| 司法書士がこれから進むべき道〜司法制度改革下での私の提言〜消費者問題へ の取り組みを通して(欠陥住宅問題) |
現在、欠陥住宅に悩むある依頼人から相談を受け、民事調停事件として、建築 物の不具合事項についての施工対策と慰謝料を請求しているものがあります。
簡単に事実関係をまとめますと、依頼人は、平成11年5月、全国規模でフラ ンチャイズ網を展開しているある大手ハウスメーカーXの加盟店Yとの間で、木 造2階建建物の設計施工につき、請負代金を金1420万387円とす る建築工事請負契約を締結しており、同年10月17日、右工事は完了し、本件 建物は依頼人に引渡され、依頼人は最終金を支払っています。
ところが、その後、 本件建物には、多くの欠陥・瑕疵が存在していることが判明しました。
依頼人は、Yの担当者に何度も補修工事の請求を繰り返しているのですが、満 足の行く工事は依然として行われておらず、この際、きちっと法的手続を踏んだ 上で正当な慰謝料も請求したい、そのように考えたようです。
前述しましたように、私の事務所に相談に訪れるまでに、依頼人はYの担当者 と何度も補修工事についての話し合いを重ねており、Yは、「建築物の不具合事 項についての施工対策」と表された書面において、各部位ごとに具体的な不具合 事項とその具体的な施工対策について、明らかにしていました。また、補修工事 期間中の代替住居の手配やその費用負担についても了解しており、慰謝料につい ても裁判所が相当と判断した金額であるならば支払うと口頭で約束しているとの ことでした。
参考までに、右書面に記載されているYの認識している不具合事項をいくつか あげてみますと、「床鳴り」「床の表面のむくれ」「フローリングの段差」「ク ロスの寸足らず」「窓枠の固定の不備」「釘が目立つ」などでした。
欠陥住宅の問題は、ご承知のとおり、大きな社会問題となっており、一部の建 築士及び弁護士らが熱心に被害救済にあたっていますが、他の消費者問題と同様、 契約当事者間の圧倒的な専門知識の格差がネックとなって、泣き寝入りを余儀な くされているケースが非常に多いと言われています。
私を含めて一般の消費者は、住宅建築に関する知識や経験を持っていません。 一方、業者は、高度に専門化した建築に関する知識を振りかざして弁明に努める わけですから、欠陥部分について、満足の行く修補をしてもらうことは極めて困 難であると容易に想像できます。
また、現在施行されている民法の請負に関する規定が、100年近く経過して いるにも関わらず、条文に変更がないことも、被害救済をより一層困難なものに していると言われています。つまり、民法施行時には、代表的な住宅の注文者は 大家であり、彼らは注文に関してはプロとも言える存在でしたが、一方、請負人 の側の大工や棟梁などは労務を提供する者という性格が強く、そのため、民法に は、「建物がいったん完成すれば契約の解除が出来ない。」「瑕疵が重要でなく 修繕費用が過分な場合には修補しなくてよい」などといった請負人保護の規定が 設けられているのだとされています。
しかしながら、この立場は、いわゆるマイホーム政策のものとで大きく逆転し、 現在に至っているのはご承知のとおりです。
さて、欠陥住宅に関する紛争の具体的な解決手段として考えられるのが、@建 設紛争審査会による斡旋・仲裁制度、A消費生活センターの利用、B調停の利用、 C訴訟の利用といったところが考えられます。
私は、相談された事件がどの方法による解決が望ましいのか、まず考えました。
@の建設紛争解決機関は、建設業者の保護や育成を目的とした建設業法に基づ いて制定されている紛争解決機関でありますから、そもそも建設業者と消費者と の紛争を前提としておらず、元請業者と下請業者、あるいは孫請業者、つまり建 設業者間のトラブルの解決を主たる目的とされています。
一方、Aの消費生活センターは、消費者保護基本法に基づいて制定された機関 で、もともと消費者保護を目的としておりますが、相談員に建築の専門家は予定 されていませんし、法的な強制力がありません。
本件について考えてみますと、相手方業者は、不具合のほぼすべてについて認 めており、慰謝料の支払についても応じています。あとは、それらの履行の確保 が出来ればいいわけですから、まずは調停により解決を図ろうと考えました。
ただ、その不具合部分が、表面的な補修工事で足りるものなのか、それとも、 表面的なものではなく何らかの構造的な欠陥があるために現れた不具合ではない のか、という疑問が当然生じてきます。
