| 「不実告知・断定的判断の提供による契約取消」に関して〜いわゆる「資格講座」への対処法を通して〜 |
消費者契約法(以下「法」という。)が平成13年4月より施行されることとなり、消費者トラブルに関する迅速かつ適正な解決が期待されるところであるが、本稿においては、法4条1項に定められた、いわゆる「不実告知」「断定的判断の提供」による取消しを中心として、実際の消費者被害にどのように活用していくべきかを論じるものである。
さて、国民生活センターが2000年10月に創立30周年を迎え、国民生活センターのホストコンピューターと都道府県・政令指定都市の消費生活センターに設置した端末機を結ぶPIO−NET(パイオ・ネット 全国消費生活情報ネットワークシステム)が運営を開始してから16年が経過したとのことである。
1999年に、このPIO−NETに入力された相談は、45万件を超えており、全国規模であらゆる消費者トラブルが寄せられていることから、時代を映す貴重なデータベースであると同時に、「街の法律家」を自認する司法書士にとってみれば、常に、その内容や傾向を意識しておかねばならない存在であろう。
近頃、国民生活センターから出版となっている「消費生活年報2000」には、まさに、そのPIO−NETに蓄積された貴重なデータなどが満載されており、相談の現場ではどのような事例が持ち込まれているのかが一目で分かるようになっている。
その中で、「商品・役務別の相談の特徴」と題されたデータのトップは、いわゆる「資格講座」と言われるものである。
昨今の景気の閉塞感に伴う就職難などから、独立開業が売り文句とされる「資格講座」に多くの人が興味を向けるのは必然であろうし、一方では、平成12年10月6日の朝日新聞の報道などにもあるように、新しい資格が天下り先である法人の役員の座を確保することに繋がっているという状況でもあることから、今後もこうした被害は増えつづけていくことが容易に予想できるのである。
一方、その販売購入形態は、90%以上が電話勧誘販売によるものであり、主たる相談内容には虚偽の説明や二次被害、強引な勧誘や中途解約に関するものがあげられている。
また、平均的な契約金額を見ると、40万円程度となっていることから、少額訴訟の活用によって解決を図ることが可能であるケースも少なくないであろうし、そうでないとしても、本来であれば「街の法律家」たる司法書士への相談が多くて然るべきものが圧倒的多数であるとも考えられる。
上記のような実態に鑑み、以下、この「資格講座」に限定して、法に定められている「不実告知による契約取消し」「断定的判断の提供による契約取消し」の他、電話勧誘販売の問題、そして、中途解約における問題についても若干論じてみたい。
1.「不実告知」による契約取消し
法4条(消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し)によれば、「消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次の各号に掲げる行為をしたことにより当該各号に定める誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。」とし、1として「重要事項について事実と異なることを告げること。当該告げられた内容が事実であるとの誤認」としている。
まずは要件について確認しておく。
@「契約の締結について勧誘をするに際し」
A「重要事項」について
B「事実と異なることを告げる」
@の「勧誘」には、「広告」「チラシの配布」「商品の陳列」「店頭に備え付けあるいは顧客の求めに応じて手交するパンフレット・説明書」「約款の店頭掲示・交付・説明等」「事業者が単に消費者からの商品の機能等に関する質問に回答するに止まる場合」など、不特定多数向けのものなど客観的にみて特定の消費者に働きかけ、個別の契約締結意思の形成に直接影響を与えているとは考えられない場合は含まれないとされている点には注意を要するが、既に述べたとおり、「資格講座」においては、そのほとんどが電話勧誘販売によるものであることから、この要件に関して問題となるケースは少ないものと予想される。
Bについては、その判断は、契約締結時において、契約締結に至るまでの事業者の告知内容を全体的に評価して行なわれるとされている。
さて、「資格講座」に関して言えば、具体的には、勧誘に際して告げられる(@)「間もなく国家資格となる」(A)「受講するだけで簡単に取れる」(B)「この資格を取れば国家資格が簡単に取れる」といった文句が考えられよう。
「事実と異なること」とは、真実又は真正でないことをいうが、真実又は真正でないことにつき必ずしも主観的認識を有していることを要さず、告知の内容が客観的に真実又は真正でなければ足りるとされている。したがって、主観的な評価であって、客観的な事実により真実又は真正であるか否かを判断することができない内容(例えば、「安い」「新鮮」「(100 円だから)お買い得」という告知」)は、「事実と異なること」の告知の対象にはならないものと考えられている。
