商業登記簿で「危ない取引先」を見分ける法 

  
 1.商業登記簿の種類
 商業登記には、株式会社、有限会社、合名会社、合資会社の4種類の会社の登記の他、商号登記簿、未成年者登記簿、後見人登記簿などがあります。
 しかし、取引先の調査にあたって必要な商業登記簿は、大半が株式会社と有限会社の登記簿であると思われますので、本稿では、特に株式会社の会社の登記簿に限定して説明することにします。
 商業登記簿は、バインダー式のファイルにアイウエオ順に綴じられていますが、法務局によっては各会社ごとに別々のファイルで管理されているところもあります。
 商業登記簿も不動産登記簿と同様にコンピュータ化の波が押し寄せており、全国で登記簿のコンピュータ入力作業が進められています。
 コンピュータ化されたデータは記憶装置の中に記録されることになりますが、この場合も法律上は「登記簿」といいますので、本稿においても「登記簿」と呼ぶことにします。

2.商業登記簿謄本はこうして手に入れる
 商業登記簿を調査しようとする場合、まず、その商業登記簿を保管している法務局を調べなければいけません。各法務局の管轄地域は必ずしも市町村などの行政区画とは一致しておらず、また、不動産の管轄地域とも異なる場合がありますので、注意してください。最寄りの法務局に電話等で確認すればよいでしょう。
 商業登記簿を調べようとする場合、登記簿のある法務局に行って調査する方法の他、郵便で証明書を取り寄せる方法があります。また、インターネットでも調べることができるようになっているところもあります。  ただし、商号、本店所在地がはっきりしていない会社を調査する場合は、商号見出簿と対照しながら調査する必要性も考えられますから法務局に出かけて調べた方がいいでしょう。
 また、会社の過去の履歴を調査するために閉鎖された登記簿を調査する場合には、閉鎖された日を特定しながら調査していく必要があるため、時間に余裕の無い場合を除いて法務局に出かけて調査した方がいいかもしれません。
 これに対し、商号・本店所在地が明確に特定でき、また、閉鎖登記簿を請求する場合に閉鎖日が特定できる場合には、登記簿謄本や登記事項証明書の郵便での取り寄せで足りるでしょう。

3.バインダー式登記簿の調べ方
 バインダー式登記簿(法務局によっては会社ごとに別々のファイルになっています)を調べる方法としては、登記簿の原本そのものを見せてもらう「閲覧」という方法と、登記簿原本のコピーである「登記簿謄本」または「登記簿抄本」を取得する方法があります。
 閲覧は、手数料が1つの会社について500円であるのに対し、登記簿謄本、登記簿抄本、閉鎖登記簿抄本は1つの会社について1,000円です。しかし、閲覧の場合には調査した内容を自分でメモ等しなければならないため、手間がかかるうえに書き間違いをする可能性もあります。
 登記簿謄本または登記簿抄本の場合には、手数料は割高ですが、登記簿原本のコピーですから書き間違いがなく、しかも、登記官が原本の写しに間違いがないという証明印を捺印してくれますので、公の証明書として使用することができます。
 ですから、費用と調査目的によって閲覧をするのか、登記簿謄本または抄本を取得するのか判断すればよいでしょう。
 登記簿の原本を閲覧するためには、法務局に備え付けの「閲覧申請書」に必要事項を記入して申請をします。閲覧申請書には、申請人の住所、氏名(会社の仕事で閲覧をするとしても、申請人としては個人の住所、氏名を記載すれば結構です)、閲覧したい会社名と本店所在地(または支店所在地)を記載し、登記簿を閲覧したい旨チェックをします。
 閲覧申請書を提出すると、法務局の職員が閲覧したい会社の登記簿が綴じてあるバインダーまたはファイルを用意してくれ、申請人の名前を呼んでくれます。名前を呼ばれたら用意されたバインダーやファイルを受け取り、閲覧席に着席して閲覧を行います。
 登記簿謄本とは、ある会社の現在の登記簿全部のコピーをとったものをいい、登記簿抄本とは、一部のコピーをとったものをいいます。また、閉鎖登記簿抄本とは、既に閉鎖されている登記簿の用紙のコピーをとったものです。
 登記簿謄本または抄本を請求するには、「登記簿謄抄本申請書」に所定の事項を記入して申請します。申請書の記載の仕方は閲覧申請書とほぼ同じですが、登記簿謄本を請求する場合には「謄本(全部)」の項目にチェックします。
 登記簿謄本・抄本は、早い時には数分で発行されますが、混雑している時には1時間近くかかることも稀ではありません。また、閉鎖登記簿抄本は現在の登記簿とは別の方法で管理されていますので、登記簿謄本が交付される時間よりも時間がかかります。
 混雑している場合や閉鎖登記簿抄本を請求する場合には、待時間を確認しておくべきでしょう。

