1.はじめに
日司連広報委員会から、「商工ローン問題」に関する記事について依頼されたのが2ヶ月前くらいだっただろうか、軽い気持ちで引き受けたものの、その後、ご承知のとおり、「日栄・商工ファンド被害対策全国弁護団(団長 木村達也弁護士)」の精力的な活動とマスコミの徹底した商工ローン叩きなどにより、状況は急激に変化しており、書くべき話題も次々に出てくる有り様で、数回の書き直しを余儀なくされた。
また、本稿を脱稿した後(12月12日以降)も、商工ローン業者に関する議論・報道は終わることはないであろう。(むしろ、現場における被害救済の実務はこれからが正念場とも言えるだろうと思う。)
つまり、本稿が掲載される時点においては、さらなる新しい事実が報道されている可能性も強いであろう(マスコミは来年になったら、手を引き始めると言われているが。)し、また、高金利や根保証問題を始めとする商工ローン業者の営業に関する具体的な新しい規制や裁判例も出ているかもしれない。よって、本稿の価値が脱稿時点と掲載時点とでは著しく差が開く可能性が高い、ということをまずもってお断りさせていただきたいと思う。
2.大成功裡に終了した「高利商工ローン問題東京集会」
12月11日、「日栄・商工ファンド被害対策全国弁護団」の主催した「高利商工ローン問題東京集会」が開催されたが、正に機を得た素晴らしい内容であり、500名もの参加者(弁護士、消費者団体、商工団体、被害者、マスコミ、司法書士などなど)を数える大規模な集会となっている。
内容の詳細についてはとても記すことはできないが、実際に日栄・商工ファンドの被害に直面した人たちの赤裸々な告白や、日栄・商工ファンドの元社員からの業者内部に関する告発などは、会場全体を凍り付かせるような迫力のあるものであった。
また、「日栄・商工ファンド被害対策全国弁護団」のメンバーである、全国各地の弁護士による裁判の報告も多くなされた。これは、我々司法書士にとって、もっとも興味のあるところである。時間の関係上、詳細な報告というわけには行かず残念であったが、これまでの貴重な戦果が「日栄・商工ファンド被害対策全国弁護団会議資料T」として冊子にまとめられている。
3.出資法などの改正に関して。
一方、12月8日の衆院大蔵委員会において、出資法などの改正案が可決され、13日には参院本会議で成立される見通しであり、2000年6月1日より施行される予定である。
この内容については、@出資法の上限金利を40.004%から29.2%に引き下げること。A根保証契約で追加融資のあった場合、その都度保証人に通知する義務を貸金業者に課す。B利息制限法の遅延損害金の金利制限を通常の金利の「2倍まで」から「1.46倍まで」に引き下げる。などといった内容が含まれているが、@29.2%では、現状の大手商工ローン業者・サラ金業者の貸出し金利を追認したに過ぎず、A根保証に関する規制も不徹底であり、B日掛貸金業者などの特例の廃止もない、など不備な点が非常に多い。
したがって、12月1日に、全国の消費者団体、商工団体、被害者団体、学者、弁護士、司法書士らによって結成された、高金利引下げを実現させるための「クレジット・サラ金・商工ローンの高金利引き下げを求める全国連絡会(代表 甲斐道太郎・宇都宮健児)」では、@グレーゾーンを撤廃し、出資法の上限金利を利息制限法の制限利息まで引き下げること、A遅延損害金を利息制限法の2倍から1倍に引き下げること、B日掛業者、電話担保金融の特例措置の撤廃、C貸金業の規制等に関する法律43条の「みなし弁済」規定の撤廃、D過剰融資の効果的な規制、E根保証の禁止、といった内容を含んだ緊急声明を行なっている。
29.2%の上限金利などについては、今後の金融動向を勘案し、3年後に見直しを行なうとされていることから、既にそれを見据えての運動展開がなされているわけである。是非、多くの司法書士にこの運動に加わっていただきたいと思う。
4.実態が暴かれるまで・・・・
さて、ここまでこの問題が急激に展開したのは、もちろん、これまで「日栄・商工ファンド被害対策全国弁護団」が積極的な活動をしてきたことによるのであるが、平成11年10月、ニュース・ステーションなどのいくつかのニュース番組において、日栄の社員による取立の実態が、録音テープの再生という形で放映され、世論が一変したことも大きい。
それからというもの、周知のとおり、連日のようにテレビ・新聞・週刊誌ではこの問題を大きく取り上げており、現在に至るまで、これまでとは比較にならない早いペースで事態は急展開をみせているわけである。
参考までに、これまでの経緯が分かりやすくなるよう、ニュース・ステーション放映以前のものも含めて、主要なものをあげてみよう。(ただし、最近のものはさすがに報道量が多くなっており、とても全てをフォローすることはできないし、ご承知の部分も多いかと思われるので、多くを省略している。)
1.「日栄・商工ファンド被害対策全国弁護団(団長 木村達也弁護士)」が、金融監督庁に行政指導の強化の申入れ
