司法制度改革の時代を司法書士として生きる!
〜全青司活動現場からのレポート〜




「生活保護制度の在り方に関する専門委員会 報告書」に対する意見(平成17年12月13日)

1.「生活保護制度の在り方に関する専門委員会 報告書」に対する意見

 「生活保護制度の在り方に関する専門委員会 報告書」(以下、「報告書」という)に対して,以下のとおり意見いたします。
 なお、当会は平成17年7月31日に全国一斉の生活保護110番と題する無料相談会(以下、「生活保護110番」という)を実施し、保護受給者及び保護の必要のある者等から、電話・面談を合わせて計279件の相談を受けており、本意見は、それらの現場の声を反映した内容となっていることを付言しておきます。(生活保護110番の集計及び分析結果については省略)

第1 報告書の内容では利用しやすい制度にはならない

 報告書において、生活保護制度の見直しに際し、「利用しやすく自立しやすい制度へ」という方向性のもと、議論がなされている。現在の生活保護制度は、決して生活困窮者にとって利用しやすいものにはなっておらず、これらの現状を改善するためにも、このような方向で検討されたことは一定の評価ができる。
 しかし、一方、「利用しやすく自立しやすい制度へ」というフレーズだけが一人歩きし、「利用しやすく」の部分に関して、その具体的な提言がなされていない。「自立しやすい」制度の部分に関しては、自立支援プログラムを始めとする提言がなされているが、「利用しやすい」制度とは、報告書の中では具体的に触れられておらず、どの部分の議論をさすものかも不明瞭である。
 当会が実施した、前述の「生活保護110番」に寄せられた相談の中で特に多かったのは、生活保護を必要とする者が、福祉事務所に相談に行っても、「相談」のみで終わり、保護の申請に至らないケースである。相談結果に基づいて説明すると、生活保護を受給していない者からの相談で、以前に福祉事務所で生活保護に関する相談をしたことがある者(60件)のうち、当会による聞き取りの内容から生活保護を受給できると判断されたものが31件(51.6%)あった。
 これらの事実からは、ケースワーカー(以下、CWという)が相談者の生活困窮の状態(要保護状態)を認識しているにもかかわらず、稼働能力の活用等々を理由として、生活保護申請を認めず、相談者に対し一般的助言を与えるのみで(若いから頑張って働きなさい等)、相談だけで帰してしまうという相談者の申請権自体が侵害されている現実が認められる。相談者が生活保護に関して福祉事務所を訪問して相談するということは、それだけでもある程度の困窮状態に陥っていることはうかがえるはずである。にもかかわらず、このような福祉事務所での対応が全国的にも行われているというこの現状を鑑みた際、報告書が「利用しやすい」生活保護制度に向けて、具体的な提言を呈していないのでは、どれだけ言葉を踊らせても、何ら具体性も実行力もないものになってしまうのではないかと考えられる。「利用しやすい」ということを第一に考えるのであれば、最も重要となることは、それらに向けた各福祉事務所の取り組み方であり、CWの資質・意識の向上無しには、何ら意味のないものと考えられる。

第2 生存権の実現として生活保護を認識しているか

 生活保護に関する判例においては、生活保護者が「国から生活保護を受けるのは、単なる国の恩恵ないし社会政策の実施に伴う反射的利益ではなく、法的権利であって、保護受給権とも称すべきもの(朝日訴訟、大判昭和36年5月24日)」であるとしている。つまり、生活保護は、国からの恩恵や施しではなく、生存権から生じる当然の権利である。しかしながら、生活保護110番に寄せられた相談から生活保護の現状を考えると、とても生活保護が権利である捉えているとは考えられない。
 具体的には、「入院し人工透析を受けている者(被保護者)に対し、CWが退院後は保護を廃止すると言っている」「精神障害があり就労困難の者(被保護者)に対し、CWから仕事をしろ、しないなら保護を廃止すると言われた」等、福祉事務所によって、要保護者・被保護者の生活保護の受給権自体が侵害されている事例が多く寄せられている。これらは、国・行政が生活保護を恩恵や施しとしてしか認識しておらず、要保護者・被保護者の生存権を義務として捉えてない実態がうかがえる。このような現状を踏まえ、今後の生活保護制度を検討していくには、生活保護が生存権という人権から生じているものであり、国にはそれを保障すべき義務があることを再認識すべきである。  

