「ヤミ金融・振り込め詐欺」告訴・告発のすすめ

  

 本稿は、ヤミ金融業者・振り込め詐欺に対する告訴・告発手続きの実務に関するものである。
 簡裁代理権の有無を問わず、司法書士が自らを法律家と自認するのであれば、依頼者の権利を守ることは当然であるが、それに加え、同様の被害者を新たに生み出さないようにすることを目的とした社会的活動も、また使命の一つであることについては異論がないところであろう。
 現場の声を法改正に繋げる活動も社会的活動の重要な一つであるが、本稿のテーマとなっている告訴・告発についても極めて重要なものである。
 特に、ヤミ金融問題のような社会的現象に対しては、法律実務家として、一刻も早くこれを是正することが求められているであろうし、また、司法書士が挙って取り組まなければならない重要なテーマであると考えられる。
 そこで、本稿は、ヤミ金融対策法施行後のこの問題に関して、現状分析に加え、今後の課題とされている諸問題についての近時の立法、さらに、近時の民事的解決に関する若干のコメントを盛り込んで最終的に告訴・告発に関する実務に言及したい。
 したがって、ヤミ金融対策法やヤミ金融の種類や特徴といった点については割愛させていただく。これらについては、近々出版される予定の日司連編集の改訂版「クレサラ・ヤミ金事件処理の手引き(民事法研究会)」また、「ヤミ金融被害救済の実務(日司連編集・民事法研究会)」「新ヤミ金融対策マニュアル(全国ヤミ金融対策会議)」等を参考にされたい。

1.ヤミ金融被害は無くなっているか?

