司法制度改革の時代を司法書士として生きる!
〜全青司活動現場からのレポート〜




全国生活保護裁判連絡会第11回総会・交流会 (平成17年9月11日)

1.全国生活保護裁判連絡会第11回総会・交流会

  (1)平成17年9月10日(土)、神戸市中央区の兵庫県中央労働センターにおいて標記集会が行われましたので参加してまいりました。
 本年度の全青司人権擁護委員会(古根村博和委員長)の活動の大きなひとつの柱が、この生活保護問題であり、先般も多くの地元単位会の皆様のご協力により、全国一斉生活保護110番を実施させていただいたところであります。
 この集計結果と分析についての作業は、概ね終えており、現在、当会では、この結果を踏まえ、平成16年12月15日に出された社会保障審議会福祉部会「生活保護制度の在り方に関する専門委員会の報告書」に対しての意見書を作成している段階であります。
 この報告書は、生活保護制度発足以来初めての本格的検討といえるものであり、これまでの「適正化」を基調とした考え方から、踏み込んだ「貧困論」「自立論」などの基本的な見方や観点「自立支援プログラム」や要件の見直しなどの具体策が随所に見受けられるなど、「使いやすく、自立しやすい」生活保護制度への転換を図るものとして一定の範囲では評価できるものの、保護基準については低所得者との比較に基づく一面的な評価や母子加算の別給付への転換など基準切り下げを基調とした見直しが提案されており、すでに実施されている老齢加算の削減も併せて考えれば給付水準の削減という政策意図は貫徹されている点、また、報告書のひとつの目玉である「自立支援プログラム」の具体化についても実質上自治体任せになっていることなど極めて重要な問題点を含んでいるものであると認識しております(全国生活保護裁判連絡会事務局長竹下義樹弁護士の「生活保護制度の在り方に関する専門委員会報告書についての見解」参照)。
 詳細につきましては、もう暫くお待ちください。

(2)さて、本集会の中身の前提として、現在、生活保護制度を取り巻く環境がどのようになっているのか、簡単に述べておきたいと思います。本集会の案内文を引用させていただきます。
『高失業率の影響を受け、現在、生活保護制度の利用者は急増しております。生活保護制度が始まって以来ということですが、9年連続で保護率は増加しており、利用者は全国で140万人、利用世帯は100万世帯を突破しています(1995年比ですと、人員1.6倍、世帯1.7倍化しています)。
 言うまでもなく、生活保護制度は最後のセイフティーネットとしての役割が期待されており、このような最も利用しやすい制度が求められている現在において、老齢加算や母子加算の削減・保護基準全体の削減が強行されています。このような動きに対し、全国で600を超える審査請求が提起されており、本年4月には朝日訴訟以来となる保護基準についての裁判も提訴されています。』

(3)多重債務問題に継続的に取り組んできた私たち司法書士は、まさに隣り合わせとも言うべき生活保護問題に関して、その現場を知りながら声をあげないという姿勢は許されるものではないと考えています。多重債務問題は即ち人権問題であり、その事実が最もはっきりと表れるひとつがこの生活保護制度に関する問題であることは明らかであります。一人でも多くの司法書士がこの問題に対する関心を持ち、現場に生きる法律家として声をあげていただくことを切望するものです。

(4)さて、プログラムは、「生存権を考える〜大震災から現在まで」と題された記念シンポジウムからスタートしています。登壇者は、大橋豊氏(ひょうご福祉ネットワーク)、澄川智広氏(尼崎市福祉事務所)、布川日佐史氏(静岡大学)、コーディネーター藤原精吾氏であります。
 生活保護制度の在り方に関する専門委員会のメンバーでもあった布川先生によれば、同委員会の残した課題として、そもそも貧困をどのように定義し、基準をどこに設定するのか、そして、それらについて社会的に合意ができているのかという基本中の基本課題を指摘されています。
 以下、生活経済政策研究所の「生活経済政策」2005年8月号103号に掲載されている先生の『貧困にどう立ち向かうか〜生活保護制度の在り方に関する専門委員会が残した課題〜』から引用させていただきます。
「基調は、現在の生活扶助給付水準は低所得世帯の消費支出額より高いということである。生活扶助費の引き下げを示唆している。しかし、逆に見れば、多くの低所得世帯が生活保護以下の消費水準で暮らしているということを公式に認めたということでもある。(中略)生活保護水準以下で暮らす低所得世帯を放置していいのかと、議論を逆転させなければならない。」
「今回の生活保護基準の妥当性に関する検証作業で注目すべきは、第1に『生活扶助基準給付額は、低所得世帯の生活扶助に相当する消費支出額と等しくなければならない』を原則としたことである。」
「貧困とは、国民一般の生活様式(生活の質)を保った暮らしができない状態のことであり、具体的な基準は国民一般の消費水準との相対的関係をもとに設定するというのが現在の最低生活費決定の原則であるはずである。所得格差が拡大してきた現代社会において、この原則を確認しなおさなければならない。」
 詳しくは、布川教授の論考をあたっていただきたいと思いますが、皆様はいかがお考えになりますでしょうか。当会における意見書の参考にさせていただきたいので、ご意見をお寄せください。

