「資格取得講座の取消」

  

  1.はじめに

 私が委員長を歴任していた簡裁事件受任推進委員会では、いわゆる特定商取引に関する事件に、特に積極的に関与していかなければならないと訴え続けてきた。なぜなら、この分野については、訴額が比較的少額であることから、ほとんどと言って良いほど法的支援が行き届いていないからである。簡裁代理権を取得した司法書士が、この分野における法的需要に応えることができないのであれば、国民は司法書士制度を見捨てることになるだろう・・・もちろん今もそう考えている。
 本稿では、実際に私が受任し、解決したばかりの事案について、紹介をさせていただく。皆様の実務の参考にしていただければと幸いである。
 もちろん、私の選択した手法がベストとは考えていない。様々な論点を含む事案であるので、議論のたたき台になればと考えている。

2.事例の説明

 依頼人は、電話勧誘販売によって、旅行業務取扱主任者資格取得のための教材セット等の販売契約を締結した。事情聴取で判明したが、過去にも同様の資格講座を購入しており、その名簿が流出したものと考えられる。
 販売会社Xは、初め「実は、今、旅行のパンフレットを配れば、そこから申込者があった場合、旅行代金の10%が収入になる・・というお話なんです。ただ、そのパンフレットを配るには、一般旅行業務取扱主任者の資格が必要になるんです。それで、その資格を受講料全額保証で取得できるんです。」と勧誘してきた。
 疑問に感じた依頼人は、どういう意味か尋ねたが「ボランティア団体の○○○文化協会というところが、学習支援金として学習スタート時に、先にあなたの口座に10万円を支給してくれます。そして、合格後に、契約旅行会社から50万円の開業支援金を支給してくれるんです。ですから、その中から受講料を払えば、実質、支払はないということなんです。」と回答された。
 合格しなかったらどうするのか?と依頼人が尋ねたところ「ほとんどの方が1回で合格できるんです。」との回答を得ている。
 依頼人は、その後もいろいろと尋ねたが、相手は営業のプロ、言葉巧みに依頼人を丸め込み、依頼人も副収入が欲しい時期であったこともあり、契約を締結するに至る。
 受講料は57万円に消費税を加えて59万8,500円。学習支援金として上記協会から10万円、合格後に開業支援金として旅行会社から50万円が支給されるとのことであった。教材は、ビデオが9本、テキスト9冊が送られるとのことであった。代金については、大手○○クレジット会社の立替払いである。

3.受任に至る経緯

 依頼人は、契約締結後、改めて考え直し、断りの電話を入れているが、やはり言葉巧みに丸め込まれ、結局、書面でのクーリングオフ期間を経過してしまった。しかし、やはり納得ができず、最終的に、法律扶助協会にたどり着くことになった。
 そこで紹介された弁護士に受任してもらい、消費者契約法の不実告知による取り消し通知を内容証明郵便で出してもらっている。弁護士が指摘した不実告知は、@ほとんどの人が1回で合格するとのことだが、一般旅行業務取扱主任者の合格率は1割程度である、A旅行会社が開業支援金50万円を支給する制度はない、という点であった。
 これに対して、販売会社Xは、「@については、そのような事実はない、Aについては、○○○文化協会の旅行主任者奨励制度にそのような制度があり、依頼人も登録済みである(実際に、依頼人は当協会から学習支援金として金10万円を受領しており、○○○文化協会の旅行主任者奨励制度の説明書も受領している。)。」とのことで消費者契約法には抵触しないとの回答であった。
 詳細な事情は不明だが、この段階で、上記弁護士は依頼人との委任契約について辞任し、依頼人は再び法律扶助協会に相談することとなった。
 そして、法律扶助協会から私に事件が回ってきたというわけである。

4.受任後の対応について

 受任時において、販売会社Xに立替払いをした大手クレジット会社A(以下「A」という)は、別会社B(以下「B」という)に債権譲渡をしており、そのBもさらに別会社C(以下「C」という)に債権譲渡をしていた。
 このような状況のもと、さてどうしたものか、と思案しながら、私の受任に関する法律扶助審査を待っていたところ、Cから依頼人に対して、譲受債権請求事件として、名古屋簡裁に提訴がなされるに至り、急遽これに対する対応を迫られることとなった。
 Cの提出した証拠書類から明らかになったことであるが、AとBは、「Bが顧客に対して行う商品販売についてAの立替払い制度を利用するにあたり、顧客に支払不能等の事故が生じた場合、不良債権の処理として、BがAに手数料を差し引いた残債務の全額を返還する。」という立替払基本契約が締結されていた。その約定によって、AからBへ債権が移ったと主張し、BがそれをCに移転したと主張したのである(ただ、Bは商品販売を行っていない。販売会社はXである。依頼人が受領した債権譲渡通知によれば、確かにAからB、BからCとなっている)。  