 平成16年1月1日より、ヤミ金融対策法が全面施行された。これにより、ヤミ金融被害は減少したのであろうか。
 当初からヤミ金融被害救済の実務に携わってきた司法書士・弁護士などからも、昨年あたりから「相談数は激減した」との声が多くあげられているのは事実である。
 実際に、財務局・都道府県に寄せられる苦情のうち、無登録の疑いのある者についての苦情・相談件数は、平成15年7月から9月の約7800件をピークに減少しており、平成16年10月から12月は約4500件とピーク時に比べ4割強減少しているとのことである(月刊消費者信用2005−4「改正資金業規制法はヤミ金融対策として一定の効果をあげた」金融庁 監督局銀行第2課 金融会社室長 橋本元秀)。
 確かに、当事務所でもピーク時と比較すれば、受任件数は激減していると言っていいかもしれないが、こうして原稿を書いている筆者の目の前では、当事務所の登録司法書士がヤミ金融業者と電話で交渉(交渉というよりも支払拒否と言った方が正確であろう)をしているという現実もあるのである。
 結論から言えば、ピーク時に猛威をふるったヤミ金融業者、すなわち都(1)業者や090金融を典型とする短期業者の受任件数・相談件数は確かに減少傾向にあるが被害額はまだまだ多額である。一方、ヤミ金融業者がシフトしたと考えられる振り込め詐欺被害についても、平成16年がピークと考えられ減少傾向がみてとれるがが、まだまだ被害額は多額である。
 先に参照した記事「改正資金業規制法はヤミ金融対策として一定の効果をあげた」においても、『ヤミ金融はピークを越えたと思われるが、現在においても、ヤミ金融関連の苦情・相談は多くの件数があることも事実である。また、最近は貸付ばかりではなく、保証金を騙し取るような手口が目立つなど、不正行為の形態は多様化しつつある・・・』とのコメントがなされている。
 また、警察庁の統計によれば、平成16年に振り込め詐欺(当時はまだ振り込め詐欺の定義がなされていなかったため、いわゆる「オレオレ詐欺」のみの数字と考えられる)の認知件数は、25667件であり、既遂事件の被害総額は約283億7866万円となっており、平成17年1月末の認知件数(架空請求詐欺、融資保証金詐欺も含む)は、2846件であり、既遂事件の被害総額は約25億5572万円となっている。
 一方、平成17年2月における、「振り込め詐欺」事件の認知数によれば、1月の2864件から大幅に減少し、1810件、被害総額は約17億円となっており、平成16年年7月から月別の統計をとるようになって初めて、20億円を下回ったようである。
(参考までに内訳についてであるが、架空請求詐欺事件の認知件数は425件で、1月の830件から半数に減少している。しかし、件数は減少傾向にあるものの、一方で被害額は4億円から4億3600万円と増加している。請求の手口としては、「有料サイト利用料金名目」が285件で最も多い。「借金返済・債権回収名目」が86件で2位となっている。「オレオレ詐欺」事件の認知件数は605件で、1月の1149件から約半数に減少している。手口は、「交通事故示談金名目」が264件で最も多く、次いで「サラ金等借金返済名目」が75件、「身代金目的誘拐等」が29件となっている。)
 その後、平成17年3月末の認知件数によれば、約1660件と前月比で約150件減っているのであるが、被害総額は逆に約17億3700万円と前月よりも約5700万円増えたことが警察庁のまとめで分かっている。特に融資保証金詐欺は、約860件(既遂)、被害総額約6億2000万円で、平成17年2月より件数で約90件、被害総額で約1億4000万円増えている。オレオレ詐欺は340件(既遂)で、40件減ったが、被害総額は約7億8000万円で約2000万円増えている。
(http://www.npa.go.jp/safetylife/seianki31/1_hurikome.htm)参照。
 他方、警察庁が平成17年2月3日に発表した「平成16年中における生活経済事犯の検挙状況について」によれば、平成16年のヤミ金融被害総額は、348億2775万円となっており、平成15年と比べて25億9136万円(8%)増という結果になっているのである。この被害総額は、もちろん過去最高のものである。平成17年の統計が出ていないので、断言はできないが、現場の実務家の感覚では、先に述べたとおり平成16年と比較すれば減少傾向にあるといって差し支えないと思われるが、毎月の警察庁のまとめによればまだまだ被害総額は増加傾向にあるので予断は許さない状況にある。
 このように仔細に検証していけば、結局、こうした違法業者(振り込め詐欺を広義のヤミ金融と捉えるのであればより明確となる)の被害は依然として極めて多額であり、僅かな減少傾向がみてとれるに過ぎないと言える。いずれにせよ、多重債務者のような経済的弱者を狙い撃ちする、この種の悪質業者は、対象が存在する限りにおいて、その手法を変えるだけということである。つまり、多重債務問題が解決されることがなければ、ヤミ金融問題も解決されることはないということである。 したがって、法律家の責任は極めて重いと考えられる。
 なお、指定した検索用語に新しい検索結果が見つかったときに、自動的にメールが送信されるシステム、『Google アラート』を利用し、「ヤミ金融」「振り込め詐欺」と設定しておくことによっても、その被害が現在においても全国的に多く存在していることを実感できる。是非、お勧めしたい。

2.ヤミ金融をめぐる諸問題について(近時の立法)

 ヤミ金融問題をめぐる諸問題については、極めて動きが活発であることから、本稿では、脱稿時点(平成17年4月30日)における情報を基にしていることを予めお断りしておく。
 さて、ヤミ金融業者・振り込め詐欺にとって、三つの道具とされているのは「プリペイド式の携帯電話」「銀行口座」「各種名簿」であるが、いずれも主としてインターネット上でも売買されており、誰でも容易に入手が可能であると言われている。 そもそも、偽造された健康保険証で携帯電話を入手、また、ホームレスの人などから口座や戸籍を買っているという状況にあるため、口座からその次にという段階で途切れてしまうという立件の困難さが摘発の現場から指摘されている。
実際に、検挙に至った者は、ヤミ金融関連、暴力団関連、少年という3つのタイプに分類されるようであるが、所在は東京・千葉・埼玉がほとんどであるとのことである。
 ちなみに、静岡県警で検挙された被疑者は、少年であり、元暴走族及びその周辺の人間であったようであるが、金が振り込まれれば5%の報酬をやると勧誘され、小遣い稼ぎの感覚でこの犯罪に手を染めていたとのことである。なお、その少年の持っていたマニュアルには、「ソフトに」「親身になれ」と記載されていたとのことである。
このように、動機は極めて単純であり、それは、犯罪に関する情報が満ち溢れている世の中で、善悪がきちんと選別ができない少年の増加によるものではないかと考えられよう。実際、逮捕されて初めて反省する少年が多いようである。
なお、実際の被害の既遂率については、7割が未遂、残り3割のうちの7割が親族や金融機関の職員の指導により未遂となっているようである。  