実際にこの「不実告知」を理由に契約を取り消す場合、裁判の場における立証責任は、消費者側にあるが、「資格講座」における上記(@)(A)(B)のケースにおいて、どのような立証活動が考えられるのであろうか。
(@)の場合においては、当該資格試験を取り扱っている団体に調査嘱託をすることなどによって比較的容易に立証が可能であると考えられる。
(A)の場合においては、相手方となる業者の実績に関する内部資料を文書提出命令などにより提出させる方法や、同じ資格を取り扱っている他の業者の合格者に関する実績のデータなどを用いることによって、ある程度客観的な事実が導き出されるものと考えられる。また、「資格講座」に関する事業者のうち民間資格の取得を取り扱う業界団体として、社団法人全日本能率連盟(通産省認可)というものがあるので、この団体に対する資料開示も考えられる。
(B)の場合においては、当該国家資格に関するデータにつき国に対して調査嘱託を申し立てることも考えられるが、それが困難であれば(A)と同様の方法が考えられよう。
2.「断定的判断の提供」による契約取消し
また、法4条(消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し)によれば、「消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次の各号に掲げる行為をしたことにより当該各号に定める誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。」とし、2として「物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものに関し、将来におけるその価額、将来において当該消費者が受け取るべき金額その他の将来における変動が不確実な事項につき断定的判断を提供すること。当該提供された断定的判断の内容が確実であるとの誤認」としている。
これについてもまずは要件を確認しておく。
@「物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものに関し」 A「将来におけるその価額につき」
B「将来において当該消費者が受け取るべき金額につき」
C「その他の将来における変動が不確実な事項につき」
D「断定的判断を提供すること」
Aの「将来におけるその(=物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの)価額」とは、例えば不動産取引に関して、将来における当該不動産の価額であり、Bの「将来において当該消費者が受け取るべき金額」とは、例えば保険契約に関して、将来において当該消費者が受け取るべき保険金の額などである。
一方、Cの「その他の将来における変動が不確実な事項」とは、例えば証券取引に関する将来における各種の指数・数値、金利、通貨の価格といったような、上記の2つの概念には必ずしも含まれない、消費者の財産上の利得に影響するものであって将来を見通すことがそもそも困難であるものをいうとされている。
そして、Dの「断定的判断を提供すること」であるが、「断定的判断」とは、例えば利益を生ずることが確実でないのに確実であるといったように、確実でないものが確実であると誤解させるような決めつけ方をいう。
必ずしも「絶対に」「必ず」のようなフレーズを伴うか否かは問わないが(例えば先物取引において、事業者が消費者に対して「この取引をすれば、200万円もうかる」と告知しても、「この取引をすれば、絶対に200万円もうかる」と告知しても、同じく断定的判断の提供である。)、事業者の非断定的な予想ないしは個人的見解を示すこと(例えば、「この取引をすれば、200万円もうかるかもしれない」と告知すること)は断定的判断の提供に当たらないことに注意されたい。
また、消費者の判断の材料となるもの(例えば、「エコノミストの甲野氏は、『半年後に、円は1 ドル=100円に下落する』と言っている」というような相場情報)について真実のことを告げることも問題にならない。
さらに、将来の金利など「将来における変動が不確実な事項」につき、一定の仮定を置いて、「将来におけるその価額」、「将来において当該消費者が受け取るべき金額」につき、事業者が試算を行い、それを消費者に示したとしても、「将来における変動が不確実な事項」については、試算の前提としての仮定が明示されている限り、「断定的判断の提供」には当たらないことにも注意されたい。
さて、「資格講座」に関して言えば、その対象となるものは、講座や教材であることから、@の要件については問題ないであろう。
しかしながら、(@)「間もなく国家資格となる」(A)「受講するだけで簡単に取れる」(B)「この資格を取れば国家資格が簡単に取れる」といった判断がCに該当するのかという問題がある。
