| 簡裁代理権取得後の裁判実務の現状報告 〜クレサラ事件以外の事件を中心に〜 |
1.はじめに
昨年の夏に、無事、認定を受けてから、現在に至るまで、数多くの簡裁代理関係業務に従事してきたが、当初の予想通り、半数以上がいわゆるクレサラ事件であるのが現状である。おそらく、当職に限らず、ほとんどの認定司法書士がそうであろう。
それだけ、この分野の法的需要が大きいわけであるから、まずは、この分野における確実な実績を積み重ねることが、重要であることは間違いない。
具体的には、任意整理、特定調停、不当利得返還請求訴訟といった簡裁代理関係業務ということになるが、本稿では、それらについては一切触れないこととする。その理由は、他の司法書士によって述べられるであろうからである。
そこで、本稿においては、クレサラ事件以外の簡裁代理関係業務のうち、実際に当職が取り扱った事案をいくつか取り上げ(ただし、係属中のものもあるため、若干脚色を加えていることに注意していただきたい。)、今後の展望を含めた現場からのレポートという形式をとりたいと思う。 ただし、誌面の都合もあるので、いわゆる悪質商法についての被害救済に関する事案も割愛させていただく。これについては、別の機会に報告させていただきたいと考えている。
2.簡裁代理権付与の意味
語り尽くされていることであるかもしれないし、他の方との重複になるかもしれないが、念のため、確認しておくことにする。
今般の司法書士法改正は、司法制度改革の一環であり、その主眼は、利用者である国民の司法アクセスの拡充にある・・・という点である。
裏を返せば、司法書士は、司法制度改革の一端を担う重責を負うことになったわけである。従って、司法書士は、これまで泣き寝入りを強いられてきた多くの国民の法的需要に積極的に応えていかなければならないと言える。
一方において、司法制度改革推進委員会の意見書等にも明確に記されているとおり、司法書士に与えられた簡裁代理権は「弁護士大増員の時代の到来するまでの間の当面の措置」という意味についても押さえておかなければならない。
もちろん、官僚は「現在は国が司法書士制度はこうあるべき、というような決め方をする時代ではない、司法書士制度は司法書士の今後の実績によって如何様にも成りうる」という趣旨のコメントをしているが、これは「弁護士大増員の時代到来までに、相応の実績を明確に打ち出すことができなければ、???」ということと理解できる。
つまり、認定司法書士は国に、国民にその力量を試され、問われているわけである。
この点について、日司連執行部がどのような将来像を考えているのか定かではないが、ここ数年の間に、明確な実績を示すことができなければ、制度の将来は暗い・・と個人的には考えている。
そして、その実績というのは、まず第一に、簡裁代理関係業務の取扱件数、そして、法律扶助事件の取扱件数に顕著に示されると考える。なぜなら、これらの二つは明確に統計に表れるからである。
もちろん、実績はこれらの数字だけによるものではなく、法律家集団として、社会に見える形で貢献することも同様に重要であることは言うまでもないが、最低限、数字に表すことが必要であることに異論はないと思う。
3.簡裁代理関係業務の現場から
当職が受任した、また、している事案は誠に雑種雑多である。既に述べたとおり、大半がクレサラ事件ではあるものの、その他の事案も非常に多い。
もちろん、訴額が少額であるから簡易ということは決してなく、困難な事件も多い。
以下、印象に残っている事案を題材にしながら、問題点と今後の課題について述べていきたいと思う。
@家屋明渡請求事件
予想通り、クレサラ事件の次に件数が多いのが、この事件である。司法書士は、職業柄、不動産業者との付き合いが深く、そうした業者から、数多くの事案が全国的に司法書士に寄せられていることであろう。
通常、数ヶ月の家賃滞納を経てからの受任であることから、争点はほとんどなく、和解で終結するものが大半であろうと思われる。
そうであれば、強制執行に至る事案は少数であると考えられるが、欠席判決のケースは、強制執行まで要することもままあり、これに関する代理権が認められれば、依頼人とってはよりメリットが大きいと思われる(とはいえ、これまでは、本人訴訟のスタイルで訴訟から執行まで行ってきたわけで、その実績を踏まえれば、それほどの不都合を感じてるわけでもない)。