(1)携帯音声通信事業者による契約者等の本人確認等及び携帯音声通信役務の不正な利用の防止に関する法律

 先に述べたとおり、ヤミ金融業者・振り込め詐欺にとって、「携帯電話」が重要なツールとなっている。そして、多くの場合プリペイド式の携帯電話が使用されているとの統計が出ている。つまり、「携帯電話」については、本人確認が十分になされていないまま普及している携帯もあり、犯罪に利用されても利用者を特定することが難しいといった実態があったため、こうした事態を防ぐため、契約時の本人確認を義務化するなど適切な規制を施すとともに、違反者に対しては処罰規定を設ける標記法律案が、第162通常国会(平成17年3月22日)に提出され可決されるに至った。
 第1条(目的)によれば「携帯音声通信事業者による携帯音声通信役務の提供を内容とする契約の締結時等における本人確認に関する措置、通話可能端末設備の譲渡等に関する措置等を定めることにより、携帯音声通信事業者による契約者の管理体制の整備の促進及び携帯音声通信役務の不正な利用の防止を図ることを目的とするものとすること。」とされている。骨子は以下のとおりである。

@契約締結時・譲渡時の本人確認義務等
(イ)事業者は、契約締結時・譲渡時に、運転免許証の提示等を受ける方法により、本人確認を行わなければならない。なお、媒介業者等に行わせることができる。
《本人特定事項》
自然人→氏名、住居、生年月日
法 人→名称、本店又は主たる事務所の所在地
本人特定事項の虚偽申告の禁止(罰則あり)
本人確認記録の作成義務・保存義務
(ロ)親族等に対し譲渡する場合を除き、あらかじめ事業者の承諾を得なければならない。事業者の承諾を得ずに、業として有償で譲渡した者には罰則(広告も罰則あり)
A警察から犯罪利用の疑いがある旨の通知を受けた際の契約者の確認
警察は、犯罪利用の疑いがあると認めたときは、事業者に対し契約者の確認の実施を求めることができる。警察の求めを受けた事業者は、契約者について確認を行うことができる。
B匿名貸与営業の禁止
氏名及び連絡先等を確認しないで行う貸与営業の禁止(罰則あり・広告も罰則あり)
C携帯電話事業者の役務提供の拒否
@(イ)の本人確認及び3の契約者の確認に応じない場合、@(ロ)に違反して譲渡された場合、匿名貸与営業禁止の規定に違反して貸与された場合には、役務提供を拒否できる。
D自己が契約者となっていない携帯電話の譲渡・譲受の禁止
他人名義の携帯電話の譲り渡し・譲り受けの禁止(罰則あり・広告も罰則あり)
Eその他
事業者・媒介業者の違反に対する総務大臣による是正命令(罰則あり)
既存の利用者についての本人確認義務
施行後1年を目途とした見直し規定
 この法律の施行によって、一定程度の抑止力が期待できると思われるが、法律実務家としては、当該法律施行を広く国民にアピールするとともに、被害例について、当該法律を適用した告訴・告発を積極的に行っていく責務があろう。決して絵に描いた餅にしてはならない。

