1.さらなる司法アクセス拡充のための多角的な法制度創設を求める会長声明(制度委員会)
(1)いわゆる訴訟費用の敗訴者負担法案が廃案に至ってから1年が経過しました。廃案にはなったものの、この法案がかかえていた問題は未だ解決をみておらず、当会としては、この点につき、より一層の司法アクセスを求めることを目的として、次のとおり、声明を発表し、内閣府・衆参両議院などに提出いたしました。
「声明の趣旨」
私たちは、市民の司法アクセス拡充のために、以下のとおり多角的な法制度の創設を求めます。
1 市民の司法アクセス拡充に資する「訴訟代理人報酬等訴訟費用の片面的敗訴者負担制度」を公益性のある行政訴訟・消費者団体訴訟等の分野から順次導入をすること。
加えて、訴訟上の合意による「両面的」敗訴者負担制度法案(いわゆる「合意論」)が、一年前に廃案になった経緯を踏まえて、私的合意による「両面的」敗訴者負担条項を私法上「無効」とすることを各種法令上明記すること。
2 市民が現状よりも司法サービスを利用し易く、安心して裁判を受けることができるようにするために、現行の法律扶助制度の利用可能な対象者の範囲を現状よりも大幅に拡大すること、及び法律扶助を受けた市民がその費用の償還免除が原則として受けられるようにすること。
3 損害保険会社等の関係機関の協力により、裁判所の利用促進に繋がる権利擁護(訴訟損害)保険制度を創設し、広く市民に普及すること
「声明の理由」
1「両面的」敗訴者負担制度導入法案(いわゆる「合意論」)の廃案に至った経緯
司法制度改革の基本理念であった「法の支配」が具現化するための必要条件である、「市民にとって、より利用しやすく、わかりやすく、頼りがいのある司法とするため」に、裁判には勝てるのに訴訟代理人の報酬を負担することが裁判の利用の妨げになっているという意見が一部にあったことから、司法制度改革推進本部内に置かれた司法アクセス検討会では、敗訴者負担制度の一般的導入を検討することになった。
この制度導入には、当初から市民団体や法律専門家団体等から敗訴者負担制度導入反対運動が大規模に展開され、司法アクセス検討会に影響を与えた。この制度を導入すると、司法アクセスを著しく萎縮させることになる分野が多く存在することが判明し、例外的に導入を留保することになる分野を設けることに議論が推移していった。これらの議論を踏まえて、導入すべきか否かをパブリックコメントとして市民に求めた。
しかしながら、第159回通常国会に提出された「民事訴訟費用等に関する法律の一部を改正する法律案」は、パブリックコメントの圧倒的多数の意見を無視する内容であった。その内容とは、あらかじめの「合意」があればどのような類型の訴訟であっても、「両面的」に敗訴者負担制度を導入するというものであった。このような合意がなされないことや、事実上利用されないことは実務家である我々には容易に判断できるものであり、何ゆえ法案化するのか理由のないものであった。
このようにして、現状に比して「司法アクセスが拡充しない」または「提訴萎縮効果が生じる」「両面的」敗訴者負担制度は、閣議決定されたにもかかわらず、平成16年12月3日の臨時国会の終了をもって廃案となったことは、合理的な理由があった。
2 「片面的」敗訴者負担制度の導入
私たちは、訴訟代理人報酬の「両面的」敗訴者負担制度の一般的導入が、司法制度改革の理念である「市民のための司法改革」という当初の目的に逆行し、その結果、市民から司法による救済の途を奪う制度となるため、当初から反対の意思を表明していた。
むしろ、私たちは,司法制度改革の理念である「司法アクセスの拡充」に資する「片面的」敗訴者負担制度を導入すべきであると考える。
「片面的」な敗訴者負担制度とは、社会的経済的弱者である市民が、裁判に負けた場合は各自負担のままでよく、市民が勝った場合は、代理人の報酬を相手方である企業や事業者が負担するというものである。このような制度は、訴訟が極端に少なく抑制されている(年間約3000件程度の)行政訴訟等には,司法による行政のチェック機能を充実・強化させるためにも,司法へのアクセスが拡充し且つ提訴萎縮効果が生じない「片面的」敗訴者負担制度の導入は喫緊の課題である。
しかし、行政訴訟の制度改革における審議においては、導入が見送られたが、あくまでも、行政による事前規制・調整型社会から,司法による事後監視・救済型社会への転換が図れている現状において,「片面的」敗訴者負担制度は必要不可欠である。従って、早期に導入を検討することがその目的に合致する。
3 私的合意による「両面的」敗訴者負担制度条項の無効とする特別立法の必要性
「合意」による両面的な敗訴者負担制度の導入は、確かに廃案となったが、あくまでも法案としての廃案でしかなく、私法上の合意がなされた場合の効果について、何ら定めがない。私法上の合意条項は無効であることを経済的社会的格差のある当事者保護の観点から、個別の法律において明記しなければ、廃案とされた法案がまるで私法上は有効であるかのような外形を残すことは、事実上法案化されたのと同じ状態が生じかねない。
従って、廃案とされた経緯を反映するために特別立法を速やかに行うべきである。
4 多角的な制度による司法アクセスの拡充
「司法アクセスの拡充」は、必ずしも「片面的」敗訴者負担制度の導入のみによって図られるわけでなく、現行の「民事法律扶助」の利用を促進させるなど多角的な制度によることが重要である。
法律扶助の諸外国での運用と比較してもその利用が少なくその活用を図ることは喫緊の課題であり、利用者の視点に立った制度設計が望まれる。
例えば、非給付型の訴訟(離婚訴訟等)や破産・民事再生事件等給付が見込まれない事件については、扶助費を原則償還制から原則給付制に移行することが重要である。
また、現状では、その利用対象者の範囲が狭く、利用対象者の範囲を拡大することでさらに司法アクセスが拡充することに大きく寄与する。
次に、裁判所の利用者が拡大することで今後さらに訴訟当事者になる可能性が高まるので、「訴訟保険」の導入をすすめていくべきである。そして現在一部の分野についてだけ弁護士費用を保険でカバーする商品もあるが、その範囲は狭く、全般についてカバーする商品の構築、普及等が重要となってくる。これについては、われわれは、簡易裁判所という市民により身近な裁判所の代理権を市民から与えていただいたことを踏まえて、十分に調査をし、広く制度化のための提言をしていく。
このように、多角的な観点から、司法・行政・社会制度全般のあり方につき,市民の司法アクセスを阻害していると考えられる費用負担の要因を今後も客観的なデータに基づき調査・分析をしたうえで,根本的な改革を図るべきである。
最後に、私たちは、何よりも司法制度改革の基本理念であった「法の支配」が具現化するための必要条件である,「市民にとって,より利用しやすく,分かりやすく,頼りがいのある司法とするため」の市民の司法へのアクセスの拡充に簡易裁判所の代理権等を活用して、さらなる司法アクセスの拡充に寄与してゆく所存である。
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