(5)次に、吉田雄大弁護士による特別報告、「退院即保護廃止違法損害賠償事件勝訴報告」であります。
 この訴訟は、栄養失調で入院し、退院後に生活保護を打ち切られたために衰弱死した男性の遺族が、京都市を相手取り計約7220万円の損害賠償を求めた裁判です。その男性は、1999年2月に失職し、生活は困窮を極め、翌月には脱水症状や失調症状で救急搬送されています。京都市の山科福祉事務所では九州の実家に扶養照会を行なったのですが、両親に面倒をみる経済力がなかったために、入院と同時に生活保護が開始されました。しかしながら、その男性が退院すると同時に、福祉事務所は生活保護を打ち切り、男性は収入もなく再び困窮し、2カ月後ひとり暮らしのアパートで遺体となって発見され、そのとき冷蔵庫のなかには、何も残っていなかったという事件であります。
 京都地裁は平成17年4月28日、「生活保護の廃止は違法」として、市に慰謝料など220万円の支払いを命じています。判決は、「被告は『入院中のみ保護』との方針を採って、退院後の(男性の)生活に何らの配慮もせず、違法に(保護を)廃止決定した」とし、「保護廃止決定の結果、生活に困窮し、栄養状態が悪化した」と断罪しています。保護廃止と死亡との因果関係は認められなかったのですが、退院後の生活保護廃止という行政慣行が違法と認められた点で画期的な判決と評価されています。
 詳細につきましては、吉田弁護士の論考「『退院即廃止』の生活保護行政を断罪〜京都市山科生活保護事件判決の意義」をご参照ください。

(6)その後、竹下義樹弁護士(生保裁判連事務局)による基調提案の後、分科会であります。3つの分科会があり、どれも興味深いのですが、私は第三分科会に参加させていただきました。分科会の趣旨については、記しておきます。なお第1分科会では、全青司人権擁護委員会の後閑一博会員(東京会)も講師として登壇されています。お疲れ様でした。
 
「第1分科会」大震災と生活保護 阪神・淡路大震災から10年。中越地震、福岡沖地震、三宅島、台風被害など今も日本では大規模な災害が絶えず、そのたびに公的支援や生活保障のあり方、生活保護の運用が問われ続けています。「災害の日常化」ともいえるような日本の現状の中で、生活保障や生活保護のあり方を考えます。  
   
「第2分科会」自立支援プログラムと生活保護改革 昨年12月に出された「生活保護の在り方検討委員会報告」の目玉の一つは自立支援プログラムです。単なる就労の強制や、保護利用の「踏み絵」とならないような、自立支援プログラムの在り方や運用を検討します。生活保護における「自立」とは? 利用者の主体性を尊重した支援とは? 就労支援の在り方とは? 多角的に探ります。  
   
「第3分科会」生活保護争訟の現状と成果 「人間裁判」といわれた朝日訴訟以来となる、生活保護基準を正面から問う老齢加算削減取消訴訟、保護運用のあらゆる面が争点となっている全国の審査請求、引き続き現場での争いが絶えないホームレスと生活保護など、全国の争訟状況を交流する中で、「第3の波」が続く生活保護争訟の教訓と課題を探ります。  
   


(7)第3分科会においては、全国で生活保護訴訟が提起されるべく運動論を中心に議論が進められました。まずは、京都にける老齢加算削減取消訴訟弁護団佐野就平弁護士からのお話と原告ご本人の方からの決意と訴えがなされました。
 憲法第25条には、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」と明確に規定しております。
 この「健康で文化的な最低限度の生活」とはどのような内容として捉える必要があるのでしょうか。平成17年4月27日、京都地裁に提訴された「老齢加算削減取消訴訟」においては、これを、「ただ単に生命を維持することができるというだけのものではない。個々人の尊厳が保障され、人間たるに相応しい生活が営めることを意味するものと解すべき その結果として自己実現が図られるものでなければならない。」「衣食住が事足りることは当然として、それだけでなく、被保護者が様々な面で自己実現及び社会参加を行い、自立に向けた足がかりとなりうるだけ内容を持つものでなければならない。」としています。
 本件訴訟については、答弁書が出た段階ということですが、京都に続き、秋田でも同様の訴訟が提起されたとのことであります。