2.日栄が複数の日刊紙に反省広告を打ち批判をかわす
3.商工ファンドの勤務体制(過酷な勤務状況)につき、労働基準監督署が立ち入り調査していたことが発覚
4.民主党が金融監督庁に日栄・商工ファンドに対する立ち入り検査の申入れ
5.東京都貸金業協会が商工ローンに関する契約時の自主規制基準の策定作業にはいる
6.全国クレジット・サラ金被害者交流集会(大阪)において、被害者らの実態報告がなされる
7.金融監督庁が、財務局・全国貸金業協会連合会に対し、過剰貸付禁止・取立行為規制などに関する周知徹底を指示
8.日栄が4年前に、大蔵省近畿財務局より節度ある営業を要請されていた事実が発覚
9.日栄の営業や社員管理に関する社内通達文書により、過酷な勤務実態が明らかに
10.日栄の元役員が、訴訟の証人として、日栄の営業をめぐる問題点を率直に認めている証言をしていた事実が判明
11.「日栄・商工ファンド被害対策全国弁護団」が、全国銀行協会に商工ローン業者への融資中止の検討要請の申入れ
12.東京都貸金業協会が商工ローンに関する契約時の自主規制基準の策定、根保証に関する具体的な規制を盛り込む
13.臨時国会に先立つ衆院大蔵委員会において、実質的な集中審議にかけられることに
14.全国貸金業協会連合会(会長は日栄の松田社長)が、「事業者金融(商工ローン)の貸付正常化に関する自主規制基準」を策定、各都道府県の貸金業協会に送付、業者指導の徹底を要請
15.参院決算委員会において、宮沢喜一蔵相が、法の不備を認める
16.千葉の被害者が、日栄の登録抹消を求める行政処分申立てを近畿財務局へ
17.「商工ローン」衆院大蔵委員会集中審議開催、銀行の巨額融資の見直しの声多数
18.警察当局、自治体などと連携して、実務レベルの対策会議を実施予定
19.衆院大蔵委員会集中審議における詳細な質疑・答弁
20.全国54ヶ所で、「商工ローン110番」実施
21.日栄の元社員、恐喝未遂の疑いにより逮捕
22.日栄の松田社長、謝罪をするも取立に関する指示を否定
23.金融監督庁、日栄に対し、近畿財務局を通じて、任意事情聴取を決定
24.大手銀行が、社会的批判に対応、商工ローン業者への融資を自粛決定(後の金融監督庁の調査により、2%程度で融資されていることが判明している。)
25.参院財政・金融委員会、日栄の松田社長・商工ファンドの大島社長を参考人として招致
26.与野党が過剰与信、金利引下げなどに関する規制強化に向けて動き出す
27.日栄本社、社長宅などを家宅捜索(別の元社員も逮捕)
28.高金利引下げを実現させるための「クレジット・サラ金・商工ローンの高金利引き下げを求める全国連絡会(代表 甲斐道太郎・宇都宮健児)」結成
29.日栄、貸金業の規制等に関する法律違反により、被疑法人として東京地検に書類送検
30.日栄、商工ファンドの両社長が国会において証人喚問
5.商工ローン業者の問題点
これまでの報道などにより、何度も繰り返されているところでもあるが、商工ローン業者の問題点には、サラ金業者と同様の問題である「高金利」「過剰融資」「過酷な取立」の他に、「保証人被害」という大きな問題がプラスされる。
実際に、当事務所に訪れた商工ファンドの貸付金に対して連帯保証人になったある相談者は、契約時に生命保険証券のコピーまで取られており、これによって、生命保険契約の解約返戻金まで仮差押えの手続を取られている。
この相談者は、主債務者である有限会社***工務店の社長の弟であったため、まったく資産もなかったにも関らず、兄のすがるような頼みを断れきれずに渋々連帯保証人に応じているのである。そして、その後間も無く***工務店は倒産。商工ファンドの請求は、当然のことながら私の相談者にまで及んだ。
ご承知のとおり、商工ローン業者は、限度額を定めて根保証契約を締結させるが、追加融資の度に新たな連帯保証人をつけさせるのを常態としている。そして、その際には、根保証契約の意味について十分な説明を加えていないことが多い。
つまり、私の相談者は、200万円の追加融資の際に連帯保証人になっているのであるが、すでにその時には限度額は1200万円となっていたのである。もちろん、相談者は200万円のみの保証だと考え契約書に署名・捺印をしている。
しかしながら、控えとして受領している限度額根保証契約書には、しっかりと限度額1200万円と記されていることから、これを裁判によって覆すのは困難だと言わざるを得ない(なお、この点につき、大阪地裁昭和63年3月2日・判例タイムズ693によれば、要素の錯誤による無効を認めている。なお、松山地裁平成10年7月3日判決、東京地裁平成4年3月6日・判例タイムズ799も参照のこと。)状況であったが、追い風に乗って全国で提訴されつづけている一連の訴訟の中で、主債務者に多額の債務があることを保証人に告知していなかったとして、契約を無効とし、商工ファンド側の請求を棄却する判決を言い渡した平成11年11月5日の新潟地裁判決を始めとして、仙台地裁においても同様の判断が数多くなされていることに注意したい。
