「労働契約法制及び労働時間法制の在り方について(案)」に対する意見
〜自律的労働にふさわしい制度の創設に関して〜貸金業法等の改正案に関する要望書
2006年10月20日
〒160-0004 東京都新宿区四谷1−2
全国青年司法書士協議会
会 長 大 部 孝
去る6月13日に厚生労働省から労働政策審議会労働条件分科会に対し、「労働契約法制及び労働時間法制の在り方について(案)」(以下、「素案」という)が提示された。現在、同分科会において審議が再開され、今後、「中間とりまとめ」が公表されるところであるが、当会は、下記の趣旨が「中間とりまとめ」に反映されるよう、以下のとおり意見を表明する。
意見の趣旨
1.「自律的労働にふさわしい制度」の創設については、長時間労働による健康障害、過労死・過労自殺の防止、健全な社会生活、安定した家庭生活を確保する観点から断固反対する。
意見の理由
1.基本的な考え方について
素案は、現行の労働時間法制度の見直しに際し、「高付加価値の仕事を通じたより一層の自己実現や能力発揮を望み、緩やかな管理の下で自律的な働き方をすることがふさわしい仕事に就く者」について、「一層の能力を発揮できるようにする観点から「自律的労働にふさわしい制度」(以下、「本制度」という)の創設を提言している。
その理由として、産業構造が変化し、就業形態・就業意識が多様化する中で、創造的・専門的能力を発揮している自律的な働き方をする労働者が見られるようになっていることが強調されているが、本制度創設の明確な根拠や必要性は実証されておらず、説得力に欠けるものがある。このことは、平成18年1月27日に「今後の労働時間制度に関する研究会」がまとめた報告書(以下、「報告書」という)の参考資料によっても、法制化を裏付ける具体的事実は見いだし難く、多くの疑問を抱かざるを得ない。
また、「自律的な働き方をする労働者」とはどのような働き方をする者なのかが不明瞭であり、我が国において、このような働き方をする労働者がどのくらい存在し、現行法上どのような問題が生じているのかも明確ではない。立法に際しては、明確な根拠と十分な現状認識、検証から出発すべきであるところ、素案の内容からはそのような議論が尽くされているとは理解し難い。
ところで、平成17年3月に閣議決定された「規制改革、民間開放推進3カ年計画」は、「アメリカにおけるホワイトカラーエグゼンプション制度等を参考にしつつ、現行の専門的業務型及び企画業務型の裁量労働制の対象業務を含め、ホワイトカラーに従事する業務のうち、裁量性の高い業務については、労働者の健康に配慮する措置等を講じつつ、労働時間規制の適用を除外する制度について、その検討を進め、結論を得る。」と述べている。その議論の結果提言されたものが本制度であるが、素案は現行の「裁量労働制の対象業務を含め、ホワイトカラーに従事する業務のうち、裁量性の高い業務」については全く言及しておらず、対象労働者の要件も曖昧である。
2.長時間労働の現状
報告書に添付された総務省統計局の労働調査の参考資料によれば、平成16年に週60時間以上の労働を行った労働者は639万人であり、平成5年と比較して実に99万人も増加している。また、過労死、過労自殺者の数も過去最高水準で推移しており、長時間労働と過労死、過労自殺とが密接な因果関係にあることは改めて指摘するまでもないだろう。
また、厚労省が平成18年10月2日に発表した統計によれば、平成17年4月から平成18年3月までの間に定期監督及び申告に基づく監督等を行った結果是正企業は1,524企業、対象労働者は167,958人、支払われた割増賃金の合計額は232億9,500万円に上る(数値は是正指導した結果、不払いになっていた割増賃金の支払が行われたもののうち、その支払額が1企業当たり合計100万円以上となったもの)。
しかしながら、上記のように長時間労働や賃金不払残業が蔓延している現状の原因分析や具体的解決策を十分に検討することなく、労働時間規制の適用除外を拡大させることは、さらなる長時間労働・加重労働の温床となることは容易に予見できる。
3.現行法との関係
一方、労働時間の適用除外として、労働基準法第41条2号は、いわゆる「管理監督者」を規定しているが、この管理監督者の定義につき、通達は「一般的に局長、部長、工場長等労働条件の決定、その他労務管理について経営者と一体的な立場に在る者の意であり、名称にとらわれず、実質的に即して判断すべきものである」(発基第17号、基発第150号)と示している。ところが、現状は管理監督者とはほど遠い係長や課長、店長などの労働者が「管理監督者」とされ、労働時間規制から逸脱されているのである。
現行法においても、本来支給されるべき残業代が適性に支給されていないという現状の中で、このことが改善されないまま、労働時間規制の適用除外者をさらに拡大させることは、労働者の生活基盤に多大なる影響を及ぼすことになる。
素案は、検討の趣旨において過労死の防止や少子化対策の観点から、長時間労働の抑制を講ずることが喫緊の課題になっていることを認識する一方で、労働者の健康を確保しつつ、能力を十分に発揮した働き方を選択できるようにするために本制度の創設を提言しており、両者を全く切り離して法制化へ導こうとしている。長時間労働の抑制と労働者の健康を確保するのであれば、労働時間規制の適用除外拡大ではなく、まず現行法を厳正に強化する方向で見直すべきである。
仮に、検討の趣旨のとおり自律的働き方をする労働者が増加しているとしても、労働者にとって労働時間規制は、使用者の法律違反等に対する担保的機能を有するものであり、本制度の創設によって、労働者の正当な権利を主張する機会が奪われることはあってはならない。
4.労働者の望む労働時間法制
労使の自治の下で自らの裁量に従い、業務量の調節や労働時間をコントロールできる者が果たしてどのくらい存在するのだろうか。
本制度が導入された場合の結果として、対象労働者と対象外労働者との間で生ずる問題等、制度が及ぼす経済的効果や社会的問題までを十分に検討すべきである。また、現行法における裁量労働時間制やフレックスタイム制を見直すことで、代替的な策を講ずることが可能かという観点からも十分検討を加える必要がある。
自律的な働き方を自ら選択できない労働者までが労働時間規制の適用除外者とされてしまうことは絶対に許されない。
本制度は労使双方からの切実な要望に基づくものでない限り、創設されるべきではない。健全な社会生活・安定した家庭生活を確保する観点から自律的労働にふさわしい制度の創設には、断固反対する。
以上
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