を持っておられることだと思う。
筆者は、平成12年の終わり頃、初めて東京の短期業者と出会った。自己破産の申立を依頼に来た方の債権者を聴取していた時のことである。
俗に言う「トイチ業者」であったが、その時には、そのケースは極めて稀であるという認識しか持たず、また破産事案であったため、個別に対応する必要もなく、また、依頼人への取立て行為もさほど酷くなかったと記憶している。
その後も、少数ではあったが同様の事件を受託していたため、地元青司協の勉強会の休憩時間・懇親会などでは数人の間で、ヤミ金融対策についてノウハウを交換したりしていた。最初はその程度であった。
ところが、平成13年の春頃から、当事務所の常設無料相談電話には、じわじわとヤミ金融被害者の相談が増え始めた。
そして、筆者も、これは大きな問題になるであろうと確信するに至り、受託した事件では、いろいろな方法を試みることにした。
当初は、取立てを停止することを主たる目的として、業者に内容証明郵便を送付したが、この方法では経費が多額となるため、FAXによる通知に変えた。
また、不当利得金の返還請求を主体に切り替え、請求に応じない業者については、徹底的に提訴することとし、銀行口座の差押えも徹底した。
一方、平成13年12月には、地元の静岡において、自ら実行委員長となり静岡県青年司法書士協議会主催の「ヤミ金融被害110番」「ヤミ金融一斉告発」を敢行、大きくマスコミに取り上げられることとなった。
この際、一部の業者につき、告発を試みたが、警察の対応は非常に鈍く、告発を受理してもらうことはできなかった。
ただ、司法書士がヤミ金融被害の相談に応じるということがテレビ・新聞で報じられたことも相俟って、一部の会員の受託件数は激増することとなった。
その一方で、そうした司法書士に対する業者の嫌がらせも激化してきた。当事務所に大量の上寿司が届いたのもこの当時である。
また、その後に大きく報道された愛知県の水谷英二司法書士に対する嫌がらせは記憶に新しいところであろう。
平成14年春、再び、静岡県青年司法書士協議会において、全国ヤミ金融被害対策連絡会議(弁護士、司法書士、被害者の会らで組織している全国組織)主導の一斉告発に併せ、証拠がきちんと残存している事案に厳選したうえで、150社程度を県警に告発した。
マスコミを引き連れ、5名の司法書士が県警に出向いたが、2時間程度の押し問答の末、告発は受理されずじまいであった。この際の県警側の主張は、「物理的に捜査は困難」とのことであった。
一方、同時期、静岡県青年司法書士協議会においては、DMによる融資勧誘を行っている業者のリストを作成、HP上に公開しており、多くの司法書士又は弁護士の被害救済の一助となっている(その後、各地の弁護士会や全青司、被害者の会においても同様のリストを作成するようになった)。
その後、全国ヤミ金融被害対策連絡会議や各地の弁護士、司法書士による被害救済が加速度的に盛んになり、マスコミにも頻繁に取り上げられるようになり、一つの社会問題となった。
警察の対応も徐々にではあるが、積極的となり、静岡でも、3回目の一斉告発に至って、1件を受理、当該業者の逮捕にまで至っている。
一方、相談受託の現場では、相談の電話は鳴りやまず、特定の司法書士に大量の事案が寄せられ、そうした司法書士は、仮差押えによる被害回復を試みたり、いわゆるマネーロンダリングに該当する取引きであることを理由に銀行に対して金融庁への届出を促すなど、様々な工夫を試みてきた。
しかしながら、ヤミ金融側も、主流であった短期貸付けに加え、さらに悪質な「押し貸し」や「空貸し」などの方法により、被害を拡大させていき、いたちごっこの様相が変化することはなかったのである。
2.ヤミ金融規制法の成立
さて、本稿の主題であるヤミ金融規制法(貸金業の規制等に関する法律及び出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律の一部を改正する法律)は、既に述べたような状況下において、ようやく制定され、平成16年1月より施行されることとなっている。ただし、罰則部分に関しては、公布後一ヶ月後である9月1日に前倒しで施行されることとなっているので注意されたい。
その骨子は次の5つであると考えられる。
@登録要件の厳格化
A取立行為などの規制強化
B適正な営業体制の確立(貸金業務取扱主任者制度の創設)
C罰則の強化
D契約の無効
以下、簡単に説明する。詳細については各自条文を参照されたい。
@登録要件の厳格化
現在、貸金業者は43,000円の手数料を納め、申請書類に不備がなければ簡単に国や都道府県に登録でき、登録すれば、雑誌などに広告を出すことができるため、ヤミ金融には登録業者も多いと言われている。
実際に、昨年1年間に全国の警察が摘発した高金利事件(出資法違反)208件のうち、半数の106件が登録業者によるものであったという報道もある。
一方、ヤミ金融の経営で得た金員が暴力団の資金源となっているという現状もあり、こうした現状に鑑み、今般の法改正により、次のとおり登録要件を厳格にした。
つまり、貸金業規制法6条に定める登録拒否事由に関して、
(1)「暴力団員または暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者、これらが役員などである法人、暴力団員などを業務に従事させるおそれのある者」
(2)「貸金業を遂行するために必要と認められる財産的基礎を有しない者」が追加され、
(3)登録事項として、営業所等の電話番号などの他、貸金業務取扱主任者の氏名が追加されたことに伴い、営業所等に貸金業務取扱主任者を置かない者についても、登録拒否事由として追加している。
