| 小規模個人再生による個人事業主再建の可能性と問題点 |
言うまでもなく、小規模個人再生は、今般の改正民事再生法の一つの大きな柱である。
法221条によれば、個人債務者のうち、「将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがある者」がその利用対象者となっている。
具体的には、給与所得者はもちろん、アルバイトやパートタイマー、農業従事者、漁業従事者なども含まれるが、もっとも典型的な例としては、個人事業主である自営業者が想定されよう。
そこで、本稿では、極めて小規模な個人事業主に限定して、小規模個人再生による再建の可能性と問題点を検証することにする。
1.再建の可能性
そもそも、依頼人である個人事業主の再建の見込みはあるのか。
@毎月一定程度の利益があがっている場合、A毎月ではなくとも、2、3ヶ月単位でみれば安定した収入を得ている、あるいは、B数ヶ月後には確実に新規の取引が確保できている・・・などというような場合は問題はないであろうが、@利益が出ていなかったり、A赤字の月がほとんどであるようなケースでは、「将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがある者」とは言えないであろう。
確かに、個人事業主にとってその事業は自分の息子のような存在であり、自己破産は容易には容認できない手続きである。
しかしながら、客観的に再建の見込みが無いと思われるものについても、無理矢理に小規模個人再生に乗せることは、手続き自体に対する社会的信頼を失うことに繋がるという点においても問題があると考えられる。
現実問題として、相談が持ちかけられた時点において、すでに如何ともしがたい状況の事業者が圧倒的多数であることを考えれば、法律実務家としては依然として頭の痛い問題ではある。 早期の手続関与を可能たらしめるためにも、民事再生法のより効果的なPRを心がけたい。
なお、小規模個人事業主特有の問題としては、日掛け業者に対する借入金債務の存在があげられる。特に飲食店経営者の場合、営業中の取立行為が考えられるので、より迅速な対応が求められる。
2.特定調停手続との比較
一方、平成12年2月から施行されている「特定債務等の調整の促進のための特定調停に関する法律」も、多重債務となった小規模個人事業主の再建に有効な手続となっている。
従来の債務弁済調停と比較して、@管轄外事件の自庁処理が容易になったこと、A手続中の強制執行を保証金なしで停止が可能となっていること、B調停委員の文書提出命令違背に対して過料制裁が加えられたことなど、申立人である債務者にとって非常に利用しやすくなっている。
現実に、静岡簡易裁判所においても、特定調停施行後には、業者の取引開示も相当行われているため、取引期間が長期にわたるものについては、債務不存在の決定も多数出されており、当職が関与した事件の中にも、債務総額350万円(大手消費者金融業者がほとんどで、10年程度の取引を重ねていた)程度の債務者が、1社のみ8万円の債務が残ったが、他はすべて債務不存在となったものもある。この他にも、少額の和解金(1000円から10000円程度)の支払いを条件にゼロ決定に応じる業者も少なくない(取引期間が長期間に及んでいることが大前提であるが)。
確かに、簡易裁判所、調停委員によってばらつきがあることは否定できないと思うが、取引期間が長期にわたっているものについては、特定調停の利用も視野に入れておきたい。
一方、特定調停の個人債務者再生手続と比較したデメリットは、元本部分までのカットは困難であることになろう。したがって、取り引きしてから1、2年程度しか経過していない業者については、それほど大きな債務圧縮は期待できない。(この点につき、沖縄県の宮里司法書士が試みた調停は特筆に値するのではないだろうか。それは、個人債務者再生手続の申立を睨み、債権額の4分の1程度の3年間の分割払いを趣旨とする調停の申立である。多くの業者が強硬に反対したようであるが、一部の業者のは同意の姿勢を見せたようである。)
また、相手方の業者が、強硬な姿勢を崩さない場合、最終的には訴訟手続を利用しなければならず、債務者にとっての負担は大きいものとなってしまうことにも注意したい。
3.小規模個人再生手続における取引先の債権の法的地位
(1)問題の所在と再生手続開始前の原因に基づいて生じた債務
言うまでもなく、事業主の場合、債権者として、いわゆる消費者金融業者や銀行などの金融機関の他に、事業上の取引先が多く登場することとなる。
当然のことながら、法的には、金融機関に対する借入金についても、取引先に対する買掛金債務についても、「再生手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権」であれば、再生債権として同じ取り扱いを受ける。
