「個人版民事再生手続」がいよいよスタート!!
個人版民事再生手続が、いよいよ4月からスタートしました。
これは、ご承知のとおり、「そごう」で有名になった民事再生法の改正として位置づけられます。
民事再生法は、平成10年9月、当時の中村法務大臣の、倒産法改正の重要部分を前倒しすべきという指示により、中小企業等を主たる対象とする再建型倒産処理手続として平成12年4月に施行されました。
民事再生法は、法律構成上は、個人(非事業者を含む)、零細企業から各種法人、大企業まで幅広く門戸を広げ、破綻の前段階においても再生手続開始申立てができるようになり、再生手続開始前の財産保全制度も充実させました。
また、再生計画の可決の要件も、再生債権者数および議決権総額の2分の1以上で足りるものとし、再生債権者表の記載に確定判決と同一の効力を持たせるなど、履行確保も配慮され、全体として利用しやすく、柔軟な手続となりました。
そのような意味においては、従来の和議法の制度的欠陥が大きく改善されてはいますが、実際問題としては、小規模の負債を抱えた個人債務者が利用するには未だ重厚長大な手続であることは否めませんでした。
そこで、4月から施行された改正民事再生法は、「小規模個人再生に関する特則」「給与所得者等再生に関する特則」「住宅資金貸付債権に関する特則」等を定め、個人債務者が簡易に再建を図る規定を整備しました。
これにより、住宅ローンやその他負債を抱える個人債務者が、住宅ローンを支払いながらその他の負債を整理する途が開かれたのです。
この個人版民事再生法は、未だマスコミには大きく取り上げられていませんが、年間数万件の申立が予想され、金融実務や法律実務に与える影響は極めて大きなものであると予想されます。
私たち司法書士としても、この制度に深く関わっていくことは必至です。
「小規模個人再生に関する特則の概要」
小規模個人再生は、将来において継続的にまたは反復して収入を得る見込みがあり、かつ再生債権の総額が3000万円を超えない個人債務者が利用することができます。
したがって、この手続は、小規模な個人事業者が主体となると考えられます。
裁判所は、必要があるときは、開始決定と前後して個人再生委員による調査を命じることができ、再生債権の評価の申立てがあったときは必要的に命じることとなります。
個人再生委員は、再生債務者の財産および収入の状況の調査等、一定の権限が与えられますが、その給源としては、司法書士も予定されています。
また、再生債権については、再生手続開始申立て時に提出された債権者一覧表を中心に調査手続が進められ、争いある再生債権については裁判所が評価決定をすることになります。小規模個人再生には否認権の規定は適用されません。
再生計画で定める弁済期間は、再生計画認可の決定の確定の日から3年間でなければなりませんが、特別の事情のある場合には5年まで伸長することができます。
また、再生計画に基づく弁済の総額は、無異議債権および評価済債権の総額の5分の1または100万円のいずれか多い額を下回ってはなりませんが、無異議債権および評価済債権の総額が100万円を下回っているときはその同額を、無異議債権および評価済債権の総額の5分の1が300万円を超えるときは300万円を下回ってはなりません。
小規模個人再生における再生計画案の可決要件は、再生計画案に同意しない旨を書面で回答した議決権者が議決権者総数の半数に満たず、かつ、その議決権の数が議決権者の議決権の総額の2分の1を超えないことで足りるとされています(消極的同意)。
小規模個人再生においては、再生計画認可の決定の確定によって再生手続が終結します。ただし、再生計画認可の決定があった後、やむを得ない事由で再生計画を遂行することが著しく困難となったときは、再生計画で定められた債務の最終の期限から2年を超えない範囲で弁済期限を延長する手続も定められているほか、計画遂行が極めて困難となった場合には、変更された再生債権額の4分の3以上の弁済を終えているなどすれば、その余について免責をする手続も備えています(ハードシップ免責)。
「給与所得者等再生に関する特則の概要」
給与所得者等再生の多くは小規模個人再生の規定が準用されますが、小規模個人再生と大きな相違点は概ね次のとおりです。
給与所得者等再生を利用し得る債務者は、小規模個人再生を利用し得る債務者のうち、給与またはこれに類する定期的な収入を得る見込みがある者であって、かつ、その額の変動の幅が小さいと見込まれる者であります。したがって、給与所得者が主な主体となると考えられます。
提出された再生計画案について、裁判所は届出再生債権者の意見を聴いた後、再生計画認可の決定をする(同意不要)とされています。
再生計画で定める計画弁済総額は、原則として、再生計画案の提出前2年間の再生債務者の収入からこれに対する所得税、住民税および社会保険料に相当する金額を控除した額を2で除した金額から、再生債務者およびその扶養を受けるべき者の最低限度の生活を維持するために必要な1年分の費用の額を控除した額に2を乗じた額であることが必要です。
