司法制度改革の時代を司法書士として生きる!
〜全青司活動現場からのレポート〜




「消費者契約法の一部を改正する法律案の骨子」に対する意見と「利益の吐き出し法制の実現に向けた提言」(制度委員会消費者法制部会) (平成18年1月25日)

1.「消費者契約法の一部を改正する法律案の骨子」に対する意見

 本年度の全青司制度委員会消費者法部会(中里功常任)においては、近く法制化される消費者団体訴訟制度についての研究を進めてまいりました。
 言うまでもなく、消費者団体訴訟制度は、消費者被害の未然防止・拡大防止をはかるために、一定の消費者団体に訴訟を起こす権利を認める制度です。いわゆる消費者被害では、個々の被害額が比較的少額なこともあって、裁判を起こすことによる費用・時間・専門知識などにおける敷居は高く、結果として泣き寝入りを余儀なくされている事案が多いことが指摘され続けてきました。この消費者団体訴訟制度が実現すれば、被害拡大の原因となっている不当な行為(不当契約条項の使用や不当勧誘行為)を止めさせることが可能となり、すでにトラブルに巻き込まれている被害者も、事業者との交渉や自身の裁判において消費者団体の勝ち得た判決の効果を享受することが可能となります。すなわち、消費者団体訴訟制度においては、直接の当事者ではない消費者団体が消費者全体の利益を守るために裁判を起こすことを可能にするという画期的な制度であります。
 既に、この制度の担い手となることを想定した団体が2つ設立されています。消費者機構日本(東京)、消費者支援機構関西(大阪)お二つであり、今後、同様の消費者団体が各地で設立される予定と聞き及んでいます。既に設立されている消費者機構日本においては、山田茂樹常任幹事(静岡会)と大冨直輝幹事(東京会)が役員に就任しており、この消費者支援機構関西においても、準備委員等として川戸周平(京都会)常任幹事、そして理事として村山泰弘会員(大阪会)が参加されています。今後、設立される予定の消費者団体においても、是非、多くの司法書士が積極的に運営に携わっていただき、また、会員として支援をしていただきたいと考えています。
 さて、今般、消費者団体訴訟制度についての意見募集が行われましたので、これに対する意見書の提出に加え、さらに実効性の高い制度にするべく、提言書を併せて提出させていただきました。
 特に後者につきましては、制度委員会消費者法部会(中里功常任、小口一成幹事、大島徹也幹事)の力作です。是非、ご一読ください。

 消費者団体訴訟は、消費者被害の発生又は拡大防止を目的に創設が検討されているところ、骨子では、「濫訴の防止」という経済界からの要請を重視するあまり、合理的理由を明確にすることなく民事訴訟法の原則を修正したり、消費者団体訴訟の担い手となる消費者団体に過度の負担を強いたりする規定が、多岐にわたり見受けられる。
 骨子では、不当な条項・表示・広告・勧誘を類型化し(以下、「不当条項等」,事業者によるこれらの行為を「不当条項等の使用」という)、適格消費者団体に対し、事業者による不当条項等の差止めを認める旨を指摘する。類型化された不当条項等は、一定の法律違反行為に限定されているのだから、本来であれば事業者のコンプライアンス精神に委ねられる問題である。法を遵守しない悪質事業者が後を絶たないところに差止めの必要性が生じるのであるから、消費者団体訴訟は、事業者に対し不相当に過大な負担を強いるものではない。
 一方で骨子では、消費者団体訴訟制度の悪用が可及的に防止される措置が講じられており、経済界の懸念する「濫訴」自体、生じるおそれは極めて少ない。
 ところで、本制度が効果的に機能するためには、消費者団体が活動の自由を保障されており、または不相当に過大な負担を強いられていないことが必要となる。この点から骨子では、一部に消費者団体訴訟の実効性を減退させる規定が存在する。
 以上の前提に立ち、当会は、骨子に対し下記のとおり意見する。
 なお、意見中の符号は、すべて骨子に記載の符号に対応するものである。

