日本国憲法改正国民投票法案に関する意見書
自由民主党
総裁 安倍晋三 様
2006年11月15日
〒160-0004 東京都新宿区四谷1−2
全国青年司法書士協議会
会 長 大 部 孝
当協議会は、国民投票法等に関する与党協議会によって2005(平成17)年12月に公表された憲法改正国民投票法案骨子案(以下「骨子案」という。)に関して、その違憲性を指摘する意見書を公表している。
2006(平成18)年 5月26日に自民党議員によって提出された日本国憲法改正国民投票法案(以下「自民党案」という。)においては、前記骨子案に比べれば若干の改善がみられるものの、やはり抜本的な問題点を数多く残しているといわざるを得ない。
したがって、当協議会は、あらためて日本国憲法改正国民投票法自民党案に関して意見書を公表することとした。法案提出者におかれては、当協議会が指摘する下記問題点を真摯に受け止め、現在提出されている自民党案を速やかに撤回されるよう申し上げる次第である。
記
自民党案第7条について
第七条 日本国民で年齢満二十年以上の者は、国民投票の投票権を有する。ただし、次に掲げる者は、国民投票の投票権を有しない。
一 成年被後見人
二 禁錮以上の刑に処せられその執行を終わるまでの者
三 禁錮以上の刑に処せられその執行受けることがなくなるまでの者(執行猶予中の者を除く。)
四 公職(公職選挙法 (昭和二十五年法律第百号)第三条に規定する公職をいう。) にある間に犯した刑法 (明治四十年法律第四十五号) 第百九十七条から第百九十七条の四までの罪又は公職にある者等のあっせん行為による利得等の処罰に関する法律 (平成十二年法律第百三十号) 第一条の罪により刑に処せられ、その執行を終わり若しくはその執行の免除を受けた者でその執行を終わり若しくはその執行の免除を受けた日から五年を経過しないもの又はその刑の執行猶予中の者
五 この法律に規定する罪により禁錮以上の刑に処せられその刑の執行猶予中の者
<問題点>
本条1号については止むを得ない。しかし、本条2号及び3号については、在監目的等との関係で無関係であり、主権者固有の投票権に関する過剰な制約である。また、4号については、公職選挙法と憲法改正国民投票を同列に扱うものであり、賛成できない。
憲法改正に関する国民の投票権は、国政選挙における選挙権より原理的な主権者固有の権利と解される(とくに憲法15条と96条の相違を想起するとわかる。)から、その制約は、必要止むを得ないものに限定すべきであり、本条は、その範囲を超える過剰な制約と言わざるを得ない。
自民党案37条について
第三十一条 国民投票は、国会が日本国憲法の改正 (以下 「憲法改正」 という。) を発議した日 (国会において最後の可決があった日をいう。) から起算して六十日以後九十日以内において内閣が定める期日に行う。ただし、衆議院議員の総選挙又は参議院議員の通常選挙の期日その他の特定の期日に行う旨の国会の議決がある場合には、当該期日に行う。
<問題点>
2004年の法案では「三十日以後・・・」とされていたのが、今回2005年の自民党案では「六十日以後・・・」とされた点で、改善が見られる。ただし、本条の但書については、やはり熟慮期間が極めて早期に終了してしまう可能性がある点で、賛成できない。
また、国政選挙の争点に憲法改正が含まれる場合においては、後述するように憲法改正国民投票に関する運動規制が極めて広範になされていることから、国政選挙における選挙運動の萎縮にも繋がるため、憲法改正国民投票と国政選挙を同一期日で行なうことには無理がある。
自民党案37条・43条について
第三十七条 投票人は、投票所において、憲法改正に対し賛成するときは投票用紙の記載欄に○の記号を、憲法改正に対し反対するときは投票用紙の記載欄に×の記号を、自ら記載して、これを投票箱に入れなければならない。
2 投票用紙には、投票人の氏名を記載してはならない。
3 第一項の○又は×の記号の記載方法その他投票の方式に関し必要な事項は、政令で定める。
(法案提出者の骨子説明・抜粋)投票用紙の様式、投票用紙に憲法改正案を掲載するか等については、憲法改正の発議の都度、改めて別に法律 (例えば 「平成○年日本国憲法改正国民投票実施法」) で定めることとしている。例えば、複数項目に係る憲法改正案の場合に、全体を一括で国民投票に付すか、項目別に国民投票に付すかに応じて、投票用紙の様式等が定められたり、また、憲法改正案の内容(分量)に応じて、投票用紙への改正案の記載の有無が定められたりすることとなる。
第四十三条 国民投票の投票で次の各号のいずれかに該当するものは、無効とする。
一 所定の用紙を用いないもの