したがって、再生計画によらない弁済は禁止され、弁済額も再生計画の認可確定により一般的基準による権利の変更を受けることとなる。
ところで、小規模個人再生の対象者となる個人事業主は、債権総額が3000万円以下という要件があることから、その事業規模は極めて小さいものが想定され、具体的には、飲食店や土木関係の孫請け業者、各種商品の小売店が考えられる。
したがって、それらの多くは、その運転資金を銀行や信用金庫からの借入に頼ることなく(したがって、手形小切手の利用もなく)、事業を継続できる程度の規模であり、小規模個人再生手続きの申し立てによって銀行からの融資が受けられなくなるという点について検討する必要性は少ないものと思われる。
しかしながら、小規模個人再生手続きの申し立てによって、主要な取引先からの仕事の受注が無くなるということになれば、その生命線は絶たれるわけであるから、申し立て自体が無意味なものになってしまう。(飲食店経営者の場合には、この点についてはあまり心配はないものと考えられる。)
そこで、一般再生債権となる取引先に対する買掛金債務が権利の変更を受けるという法的事実をどう理解してもらうか・・・という大きな問題が残るのである。
通常の民事再生手続においては、再生計画によって認められた債権についての債権者表の記載には執行力が付与されている点において、まだ理解してもらいやすいと考えられるが、小規模個人再生にはこれも無い。
結局は、各取引先に対して、真摯な態度と客観的な材料をもとに、窮状及び今後の資金繰りや売上げについて説明をしたうえで、「この手続が債権者の不同意により不認可となれば、自己破産を選択せざるを得ず、その場合には、同時廃止の可能性が強く、そうでなくとも配当は限りなくゼロに近い。そうなれば債権者にとっても何らのメリットもないわけであるから、是非協力していただきたい。再生計画案どおりの弁済ができなくなった場合には、再生計画の取り消しを申し立てる権利もあるので、それを行使することも可能である・・・」などといった内容の書面を送付し、個別に理解を求めるなどの臨機応変な対応が求められることになろうか・・・
(2)手続開始後の再生債務者の業務に関する費用の請求権(法119条2号)
一方、手続開始後に生じた買掛金債務については、その取り扱いはまったく異なる。
再生債務者の事業の再生を図るには不可欠な費用であるという理由から、再生債務者の業務に関する費用の請求権については共益債権であるとされ(法119条2号)、再生手続によらないで随時の弁済が可能となっている(法121条1項)。
したがって、この点については、取引先に正確な理解をしてもらい、手続に協力してもらうべく努力をするべきであろう。
(3)継続的な給付を目的とする取引についての特例(法50条)
ところで、法50条は、継続的給付を目的とする双務契約について、契約当事者双方の利害を調節する特則を定めており、小規模個人再生によっても適用除外とはなっていない。
@法の趣旨
典型的なものとしては、電気・ガス・水道等の給付契約があげられようが、継続的な製作物供給契約や継続的な運送・清掃などの請負契約も含まれる。
そして、これらの契約の中には、契約関係の存続自体が再生債務者の事業の維持に不可欠の前提となるものが多いという事実、また、前期の代金不払いを理由とする今期の供給停止という、他の双務契約にはない新たな問題が生じることとなり、これを放置しておけば、それだけで事業の維持・再生が頓挫しかねない。
そこで置かれた規定が本条である。
A何が継続的な取引に該当するか。
継続的給付を目的とする双務契約、つまり、継続的供給契約は、「当事者の一方が反復的に物やサービスの供給をし、他方が、給付ごとあるいは期間を定めてその期間内になされた給付を一括して代金・料金の支払義務を負う契約」と定義される。
前述したとおり、電気・ガスなどの供給契約がその典型であると考えられるが、決まった仕入れ先からの原材料などの仕入供給契約も含まれる。
取引の基本事項を基本契約書などで定めていれば明らかに該当するものと思われるが、そうでなくとも、一定の取り決めのもとで継続的に取引がなされていれば、継続的供給契約の成立は認められるものと考えられる。
ただし、雇用契約はその性質上該当しないこととされている(法50条3項)。
B内容
上記の継続的給付契約に該当するものについては、@申立前の給付に係る再生債権についての弁済がないことを理由に、手続開始後の給付を拒むことができず、A申立後、開始決定前に給付した対価についても共益債権となることとしている。
Aについては、本来であれば、法120条1項に規定された裁判所の許可を得なければ共益債権化せず再生債権となるところ、特別に置かれたものであることに注意したい。
したがって、継続的給付契約の取引先は、債務者が再生手続の申立をした後に給付した対価については、再生計画によらず、随時弁済を受けることができるのである。この点についても、申立前に理解を求めておきたい。