一方、被告の家賃滞納が、単純な経済的困窮ではなく、依頼人である家主との小さな摩擦から生じているような場合、被告から、整理されないまま家主に対する不満が述べられることがある。
当職が受任したものにも、被告に賃貸している店舗の隣の家主所有の建物を工事した際に家主が勝手にトイレを移動したとして、家賃を支払わず、明け渡しにも応じないというものがあった。
このような事案に対して、裁判所は、丁寧に事情を解明し和解をさせようと努力しているように感じる。仮に一方的な判決を出しても任意の明け渡しが見込めないのであれば、最終的には執行を申し立てる他ない。それよりも、和解をさせる方が裁判所としても効率的という考えによるものなのであろうか。
受任した司法書士としては、家賃滞納に至る事情について、予め丁寧に聴取しておき、予想される反論を認識しておく必要があることは言うまでもなかろう。数ヶ月の家賃滞納の事実のみをもって手続に入るのでは、不十分と言わざるをえない。
なお、上記のように、これまでの原告被告間に込み入った事情がある場合、当職は、必ず、陳述書という形で原告本人の言い分として訴状と同時に提出するようにしている。これにより、定型的な訴状だけでは明らかになることのない生の事実が裁判官に伝わることとなり、訴訟の円滑な進行に資することとなるからである。
最後に、受任にあたって注意しなければならない点をもう一つあげておく。
特に地方においては、被告になる相手方から多重債務に関する相談を受けてしまうことが、ままあるものと考えられる。家賃を滞納せざるを得ない方は、総じて多重債務であることが多いのが実状だからである。実際に当職はこのような経験を数多くしており、相談が先行した事案を受け、遅れた事案を他の司法書士に受任してもらっている。当然のことであるが、司法書士法に違反することであるから、そのような場合を想定したネットワークも作っておきたい。
A敷金返還請求事件
@に続いて全国的に受任件数が多いと思われるのが、この事件である。特に問題が多いと言われている関西地方では、弁護士・司法書士がネットワークを組み、110番や一斉提訴など活発な活動を行っている。
一般論として、敷金返還トラブルについては、@の事件と比較して争点が多い。従って、期日を数回重ねることが通常であろう。
簡裁代理権取得後、当職が少額訴訟を利用して敷金返還訴訟を提起した事案がある。少額訴訟での提訴は、被告の移行申述により通常訴訟となるが、依頼人が出来うる限りの短期間の解決を望んでいたことから、通常訴訟への移行について説明したうえで、敢えて少額訴訟を選択した。
結果は、期日当日に8割の返還を認めた和解成立であった。
4月1日施行の改正裁判所法により、少額訴訟の上限が30万円から60万円になるが、依頼人の満足度を考えると、事案によって少額訴訟を活用することも視野に入れたいところである。
当職の事案は、原告、原告代理人である当職、被告、被告の証人である不動産業者の4名で進められた。冒頭に裁判官から、被告が少額訴訟制度を利用することについての了解の有無が問われ、早々に審理に入る。被告は、アパートの汚損が通常使用の範囲を超えるとして、不動産業者が持参した写真を提出した。実際には、被告は、アパートの管理全般を業者に一任しており、発言するのはすべて不動産業者である。
裁判官の訴訟指揮は、通常訴訟のそれとは異なり、臨機応変である。証拠の提出や証人の尋問に関しても、初めのうちは整然と行われていたが、審理が佳境に入るにつれ、争点は絞られ、当事者からランダムに回答を求める・・・という感じを受けた。
本件については、敷金返還に関する特約がなかった(一般的な条項に留まる)ため、被告が提示した各部の汚損が、ガイドラインに照らして通常使用の範囲内にあたるか否かが争点となったが、現実問題として、入居時の状態は、当事者の証言によるしかない。本件では、証人の不動産業者は、実際に原告の入居時・退去時に立ち会った担当者ではなかったため、証言も曖昧になり、当職の反対尋問に対しても、断定的なコメントができなかった。
となれば、裁判官としても、原告勝訴の判決を書くには、提示された証拠だけでは不十分と考えたのであろう。1時間半くらいの審理を一応終えた後、最終的には、司法委員を介しての和解を勧告してきたわけである。