既に述べたとおり、Cは、「消費者の財産上の利得に影響するものであって・・・」と解釈されていることから、直接的には該当しないものと考えられるが、広く捉えれば資格取得は「財産上の利得」であると言えなくもない。この点については裁判例の蓄積を待つ他ないのかもしれない。
3.電話勧誘販売の問題点・法改正
既に述べたとおり、「資格講座」の販売購入形態としては、90%以上が電話勧誘販売によるものである。
具体的には、各種の名簿などの個人情報を用いて、消費者の自宅や勤務先に電話をかけ、長時間あるいは複数回にわたる執拗な勧誘を行い、消費者の曖昧な回答や態度を捉えて契約の成立を強弁し、契約書等への署名捺印を強要する、というものである。
一方、電話勧誘販売については、「資格講座」に限らず、平成8年に行なわれた訪問販売法の改正により、新たに同法の適用対象に加えられていることに注意されたい。
この改正により、@業者はクーリングオフを明記した書面を消費者に交付しなければならなくなり、書面の交付を受けた日から8日間はクーリングオフが可能となり(受領した書面にクーリングオフについての明示がなければいつでも解約が可能であることに注意)、A勧誘時において、業者はその氏名・商品・役務の種類等の明示をしなければならなくなり、B契約の締結をしない旨の意思表示をした者に対して、さらに勧誘をすることを禁じるなどの新しい規制が置かれた。
しかしながら、「行政取締法規」と解釈されているこれら訪問販売法の規定に違反する行為がなされたとしても、そのことだけでは、その違反行為によって形成された契約等の私法上の法律関係の効力は否定されず、また、不法行為の問題としても、「行政取締法規」に違反しているということだけで不法行為が成立するわけではないというのが従来の学説・判例であることから、依然として問題は残る。
ところが、こうした従来の見解に対して、「行政取締法規」であっても、特に消費者保護法令の場合には、規制目的が直接消費者の権利利益の保護を目的とするものに変化していることを根拠に、消費者保護法令違反の法律行為は無効とすべきとしたり、消費者の基本権を事業者の侵害から保護することを目的とするものである場合には、その違反行為は不法行為の前提となる作為義務違反があったものとされる、といったような見解(長尾治助教授「消費者取引と公序良俗則」「消費者私法の原理」、大村敦志教授「取引と公序−法令違反行為効力論の再検討」、石田穣教授「民法総則」、山本敬三教授「取引関係における公的規制と私法の役割−取締法規論の再検討」など)が有力になっているようであることから、我々としてはこうした観点から、新たな判例作りに果敢に挑んでいくべきであろう。
4.中途解約における問題点
一方、「資格講座」に関する主たる相談内容には虚偽の説明や二次被害、強引な勧誘の他、中途解約に関するものがあげられている。
平成11年10月22日に施行された改正訪問販売法によれば、外国語会話教室、エステティックサロン、学習塾、家庭教師派遣の4種類の特定継続的役務提供契約に限っては、消費者はクーリングオフ期間経過後も、その契約期間中いつでも理由の如何を問わず中途解約できることされた(訪問販売法17条の10)。
そして、中途解約をした場合には、消費者は事業者に対して、既に提供された役務の対価分と法令で定める一定額以内の損害賠償金を支払う必要があるが、事業者が既にこの額を超えた金額を受領している場合には、超過部分を速やかに返還しなければならない旨も明文化されている。 また、この法令で定める損害賠償金であるが、政令により業種ごとにその上限が定められることにもなっている。
さらに、改正法施行後の契約であれば、事業者に書面の交付が義務付けられており、その中に中途解約に関する事項として、精算の方法も記載することとなっていることから、トラブルが生じた場合にも解決が容易になっている。
しかし、訪問販売等に関する法律施行令12条により、訪問販売法によって特定継続的役務とされているのは、上記4種類に限定されているため、「資格講座」には適用がないのが原則である。
だが一方において、「資格講座」についても、知識や技術などの教授を債務内容とする部分については、準委任契約の性質を持つものと考えられるから、原則として中途解約はいつでも可能ということになろう。
しかしながら、教材の販売部分に関しては、問題が残る。単なる商品の売買と捉えれば、その商品が引き渡されないとか、商品の内容が違うなどの何らかの契約違反がなければ契約解除ができないのが原則だからである。
「資格講座」の中には、両方がミックスされたものが多いものと考えられるが、知識や技術などの教授部分が中心であれば、中途解約は可能、教材の販売が契約の中心であれば、解約は不可ということになるものと考えられる。
問題は、「中途解約禁止の特約」のある場合であるが、この場合においても、転居や長期の病気などの正当な理由に基づく場合には解約は可能であると考えられるし、そうでない場合でも、法10条により当該特約は無効と判断される可能性も十分考えられることに注意しておきたい。 (平成12年11月)