(2)預金口座等の不正利用防止法(金融機関等による顧客等の本人確認等に関する法律の一部を改正する法律)

 ヤミ金融業者・振り込め詐欺にとってのもう一つのツールが「銀行口座」である。これに関しても、他人名義の預金口座等を悪用したオレオレ詐欺や架空請求等の犯罪の社会問題化を踏まえ、第161回国会において、「預金口座等の不正利用防止法(金融機関等による顧客等の本人確認等に関する法律の一部を改正する法律)」が可決・成立し、平成16年12月30日より施行されている。
 第1条(目的)によれば、この法律は、金融機関等による顧客等の本人確認及び取引記録の保存に関する措置並びに預貯金通帳等を譲り受ける行為等についての罰則を定めることにより、テロリズムに対する資金供与の防止に関する国際条約等の的確な実施、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(平成11年法律第136号)第54条の規定による届出等の実効性の確保及び公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資金の提供等の処罰に関する法律(平成14年法律第67号)第1条に規定する公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資金の提供等が金融機関等を通じて行われることの防止に資する金融機関等の顧客管理体制の整備の促進並びに預金口座等の不正な利用の防止を図ることを目的とするとされている。
 そして、預貯金通帳等の譲受け等の処罰として、下記の4点が規定されるに至った。
@他人になりすまして金融機関等との間における預貯金契約に係る役務の提供を受けること又はこれを第三者にさせることを目的として、当該預貯金契約に係る預貯金通帳、預貯金の引出用のカード、預貯金の引出し又は振込みに必要な情報その他金融機関等との間における預貯金契約に係る役務の提供を受けるために必要なものとして政令で定めるもの(以下「預貯金通帳等」という。)を譲り受け、その交付を受け、又はその提供を受けた者は、50万円以下の罰金に処することとすること。通常の商取引又は金融取引として行われるものであることその他の正当な理由がないのに、有償で、預貯金通帳等を譲り受け、その交付を受け、又はその提供を受けた者も、同様とすることとすること。
A 相手方に@の前段の目的があることの情を知って、その者に預貯金通帳等を譲り渡し、交付し、又は提供した者も、@と同様とすることとすること。通常の商取引又は金融取引として行われるものであることその他の正当な理由がないのに、有償で、預貯金通帳等を譲り渡し、交付し、又は提供した者も、同様とすることとすること。
B業として@又はAの罪に当たる行為をした者は、2年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処し、又はこれを併科することとすること。
C@又はAの罪に当たる行為をするよう、人を勧誘し、又は広告その他これに類似する方法により人を誘引した者も、@と同様とすることとすること。

 この法律の施行についても、一定程度の抑止力が期待できると思われるが、(1)と同様、法律実務家としては、当該法律施行を広く国民にアピールするとともに、被害例について、当該法律を適用した告訴・告発を積極的に行っていく責務があろう。決して絵に描いた餅にしてはならないのである。

3.民事的対応について(平成17年3月30日東京地裁判決を中心に)