さて、定収入もなかった相談者であったため、私はやむなく自己破産手続をとった。もちろん同時廃止事件として。
そして、破産の申立をした数週間後、私の相談者に、右の仮差押命令が送達されたのである。
商工ローン業者は、債権額や相手の資産状況によっては公正証書を作成しておくのが常套手段であることから、本来であれば、仮差押命令でなく差押命令が送達され、免責が確定するまでの間に解約権を行使して平然と回収をしてしまうであろう。(生命保険契約の解約返戻金支払請求権につき、差押えた債権者による生命保険契約解約を認めた大阪地裁判決、昭和59年5月18日・昭58(レ)105号取立金請求控訴事件を参照のこと)
なお、この相談者はすでに免責が決定が出ているため、免責の確定を待って、右仮差押命令の取消しを求めたところ、ようやく商工ファンドから取下げの申立がなされている。
6.司法書士としての取組み
司法書士が全国的な展開でクレジット・サラ金問題に取り組んでから、5年ほど経過したのであろうか。その間、多くの司法書士が数多くの多重債務者の話を聞き、ケースによっては自己破産いわゆる消費者破産手続やサラ金調停を選択してきたが、5年前と比較して、ずいぶん社会の状況が変化していることは相談者の話を聞いているとよく分かる。
私の実感から言えば、リストラなどに代表されるいわゆる不況型の他に、事業者破産と消費者破産の中間に位置するような事例が増えていることが指摘できる。
つまり、会社組織を持たない事業者、土木・建築関係の下請け、孫請け業者や飲食店の経営者などの代表される零細事業主の破綻である。
こうした相談者の場合、例外なく日掛業者が数社入り込んでいて、通常の消費者破産の事例以上に逼迫しているものが多い。
そして、今回のテーマである商工ローンがらみの相談も急速に増えているのである。(被害者は全国で50万人とも60万人とも言われている。)
本年10月30日、31日に実施された、全国クレジット・サラ金問題対策協議会(クレサラ対協)主催の全国一斉110番においては、こうした事態を踏まえ、広く商工ローン被害に悩む債務者の相談を受け付けることを事前にPRしたことから、これを受けて110番を実施した各司法書士会、青年司法書士会には、実際、昨年度までとは比較にならないほど多くの商工ローンに関する相談を受けたと聞いている。
確かに、商工ローン業者の対象である中小企業者は、ぎりぎりまで資金繰りに奔走し、破産などといった法的手続のことなど念頭にないケースが圧倒的であり、また、そうした事情もあってか、我々司法書士側にまだまだ有効な手だての蓄積も少ないことから、消費者破産に比較して難しい局面は多い。
また、現在の商工ローン問題の大きな社会問題化に伴って、多くの訴訟が全国レベルで係属しており、先にあげた連帯保証人に関する問題や利息制限法への引き直しなどに関して、裁判例の動向に一刻も目を離せない状態にあるのも事実だ。
ただ、司法書士が「街の法律家」「中小企業の法務アドバイザー」を自認するのであれば、中小企業者を食い物にする商工ローン業者に対抗する武器を磨かなくてはならないのは当然のことであろう。
静岡県浜松市の有志による「浜松商工ローン研究会(代表 中里功司法書士)」では、早くから、この問題に対し、司法書士としてのアプローチを念頭に、積極的な取組みを示しており、「戦闘モード・ 商工ローンと闘う」と題した書籍を出版し、現在も日栄・商工ファンドを相手に、手形取立禁止仮処分手続の申立などといった手続を中心に依頼人と手を携えながら闘っている最中である。
既に購入され、実務に活用されている方も多いと思うが、商工ローン被害に悩む債務者からの相談に際しての注意点から、利息制限法への引き直し計算、法人破産手続のノウハウまでを非常に分かりやすくまとめたものとして、商工団体など実際に被害者救済活動に熱心な人たちから絶賛されているなど、対外的にも大きく評価されているところである。
また、宮崎会・兵庫会などにおいても、日栄などに対し、多くの訴訟を係属させており、苦戦を強いられながらも、商工ローン被害者救済に懸命に努力していると聞いている。
そして、「浜松商工ローン研究会」では、こうした緊急事態を鑑み、最新の情報とより実務的・専門的ノウハウの共有を諮ることを目的として、平成12年2月11日(金)、名古屋において全国規模の緊急集会を開催する予定でもある。詳細については誌面の都合で掲載できないので、代表の中里功会員にご連絡いただきたいが、是非多くの会員に参加していただき、得た情報を実務に活かしていただきたいと考えている。
こうした大きな社会問題に対し、我々司法書士一人一人が法律家として真剣に考え、現場における被害者救済を実践し、ノウハウを共有し、実績を積み重ねていきながら、社会に対しても提言をしていく・・・・
それが、今我々に最も求められている、一番重要なことではないだろうか・・・(平成11年12月)