第6回司法書士クレサラシンポジウム報告 〜「住宅資金貸付債権に関する特則」に関するパネルディスカッションを中心に〜

  
 平成13年10月13日(土)、14日(日)、日本司法書士会連合会が主催する「第6回司法書士クレサラシンポジウム」が東京で開催されました。
 このシンポジウムは、6年前より、クレサラ問題に積極的に関与してきた司法書士の有志が中心となって実施されてきたもので、その時々に問題となっているテーマ(これまでの例で言えば「商工ローン」「特定調停」「民事再生」など)を中心に、実践的な最先端の実務に関する分科会を複数行うことによって、実務家である司法書士のノウハウの共有にも役立ってきたものです。
 第6回目となる、今回、基調講演には、「破産法改正に向けて」という演題で、東京都立大学の中島弘雅教授に法制審議会における議論も踏まえたお話をしていただき、その後の分科会では、「破産手続」「個人再生手続」「貸金業の規制等に関する法律43条」「特定調停」と4つのテーマで実務に関する実践的な情報を交換しあいました。
 そして、翌日のパネルディスカッションでは、東京地裁の園尾隆司裁判官、全銀協業務部調査役の阿部耕一さん(司法書士のための法律誌「市民と法」10号に「住宅資金特別条項と銀行実務」という論文を寄稿していただいています)、住宅金融公庫債権管理部管理企画課長の安田雄一郎さん、中島弘雅教授という豪華キャストを迎えて、住宅資金貸付債権に関する特則について実務上問題となっている点について議論をいたしました。もちろん今回のシンポジウムのメインは、このパネルディスカッションです。

 現在、住宅資金貸付債権に関する特則を利用した個人再生事件の申し立てが全国で行われていますが、まだまだ利用者や利用者を支援する立場の法律職、また、住宅ローン債権者である金融機関の担当者ら、さらには、裁判所も含めて、法が施行されてから十分な日数が経過していないことも相俟って、運用がスムースに行われているとは言い難い状況にあります。
 そこで、いくつかの全国的に共通した問題となっている点について、裁判所の考え方、また全銀協、住宅金融公庫の考え方を開陳していただき、研究者である学者の意見をお聞かせ頂くことによって、現場で利用者側に立つ私たち司法書士の実務の参考にさせていただこう、また、実務の現場ではどういう問題が浮上しているのかをそれぞれの立場から発言していただき、この手続きのスムースな運用について考えようという趣旨で実施されたものです。

 全銀協の阿部さんからは、通達を発布するに至った背景と通達の概要、また、全銀協として個人再生手続をどのように捉えているかを説明していただきました。規則に定められている「事前協議」を、私たち実務家と銀行の担当者とどのように進行させていくべきか、具体的な注意点にまで言及していただきました。
 私たち司法書士には、弁護士に認められているいわゆる「受任通知」(金融庁の事務ガイドラインにより、弁護士が受任した旨の通知を受領した場合には貸金業者は正当な理由なく請求することができない、とされているもの)が認められていないため、既に貸金業者の取立行為が開始されている場合には、裁判所への申し立てを急がざるを得ず、その反面、申し立て前の事前協議が不十分なものとなってしまう・・・という問題があります。
 この点については、まずは利用者を支援する私たち司法書士がこの法の趣旨を十分理解したうえで迅速かつ適切な対応をするとともに、今後の実務を通して、司法書士が本人支援をしている場合の運用(全銀協の通達は弁護士による代理人申立を前提としているので)を確立させていく努力をしていかなければならないと感じました。
 もちろん、そのためには、住宅ローン債権者の皆様とのより良い深い信頼関係を構築すべく努力を怠ってはならないことは言うまでもありません。

 住宅金融公庫の安田さんからは、住宅ローン債権者として最も当該特則の対象者となりうる住宅金融公庫としての準備状況と、個人再生手続をどのようにとらえているかを話していただきました。
 また、いわゆる返済方法に関する「新特例」についての詳細な説明もいただきました。
 実際に、私の地元「静岡県」で申し立てられている事案についても、住宅ローン債権者は半分以上が住宅金融公庫でありますから、住宅金融公庫の今後の対応は利用者に大きな影響を与えることになります。継続的な意見交換の必要性を感じました。

 また、既にいろいろなところで議論となっている、開始決定後の住宅ローンの弁済の可否については、園尾裁判官から、基本的な考え方から裁判所の立場まで具体的にお話し頂きましたが、最終的には法改正による解決を図るべきであろうとの結論に至りました。
(多くの銀行は、民事再生手続き申立を期限の利益喪失事由としていますが、遅延損害金の計算を住宅ローン債権の残額全体に対して行った場合、残額が数千万あり、申立から計画の認可までに数ヶ月を要すれば、当該期間中の遅延損害金だけで数百万に達してしまいます。一方、民事再生法では、85条により再生計画によらない弁済は原則として禁止されていることから、手続き中に弁済を受けることを条件に遅延損害金の計算対象元本を軽減するという救済策もとりづらい状況にあるという問題です。)
 しかしながら、最終的には法改正による解決を求めるにしても、それまでの期間に申し立てられた事案についての対応策を考える必要があります。
 この点については、全銀協より平成13年9月28日に新たに出された「個人債務者の民事再生手続における運用上の問題点とその対応」という通達が出されており、阿部さんから、この通達に関する説明をいただきました。
 それによりますと、対応策は以下のとおりです。

@遅延損害金の計算について、住宅ローン債権の残元本全額により計算するのではなく、弁済期限が到来する約定返済分の元本部分対する遅延損害金を計算する取り扱いとする(この運用により遂行可能性のある再生計画が策定できる見込みがあることが前提)。
Aの1 第三者が自己資金により弁済したいと申し出してきたときは、債務者の同意を得た上で当該第三者の代位権放棄を条件として当該弁済を受ける。
Aの2 保証人から保証債務の履行を受ける(債権者との間では、当該保証人が代位権を行使しない旨、保証会社には求償権を行使しない旨の特約をとる)。

 ところで、全国の司法書士が申立に関与している事案では、ケースバイケースのようでありますが、私のケースでは、@の方法で対応してもらっているものがあります。これにより、払うべき遅延損害金の金額はぐっと減り、利用者の再生の可能性が大きくなります。

 その他、いくつかの細かい実務上の問題の取扱いについての議論がなされましたが、誌面の都合上、すべてを記すことはできませんので、ご容赦頂きたいと思います。
 ところで、日本司法書士会連合会では、本年4月の施行日以前より、この手続きの一番の担い手となるべく、自己研鑽はもちろんのこと、立法者や最高裁との協議や制度PRを兼ねた活動を積極的に行って参りました。
 現在、施行から半年程度を経過したわけですが、当初予想していた問題、予想できなかった問題がいくつか出てきていることが、今般のパネルディスカッションで確認されました。
 この制度は住宅ローンを抱え、何らかの原因でその返済に窮することとなった国民が、破産により住宅を手放すことなく経済的な再生を図ることを目的としています。
 そして、この制度趣旨の実現のためには、住宅ローン債権者である金融機関、裁判所、利用者を支援する立場である私たち司法書士、この3者間の良好な協力関係が不可欠であろうと思われます。
 今後も日常業務などを通じて、3者間の信頼関係が揺るぎないものになるよう努力をしていきたいと考えています。  (平成13年11月)




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