 一方、ヤミ金融業者・振り込め詐欺被害に関する民事的解決は困難を極める。いわゆる短期業者が跳梁跋扈していた3年ほど前であれば、不当利得返還通知書のファックス送信または、提訴・銀行口座差押え等により、不当利得金を比較的容易に回収できたが、近時では、住所・氏名が特定できないため文書の送付すら困難な業者ばかりであり、銀行口座の仮差押決定を得ても、すでにそのときには銀行口座には数百円しか残っていない、という事案ばかりである(被害回復の手がかりとしては、携帯電話番号と振込み銀行口座のみであるが、先に述べたとおり、携帯電話はプリペイド式のものが多く、銀行口座名義人もダミーであるのが通常であると考えられる)。
 そもそも、仮差押えによって保全される債権は、仮差押命令が銀行に送達された時点の預金の額であり、しかも請求金額の範囲に限定される。仮差押命令送達後に当該口座に入金があったとしても保全の対象外である点も被害回復を困難にせしめている。
 また、電話により返還請求をしても、そもそも法の外を生きるヤミ金業者であるから、回収の可能性は極めて少ないのが現状であろう。
 振り込め詐欺の場合も、振込口座から出金されてしまえば、事実上当該不当利得金の回収は不可能となる。もちろん、訴訟手続き上において口座名義人を特定し、その者の責任を追及することは可能だが、口座名義人の資力はまったく期待できない。 被害者が、事件の直後にどうもおかしいのではないかと気づき、直ちに本人に確認して詐欺であることが発覚したような事案であれば、既に送金処理がなされていた場合でも、即座に振込みをした銀行に連絡し事の経緯を説明することによって、当該金員の出金をロックしてもらうことが可能になることもあり、この場合においては、仮差押え手続き・本案訴訟手続きを経て、被害回復を図ることも可能となる。
 ただし、当然のことであるが、被害者が振り込みをしてから加害者が出金をするまでの極めて限られた時間内に行われなければならないため、これにより救済される事例は少ないといわざるをえないのである。
 なお、上記の例と同様、口座に預金を残すことができれば、損害を回復できる道が開けた。
 新聞でも大きく報道されたが、平成17年3月30日、「振り込め詐欺」の被害者らが、大手都市銀行4行(三井住友、東京三菱、UFJ、りそな)を相手に、振り込んでしまった額の払い戻しを求めた訴訟の判決が東京地裁であった。裁判長は、振込先の口座の「名義人」に代わって被害者が銀行に払い戻しを請求できる権利を原告に認め、4行に請求通り計約260万円の支払いを命じている(金融・商事判例1215号6頁)。
 被害回復のよりどころとなる財産としては、口座にある預金しか見あたらないことを指摘したうえで、「原告が不当利得返還請求権を保全するには、名義人の預金払い戻し請求権を代わって行使するしかない」とし、被害者が、『被害者の口座の名義人に対する不当利得返還請求権』を守るために、『口座名義人の銀行に対する預金払戻請求権』を、口座名義人に代わって代位行使できることが認められた。
 これにより、被害にあっても直後に気づいて警察に通報し、警察が銀行に口座の凍結を要請すれば、口座に残った預金を被害者が取り戻せる可能性は広がったことになる。
 理論的には、この方法によれば、前述した、口座仮差押の場合と異なり、仮差押命令送達時点に存在した預金のみならず、代位権行使の裁判の口頭弁論終結時までの預金を凍結することができる。そして、担保金も不要である。また、銀行のみを相手にするわけであるから、訴状等の書面が送達できないというリスクも完全に回避できることとなる(この点に関しては、「新ヤミ金融対策マニュアル(全国ヤミ金融対策会議)」に掲載されている蔭山文夫弁護士による論考「ヤミ金口座を凍結する」に詳しいので参照されたい。)。
 しかし、この方法によったとしても、口座に預金を残すことができなければ、やはり被害回復は不能となるのであるから、被害回復の決定打には程遠いと言わざるをえないだろう。
原告側代理人の弁護士は「訴訟は時間や費用がかかり、被害者の多くを占める高齢者には負担が大きい。訴訟を起こさずとも銀行が払い戻しに応じるルールづくりが必要だ」とコメントされているようであるが、 まったく同感である。
 本稿では、この点につき深く言及する誌面がないが、銀行に対する要請活動もまた、法律家司法書士の責務であることは間違いなかろう。
 なお、これらに関しては、「瑕疵のある振込資金の返還 三井住友銀行法務部 三上徹」(金融法務事情1724号4頁)や「誤振込により成立した預金の払戻請求 みずほ銀行法務部 岡本雅弘」(金融法務事情1733号4頁)、「振り込め詐欺における被仕向銀行の払戻停止措置義務 信金中央金庫経営管理部 平野英則」(金融法務事情1733号6頁)などに詳しいので、受任にあたっては必ず参考にされたい。