さて、この問題に関して、通常使用の範囲内にあたる汚損については賃料でカバーされるべき、という原則は広く認識されているものの、ガイドラインの詳細や特約のあった場合(その特約も実に様々であるのが現実)における判例(特に、下級審判例も多い)の考え方についてまで、正確に理解をしている専門家は少ない。
今後も多くの受任が想定される分野であるので、自主的な勉強会の実施を期待したいところである。
B未払賃金請求事件
次に今後受任の激増が予想される分野が、労働問題である。静岡では、特にサービス残業の問題について勉強会を定期的に行っているところであるが、司法書士会の無料相談にも多数この種の問題が寄せられる傾向にある。
当職も、これまで多くの事案を受任してきたが、特にサービス残業の問題には大きな法的需要を感じている。
昨年受任した事案は、警備会社の警備員の休憩・仮眠時間についての賃金が払われていないという事案であったが、多くの警備会社は、実質的に休憩・仮眠時間を問わず警備員を拘束しているにも関わらず、その分の賃金を払っていないとのことであった。
このような事例については、判例理論も確立しており、その意味においては、それほど困難な事例ではないが、特にサービス残業代の請求事案では、その計算をするのに労働基準法の基礎的な知識やその解釈、判例に精通することが不可欠となる。また、社労士とのネットワークも必要であろう(上記勉強会においては、若手社労士もメンバーに加わってもらっている。)。
もっと言えば、これまで労働問題を扱ってきた弁護士により蓄積されている、膨大な判例にもあたらなければならない。
本件では、提訴後期日前に和解が成立している。
また、提訴したばかりの事案で、上記の例と同様、休憩時間に労働を強いられたケースにおいて、賃金は支払われているため、慰謝料のみを請求するというものがある。このような慰謝料を認めた判例も存在しているが、認定された金額は少額であるうえ、裁判の長期化も予想される。
しかし、依頼人としては、使用者側の今後の是正を求める意味合いが強く、裁判手続への拘りが強い。これは、この種の事案に共通するところであるが、こうした依頼人の意向に応えたいという反面、費用対効果の問題もあり、そのバランスについてもまだまだ経験が必要ということであろうか。
Cマンション管理費請求事件
当事務所に近時多く寄せられているのが、この事件である。また、マンションについては、登記業務を通じて、全国の司法書士が多く関わっていることから、今後、司法書士に多く寄せられると予想される類型の一つでもある。
この類型も、@と同様、相手方が多重債務者であることが多いため、双方代理に注意しなければならず、相手方が破産手続をとった場合の帰趨についても依頼人に説明をしておく必要があろう。 一方、争点については、@と同様、多くはないので、同一マンション内の事案について複数受任することとなっても、それほどの負担はないものと思われる。
当職も、現在、マンション管理業務を業とする会社より、当該会社が業務を請け負っている複数のマンション管理組合より継続的に依頼を受けているが、今後も多数受任することになろう。
マンション法に関しては、Bの事件比較して、司法書士にとって馴染みではあるものの、登記以外の分野については、必ずしもそうではない。
この分野においても、数多くの判例が積み重ねられており、また、近時法改正もなされており、これらに精通しておくことの必要性については言うまでもなかろう。
しかし、今後、司法書士がこの分野において実績を積むことができれば、マンション問題については司法書士という社会的認知を得ることが可能である。
さて、マンションにおいては、管理組合の総会が意思決定機関となっていることから、管理組合が、管理費の請求に関する法的手続きを司法書士に委任するには、この総会を経由する必要がある。 上記の事案のように、管理組合が、管理会社に業務を委託しているような場合においては問題は少ないと考えられるが、そうでない場合においては、法的手続きに不備がないように管理組合の理事らと打ち合わせをしておく必要がある。