第3 自立支援の在り方についての問題

 「利用しやすく自立しやすい制度へ」の「自立」の部分で、新たに創設の必要性を提言している自立支援プログラムであるが、これまで福祉事務所やCWの経験などに依存していたものを、制度として自主性・独自性を生かした多様な支援メニューを創設することについては一定の評価ができるが、この利用に関しても、次に述べるような観点から、一定の制限が必要であると考える。

(1)多様性を持った自立支援プログラムが作成できるか
 被保護者の自立への方策は、千差万別であり、自立支援プログラムというマニュアル化されたもので、どこまで成果が上がるかは問題が残る。被保護者が入院入所している場合のアパート移行、多重債務問題、アルコールなどの依存症からの回復、DVなどによる配偶者から逃れた状態での生活再建など、多様な自立支援プログラムが必要とされる。また、生活保護110番に寄せられた相談に、CWと被保護者との確執が多く寄せられており、この状態で果たして、被保護者にとって有用な自立支援プログラムが作成され、実行されるものであるか疑問が残る。

(2)自立支援プログラムの参加が困難な者への配慮
 被保護者の中には、身体的・精神的にも自立が非常に困難な者が多数存在するという点の理解が不可欠である。これらの者がプログラムへの参加を求められても、それは事実上不可能であるばかりか、CWからプログラムへの参加(就労支援等)を求められること自体が、被保護者、特に精神障害を持つ者にとっては、想像を超える負担・圧力をなり、精神的・経済的不安を助長するものになるものと考えられる。これは、生活保護110番に寄せられた相談からも明らかである。(「ヘルニアでほぼ毎日通院している。軽作業はできるはずだから働けと言われている」「狭心症で就労困難だが、CWに仕事をするように言われる」等の相談があった)自立が困難な状態にある者への配慮がどの程度行われるか分からない段階での導入には問題があると考えられる。

(3)取組みが不十分な者への配慮
 次に、自立支援プログラムに参加したにもかかわらず、取組状態が不十分な者に対する配慮の必要性である。報告書の中では、「取組状況が不十分な場合や、被保護者が合理的な理由なくプログラムへの参加自体を拒否している場合については、文書による指導・指示を行う。それでもなお取組に全く改善が見られず、稼働能力の活用等、保護の要件を満たしていないと判断される場合等については、保護の変更、停止又は廃止も考慮する。」とされている。仮に、報告書のとおりの停廃止が行われた場合に、その被保護者の今後の生活はどのようなものになるのだろうか。プログラムに沿わない者を排除し、切り捨てることになる以外に考えられない。そのような生活困窮状態にある者を救済する制度が生活保護本来の趣旨である。先にも説明したが、国には、国民の生存権を保障する責務があることは憲法上明らかである。その責務を放棄し、生活保護を停廃止することは、国が国民の生存権を侵害する違憲行為だと考える。

(4)多重債務問題解決に向けた方策の具体化の必要性
 報告書では、自立支援プログラムの策定・実施にあたり、多重債務問題などについて専門知識を有する人材の活用を提言している。被保護者が保護費を消費者金融などの金融機関への返済に充ててしまい、生活が困難になっているという相談が生活保護110番でも多く寄せられた。これらの者に対しては、法律家が受託し、金融会社に対し受任通知を送付することによって、被保護者自身への直接の請求が停止され、被保護者本人の生活の安定につながる。このように、自立支援プログラムを実行力あるものにするためには、被保護者に多重債務問題があると判明した際には、プログラム策定時から(生活保護申請時に申請者に多重債務問題があることが判明した段階が最も望ましい)、法律家が関与することが問題の早期解決に向け重要であると考える。よって、自立支援プログラムを実施する各地方自治体において、各司法書士会・弁護士会と連携をはかり、早期より法律専門家の関与を検討すべきである。