4. 告訴・告発

(1)はじめに

 平成17年3月25日、筆者も幹事をつとめる全国ヤミ金融対策会議(代表幹事・宇都宮健児弁護士)は、親族らを装って金をだまし取る振り込め詐欺と、高金利で金を貸し付けるヤミ金融業者について、詐欺や出資法違反容疑で警視庁や各地の警察本部に一斉に告発した。振り込め詐欺の一斉告発は今回が初めてである。
 振り込め詐欺で告発対象となったのは全国で計211件、被害額は1億1362万円であり、ヤミ金融の告発は計約3600件となっている。
 携帯電話に届いた架空請求メールに返事をしたのをきっかけに、手数料などの名目で約1500万円をだまし取られた東京都内の女性(60代)のケースなど、容疑者不詳のまま、犯行に使われた銀行口座や電話番号を基に告発している。
 これまで述べてきたとおり、ヤミ金融業者・振り込め詐欺に対する民事的な責任追及も極めて重要なことと考えられるが、例え、口座名義人の住所・氏名が判明し、裁判が可能となったとしても、事実上支払い能力が無いことが予測されるから、現実的な被害回復は困難を極める事案が多いといわざるを得ないのが現状である。
 一方、刑事責任を追及し、また、その姿勢を貫くことにより、それが抑止力となることが期待できるのであるから、積極的に告訴・告発をしていくことが必要といえよう。
 警察庁は、すでに「振り込め詐欺」の捜査に総力を挙げるため、「身近な知能犯罪緊急対策チーム」を設置しており、都道府県警の捜査二課長ら約120人を集めた全国会議で、取り締まりの強化を指示、徹底捜査を推進することとしている。警察庁が個別の犯罪形態について専門チームや全国会議で対応するのは極めて異例のことであるから、被害の現場を知る法律実務家との連携により、大きな効果が期待できるのではないだろうか。

(2)ヤミ金融業者の告発に携わっての雑感〜県警とのやりとり等〜

 筆者は、平成13年12月、静岡青司協の事業として、「ヤミ金融110番及び一斉告発」に関する実行委員長を務めた。
 当時は、いわゆる短期業者が猛威をふるっていた時期であり、まだマスコミでも大きく取り上げられることはなく、社会的にも認知されていなかったように思う。
 事務所に大量の特上すしが届けられたのもこの当時であるが、被害例は極めて多く、110番で寄せられた事案のうち、出資法違反を書面で立証できるものに厳選し、静岡県警に対して告発に臨んだ。しかし、結果は不受理であった。「けんもほろろ」と言って差し支えないだろう。その際のやりとりは正確に記憶していないが、二回目の告発不受理の理由と同様であったと思う。
 一回目の告発不受理に対して、筆者は、同じやり方(単純に証拠書類と告発状を持参する)では同じ結果となることを予想し、平成14年春に実施した2回目の「ヤミ金融一斉告発」にあたっては、記者発表において前回以上の資料を提出、分かりやすい説明と問題点の指摘を心がけた。この当時は、マスコミ自体も、この問題に対する関心を強めていたこともあって、新聞だけではなく、テレビ局も積極的に協力をしてくれることとなった。
 そうして、テレビカメラを引きつれ、静岡青司協のメンバー複数名と再び静岡県警に告発書類を持参した。
 しかしながら、ここでも担当者の姿勢は頑なであった。曰く「被害者は静岡県内の人間だが、加害者はいずれも東京の業者である」「受理してしまうと、実際に捜査に着手しなければならないが、県警では他にも重要な問題を多くかかえており、ヤミ金融問題だけに捜査員を使うことは物理的に不可能である」「事件数を絞ってほしい」ということであった。
 筆者を含め、当時の静岡青司協の会長ら3名と県警の担当者2名との押し問答は1時間以上続いた。しかしながら、結果として、「告発状の原本が受領できない。が、コピーを資料としていただく。」という頑なな態度に譲歩した形となった。実は、告発後に、事後報告という形の記者発表を予定しており、あまり時間の猶予がなかったという事情もあった。
 そのような経緯で、記者発表においては「静岡県警、告発を不受理」とせざるをえなかったが、その後、県警からも記者発表があったようで、一部の新聞には「静岡県警、告発に関する資料を受領」と掲載された。
 同年秋、静岡青司協としては、3回目となるヤミ金融告発を行った。これまで、2回にわたり不受理とされてきた経緯もあって、事前の準備はこれまで以上に行った。静岡県警の態度は、基本的には変わらなかったため、議論を重ねた結果、告発事件数を絞り、1件を受理してもらい、その他は資料として提供するという形をとった。静岡青司協としては最大限の譲歩であったと思う。
 受理された1件は、沼津市内の被害者の事例であったが、検挙に至り、静岡新聞でも大きく報道されている。