当職の事案では、管理会社が総会の運営にもあたっており、その開催に至るまでの準備に問題はなかったが、当職に法的手続きを委任する旨を決議する予定の総会への出席を求められた。もちろんオブザーバーとしての出席である。当該管理組合については初めての依頼であったことから、理事との顔合わせ的な要素が多いものと考えていたが、実際にはそれ以上のものであった。
というのも、そもそも、管理費滞納の相手方は組合の構成員であることが前提であるから、当然に総会出席権がある。管理費を長期にわたって滞納してきた相手方が、総会に出席してきた場合と欠席の場合の総会の運営についてのアドバイスも含めたものであったからである。一般的に言っても、管理組合からの委任内容は、このような点についての法的助言を含むものとなるであろう。
さて、本件においては、相手方は総会に出席せず、代理人を出席させた。その代理人は、自ら政治結社の代表と名乗る者であった。
もちろん、管理組合の規則によれば、代理人をマンションの区分所有者に限るとの制限があり、上記の代理人を代理人として扱うことはできない。したがって、法に基づいて、出席を拒否することも可能であったが、できる限り話し合いでの解決をという理事長の配慮から、とりあえず上記の者を通じて相手方の主張を聞くことになった。
相手方の主張は、隣の飲食店からの排気が自分のマンションの扉を汚し、その清掃代と管理費は相殺すべきだとのことである。
もちろん、これらの主張については、事前の管理会社との打ち合わせ時に確認してあり、そのような相殺については認められないとの判例が確立しているところである。相手方は、隣の飲食店に清掃代を請求すればいいのである。
理事長は、その旨を丁寧に説明し理解を求めた。また、相手方代理人の了解を得てすべてのやりとりを録音もした。
しかしながら、相手方代理人は、法律はそうなっていても道義的な責任というものがある、と譲らず、1時間半以上押し問答が続いた。一歩も譲らなかった理事長の毅然とした対応に相手方代理人は、「子供のつかいではないので、こうして出席して手ぶらで帰るわけにはいかない」との姿勢を「自信はないが、本人を説得してみる」に変え、理事長は、「今月末までに何らかの回答を得ることができなければ提訴に踏み切る」と伝え、代理人は退場した。
司法書士が依頼者の代理人になるということは、ヤミ金融事件のようなものに限らず、本件のような人間と接する機会の増加に繋がる。本件においても、相手方代理人は、オブザーバー出席をしている当職に対してもコメントを求めてきた。毅然とした対応を心がけたい。
ところで、本件においては、予想通り、相手方は期限を経過するも何らの連絡をしてこない。そこで、当職は、提訴をしており、来月に第一回目の口頭弁論期日が予定されている。
D交通事故による損害賠償請求事件
物損による損害賠償事件については、特別研修のグループ研修の一つのテーマとなっており、受任が想定されているところであるが、やはり当事務所においても相談が多い。
ただし、物損に限らず、人身事故についての示談交渉などの相談も寄せられており、代理権の範囲外ということで悩ましいものも少なくないのが実状である。
先般寄せられた事案は、交差点で、右折をしようとした相手方車両が前方不注意のため、依頼人のオートバイと衝突したというものである。
既に、治療費等については保険がおりていたが、オートバイの修理代についての費用が支払われていない・・・というものであった。
オートバイは全損し、口頭において同種の新車に買い換えるという示談を交わしたが、その代金の支払いがないというものである。
この示談について、どのように考えれば良いのであろうか。事故当時の時価は、当然のことながら、新車代金相当額をはるかに下回る。そうであれば、当時の時価相当額が限度ということになると思われるからである。
4.最後に
さて、ここまで、思いつくままに、特に整理しないままクレサラ・悪質商法被害関係以外の受任事件について簡単にスケッチしてきたが、登記業務と比較した場合、要求される知識の幅は格段に広く、その分要する時間も多く、その配分が難しい。
しかし、利用者である国民が司法書士に求めているものは、登記業務に関連する知識に留まることはなく、それに応えていかなければ存在意義に乏しい。
認定司法書士の実績が今後の司法書士制度を大きく左右する、という事実を改めて肝に命じ、簡裁代理関係業務に携わって行きたいと考える次第である。
(平成16年3月)