4.コンピュータ化した登記簿の調べ方
 コンピュータ化した登記簿の登記情報は磁気ディスクに記録されていますので、直接目で見て登記情報を調べることはできません。そこで、バインダー式登記簿の閲覧に相当するものとして「登記事項要約書」の発行を請求することができます。
 しかし、登記事項要約書は、現在効力がある登記事項しか印字されず、また、株式・資本区、目的区、役員区、支店区などのうち、3区以内しか請求することができません。会社の存在を確認するだけの調査であれば登記事項要約書でも十分ですが、新規取引先の調査のように会社の成り立ちから調査すべき場合には、登記事項要約書ではほとんど役に立ちません。

 一方、バインダー式登記簿の謄本・抄本に相当するものとして、登記事項証明書の発行を請求することができますが、登記事項証明書には、現在事項証明書、履歴事項証明書、閉鎖事項証明書、代表者事項証明書の4種類がありますので注意が必要です。以下、その特徴を説明します。

@現在事項証明書
 現在事項証明書は、現在効力のある登記事項、役員の就任の日付と商号・本店の直前の変更について証明するものです。現在事項証明書は、現在の状態を把握するためには登記事項要約書よりも有効ですが、商号と本店を除いて過去の履歴がわからない点では、信用調査には不向きと言えます。

A履歴事項証明書
 履歴事項証明書は、現在事項証明書の内容に加えて、3年前の1月1日以降に抹消された事項について証明するものです。登記事項要約書や他の証明書に比べもっとも多くの情報が盛り込まれた証明書ですから、信用調査の点から言えばとにもかくにも履歴事項証明書を取得するのが鉄則と言えます。

B閉鎖事項証明書
 他の法務局の管轄地域に移転したり、清算結了や合併に伴う解散などにより登記簿自体が閉鎖されている場合と、履歴事項証明書では証明されない、3年前の1月1日より前に抹消された事項について証明するものです。信用調査にあたっては、履歴事項証明書に次いで重要な証明書と言えるでしょう。

C代表者事項証明書
 会社の代表者についての証明書です。信用調査の点からは、ほとんど必要性のない証明書と言えます。

 このように、コンピュータ化した登記簿の場合は、まず履歴事項証明を取得し、必要に応じて閉鎖事項証明書を調査し、コンピュータ化以前の情報が必要な場合にはコンピュータ化により閉鎖されたバインダー式登記簿の閉鎖登記簿謄本を調査するという具合に調査することになります。

5.こんな商業登記簿には注意!
 次に、実際の事例で、注意点を見ていくことにしましょう。

@あらゆる項目が同時期に変更されている!
 まず信用調査の大前提として、「株式会社経理ウーマン」の履歴事項全部証明書を取り寄せてみましょう。それをチェックしたところ、最後の「登記記録に関する事項」のところの記載によって、平成13年7月30日に他の法務局の管轄内から移転してきた会社であることが判明しました(図1)。
 そこで、本店移転前の閉鎖事項全部証明書を取り寄せたところ、平成11年7月14日にバインダー式登記簿からコンピューター化されたという事実が判明しています(図2)。
 この時点において、商号や営業目的、役員構成など、本店移転後と変化が見られなかったとしても、平成13年度に行われた役員変更の登記原因が重任ではなく、就任となっているところに注意してください。なぜなら、この記載は、その改選前の役員構成が改選後と大きく異なっている可能性を含んでいるからです(重任というのは、時間を空けず、前任者が再任した場合ですが、就任は、新規就任です)。
 また、それ以外に重要な変更がされていたとしても、コンピューター化以前の変更については情報として記載されてきませんから、このような場合は、コンピューター化される前のバインダー式の閉鎖された登記簿謄本を取り寄せてみることが重要になります。

 そこで取り寄せたのが、図3の閉鎖登記簿謄本ですが、コンピューター化される直前の平成11年6月30日に社名及び営業目的を変更していることが明かになりました。
(なお、この閉鎖登記簿謄本の「商号・資本欄」の「登記用紙を起こした事由及び年月日」の記載が、本件のように「設立」ではなく、「年月日○○より本店移転」となっていたら、さらに閉鎖登記簿の閉鎖登記簿謄本を取り寄せる必要があること注意。)
 また、この閉鎖登記簿謄本の役員欄の記載は、コンピューター化に伴って移記された役員構成と同じですが、一番下に、現在の役員が就任した平成11年7月8日に9丁(役員欄の9枚目という意味)が除去されたという記載があることに注意してください。
 そして、このバインダー式登記簿の役員欄の除去は、新たに役員全員の改選が行われるごとに行われるものだということも覚えておいてください。つまり、この閉鎖登記簿謄本の役員欄の記載から、元株式会社休眠の役員は、平成11年7月8日に全員の改選が行われたと読めるのです。
 したがって、このような場合においては、平成11年7月8日に除去され閉鎖された役員欄9丁について調査する必要が出てきます。そこで、取り寄せた閉鎖役員欄が次にあげた図4です。
 これによると、平成11年7月8日の変更登記以前は、まったく違う役員構成であったことが明かになります。なお、同日に行われた営業目的の変更についても、役員欄とまったく同様の考え方によって閉鎖目的欄を取り寄せてみてください。
 本件では、図4において、役員全員の改選と同時に、営業目的に「日用品雑貨の販売」「食料品の販売」「家庭用電気器具の販売」を加えたという事実が確認できます。
 これらの情報を客観的に判断すれば、この「経理ウーマン」には、危険な臭いがぷんぷんと感じられることがお分かりだと思います。   