二 所定の○又は×の記号の記載方法によらないもの
三 ○又は×の記号のいずれも記載していないもの
四 ○又は×の記号のほか、他事を記載したもの
五 ○又は×の記号を自ら記載しないもの
六 ○及び×の記号をともに記載したもの
七 ○又は×の記号のいずれを記載したかを確認し難いもの
<問題点>
(1)白票の取扱について
憲法96条1項は、国民の「承認」が必要であるとしている。したがって、承認を可とする場合に記号を記載する旨定めるのが素直である。憲法の文理に反する手法をあえてとる必要はない。また、憲法96条1項の文理からすると、自民党案43条3号に該当する場合は、承認を不可とする投票意思であると推定すべきである。したがって、自民党案37条・43条3号については、賛成できない。
(2)投票方式等について
自民党案37条3号又は法案提出者による同条項の骨子説明によれば、憲法改正案が一括提案され、これに関する投票用紙の記載欄が1か所である余地を残している。そうすると、日本国憲法9条を含む全面的改正案が提案された場合、たとえば9条改正については反対でも他の改正部分については賛成である場合には、9条に関する民意を正確に国民投票で反映することができなくなる。したがって、自民党案37条3号は、国民主権原理を名目化し骨抜きにするものであり、断じて認められない。
自民党案54条について
第五十四条 国民投票の結果、憲法改正に対する賛成の投票の数が有効投票の総数の二分の一を超える場合は、当該憲法改正について国民の承認があったものとする。
2 内閣総理大臣は、第五十二条第二項の規定により、憲法改正に対する賛成の投票の数が有効投票の総数の二分の一を超える旨の通知を受けたときは、直ちに当該憲法改正の公布の手続を執らなければならない。
<問題点>
この国の最高規範である憲法の形を決めるという国民投票の重大な効果、および国民主権の権力的契機を具体化する憲法96条の法意に鑑みれば、極めて少数の賛成意見で憲法改正がなされることになってはならない。
したがって、投票行動に参加したすべての総数を分母とすべきであり、そのうち承認を可とする意思表示が明確にされたものを分子とすべきである。すなわち、本条2項は「有効投票の総数の二分の一を超える場合」とするのではなく、「総投票数の二分の一を超える場合」とすべきである。
自民党案63条等について
第六十三条 次に掲げる者は、在職中、国民投票に関し憲法改正に対し賛成又は反対の投票をさせる目的をもってする運動 (以下 「国民投票運動」 という。) をすることができない。
一 中央選挙管理会の委員及び中央選挙管理会の庶務に従事する総務省の職員並びに選挙管理委員会の委員及び職員
二 裁判官
三 検察官
四 会計検査官
五 公安委員会の委員
六 警察官
七 収税官吏及び徴税の吏員
2 投票管理者、開票管理者、国民投票分会長及び国民投票長は、在職中、その関係区域内において、国民投票運動をすることができない。
3 第四十六条の規定によりその例によるものとされる公職選挙法第四十九条の規定による投票に関し、不在者投票管理者は、その者の業務上の地位を利用して国民投票運動をすることができない。
<問題点>
本条1項1号・同条2項及び3項に挙げる者について国民投票運動が規制されることは、国民投票の公正を確保するためには、止むを得ない制約に入ると思われる。
しかしながら、国民投票運動に関する規制の性質は、内容規制ではなく、時・場所・方法の規制すなわち内容中立的規制である。したがって、本条1項2号ないし7号に挙げる者の国民投票運動の全面的な運動規制は、より制限的でない他の選び得る手段の基準(LRAの基準)によりその適合性を検討すべきである。そうすると本条1項2号ないし7号に挙げる者の国民投票運動の全面的な運動規制(規制手段として刑罰を科す。自民党案91条1項参照。)は、規制目的(国民の国民投票における自由な意思形成の確保)との関係では合理的関連性がなく、表現行為の過剰な規制であり、違憲である。
(自民党案第91条1項)第六十三条の規定に違反して国民投票運動をした者は、六月以下の禁錮又は三十万円以下の罰金に処する。
自民党案64条について
第六十四条 次に掲げる者は、その地位を利用して国民投票運動をすることができない。
一 国若しくは地方公共団体の公務員又は特定独立行政法人 (独立行政法人通則法 (平成十一年法律第百三号) 第二条第二項に規定する特定独立行政法人をいう。以下同じ。) の役員若しくは職員
二 公団等の役職員等 (公職選挙法第百二十六条の二第一項第二号に規定する公団等の役職員等をいう。)
<問題点>