第4 資産、能力等の活用の在り方についての問題

(1)稼働能力の活用の要件は判例を遵守すべき
 報告書では、稼働能力の活用の要件について、客観的評価のための基準策定の必要性を提案しているが、その内容に関しては、全く不明瞭である。判例によれば、@稼働能力を有するか、Aその稼働能力を活用する意思があるか、B実際に稼働能力を活用する就労の場を得ることができるか、により判断するとなっている以上、判例を踏まえた形で、運用すべきである。(林訴訟、名古屋地判平成8年10月30日)また、前記の要件を満たせば、保護申請時に就労していなくても保護を開始すべきであり、このことを福祉事務所で徹底すべきである。

(2)預貯金等の資産要件の緩和
 現行の基準では、最低生活費の半月分とされている。しかし、被保護者が自立に向けた意思があり、そのためには最低生活費の3ヶ月分程度の保有は認めるべきである。また、新破産法の基準では、最低生活費の3ヶ月分と変更されており(破産法第34条3項1号)、生活保護制度上もその基準に沿うものとすべきである。

(3)不動産を所有している者への対応
 報告書では、居住用不動産を有している者については、不動産を担保にして長期生活資金貸付を積極的に活用すべきとされているが、これに対しては問題が多い。生活保護制度は、国に被保護者の最低生活を維持すべき義務があるにもかかわらず、その義務を放棄し、被保護者に新たな借入れをさせ、生活資金に充てることを助長することは財産権の侵害行為とも考えられる行為である。また、長期生活資金貸付の積極的活用を促すことによって、福祉事務所によっては、居住用不動産を有している者の生活保護申請を認めないという対応が予想されるため、要件を限定しての活用とすべきである。
 また、居住用不動産を有していた被保護者が死亡した場合、その不動産を扶養義務者である相続人が相続することが社会的公平の観点から問題だとしているが、扶養義務者が事実上扶養できないために保護が開始されているのであり、被保護者が死亡後、それを相続することとは全く無関係である。つまり、相続と扶養とを関連させること自体に問題があるといえる。
 さらに、その不動産が相続される場合、相続人に保護に要した費用を返還させる仕組みを設けることを検討すべきとしているが、もとより保護費は被保護者の借入れではないのだから、返還の対象とはなる余地がない。このような議論がすすむことによって、生活保護制度自体の誤解が生じ、生活保護費を被保護者への貸付のように誤解される恐れが大きいため、十分配慮すべきである。

(4)自動車の保有制限の緩和
 被保護者の自動車の保有に関しては、生活保護110番にも多くの相談が寄せられている。具体的には、「1級の障害があり、リハビリに行くため自動車を使用していた。CWに自動車の処分と売却代金の返還を求められた」「足に障害があり、親戚から自動車を借り通院に使用していた。CWより使用を止めないと保護を廃止すると言われている」等である。被保護者の病気・障害等の身体上の理由による自動車使用の必要性を理解し、さらに被保護者の自立促進の観点からも、自動車の保有の制限を緩和すべきである。

(5)扶養調査の見直し
 要保護者には、親子・親族関係が破綻している者が多く、生活保護を受給するにあたり、扶養調査をすることによって、扶養義務者との関係がさらに悪化することが予想される。また、言うまでもなく、生活保護を契機に、断絶された関係が修復されるとは考えづらい。
 生活保護110番に寄せられた相談では、「母子家庭の要保護者が病気(肝炎)であり、福祉事務所に相談に行ったが、子どもを元夫に預けるように言われた」「病気(肺炎)で仕事がない。福祉事務所に相談に行ったが、別世帯の母に面倒をみてもらうように言われた」など、扶養義務者の現状を把握することもなく、むしろ扶養義務者が存在することが、申請を受け付けない理由となっているケースが多く見受けられた。扶養義務自体と現実的な扶養義務の履行可能性とは分けて考えるべきであり、要保護者のこれまでの親族との関係・経緯などを鑑みて、実際に扶養義務の履行が期待できないケースに関してまで、扶養義務の履行を要保護者に求めることは、生活保護の申請権を侵害することにも繋がるため、扶養の調査に在り方に関しては、その実行性を含め、再度の検討が必要と思われる。