(8)引き続き、熊本市生活と健康を守る会阪本深氏による「熊本市における審査請求の取組」として中国残留孤児稼動能力不活用廃止事件の報告がなされました。
 これは、中国残留孤児の稼働能力不活用を理由に保護廃止となった事案で、審査庁は「指示違反を理由に不利益処分を課す場合には、被保護者の保護の必要性にも十分配慮する必要があり、特に保護の廃止処分は、被保護者の最低限度の生活の保障を奪う重大な処分であるから、違反行為に至る経緯や違反の内容等を総合的に考慮し、違反の程度が廃止処分に相当するような重大なものであることが必要」として、保護廃止は「重きに失し処分の相当性を欠く」として請求が認容されています(平成15年1月28日熊本県知事裁決)。
 その後、保護廃止処分を取り消された市は、保護を再開したものの、夫婦の保護費約13万円から働いた場合に得られると思われる収入約67000円を「生活調整額」として差し引いたため、平成16年4月12日、夫婦が是正を要望、国も違法行為であることを認め、市は全面謝罪し差額を遡って支給したとのことであります。

(9)次に、特定非営利活動法人神戸の冬を支える会、青木しげゆき氏によるいわゆる情報開示請求を利用した地元での運動が紹介され、続いて、広島、北九州など各地の運動現況報告がなされました。その中で、参加者の弁護士が指摘された7年前の生活保護法62条5項の改正についてが印象に残りました。   
 生活保護法62条には、(指示等に従う義務)として、「被保護者は、保護の実施機関が、第30条第1項ただし書の規定により、被保護者を救護施設、更生施設若しくはその他の適当な施設に入所させ、若しくはこれらの施設に入所を委託し、若しくは私人の家庭に養獲を委託して保護を行うことを決定したとき、又は第27条の規定により、被保護者に対し、必要な指導又は指示をしたときは、これに従わなければならない。」と規定されており、2項において「保護施設を利用する被保護者は、第46条の規定により定められたその保護施設の管理規程に従わなければならない。」とされ、さらに、3項において「保護の実施機関は、被保護者が前2項の規定による義務に違反したときは、保護の変更、停止又は廃止をすることができる。」とされています。
 もちろん、4項において「保護の実施機関は、前項の規定により保護の変更、停止又は廃止の処分をする場合には、当該被保護者に対して弁明の機会を与えなければならない。この場合においては、あらかじめ、当該処分をしようとする理由、弁明をすべき日時及び場所を通知しなければならない。」とされてはいるのですが、改正により新たに規定された5項では、「第3項の規定による処分については、行政手続法第3章(第12条及び第14条を除く。)の規定は、適用しない。」とされています。
 そこで、行政手続法を見てみますと、第16条に(代理人)の規定があり「前条第1項の通知を受けた者(同条第3項後段の規定により当該通知が到達したものとみなされる者を含む。以下「当事者」という。)は、代理人を選任することができる。2代理人は、各自、当事者のために、聴聞に関する一切の行為をすることができる。3代理人の資格は、書面で証明しなければならない。4代理人がその資格を失ったときは、当該代理人を選任した当事者は、書面でその旨を行政庁に届け出なければならない。」となっているのです。
 すなわち、被保護者の義務違反による、保護の変更、停止又は廃止については、代理人による弁明ができない・・・・ということなのです。
 なぜこのような規定をわざわざ設ける必要があったのでしょうか、そして、このような実務上極めて影響力の大きい規定を設けるにあたって、専門家等の意見を広く聞いたのでしょうか。様々な疑問が残ります。

(10)分科会終了後、全体での報告と総括があり、集会は成功裡に終了いたしました。設営に関わった皆様、登壇された講師の皆さま、このような充実した内容の集会を提供いただき本当にありがとうございました。
 いただいた資料も内容が濃く、また、当日の議論も実に中身が濃く、とてもすべてを紹介することができないのが残念です。このような集会に、もっと多数の司法書士の参加者があれば、いろいろな意味で、司法書士会全体が大きく変容する良い契機になると思います。
 懇親会にも出席させていただきましたが、学者や弁護士、そしてケースワーカーの方々やすべての関係者の皆さま、本当に元気です。いろいろな情報とパワーをいただいたような気がします。
 もちろん、全青司人権擁護委員会委員長の古根村博和会員(神奈川会)とは、「生活保護制度の在り方に関する専門委員会の報告書」に対しての意見書提出後の全青司における活動の展開について議論をさせていただきました。既に、いくつかのアイデアが出ています。この点につきましては、会員の皆さまから広くご意見をいただくと同時に、委員会においても議論を重ね、早急に対応していきたいと考えています。      

 


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