なお、(2)で言う財産的基礎とは、具体的には、内閣府令で基準が定められることとされているが、法人に関しては500万円、個人に関しては300万円、日賦貸金業者に関しては150万円とされており、これ以上の手持ちの資金を義務づけた。
一方、登録手数料も現行の9万円から、15万円に引き上げることとされた(登録免許税法別表第1第24号の2)。
A取立行為などの規制強化
090金融などヤミ金融業者には無登録業者も多いため、無登録営業等の禁止を定める貸金業規制法11条に、無登録業者の広告及び勧誘を禁止することを明示した。そして、これに違反した場合には、罰則対象となることとなった(貸金業規制法49条)。
また、取立てにあたって禁止される行為を貸金業規制法21条に明確化し、貸付け、債権の取り立てに当たり、偽り、不正、著しく不当な手段を用いることを禁止した。
これまでは、法には「人を威迫し又はその私生活若しくは業務の平穏を害するような言動により、その者を困惑させてはならない。」との規定に留まり、事務ガイドラインにおいてその基準を定めていたが、今般の法改正によって、成文化されることとなったものである。詳細については条文を参照されたい。
特に留意すべきは、債務者等が弁護士・司法書士に債務の処理を委任したことを通知した後の取立行為の規制が明文化されたことである。
具体的には、6号に下記の条文が加わる。
6 債務者等が、貸付けの契約に基づく債権に係る債務の処理を弁護士若しくは弁護士法人若しくは司法書士若しくは司法書士法人(以下この号において「弁護士等」という。)に委託し、又はその処理のため必要な裁判所における民事事件に関する手続をとり、弁護士等又は裁判所から書面によりその旨の通知があつた場合において、正当な理由がないのに、債務者等に対し、電話をかけ、電報を送達し、若しくはファクシミリ装置を用いて送信し、又は訪問する方法により、当該債務を弁済することを要求し、これに対し債務者等から直接要求しないよう求められたにもかかわらず、更にこれらの方法で当該債務を弁済することを要求すること。
一方、貸金業者は、従業員に身分証明書を携帯させなければならず、これに違反した場合の罰則も規定されている。
B適正な営業体制の確立
貸金業者は、営業所・事務所ごとに、貸金業務取扱主任者を選任しなければならず、貸金業務取扱主任者は、業務に従事する従業員に対し、法令の遵守など業務を適正に実施させるために必要な助言及び指導を行わなければならないとされた。
そして、貸金業務取扱主任者は、法令その他の業務に必要な知識に関する研修を受講させなければならないとされ、貸金業務取扱主任者は営業所・事務所に掲示しなければならず、相手方からの請求があったときは相手方に明らかにしなければならないとされた。
C罰則の強化
具体的に次のとおり罰則が強化された。
(1)無登録業者の刑事罰を、現行の「3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金」から「5年以下の懲役もしくは1000万円以下(法人は1億円以下)の罰金」に引き上げた(貸金業規制法47条)。
(2)出資法の規定を超える高金利に対する刑事罰を現行の「3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金」から「5年以下の懲役もしくは1000万円以下(法人は3000万以下)の罰金」に引き上げた(出資法5条)。
(3)書面交付義務違反・白紙委任状取得制限違反に対する刑事罰を、現行の「100万円以下の罰金」から「1年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金」に引き上げた(貸金業規制法48条4号)。
(4)取立行為違反に対する刑事罰を、現行の「1年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金」から「2年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金」に引き上げた(貸金業規制法47条の2)。
D契約の無効
最後が、最も議論の多かったと予想される、出資法の上限金利を超える割合による利息の契約をしたときの契約の効力をどのように規定するか、である。
結論から言えば、「貸金業者が、年109.5%を超える割合による利息の契約をしたときは、当該消費貸借の契約は無効とする」と規定されることになった。
業者が交付した金員について、不法原因給付とみなす規定は見送られることとなった。
しかしながら、だからといって、必ずしもヤミ金融業者が交付した元金の返還を保証したものではない。
ヤミ金融業者との金銭消費貸借契約が無効になることによって、ヤミ金融業者が交付した金員は不当利得金となるが、事案によっては、不法原因給付が成り立つことは当然であるからである。
この点については、今後の実務の集積が期待される。
3.ヤミ金融対策の実務本の出版
また、日司連消費者問題対策委員会では、全国に普く存在する司法書士が、挙ってこの問題に取り組むべく、最先端のノウハウを蓄積した実務本を緊急出版した。
脱稿時からも状況は変わっており、当該書籍に執筆されたノウハウが既に実効性の無いケースもあるかもしれないが、各会員の更なる研鑽を期待するものである。
既に何度も繰り返し述べていることではあるが、簡裁代理権の付与は、法的アクセスが困難であった国民に対するアクセスの拡充が目的であり、司法書士はその重大な責務を負託されたということに尽きる。
ヤミ金融問題のような解決困難な事例にこそ、専門家の関与が必要であることを会員一人一人が肝に銘じ、日々の業務を遂行していくべきであることは言うまでもない。(平成15年8月)