しかし、本件建物はすでに完成してしまっているため、その調査にはおのずと 限界があります。また、その調査費用をどちらが負担するのかという現実的な問 題もあります。
そこで、調停申立の準備と並行して、住宅検査会社に事情を伝え、まずは簡易 な方法で調査を依頼することにしました。
最初の調査結果は、「構造上の問題は特になく、仕上げ段階の技術的な問題で あるから業者による修繕対応が望ましい。」とのことだったのですが、二度目の 結果は、次のとおりでありました。
「欠陥現象に対する所感」
2階居室における床の傾斜について、一般的施工技術的水準からみて、何らか の瑕疵が一定程度存在する可能性があると思われる。
「欠陥原因の究明に関する所感」
本物件の状態は、内装に覆われていて、構造軸組を目視・計測することは不可 能である。しかしながら、瑕疵が存在するとすれば、床版を構成する2階床根太 の水平施工の不備によるところが考えられるため、欠陥原因を特定し瑕疵の存在 を明らかにするためには、床仕上げ材及び床下地材を取り除き、構造体である床 根太さらにはそれを支持する床ばりについて、施工状態を目視・計測する必要が ある。今回の検査では、床レベルの不具合が生じている居室について、外壁等の 傾きなどが確認されていないため、床版を構成する床根太及び下地板張りにおけ る施工不備が推定される。ただし、あくまでも内装に覆われた状態の所感である ため、原因を特定するにあたっては記述のとおり床版を取り除き構造軸組につい ての検査の必要があると考える。
裁判所は、右の報告を受け、次回調停期日までに、より詳細な調査をしたうえ で、その報告書の提出を求めています。
そこで、現在、その日程(床版を取り除く必要があることから、調査期間の住 居を確保しなければなりません。)と調査の結果、建築基準法20条に定められ ている構造上の欠陥が認められた場合の対処についてなどを検討しているところ であります。
依頼人にしてみれば、構造上の欠陥でない仕上げ段階の問題であれば、早急に 補修工事を施工してもらい、その間に生じる必要経費や相当と思われる慰謝料を 受け取り、できるだけ早くこの問題を解決したい。
しかしながら、床の傾斜とい うひとつの欠陥現象が、そもそも構造上の欠陥によるもので、最低限度の安全性 すら充たしていない建物であれば、建て替えも含んだ請求をしたい。これは当然 のことだと思われます。
さて、一方において、先に述べたような欠陥住宅の問題を解決するべく、平成 11年6月、「住宅の品質確保の促進等に関する法律」が制定されており、本年 4月より施行されています。
簡単にポイントを指摘させていただきますと、@瑕疵担保期間10年間の義務 づけ、A住宅性能表示制度の創設、B住宅紛争処理体制の新設、の3つがあげら れます。
@は、業者に、新築住宅のうち「構造耐力上主要な部分等」にあった瑕疵につ き、引渡しから10年間その瑕疵を修補するなどの義務を課すものです。
Aは、 住宅取得者のうち希望する者につき、新築住宅についてこの法律による性能表示 に関する基準に基づいた評価を受けることが可能とするもので、この評価を受け た住宅の紛争については、Bにより、通常の裁判よりも専門的な見地から調停・ 斡旋が可能となり、費用も低廉で済むこととなっています。
ところで、司法制度改革は、規制緩和に伴う、従来の事前的・行政的規制から 事後的・司法的規制への変化に対応するべく提唱されたものであると言われてい ます。(介護保険の問題や、医療分野におけるインフォームド・コンセントの問 題、定期借家権の問題に至るも、そうした一貫した流れの中にあると言えるので はないでしょうか。)
つまり、規制緩和においては、自己責任、自己決定が重要視されることとなり ますが、誰もが自己責任を取れるというものでもありません。そうした意味にお いて、司法の充実が不可欠となるということであります。
そうであるとしたら、規制緩和に伴い、新たに社会問題となってくるであろう 様々な事象に対して、「街の法律家」を自認する我々は、常に敏感でなければな りませんし、法律実務家としての力で個々の問題を解決していかなければならな いでしょう。
様々な外圧により改革を迫られるのではなく、個々の会員が絶え間なく自己改 革・自己研鑽を重ね、多くの消費者問題を含んだ法的サービスの不毛地帯に積極 的に乗り込み、その蓄積された実績が社会的に認知されることによってのみ、司 法書士全体にとっての真の改革がなされるのであろう、個人的にはそのように考 えています。(平成12年7月)