すなわち、手取収入から最低生活費を控除した額の概ね2年分の金額を3年(または5年内)で弁済を行う計画となります。
「小規模個人再生か給与所得者等再生か」
債務者が給与またはこれに類する定期的な収入を得る見込みがある者である場合には、給与所得者等再生を利用することができ、手続選択の1つのメルクマールとなります。
しかし、給与所得者等再生の申立要件を満たしていれば機械的に当該手続を選択するのではなく、債務者の実際の生活状況と予想される再生計画とを慎重に勘案し、あえて小規模個人再生を選択すべき場面も多いものと想定されるところです。
つまり、給与所得者等再生が再生債権者の同意を要せずに再生計画が認可されるのと引き換えに、再生計画期間内に弁済すべき債権額が機械的に算出されるのに対し、小規模個人再生では再生債務者の事業または生活を考慮して再生計画を立案できることと引き換えに再生債権者の消極的同意が認可の要件とされているからです。
そのため、実際の生活実態を考慮した場合、給与所得者等再生において機械的に算出された再生計画を遂行することが困難であるケースが想定され(子供が進学を控えていたり、家族の医療費が生活費を圧迫する、再生債権とは別に一般優先債権(滞納している社会保険料等)を並行して弁済しなければならないなど)、このような場合には再生債権者の消極的同意を得るというリスクを冒してでも小規模個人再生を選択することになるものと考えられます。
また、住宅資金特別条項を定める場合には一般の再生計画で定めた弁済と住宅資金特別条項で定めた弁済の双方を履行する必要があるので、この場合にも給与所得者等再生において機械的に定める再生計画では履行が不能となる蓋然性が高い場合も想定されます。
したがって、この場合にも、再生債権者の消極的同意が得られるのであれば小規模個人再生を選択すべきであろうと考えられます。
「住宅資金貸付債権に関する特則の概要」
住宅資金貸付債権とは、個人である再生債務者が所有し、自己の居住の用に供する建物の建設、購入、改良に必要な資金の貸付に係る分割払いの定めのある再生債権であって、当該債権または当該債権に係る債務の保証人の求償権を担保するための抵当権が当該住宅に設定されているものをいいます。
再生債権のうちに住宅資金貸付債権を含む再生計画においては、原則として、再生債権者の有する住宅資金貸付債権の全部または一部を変更する再生計画の条項(住宅資金特別条項)を定めることができます。
この場合、住宅資金貸付債権の保証会社が保証債務を履行した場合には、当該履行をした日から6カ月を経過する日までの間に再生手続開始の申立てがされた場合に限り、当該保証債務は初めから履行されなかったものとみなすことができ(巻戻し)、巻戻しされた債権について住宅資金特別条項を定めることができます。
住宅資金特別条項においては、再生計画認可の決定の確定時までに弁済期が到来する住宅資金貸付債権の元本(再生債務者が期限の利益を喪失しなかったとすれば弁済期が到来しないものを除く)、およびこれに対する再生計画認可の決定の確定後の住宅約定利息並びに再生計画認可の決定の確定時までに生じる住宅資金貸付債権の利息および不履行による損害賠償金全額を、住宅資金貸付債権以外の再生債権について再生計画で定める弁済期間内(当該期間が5年を超える場合は再生計画認可の決定の確定から5年)に支払うことになります。
また、再生計画認可の決定の確定時までに弁済期が到来しない住宅資金貸付債権の元本(再生債務者が期限の利益を喪失しなかったとすれば弁済期が到来しないものを含む)およびこれに対する再生計画認可の決定の確定後の住宅約定利息は、住宅資金貸付契約における債務の不履行がない場合についての弁済の時期および額に関する約定に従って支払うことになります。
しかし、住宅資金特別条項を定めた再生計画を遂行することが著しく困難である場合には、住宅資金特別条項において住宅資金貸付債権に係る債務の弁済期を住宅資金貸付契約において定められた最終の弁済期から後の日に定めたり、住宅資金貸付債権以外の再生債権について再生計画で定める弁済期間中は、住宅資金貸付債権の元本の一部の返済を猶予する計画を定めることができます(リスケジュール)。
さらに、住宅資金貸付債権の債権者の同意がある場合には、より柔軟なリスケジュールをすることも可能となっています。
住宅資金特別条項を定めた再生計画案が提出されたときは、裁判所は、住宅資金特別条項によって権利の変更を受ける者の意見を聴くこととなりますが、住宅資金特別条項によって権利の変更を受ける者および保証会社は、住宅資金貸付債権または住宅資金貸付債権に係る債務の保証に基づく求償権である再生債権については議決権を有しません。
住宅資金特別条項を定めた再生計画の認可の決定が確定したときは、住宅資金特別条項によって変更された後の権利は、当該住宅資金貸付債権を担保するために設定された抵当権や、再生債務者の連帯債務者、保証人等に対しても効力が及ぶことになります。