第5 制度の実施体制について

(1)保護の財源について
 三位一体改革の流れを受け、生活保護の財源を現在以上に地方自治体に求めることは問題である。生活保護の実施機関である地方自治体が、保護費の大部分を負担することになれば、地方自治体の財政苦を理由に、生活保護費の削減がはかることは想像に難しくない。これにより、今以上に新規の保護申請の拒否、被保護者への保護費減額・保護廃止の強要が行われ、要保護者・被保護者の生活が脅かされる事態が予想される。地方自治体が、予算的な制約を有しながら、生活保護の実施にあたること自体に無理があるといえる。また、地方によって、生活保護の内容が変わってくることも予想され、生存権の中身が各地で異なるという自体に発展しかねない。
 今後の年金制度の在り方次第では、今以上に生活保護受給世帯が増加することが想定される以上、財源を地方自治体に求めるのではなく、国がその責務として、生存権の保障にあたることが求められ、そのための財源措置を検討することが急務である。

第6 その他の指摘事項について

(1)報告書に上げられた指摘事項のうち、(6)生活保護の第三者による評価機関の設置に関しては賛成である。CWによる申請拒否や不当な保護の停廃止が行われていることの相談が非常に多く寄せられており、それを防ぐ方策の一つとして、オンブズマン制度の導入を検討すべきである。
 前述のとおり、現在の生活保護制度は、申請権・受給権の侵害等の重大な人権侵害が発生していると言わざるを得ない。これらは、生活保護の実施機関である福祉事務所及びCWの自助努力のみで改善される性質のものではない。これらの権利侵害を最小限に防ぐには、生活保護行政に対し、第三者機関が監視監督する必要があると考える。そのためには、オンブズマン制度の導入が強く望まれる。具体的には、司法書士・弁護士の法律専門職、社会福祉士等の福祉専門職等を活用し、生活保護制度がより被保護者にとって、自立助長になるよう積極的に関与していくべきである。

(2)後見扶助の新設について
 現行では、被保護者が認知症・知的障害・精神障害などの理由により、判断能力が低下し、成年後見対象者となったとしても、その者の成年後見制度を利用するための費用は生活保護費からは支出できないとされている。このような場合、後見開始等の申立てをすることもできず、万一、市町村長による申立てがなされても、後見事務に対する報酬は、成年後見制度利用支援事業を利用する以外に手段はないが、その制度も利用するには様々な条件があり、しかも財源が不足しているので、すべての利用者の需要に応えるだけのものではない。その結果、成年後見制度の利用が必要な方も、制度を利用できずに、自らの権利を護れないでいる。言ってみれば、最も権利が侵害されやすく、第三者による権利擁護が必要な状況にある人たちが、事実上、その機会すら奪われているに等しい。
 特に、障害があることによって、就労できず生活に必要な収入が得られないことも多く、その結果、生活保護を受給することも多いことも考えると、生活保護にとって、成年後見制度は切り離して考えることができないものである。
 そこで、被保護者が、判断能力が低下した場合及びその場合に備えて、成年後見制度活用に必要な費用(鑑定料、登記印紙代、親族以外の第三者の成年後見人報酬、任意後見契約における公正証書作成料等)を支給できるよう、「後見扶助」の創設を提言する。

第7 報告書の与える影響について

 最後に、当会は、報告書の今後の生活保護行政に与える影響に関して、問題視する。生活保護は、同法8条において、「要保護者の年齢別、性別、世帯構成別、所在地域別その他保護の種類に応じて必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要を満たすに十分なもの」と規定されている一方、その基準は、厚生労働大臣が定めるとされている。つまり、生活保護の基準は厚生労働大臣の裁量に任されているのであり、法律に基づいてその基準が設けられているのではない。そのため、報告書の内容は、即座に厚生労働省の保護基準の見直しに反映され、事実、母子加算や老齢加算に関しては、段階的な廃止の方向性が打ち出されている。報告書が今後の生活保護の在り方を被保護者の立場からも検討するのであれば、まず、この生活保護制度が裁量行政に基づいてなされているものだということを問題視すべきである。また、報告書の意見が前記の通り、実際の保護基準の見直しに反映されているのであれば、専門委員会の意見が結果として、憲法25条の生存権の具体的内容を決していることになることも問題である。国には、国民の生存権を保障する責務があることは言うまでもないが、その具体的内容を一つの委員会の報告書に求めるのは、生活保護制度が裁量行政に基づいてなされていることを鑑みても行き過ぎであり、そのような権限は専門委員会にはないと考える。         以 上
   



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