第1 賛成。

第2−1
(意見1)差止請求の対象を消費者契約法違反に限定せず、少なくとも以下の行為を含めるべき。
A)民法の詐欺、強迫及び公序良俗違反行為
B)特定商取引法及び割賦販売法違反行為
(理由)A)につき、消費者契約法の一般法であり、同法違反行為よりも事業者の悪質性は著しいため。B)につき、多発する消費者被害の原因となっているため。
なお将来的には、景表法、借地借家法等、消費者保護を目的としたあらゆる法律の違反行為を対象に含めるべきである。

(意見2)不当条項等の使用を推奨する又は推奨するおそれがある場合を、差止請求の対象とすべき。
(理由)多くの事業者は、業界団体に加盟していることが通常であり、業界団体の作成する標準約款等を利用し個々の契約を締結している。
 よって、標準約款等に不当条項等が存在する場合、業界団体に対して差止請求することが、消費者被害の未然防止に寄与し、第1「目的」にも適うこととなる。

第2−2
(意見1)(1)−@の内、適格団体の認定は、行政から独立した第三者機関が担うべき。
(理由)差止め可否の判断は司法の場で争われるところ、消費者団体が自己の自由な判断で差止請求権を行使するためには、司法と行政の独立性が確保されなければならない。よって、適格団体の認定を内閣総理大臣に担わせることは不当である。

(意見2)(1)−A−イに反対。
(理由)法人格の取得を要件とすることは、法人格取得のための人的・金銭的・時間的負担、通常業務に加えた事務手続への対応等、過大な負担を強いる結果となりかねない。
 また、適格消費者団体に対し、主務官庁の監督下での活動を義務付けることは、司法と行政の独立という観点からも妥当でない。
 法の趣旨に適わない団体を排除するには、イを除くア乃至キで十分である。

(意見3)(2)−A−ア後段「専門性を有する第三者の調査」に反対。
(理由)各分野の専門家に対する第三者調査の義務化は、適格消費者団体に過大な金銭的・時間的負担を強いることになる。(2)−Aの各監督措置によって、適格消費者団体の適正な運営は十分に担保される。

第2−3
(意見1)@に反対。
(理由)消費者団体訴訟に限定した事前通知の義務化は、民事訴訟法の原則を修正する合理的理由が見出せず、導入に反対である。

(意見2)Bに加え、不当条項等が使用された地にも土地管轄を認めるべき。
(理由)悪質事業者の多くが無店舗販売の形態を採るため、Bだけでは不十分である。一方、不当条項が使用された地は事業者の営業エリアであるから、その地での応訴は、事業者に格段の負担を強いることにはならない。さらに、証拠調べの点でも利便性が高い。

(意見3)(注)(b)に反対。
(理由)消費者団体訴訟に限定して判決の既判力を第三者及ぼしむることは、民事訴訟法の原則を修正する合理的理由が見出せず、導入に反対である。

第2−4
(意見1)消費者団体訴訟に、損害賠償請求訴訟の制度化を求める。
(理由)本意見書の附属資料「利益の吐き出し法制の実現に向けた提言」記載のとおり。

(意見2)適格消費者団体に対する、行政の財政的支援の制度化を求める。
(理由)適格消費者団体の収益は、寄附金や出版物等の販売収益等に限定され、その財政基盤は一般的に不安定であることが予測される。また、差止請求は、消費者団体自身の利益を目的とするものではなく、消費者全体の利益を目的とするものである。
 消費者団体訴訟が効果的に機能し、その目的を達する為には、訴訟を担う適格消費者団体の経済的安定は不可欠であるし、消費者基本法の定める国の責務にも合致するものである(同3条,26条)。
   


