1.全青司主催「改正不動産登記法実務研修会」登記識別情報に関するシンポジウム
(1)平成17年11月26日(土)、東京四谷駅前主婦会館7階カトレアにおきまして、全青司制度委員会(正影秀明委員長・岡山会)主催の標記シンポジウムを開催いたしました。参加者80名程度による熱心な議論がなされたところです。
今回も、挨拶の機会を与えられましたので、近況報告として、@全国一斉未払い賃金・サービス残業110番の実施、A金利引き下げ運動について、B行政書士に対する商業登記・相続登記の解放要望についての対応などをお話させていただきました。今般のシンポジウムに参加していただいた会員の皆さまが、これらの問題についても積極的に取り組んでいただけるように改めてお願いする次第です。
(2)ところで、今般の不動産登記法改正の趣旨は、「登記の正確性を確保しつつ、国民の利便性の一層の向上を図り、不動産登記制度を高度情報化社会にふさわしい制度とする」ということでありますが、この3つのポイント、すなわち、@登記の正確性を確保、A国民の利便性の一層の向上、B高度情報化社会に対応は、必ずしも同じ方向を向いていないというところが難しいのではないかと個人的には考えています。つまり、@とA、@とB、AとBは相反することも多い、そう考えているからです。
(3)さて、第1部(不動産登記法部会)PART1の研修リレー報告、トップバッターは、正影秀明委員長による「オンライン庁の実務と現状」であります。
実務現場における極めて具体的な事実・情報をもとに、実に様々な法改正の問題点を指摘されています。印象に残ったものをランダムにあげてみますと・・・・
@本来、オンライン申請ができるための改正でありながら、現状では、オンライン申請は利用できるほど、システム的にも、環境的にも整備されてない。
A同順位の担保権設定の符号が識別情報に反映されないなど、法令より、法務局のコンピュータシステムを優先する実務が見受けられる。
B法務省は、コンピューター化と登記所統廃合は無関係であるとしながらも、オンライン庁の指定にからめて統廃合を進めている。
C予想されていたことではあるが、登記識別情報の扱いにくさが改めて認識できた。
D金融機関では、担保権設定の識別情報の通知を受けないと予想されたが、現実には、通知を受ける金融機関のほうが多いのが現状。識別情報が漏洩すると簡単に担保権が抹消されてしまう可能性があることから、この管理にかかるコスト・リスクが最重要点課題である。
E通知を受ける場合は管理の問題が生じるし、また不通知にすると本人確認に関する司法書士費用が障害となっている。このため、低廉で受任してくれる「お抱え司法書士」を求める可能性があり、登記事件の寡占化が一層進むことも予想できる。
Fこの問題は、分筆に伴う識別情報が通知されないこともあいまって、分譲業者についても同様。
G経済界の要請は、当然に、本人確認に関するコスト削減にある。
などなど・・・皆さまはどうお考えでしょうか。
(4)引き続き、西澤英之副会長による「オンライン申請事始」であります。実際に数多くのオンライン申請に携わっているということで、極めて実務的かつ具体的な報告であり、特に、今後指定庁となる地域の参加者にとっては得るものが多かったことだと思います。
「あらかじめ用意すべきもの」から「オンライン上における準備」そして、実際の申請に関わる苦労話は、来年にはほとんどの会員が同様の体験をすることとなりましょう。
(5)最後が、渡邉経子常任幹事による「オンライン指定庁における立会いモデル(試案)」であります。
「決済当日以前に登記識別情報についての説明をする機会を設ける必要性がある。」「その一つの案として、売買契約の締結に立ち会う方法が定着すればいいのではないか」「登記委任状をもらうだけではなく、委任内容の説明を加えての登記委任契約の締結が必要である。」などといった重要な指摘に加え、事前通知制度の問題点や抹消の担保権者との打ち合わせの必要性などについても指摘がなされました。
「法改正の趣旨に則って事前の準備をきちんとしておけば、決済当日においても、これまでの決済と同様、スムースに行くであろう。また、そうでなければならない。」との締めくくりにはまったく同感であります。
先にあげた@登記の正確性を確保とA国民の利便性の一層の向上のバランスの境界線上に、私たちに求められている売買代金決済の姿があるのではないでしょうか・・・・・
