| 多重債務問題に取り組んで学んだこと〜司法書士という立場から〜 |
1.多重債務被害救済との出会い
私が司法書士としての仕事に就いたのが平成2年のことでありますが、ちょうどこの頃より、自己破産件数が全国的に激増傾向となっておりました。当然のことながら「街の法律家」と自己定義してきた司法書士にも、多重債務に困窮する方々からの相談が増え、これにしっかりと対応すべく、静岡県青年司法書士会の有志により、「クレサラ110番」を実施するに至りました。
私は、この静岡県青年司法書士会主催の初めての「クレサラ110番」及びその実施にあたっての複数の勉強会に参加することとなり、その過程において、静岡県司法書士会の中でも先駆的な取組みをされている先輩司法書士に大きな感銘を受け、自然とこの問題に取り組むようになっています。
そして、この「クレサラ110番」に寄せられた事案の何件かを、実務経験の豊富な先輩のアドバイスを受け、また、同じくこの問題に取り組むことになった同期の司法書士と相談しながら、解決に導く経験をさせていただき、徐々にこの問題の根源について考えるようになりました。
当事、清水で開催された、全国クレジット・サラ金問題対策協議会が主催する「クレサラ被害交流集会」の事務局の仕事をお手伝いさせていただいたことも、この問題に取り組むようになった大きなきっかけとなっています。この集会では、この大きな問題に関して、法律家だけではなく、被害者の方々、学者、労働団体、消費者団体の皆さまがそれぞれの立場で出来ることをやっているという連携について知ることができましたが、同時に、司法書士に出来ることもまだまだ存在しているということについても実感することができ、大きな力を得ることができました。
以来、毎年開催される「クレサラ被害交流集会」には必ず参加させていただくようになっており、現在では、全国クレジット・サラ金問題対策協議会の役員にも就任させていただいています。
2.静岡青司協「クレジット・サラ金問題相談センター」事務局長に就任
その後、平成9年、私は、静岡県青年司法書士協議会の「クレジット・サラ金問題相談センター」事務局長に就任いたしました。自己破産の急増に伴い、当事、絶対的に不足していた専門家による無料常設相談窓口を増やすべきだという青司協メンバーの一致した考えに基づいて、静岡県に複数の無料相談電話を設置したのです。現在では、静岡、浜松、三島、沼津、富士、焼津、掛川、島田の8箇所となっています。
これにより、相談件数は激増しました。
そして、多くの相談を受けていく過程において、この問題の深い部分を知ることができ、多くを学ぶことができました。それと同時に、法律家である自分はもちろん万能ではないけれども、他の人には出来ないことが出来る、他の人が持っていない武器を持っている・・・ということを再確認することができ、そう考えることによって力が湧いてくるような感じがして、ますますこの問題に深く関わっていくことになりました。
この静岡青司協「クレジット・サラ金問題相談センター」は、現在も継続しており、毎日のように新しい相談が寄せられています。
平成13年ころより、ヤミ金融事案が激増しましたが、その当事は、相談件数も激増し、本当に大変でした。大量の寿司が届けられたり、救急車を難題も呼ばれたりしたこともありました。
3.司法書士法改正〜簡裁代理権の取得による飛躍〜
平成14年、いわゆる司法制度改革の一環として、司法書士法の大改正が行われ、一定の条件のもとに簡裁代理権が付与されるに至りました。 これにより、債務整理事案に関して、訴外で業者との交渉を行う「任意整理」が可能となり、これを契機として、この問題に取り組む司法書士は全国レベルでも飛躍的に増えています。
この画期的な法改正について、個人的には、それまでに頑張ってこられた先駆的な一部の司法書士の債務整理事案における実績が評価されたものと考えています。
4.木も見て森も見ること
この問題に関わってから確信を得たことの一つが、「木も見て森も見ることが必要」ということです。
ここで言う、「木」とは一人ひとりの多重債務者であり、「森」というのは、この多重債務者を生んだ社会的背景であります。
法律家としてこの問題に関わる以上、目の前の困窮する多重債務者を法的に救済に導くことは当然のことであり、これが出来なければ法律家ではありません。しかし、これだけで十分かと言えば、そうではないと思います。法律家である以上、これだけ多くの多重債務者を生んだ背後にあるものについて思いを巡らせ、その根源的な解決に向けて努力を継続することも社会的責務であろうと考えられるからです。
具体的に言えば、現在大きな問題となっている、出資法の上限金利引き下げに関する運動が典型的なものと考えられましょう。
単に、実務レベルで「破産手続き」や「再生手続」を受任するだけでは、事務代行屋と何ら変わるところはないのです。なぜ、このような問題が起こっているのか、常にアンテナを張り、法律の不備があるのであれば現場からの声をあげて是正を求めていく、声をあげることが困難である多重債務者を代弁する・・・ということが法律家に求められていることであると思います。
5.新しくこの問題に取り組もうとする司法書士へ
このような経験を積んできた私が申し上げられることは、まず第一に、多くの相談を受け、可能な限り多くの事件にあたることであります。これにより、表層的な部分だけでないところが徐々に見えてきます。
また、あらゆる法律問題の坩堝となっている倒産処理を複数経験することによって、法律家としての力量も自然と身についてくるはずです。困難な事件ほど解決した後の喜び(当然、依頼人の喜びも)は大きいはずです。
そして、その前提として、110番活動や無料相談などの相談員として積極的に関わっていくことをお薦めします。このような労を惜しんでは絶対にいけません。
事前規制から規制緩和の時代に変革しつつある現在において、多重債務問題に限らず、あらゆる消費者問題は、法律家の関与が欠かせない状態になっていると思います。
今以上に「街の法律家」司法書士の真価が問われている時代はないのです。ともに頑張りましょう。
(平成18年9月)