@移送の申立
 まずは名古屋簡裁から静岡簡裁への移送の申立である。
『本件譲受債権は、そもそも、依頼人と訴外販売会社Xとの間の一般旅行業務取扱主任者資格取得のための教材セット等の販売契約から端を発している。
 依頼人は、訴外販売会社Xとの上記教材セット購入に際し、訴外Aとの間で立替払い契約を締結したのであるが、依頼人は、消費者契約法に規定されている不実告知を理由に、上記販売契約を取り消しており、その旨の通知は、相手方である訴外販売会社Xに到達している。従って、訴外Aは、割賦販売法30条の4の規定により、依頼人に対して立替金を請求することはできない。
 一方、訴外販売会社Xは、依頼人の主張を受け入れず、その結果、当該債権を不良債権扱いとした訴外Aは、その後、訴外Bに債権譲渡、さらに、同社はCに債権を譲渡したものである。しかしながら、訴外Aは、依頼人に対して立替金を請求できないにも関わらず、それを譲渡しているに過ぎないのであるから、その後の債権譲渡は無効であり、Cの主張は失当である。
 このまま本件が名古屋簡裁に係属することとなれば、静岡市内に居住する依頼人は、出頭の度に金10,000円程度の出費を要し、著しい損害を生ずるものであるから、その損害を回避する訴訟公益上の必要があるといえる。
 また、依頼人は、本件訴訟について、請求棄却を求めるものであるが、仮に請求棄却の判決を得たとしても、交通費や、会社の欠勤により多くの利益を喪失し、著しい損害を被ることは明白である。
 これに対し、Cは、静岡簡易裁判所においては、出頭にかかる費用は、同様金10,000円程度であろうが、そもそも集金代行業務を主たる目的として設立されている株式会社であることから、著しい損害を生ずるおそれはない。そもそも依頼人が訴外販売会社Xから一般旅行業務取扱主任者資格取得のための教材セット等を購入するに至ったきっかけは、同社の営業担当者からの電話勧誘販売であり、同社は、電話勧誘販売という簡便な手段により、全国の消費者との間に、多数の販売契約を締結して多額の利益を上げている企業である。従って、本件の訴訟のような例外的なトラブルの費用についても、原価計算上転嫁しうる立場にいるわけであるから、一消費者に過ぎない依頼人が、当裁判所における審理に臨む場合の経済的負担に比べれば、原告に生ずる損害は著しいものとは言えない。(東京簡判平成8・10・31消費者法ニュース30号、福山簡判平成8・12・13消費者法ニュース30号参照)そのような会社と加盟店契約を締結し、また、不良債権の処置として訴外Bと返金の合意をしている訴外A並びに当該債権を譲受したCについても、全国の消費者を相手に電話勧誘販売を行う業者の債権を譲り受けて集金代行を行うわけであるから、同様のことが言えるものと思料する。』
 このような理由で申し立てた移送は、原告の反対の意見書の提出もあったが、申立通りの決定がなされた。

A被告の答弁
 移送申立と同時に、答弁書も提出した。既述のとおり、消費者契約法の取消による抗弁の接続ということになるが、念入りに事情聴取をしたうえで、弁護士の主張に加え、次のとおり整理してみた。
『訴外販売会社Xは、依頼人の消費者契約法に基づく取消につき、同法に抵触しないと回答しているので、改めて、同社の勧誘行為が消費者契約法の取消事由に該当する旨を付言しておく。
(1)訴外販売会社Xの担当者の度重なる「ほとんどの方が1回で合格する」という発言は、合格率1割前後の過去の実績から、明らかに不実告知と言える。
(2)訴外販売会社Xの担当者の「合格後、契約旅行会社が開業支援金として50万円を支給する」という発言は、同社と業務提携していると考えられる訴外○○○文化協会による旅行主任者奨励制度の一つであるということであるが、仮に不実告知にあたらないとしても、将来において消費者が受け取るべき金額その他の将来における変動が不確実な事項についての断定的判断の提供であることは明らかである。
(3)訴外販売会社Xの担当者は、「ほとんどの方が1回で合格する」「合格後、契約旅行会社が開業支援金として50万円を支給する」「パンフレットを置くだけで副収入が得られる」などの発言を繰り返す一方において、「旅行業代理業を開業するには都道府県知事の厳しい審査が必要であり、所属する旅行業会社に高額な保証金を積まなければならないこと。」「旅行業務登録申請手数料を納付しなければならないこと。」「素人が資格を取得したところで、容易には営業開始もできず、ましてや高額の収入は望めないこと。」などの不利益事実を全く告知していない。これは、明らかに消費者契約法の取消事由である不利益事実の不告知に該当する。』

B立証方法
 まずは、販売会社Xから依頼人が受け取ったチラシなどを精査してみたが、明らかな不実告知と考えられる記載は見あたらず、依頼人が、当時、販売会社Xの担当者との電話でのやりとりを細かくメモしたノートと依頼人の事情聴取から、その矛盾を陳述書として提出した。その後、ゆっくり証人尋問の作戦を練るしかないと考えていた。
 Aの(1)については、書証はない。(2)については、断定的判断の提供としての要件に該当するのかどうか、(3)についても書証がない。
 一方、販売会社X側の書類は、体裁は整っているように見える。厳しい争いになるのでは・・と考えていた。