2.利益の吐き出し法制の実現に向けた提言

「提 言 の 趣 旨」

 事業者の違法・不当な行為によって消費者が損害を受けた場合に、個々の被害者だけでなく、一定の要件を備えた消費者団体が、当該事業者に対して裁判上および裁判外において損害賠償請求をなしうる法制度を早期に導入すべきである。

「提 言 の 理 由」

第1 我が国の法制度の現状と問題点

(1)現状
 平成17年夏、高齢者らの自宅を訪問して虚偽の事実を告げるなどし、不必要なリフォーム工事契約を締結させて代金を騙し取った容疑で都内の住宅リフォーム業者が摘発された。本件では全国30以上の都府県の約6000人が被害に遭い、被害総額は115億円にも上ると言われている(平成17年6月30日付毎日新聞朝刊)。このように全国規模で被害を発生させたリフォーム業者の摘発は我が国では極めて異例のことである。
 しかしながら、全国の消費生活センターに寄せられる消費者からの訪問販売や電話勧誘販売等に関する苦情・相談の統計を見れば、こうした消費者被害が極めて日常的に発生していることは疑いようのない事実であり、前記リフォーム業者の摘発によって明るみとなった被害は氷山の一角に過ぎない。
 現実に日々起きている膨大な消費者被害に対し、官憲による摘発が不充分であるという問題に加えて、我が国では刑事法と民事法が厳格に分離され、互いに独立している。そのため、前掲のごとき悪質業者が幸いにして摘発され、刑事処分を受けたとしても、個々の消費者が被った損害は回復されない。現状では、個々の被害者が自ら相手業者と交渉し、あるいは民事訴訟を提起するなどして損害賠償請求権を行使するか、支払済みの代金について不当利得返還請求権を行使しない限り、違法・不当な行為によって得た利益は悪質事業者の手元に残る結果となる。
 消費者被害の特徴として、個々の損害額が比較的少額であり、そのため損害回復のための時間的・金銭的負担が損害額に比して著しく大きい点があげられる。このことが、個々の消費者に自らの損害を回復するための行動を起こすことを躊躇させるとともに、事業者に違法・不当な行為によって獲得した利益の保持を許してしまう一因となっている。
消費者被害のもう一つの特徴として、消費者と事業者との間における情報量及び交渉能力の圧倒的格差の存在がある。前記のような消費者被害は、契約当事者以外の第三者が現場に居合わせない、いわゆる「密室」で起きることが多く、そのため損害を受けた消費者の側には充分な証拠が存しないのが通常である。このことが、個々の消費者の損害回復を一層困難にさせている。
 これら消費者被害特有の問題に加えて、悪質事業者の取締りが不充分であること、さらには刑事法と民事法の分離による弊害とがあいまって、悪質事業者を「どんなに悪いことをしても捕まるはずがない。万一捕まったとしても得た利益は手元に残る」という心理に誘う。このことが、悪質商法が叩いても叩いても無くならず、次から次へともぐら叩きのようにして発生し、悪質事業者を肥え太らせ、消費者被害を増大させている最大の要因であるといっても過言ではない。彼らに「やり得」を許してしまっているという意味において、我が国の法制度には重大な欠陥がある。消費者被害を根本から絶つためにも、彼らに「リスクを犯してまで悪事をはたらいても割りに合わない」と思わせる仕組みを作ることこそが必要である。