(3)集団告発(情報提供及び捜査要請)のすすめ

 司法書士が法律家として、ヤミ金融業者・振り込め詐欺に対する告発に積極的に取り組み必要性については既に述べたとおりである。
 しかしながら、既に述べたとおり、警察側の人員の問題もあり、単純に一人の司法書士が受任した一人の被害者の事例を告発したところで、即座にそれが受理されるということは考えにくい。警察側の対応についての是非はともかくとして、そのような現状があるのであれば、司法書士としても様々な工夫をする必要があろう。
 3回にわたる告発に関わって、筆者の考えは次のようなものに固まっている。つまり、必ずしも告発の受理に拘る必要はなく、現場の多くの被害例を整理し、告発前の情報提供及び捜査要請として提出することによって、警察の効率的な取り締まりを支援するという姿勢である。そして、そうであれば、より多くの司法書士に協力をしてもらい、多くの情報を提供することに意味がある、ということになる。それが集団告発である。
 ヤミ金融業者は星の数ほど存在する。しかし、このような集団告発を、継続的に行っていくことにより、抑止力が期待できるのである。

 具体的な集団告発の方法は、次のとおりでよいだろう。「新ヤミ金融対策マニュアル(全国ヤミ金融対策会議)」に掲載されている木村裕二弁護士による論考「集団告発・行政処分申立・ヤミ金口座の閉鎖要請」も参照されたい。

@犯罪事実一覧表の作成

 告発人となる司法書士が、被害者からの聴取をもとに、書式記載例のような犯罪一覧表を作成する。1業者・1被害者ごとに作成する。これにより、ヤミ金融業者の犯罪事実が一見して明らかとなる。
 もちろん、これには犯罪事実を裏付ける証拠書類を添付する必要がある。
 日々の業務として、ヤミ金融問題に関わっている司法書士の数は、残念ながら圧倒的少数であり、それゆえに、その圧倒的少数の司法書士事務所へ大量のヤミ金融事案が集中しているのが全国的な傾向であり現状でもある。したがって、そのような激務の中において、この犯罪一覧表を別途作成するということにならざるをえないので、極めて効率的に行う必要がある。
A告発状の作成

 @で作成した一覧表を編綴し告発状の体裁を整える。注意すべきは、誰が見ても瞬時に内容が分かるようなものにしておくことである。警察の担当者はとにかく極めて忙しい。
B都道府県警本部への提出

 管轄としては、犯罪地又は被告人の住所、居所若しくは現在地ということになろうが、提出先は、基本的に、犯罪地を管轄する都道府県警本部でよいものと思われる。
 被告人たる加害者が東京等の都心に存在することも多いため、警視庁への郵送を指示される場合も考えられるが、その場合にはその指示に従えば良いであろう。
C記者発表