C求釈明
 一方、原告Cの商業登記簿履歴全部事項証明書によれば、営業目的として集金代行業務と記載されており、本件譲受債権請求訴訟に関しても業として行っていると考えられる。となれば、そもそも、弁護士法により、債権回収を民間会社が業とすることは禁じられているはずである。
 債権管理回収業に関する特別措置法は、特定金銭債権の処理が喫緊の課題となっている状況にかんがみ、許可制度を実施することにより弁護士法の特例として債権回収会社が業として特定金銭債権の管理及び回収を行うことができるようにしたが、Cが当該許可を得ていれば格別、そうでなければ債権管理回収業に関する特別措置法及び弁護士法に抵触する恐れもあると考えられる。そこで、債権管理回収業に関する特別措置法による許可の有無を明示されるよう釈明を求めた。

5.訴えの取り下げと和解

 移送決定がなされ、静岡簡裁における期日が決まった後、当該期日を待たずして、Cより訴えが取り下げられた。
 裁判所より、同意を求められたので、同意書の提出を留保し、直接Cに電話をし、その意図を確認したところ「あきらめるということです」との回答を得た。
 しかし、訴えが取り下げられただけでは解決にはならない。そこで、依頼人とCとの債権債務無しの和解書をとりつけ、その後に訴え取り下げに関する同意書を提出した。
 一方、Cは、Bより、BはAより債権を譲り受けている。このような事態になれば、最終的には販売会社Xに債権は還流されることになると思われる。また、依頼人は、教材を受領したままであるし、○○○文化協会から受領した10万円もそのままである。それらの精算も行わなければ最終的な解決にはならない。
 そこで、販売会社Xに連絡を取り、交渉を進め、最終的には、販売会社Xに5万円の解決金を支払い教材セットは現状のまま返還、○○○文化協会には全額を返還することで和解を締結した。

6.残された疑問点

 予想外の終結であった本件であるが、いまだに釈然としないことが多い。以下にあげてみると、
@販売会社XとCは、かつて本店所在地が同じであった。しかし役員は重複していない。単なる偶然であろうか。
ABとCは、かつて本店所在地が同じであった。また、かつては代表者が同一人物であった。
B販売会社XとBは、いずれも、その目的が、「旅行業務取扱主任者試験に関する教材の企画、制作、販売」となっている。
C前述した、AとBとの「Bが顧客に対して行う商品販売についてAの立替払い制度を利用するにあたり、顧客に支払不能等の事故が生じた場合、不良債権の処理として、BがAに手数料を差し引いた残債務の全額を返還する。」という立替払基本契約は、Bが販売会社であることを前提とした文言である。 しかし、少なくとも書面上の販売会社はBではないXである。BはAから債権を譲り受けた会社である。
DAとBとの「Bが顧客に対して行う商品販売についてAの立替払い制度を利用するにあたり、顧客に支払不能等の事故が生じた場合、不良債権の処理として、BがAに手数料を差し引いた残債務の全額を返還する。」という立替払基本契約の意味は何だろうか。大手クレジット会社Aは、販売会社に対して、事故が起こった際に備えて、このような契約を締結しているのであろうか。そうだとしたら、すべての販売店に対し、このような契約を締結しているのであろうか。

 こうした疑問を総合的に考えると、販売会社X、B、Cは同一グループで、大手クレジット会社Aとの加盟店契約にあたり、AよりDの契約締結を求められたものと推測できるのではないか。そして、販売会社XとBは何らかの理由で、販売会社Xをフロントに出し、Bがその補填をし、Cはその回収の役割を担っているのではないか・・・誤った推測だろうか?
 訴訟が係属する中で、その仕組みを明らかにしたかったのだが、既述した経緯でそれもかなわなかった。

 また、
ECが訴訟をあきらめたことによって、同一グループであろう販売会社X、B、Cの間で、その責任負担は、CからB、そしてXに還流するものと考えたが、それで正解なのだろうか。大手クレジット会社AはBからの返還により、損害が無いが、グループ内ではどのような処理がなされているのであろうか。
Fそして、Cの行為はサービサー法に違背することにならないのだろうか。なるとしたら、その法律行為の効果はどのように考えれば良いのであろうか。

7.最後に

 以上、思いつくままに記してきたが、お読み頂ければ分かるように、この種の事件は一筋縄ではいかないものが多い。
 特定商取引法や消費者契約法、割賦販売法などの正確な知識はもとより、小さな疑問から想像力を働かせることも必要かと思う。
 各種の110番活動などを通じて、早期に、司法書士の裁判例が蓄積されることを期待したい。。
(平成16年4月)




backhome