一般公務員等を対象とした本条の国民投票運動の規制も、その性質については63条に関する問題点での指摘と同様であるが、規制目的(国民の国民投票における自由な意思形成の確保)との関係では合理的関連性がなく、表現行為の過剰な規制であり、違憲である。なお、法案91条2項参照のこと。
(自民党案91条2項)第六十四条の規定に違反して国民投票運動をした者は、二年以下の禁錮又は三十万円以下の罰金に処する。
自民党案65条について
第六十五条 教育者 (学校教育法 (昭和二十二年法律第二十六号) に規定する学校の長及び教員をいう。) は、学校の児童、生徒及び学生に対する教育上の地位を利用して国民投票運動をすることができない。
<問題点>
教育者を対象とする本条の国民投票運動の規制も、その性質については63条に関する問題点での指摘と同様であるが、規制目的(国民の国民投票における自由な意思形成の確保)との関係では合理的関連性がなく、表現行為の過剰な規制であり、違憲である。とくに、教育者に大学教員が含まれている点については、(たとえば、反対しないと単位を付与しないなどというのは論外だが。)学問の自由・教授の自由を侵害する可能性も大きい。なお、法案91条3項参照のこと。
(自民党案91条3項)第六十五条、第六十六条第一項又は第六十七条の規定に反して国民投票運動をした者は、一年以下の禁錮又は三十万円以下の罰金に処する。
自民党案66条について
第六十六条 外国人は、国民投票運動をすることができない。
2 外国人、外国法人又はその主たる構成員が外国人若しくは外国法人である団体その他の組織 (以下この条において 「外国人等」 という。) は、国民投票運動に関し、寄附 (金銭、物品その他の財産上の利益の供与又は交付及びその供与又は交付の約束で、党費又は会費その他債務の履行としてされるもの以外のものをいう。以下同じ。) をしてはならない。
3 何人も、国民投票運動に関し、外国人等に対し、寄附を要求し、又はその周旋若しくは勧誘をしてはならない。
4 何人も、国民投票運動に関し、外国人等から寄附を受けてはならない。
<問題点>
外国人の人権という観点からは、「わが国の国益を著しく侵害するなど」の不都合がない限り、「性質上可能な限り基本的人権(表現の自由)の保障が及ぶ」と解すべきであるが、この性質説の観点から見ても、本条の合理性はない。また、日本国民いとっても他とのコミュニケーションを図り、様々な意見を聞くことによって、自己統治の価値を高めていくことができるのであり、他面では、そういった「知る権利」の侵害ともなりかねない。したがって、本条もまた表現の自由の過剰な規制であり、違憲である。なお、法案91条3項参照のこと。
(自民党案91条3項)第六十五条、第六十六条第一項又は第六十七条の規定に反して国民投票運動をした者は、一年以下の禁錮又は三十万円以下の罰金に処する。
自民党案67条について
第六十七条 この法律に規定する罪により刑に処せられ国民投票の投票権を有しない者及び公職選挙法第二百五十二条の規定により選挙権及び被選挙権を有しない者は、国民投票運動をすることができない。
<問題点>
公民権停止中の者が、国民投票に関する表現行為の規制を受ける理由はない。とくに公職選挙法違反者は、特定の候補者の当選に関する利害等によって公民権が停止されているのであり、憲法改正国民投票に関しては、そもそも特定の利害等は観念できない。したがって、「公職選挙法第二百五十二条の規定により選挙権及び被選挙権を有しない者」について国民投票権を剥奪する本条は、論外の規定である。なお、法案91条3項参照のこと。
(自民党案91条3項)第六十五条、第六十六条第一項又は第六十七条の規定に反して国民投票運動をした者は、一年以下の禁錮又は三十万円以下の罰金に処する。
自民党案68条について
第六十八条 何人も、国民投票に関し、その結果を予想する投票の経過又は結果を公表してはならない。
<問題点>
法案提出議員は、統計が不正・不当なものであった場合に、当該統計が国民投票の意思形成に大きな影響を与えることを懸念すべきであるという趣旨で本条を置くべきであると説明する。しかし、そうであれば明確に「虚偽統計」などの公表に関してのみ、規制をすれば足りるはずである。なぜ、何人が、全面的に投票動向の予想等を公言することが許されないのか、まったくもって理由が不明である。したがって、本条も表現の自由の過剰な規制であり、違憲である。なお、法案92条参照のこと。
(自民党案92条)第六十八条の規定に違反して予想投票の経過又は結果を公表した者は、二年以下の禁鋼又は三十万円以下の罰金に処する。ただし、新聞紙又は雑誌にあってはその編集を実際に担当した者又はその新聞紙若しくは雑誌の経営を担当した者を、放送にあってはその編集をした者又は放送をさせた者を罰する。