A再建手続中の会社の登記はこうなる。
 近年、会社の倒産が急激に増加していますが、そのような会社と知らずに取引をしてしまうことのないよう、商業登記簿から倒産会社をチェックする方法を説明します。
 ただし、一口に倒産と言いましても、現行の法律上は、破産、民事再生、会社更生、会社整理、特別清算などといったいろいろな種類があり、それぞれ異なっているうえ、そうした法的手続を利用しない私的整理を行う会社も多いのが現状ですから注意が必要です。
 法的手続を取らない会社については、倒産を公示する手段もなく、登記簿にも反映されませんが、ここでは、破産などの法的手続を取った会社の登記簿の記載を中心に述べてみたいと思います。
 このような会社との取引は、非常にリスキーであることは言うまでもないでしょう。

(破産)
 破産は、倒産を代表する手続であり、破産会社のすべての資産を換金し、これを全負債の配当に充てることを目的とした清算手続です。
 近年、この手続を選択する会社及び個人が激増していることは周知の事実となりましたが、会社が破産手続に入った場合、取引の安全を保障するために、商業登記簿に公示することとなっています。
 ただし、商業登記簿に記載される事項は、「会社状態区」(バインダー式の場合は「その他の事項欄」)に破産宣告をした裁判所名と宣告した年月日と時刻だけにすぎません。破産管財人の表示はありません。
 また、この破産宣告の登記がされましても、取締役及び代表取締役の登記は当然には朱抹されません。しかしながら、破産宣告を受けた会社の役員は、当然に財産の管理処分権を喪失することになりますから注意が必要です。

(民事再生)
 民事再生は、近時大手百貨店が申し立てを行ったことにより有名になりましたが、経済的に窮境にある法人や個人について、その債権者の多数の同意を得、かつ、裁判所の認可を受けた再生計画を定めることにより、申し立てた法人や個人とその債権者との間の民事上の権利関係を調整し、申し立てた法人や個人の事業又は経済生活の再生を図ることを目的としています。
 平成12年4月から出来た法律ですが、従来「ざる法」と批判されてきた和議に代わるものとして、既に中小企業等の再建型倒産手続きの中心的な手続となっています。
 この民事再生の手続開始決定がなされますと、その旨が商業登記簿の「会社状態区」(バインダー式の場合は「その他の事項欄」)に記載されることとなります。
 また、現在のところ、民事再生手続では必ず監督委員が選任されており、その場合、役員区には、監督委員の氏名住所及び監督委員の同意を得なければできない行為の登記がなされます(図5参照)。

(会社更生)
 会社更生は、大規模会社の継続を目的とし、再建型の中でも最も厳格な手続であります。
 経営者が入れ替わり、更生管財人が管理処分権を持ち、従前の経営者は責任を追及されることとなります。(更生計画の遂行に基づいて、役員全員が更迭されるケースもありますが、このような場合は登記簿に反映されます。)
 更生手続が開始されると、破産や和議と同様、「会社状態区」にその旨の登記がなされることになります。そして、役員区には、更生管財人の登記がなされます。
 また、この更生手続開始に先立ち、保全管理人の選任や監督員の選任などに関する登記がなされることもあります。  

(特別清算)
 清算中の株式会社につき、清算の遂行に著しい支障が生じるケースがありますが、こうした場合において、破産のような厳格な手続をとることなく、ある程度裁判所の監督を強化することによって、手続の公正をはかって清算手続を遂行させようとする、いわば破産と通常の清算との中間的な制度と言えましょう。
 この特別清算の開始も、これまでの手続と同様、「会社状態区」にその旨の登記がされることになります。
 また、場合によっては、従前の清算人が解任され、裁判所によって新しい清算人が選任されることになりますが、この場合には役員区に登記がなされることになります。

(会社整理)
 中小規模の株式会社の倒産において、会社が経営者の交替や資本の導入を望まないケースなどに利用される再建型の手続です。
 この整理手続の開始も、「会社状態区」にその旨の登記がなされます。
 また、会社更生の場合と同様、必要に応じて保全や監督の登記が役員区にもなされるケースがあります。

 以上、簡単にいわゆる倒産会社に関する登記事項について触れましたが、総じて言えることは、いずれの手続においても「会社状態区」の記載と「役員区」の記載にそれらの事項は公示されることになっていますから、その点について注意しておくことがポイントであるということです。(平成14年2月)





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