(6)PART2、パネルディスカッションは、「登記識別情報をどう扱うべきか、単なる代理申請業からの脱却、新しい登記業務の可能性を探る」というテーマで、コーディネーター正影秀明委員長、パネラーとして、前日司連副会長斉木賢二会員、日司連理事(日司連登記制度対策本部不動産登記WT)今川嘉典会員、西澤英之副会長、渡邉経子常任理事というメンバーで行われました。具体的には、@登記識別情報をどう取り扱うか、Aさらなる法改正を求めることの必要性(法改正を求めるとしたら)B今後のあるべき不動産登記制度と司法書士のかかわりという3つの論点に絞って行われています。
「登記識別情報をどう取り扱うかについて」は、通知が原則であり、当事者も希望するのが通常であろうという意見が出た一方において、登記識別情報は使い勝手が悪いので、エンドユーザーについては本人確認を原則とすべきではないか、司法書士の専門性を考えればそれが自然であるという意見が出されています。
そもそも法制審では、「住基カード一本で本人確認できるのであるから、登記済証も識別情報も一切不要」という意見が強かったようですが、これに対して法務省と日司連が強硬に反対し、今般の登記識別情報という制度が構築されたとのことであります。すなわち、登記識別情報制度がなければ、その代替としての本人確認情報制度も本来ありえないはずであったということであります。
このような経緯もあり、法務局サイドとしては、これを積極的に利用してほしいという意向があるようで、上尾出張所によるご案内には、この登記識別情報に関して、「次回の登記申請に必要な重要な情報です。銀行の暗証番号を長くしたようなものです。登記識別情報の提供者を登記名義人として扱います。」というような内容や、第三者に盗み見されないよう厳重注意をすべき旨の記載がされているようです。
しかしながら、登記識別情報を作成するのは法務局である一方、暗証番号は自分で作るものでありますし、司法書士も第三者であることから、司法書士に見られることも想定していないように受け取れる文書であり、注意が必要であるとの指摘もなされました。いずれにせよ、受領者にとっては、とても大切なものだという印象はのこることでしょう。しかし、その本来の意味がきちんと伝わるかどうかは危惧を抱かざるをえません。私たち司法書士がきちんと説明義務を果たす必要がありましょう。
仮に、この登記識別情報制度につき、全国で使えないという声があがってくれば、日司連としても法務省との協議が必要になりましょう。今後の実務の集積及び問題点の集積を待ち、全青司としても必要に応じて声をあげていくことが求められていると感じました。
次に「さらなる法改正を求めることの必要性(法改正を求めるとしたら)」という点につきましては、冒頭において、登記識別情報の有効証明の時間が、1件20分程度要している現状の指摘がなされました。これでは、筆数が多かったらどうなるのでしょうか、また、今後、大安の日はどうなるのでしょうか。これだけ時間が必要とされるのは、外字があるとコンピューターがはねてしまうのという理由により、アナログで確認しているためであるとのことですが、いずれにせよ、不動産取引の決済に利用できないのであればまったく利用価値はないということは当然のことでありましょう。となりますと、代替案として、「失効されていないことだけの証明」であれば短時間で可能ではないかという意見が浮上してきます。この問題は、早期に解決がなされる必要があります。
一方、オンライン申請自体は、登記空白期間(お金が動いてから登記申請までの時間)の短縮についてこれ以上の制度は、現時点においては考えられないという理由から、司法書士としては積極的に普及させるよう取り組む必要があるという意見の一致をみています。
他方、指紋等により、物理的に本人確認ができる現在において、登記済証の復活の議論はナンセンスであり、司法書士は、早期関与により、契約実体の充実を目指すべきという意見、さらには、不動産の物権変動については登記を効力要件とすべきである、というより大きな視点からの意見も出されました。
最後の論点は、「今後のあるべき不動産登記制度と司法書士のかかわり」であります。「登記原因証明情報をきちんと作成していくことの前提として、契約段階からの早期関与をすべきであるが、そうなると双方代理が問題となる。したがって、買主・売主にそれぞれ司法書士が代理人として関与すべき。」という意見が出され、「早期関与を徹底したいのであれば、登記手続代理に留まらず、登記申請事件全般の代理ができるような法改正が必要である。」という今後の法改正の方向性を示唆するコメントもなされています。