 最も重要であると思われることの一つが記者発表である。世論を喚起するにはこれを行わなければ効果がない。タイミングとしては、事前と事後が考えられるが、適宜最も効果的だと考えられる方を選択すればよかろう。
 筆者の意見としては、先に述べたとおり、事前と事後に二回行うのが最も効果的であると考えている。
 記者発表の設定については、各県に置かれている県庁社会部の記者クラブに電話し、事前にアポイントを取り付けておくことで可能となる。そして、その際には、きちんと分かりやすく書かれた資料を持参し、5分から10分程度で趣旨を伝えなければならない。
 発表を受け取る記者にとってみれば、日々のニュースの一つにすぎないという側面も大きいと考えられるので、発表者である私たちがその重要性を熱く語ることができなければ、興味を示してくれない可能性もある。しかるべき準備をしたうえで臨む必要がある。
D告発状提出後のフォロー

 先に述べたとおり、集団告発の主たる目的が、告発前の情報提供及び捜査要請として提出することにあるとすれば、告発状提出後の警察との協力体制についても、予め考えておかなければならない。
 つまり、警察が立件を考えている個別事案については、被害者に対する協力が求められることになるが、この際に被害者の協力が求められないということであれば、せっかくの告発も意味が半減するからである。
 したがって、被害者には事前にそのようなこともありうることをしっかり説明しておく必要があるし、その際に協力が求められないような事案については、告発自体を断念することも視野に入れておく必要があろう。

5. 最後に〜多重債務問題は収束の方向に向かっているのだろうか〜

 筆者が、いわゆるクレサラ事件に関わるようになって、早くも13年が経過した。13年前は、この問題に積極的に取り組んでいるのは一部の弁護士のみという状況であり、極めて一部の限定された司法書士が各地で孤軍奮闘しているような状態であった。
 これを考えれば、確かに隔世の感はある。
 しかしながら、@多重債務問題全体は、ヤミ金融問題を含み、けっして収束の方向に進んでいないと思う。銀行のサラ金化ともいえる現象は密かに進行しており、また、金利の自由化という問題にもまさに直面している。本稿では、誌面の都合上、この点に関して深く言及することができないので、別の機会に譲りたい。この点についてはご容赦いただきたい。Aクレサラ事件処理の事務マニュアル化が進行し、多くの司法書士がこの問題に取り組むようになってはいるが、一方で、提携司法書士の問題も顕在化してきている。
 簡裁代理権の取得により、クレサラ事件処理に取り組む司法書士が激増したと考えられるが、@で指摘したように根本的な問題は改善されず、Aで指摘したような弊害が目立っているのはなぜだろうか。そもそもこのように考えるのは、あまりに穿った見方なのだろうか。
 しかし、Aのような内部的な問題はともかく、@のような問題が改善されないのは、クレサラ事件処理に取り組む司法書士の怠慢にも起因することは事実であろうと思う。日々の日常業務としてクレサラ事件処理に取り組むだけでは法律家としての役割としては明らかに不足・不十分である。
 筆者が、この問題に取り組むきっかけは、当時孤軍奮闘していた先駆的な先輩司法書士の存在であったが、当時から「法律家としての使命」を叩き込まれており、常に明確にそれを意識していたことを記憶している。そして、もちろん現在も、なぜこの問題に取り組むようになったのか、なぜ継続する必要があるのか等・・・・改めて考えることが少なくない。
 ヤミ金融問題、多重債務問題の根源は何か、背後にあるものは何か、それは中長期的にどのような動きにあり、現在はどのような状態にあるのか・・・そして、そのような大きな問題に関して、一人の法律家としてすべきことはどのようなことか、また、どのようなことが出来るのか、青司協・司法書士会などといった法律化集団としてはどうか・・・・こうした問いに対して、常に意識し、仲間と議論し、自らを高めていくこと、その「意志」こそが、唯一、この大きな問題を良い方向に変えていく力になるのではないだろうか・・・・筆者はそう考えている。 (平成17年4月)




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