Cリース物件について
ところで、個人事業主は、事業に必要な様々な物品をリースしている場合が多い。そして、それらのリース物件が、小規模個人再生の申立によって引き揚げられることになったとしたら、事実上、事業継続が困難になるケースは多いと考えられる。
すなわち、第一に、小規模個人再生の申立があった場合に、特約(多くのリース契約では、ユーザーの民事再生申立などの一定の事由が解除事由となっていると思われる)に基づいて、リース契約を解除のうえ、リース物件を引き揚げることが可能であるか否か、という問題がある。
会社更生手続においては、上記のような特約はリース契約において、無効とされ、リース会社は契約を解除できない、というのが実務の取扱のようであるが(最三判昭和57・3・30参照)、その射程範囲は民事再生手続には及ばない、つまり、民事再生の申立があった場合、リース会社は、リース契約を解除のうえ、リース物件を引き揚げることは可能であるというのが一般的な見方であると思われる(銀行法務21 7月号「民事再生手続におけるリース取引の処遇」市川充弁護士)。
次にリース料の処遇はどうなるのか・・・という問題がある。
会社更生手続においては、平成7年4月14日の最高裁の判決により、会社更生法103条の適用はなく、共益債権とはならない旨の判断がくだっている。
つまり、フルペイアウト方式のファイナンスリース契約の実質は、リース会社がユーザーに対して金融上の便宜を付与したものであり、リース料債務は契約の成立時に全額について発生しており、リース料の支払いが毎月一定額になっていたとしても、それは期限の利益を付与したものにすぎず、各月のリース料の支払いとリース物件の使用は対価関係に立つものではない、したがって、前記方式のファイナンスリース契約については、会社更生法103条の適用はなく、リース料債権は共益債権とならない、更生債権である、としているのである。
一方、民事再生法49条には、会社更生法103条と同様の規定が置かれているため、上記と同様、共益債権にはならない、という考え方も根強いようである。
ただ、東京地裁の取り扱いは、会社更生手続におけるリース契約の対応とは180度方向転換しているようであり(再生債務者の支払禁止の保全処分において、リース料をその対象外としている)、はっきりとした結論は出ていないようである(銀行法務21 2000/9月増刊号「民事再生手続とリース契約」リコーリース竃@務部 小森洋一)。
結局は、個々の事例に応じて処理をしていくのであろうが、小規模個人再生の申立対象者となる個人事業主が締結しているリース契約の多くは、「再生債務者の事業所の備品(電話機・ファックス・コピー機・パソコンなどの再生債務者が日常業務のために備え付けている事務機器)のリース料」であることを考えれば、開始決定後のリース料については、共益債権として取り扱われて然るべきだと思われる(金融法務事情1597「会社更生・民事再生手続におけるリース料債権の処遇」センチュリー・リーシング・システム法務室長 土屋信輝)。
つまり、これらは、事業を継続するうえで一般的に必要な経費と考えられるからである。
(4)法85条2項の利用
法は85条2項において、再生債務者(本稿における個人事業主)を主要な取引先とする中小企業者が再生債務者に対して有する債権で、その弁済をしなければその取引先の中小企業者が事業の継続に著しい支障を来すおそれがある場合には、裁判所は、再生債務者と当該中小企業者との取引状況や再生債務者の資産状況等の事情を考慮して、再生債務者の申し立て又は職権により、全部又は一部の弁済を許可することができる、としている。
この規定により、早期の弁済が可能になったとしても、権利の変更がなされている点については変わりがないので、取引先にとって不満が残るのは当然であるが、ケースによっては利用を考えておくべき規定であることには間違いない。
3.従業員の労働債権の法的地位
この手続を利用する小規模個人事業主は、その多くが家内工業的な同族事業者であると考えられるため、従業員の持つ労働債権について考える必要は少ないが、労働債権については、一般の優先権があるので「一般優先債権」として、随時弁済が可能であることを確認しておく。
4.消極的同意が得られるのか。
施行後わずか数ヶ月という状況であり、依然として、消費者金融業者の対応が読めないため、小規模個人再生の選択には一定のリスクがあることは否定できない。
小規模個人事業主の場合、債権総額の半分以上を消費者金融業者や日掛業者が占めることが多く、そうした業者の対応には注意していかなければならない。清算価値保障の原則が働き、自己破産を選択した場合に比較して、受領する金員は多いのであるから、よほどの理由がない限り積極的に反対してくる業者は少ないと思われるが、業者ごとの対応を専門家のネットワークを利用して蓄積していくべきだと思われる。(平成13年7月)