また、「限定的ながらも閲覧に供される原因証明情報を,どのように充実したものにするかということは,司法書士に課せられた職責である。これからは,原因証明情報のなかに本人確認情報を盛り込むというような実務運用もありうるのではないか。」との意見も表明されております。
さらに、「登記制度自体のグレードをあげていく必要もある。すなわち、登記を対抗要件から効力要件にしていくべきであり、将来的には公信力も視野に入れていく必要がある。そして、登記制度を国民が完全に信頼できる制度にすべきである。」という力強い意見も出されています。
(7)全青司においては、古くから不動産登記法の分野においては、業界をリードする議論を行ってきております。今般の不動産登記法大改正に関しても、これまでの議論を踏まえたうえで、最前線の議論を継続していく必要があるのは当然のことであります。そして、この議論には、多くの会員の皆さまに参加していただきたいと考えています。
不動産登記の専門家として、利用者である国民の権利保全の担い手として、あるべき不動産登記制度を議論し、発信し、必要に応じて法改正も提言していく・・・・それが、プロフェッションとしてのひとつの大きな責務であると考えています。
(8)第2部は、統廃合委員会委員長兼副会長大部孝会員による「IT社会に翻弄される法律家」であります。その趣旨は、「国家の推進するIT社会は、市民社会に様々な影響を与え、同時に我々司法書士実務にも大きな衝撃を与えている。そこで第2部では、改めて国家が邁進するIT社会が市民社会で有用なものとして機能しているのかを検証し、今後法律家としてのあるべきIT社会を模索する。」というものであります。
そして、今般の具体的なテーマは、不動産登記オンライン申請にも深く関わる「住基ネット」の問題であります。
そもそも「住基ネット」の問題点について、@情報の一元化に伴う弊害、利用拡大・名寄せによる監視から人格権の侵害がなされる恐れなど、A市町村長はネット運用の適正義務に努めなければならないとされているが、情報の提供先である、都道府県や情報センターへの適正運用に対する調査権限がない点、B行政側は、住基法に定める利用事務の範囲外において、本人の確認情報を利用したりすることを規制しているが、所定事務についてのデータベース化は禁じておらず、当該データベースの接続も禁じられていないといった、行政機関において個人情報の蓄積や結合を明確に規制していないことなどが指摘されています。
そして、これらの問題を巡り、現在において、全国13の裁判所において、448名の原告による訴訟が係属中であります。
既にご案内の「金沢判決」においては、公的個人認証について、『都道府県センターが失効情報を把握するためには、住基ネットを介さなくとも、市町村から直接提供を受ければ足りるし、電子署名の格納媒体は住基カードである必要はないから、公的個人認証サービスに住基ネットが不可欠であるとは言い難い。しかも外国人や、オンライン申請、届出の必要性が高いと思われる企業には住基ネットシステムは使えないから、これらについては別なシステムを使う必要があること、既に「電子署名及び認証義務に関する法律」も制定されていて、オンライン申請、届出に民間事業者発行する電子証明書を使うことが可能であること等を併せ考えると、オンライン申請、届出のために、公的個人認証サービスが必要不可欠であるとも言い難い』とし、住基ネットによって達成しようとしている行政目的の正当性についても、『その目的は、詰まるところ「住民の便益」と「行政事務の効率化」であるところ、「住民の便益」とプライバシーの権利は、いずれも個人的利益であり、そのどちらかの利益を優先させて選択するかは、各個人が自らの意思で決定するべきものであり、行政において、プライバシーの権利よりも便益の方が価値が高いとして、これを住民に押し付けることはできないというべきである。すなわち、便益は、これを享受することを拒否し、これよりもプライバシーの権利を優先させ、住基ネットからの離脱を求めている原告らとの関係では、正当な行政目的たりえないと言わざるをえない。』と喝破し、『自己のプライバシーの権利を放棄せず、住基ネットからの離脱を求めている原告らに対して適用する限りにおいて、改正法の住基ネットに関する各条文は憲法13条に違反すると結論づけるのが同等である。』と判断しています。
オンライン登記申請に深く関わるわれわれ司法書士は、この判決の意味するものやIT社会というものにどう向き合うのか、そのスタンスが求められていると思います。そして、住基ネット訴訟の動向についても継続してフォローしていく必要性を深く認識した次第であります。
|