自民党案69条について
第六十九条 新聞紙 (これに類する通信類を含む。以下同じ。) 又は雑誌は、国民投票に関する報道及び評論において、虚偽の事項を記載し、又は事実をゆがめて記載する表現の自由を濫用して国民投票の公正を害してはならない。
<問題点>
「虚偽の事項を記載」することについての規制は止むを得ない。しかし、表現内容は、本来、多種多様な表現行為の中から市場原理にしたがって受け取り手が取捨選択し、真の内容が把握されることになるのであるから、「事実をゆがめて記載する表現の自由を濫用」するという部分については、市場原理の中で結果的に淘汰されることが相応しい。このような規制は、多種多様な表現内容の発信を躊躇させ、市場原理を阻害することになるため、賛成できない。
なお、本条を構成要件的に考察した場合、「事実をゆがめて記載する表現の自由を濫用」、「公正を害」するという部分は、曖昧不明確であるため、罪刑法定主義の観点からの問題がある。なお、法案85条1号参照のこと。
(自民党案85条1号)次の各号のいずれかに該当する者は、二年以下の禁錮又は三十万円以下の罰金に処する。
一 第六十九条の規定に違反して新聞紙又は雑誌が国民投票の公正を害したときは、その新聞紙若しくは雑誌の編集を実際に担当した者又はその新聞紙若しくは雑誌の経営を担当した者
自民党案70条について
第七十条 何人も、国民投票の結果に影響を及ぼす目的をもって新聞紙又は雑誌の編集その他経営を担当する者に対し、財産上の利益を供与し、又はその供与の申込み若しくは約束をして、当該新聞紙又は雑誌に国民投票に関する報道及び評論を掲載させることができない。
2 新聞紙又は雑誌の編集その他経営を担当する者は、前項の供与を受け、若しくは要求し、又は同項の申込みを承諾して、当該新聞紙又は雑誌に国民投票に関する報道及び評論を掲載することができない。
3 何人も、国民投票の結果に影響を及ぼす目的をもって新聞紙又は雑誌に対する編集その他経営上の特殊の地位を利用して、当該新聞紙又は雑誌に国民投票に関する報道及び評論を掲載し、又は掲載させることができない。
<問題点>
格差社会が拡大しつつある今日において、「カネがものを言う。」ことになれば、その是正はより困難となるから、厳に抑制されるべきであり、その点では、法案に同意する。しかし、本条は、掲載記事の内容等について、真実か否かを問題としていない点で、問題がる。本条に規定する行為態様について、道徳的な非難が差し向けられたとしても、その内容が真実であれば、結果がその行為態様の不道徳性を治癒するものと思われる。
また、民間の新聞・雑誌等は、広告料で事業収益を揚げている点に鑑みれば、本条は、これを萎縮させる危険があり、さらに69条でも触れたように、表現内容の市場原理を阻害することにもなる。したがって、本条は、表現の自由及び経済的自由に関する過剰な制約であり、違憲である。なお、法案73条及び85条2号参照のこと。
(自民党案73条)第七十条第一項又は第二項の規定に違反した者は、五年以下の懲役又は禁錮に処する。
(自民党案85条2号)次の各号のいずれかに該当する者は、二年以下の禁錮又は三十万円以下の罰金に処する。
二 第七十条第三項の規定に違反して国民投票に関する報道又は評論を掲載し、又は掲載させた者
自民党案71条について
第七十一条 日本放送協会又は一般放送事業者は、国民投票に関する報道及び評論において虚偽の事項を放送し、又は事実をゆがめて放送する等表現の自由を濫用して国民投票の公正を害してはならない。
<問題点>
「虚偽の事項を放送」することについての規制は止むを得ない。しかし、表現内容は、本来、多種多様な表現行為の中から市場原理にしたがって受け取り手が取捨選択し、真の内容が把握されることになるのであるから、「事実をゆがめて記載する表現の自由を濫用」するという部分については、市場原理の中で結果的に淘汰されることが相応しい。このような規制は、多種多様な表現内容の発信を躊躇させ、市場原理を阻害することになるため、賛成できない。
なお、なお、本条を構成要件的に考察した場合、「事実をゆがめて放送する等表現の自由を濫用」、「公正を害」するという部分は、曖昧不明確であるため、罪刑法定主義の観点からの問題がある。なお、法案86条参照のこと。
(自民党案86条)第七十一条の規定に違反して日本放送協会又は一般放送事業者が国民投票の公正を害したときは、その放送をし、又は編集をした者は、二年以下の禁錮又は三十万円以下の罰金に処する。
以上
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