(2)組織的犯罪処罰法の改正に向けた動き
 現在、法制審議会刑事法部会では、一定の犯罪行為が行われた場合に、犯人から犯罪収益を剥奪し、被害回復に充てるための新たな法制度の導入が検討されている。
 この新たな法制度は、「1.犯罪被害財産の没収及びその価額の追徴等」、「2.被害回復給付金の支給手続」を骨子としている(http://www.moj.go.jp/SHINGI2/050721-1.html)。
 上記骨子案では、一定の場合に限って国が「犯罪被害財産」を没収した上で、これを「被害回復給付金」とし、犯罪被害者からの申請を待って支給するとされている。しかしながら、本制度の対象は「犯罪の性質に照らし、組織的犯罪処罰法13条2項に規定する罪の犯罪行為により被害を受けた者が、その被害の回復に関し、犯人に対する損害賠償請求権その他の請求権を行使することが困難であると認められるとき」などの一定の場合に限定されているため、事業者による違法・不当な行為によって消費者が損害を受けたとしても、組織的犯罪処罰法が適用される犯罪行為に該当する場合でなければこの制度の対象とはならず、消費者の損害回復はなされない。
 上記制度は、ヤミ金融や暴力団等の関与のもとに惹き起こされる一定の犯罪行為による犯罪被害者の救済という意味では画期的であり、有効な手段となり得るが、特定商取引法違反等の組織的犯罪処罰法が適用されない行為による消費者被害が日常的に生じている点に鑑みれば、消費者被害の未然防止及び損害回復のための手当てとしてはいまだ不充分である。 

(3)「消費者団体訴訟制度の在り方について」の問題点
 平成17年6月23日付けで消費者団体訴訟制度検討委員会がとりまとめた「消費者団体訴訟制度の在り方について」(以下、「報告書」という)は、一定の条件を満たした消費者団体に、消費者契約法に違反する契約条項や勧誘行為の差止請求の訴権を認めるべきであるとしながらも、消費者団体への損害賠償請求権の付与については、以下のとおり「制度の必要性も含めて、慎重に検討されるべきである」としている。
 すなわち、報告書は、
@ 「消費者被害は、同種の被害が多数の者に及ぶものの、個々の消費者に生じる被害額が比較的少額であることから、事後の被害救済を求めて個々の消費者が訴えを提起することは困難な場合が多い。このため、消費者団体が個々の被害者に代わって損害賠償を請求するといった制度の導入が必要との考え方がある」とした上で、
A 「この考え方は、個々の被害者が損害賠償請求権など事業者に対する何らかの請求権を有していることを前提として、少額多数被害救済の実効性を確保しようとするものである。しかしながら、このような少額多数被害救済のための手法については、消費者団体が損害賠償などを請求する制度以外にも、さまざまなものが想定され得る」としている。
B さらに、「実際こうした観点から、選定当事者制度の改善がなされ、その他司法アクセスの改善など、個人が訴えを提起することに伴う困難性そのものを改善しようとする具体的な施策が講じられつつある」とした上で、
C 「このように、消費者団体が損害賠償などを請求する制度の導入については、上記のような手法の展開を十分に注視し、その上で、同制度の必要性も含めて、慎重に検討されるべきである」としている。
D さらに、欄外に「注」を設け、「なお、消費者団体による損害賠償の請求に関しては、消費者個人の損害賠償請求権を前提としない考え方(利益の吐き出し請求等)もあるが、そのような考え方は、我が国において一般的ではなく、慎重な検討が必要と考えられる」と述べている。
 当会は、報告書が指摘するように、少額多数被害救済のための手法が消費者団体による損害賠償請求に限られるものではなく、上記Aのとおり「(同制度以外にも)さまざまなものが想定され得る」こと、さらにそうした観点から、上記Bのとおり「選定当事者制度の改善」や「司法アクセスの改善」といった施策が講じられつつあることについて異論は無い。
 しかしながら、以上の点を根拠とし、上記Cのとおり「上記の手法を十分に注視し、その上で、同制度の必要性も含めて、慎重に検討されるべきである」と結論付けている点には、以下の理由により疑問を呈する。
 第一に、選定当事者制度についてであるが、そもそも同制度の趣旨は、共同訴訟人が多数になることの弊害(送達事務の繁雑化、訴訟費用の増大、当事者の一人に中断事由が生じることにより審理の進行が揃わなくなり訴訟が長期化する等)を除去し、訴訟当事者を少なくすることで訴訟手続きの単純化、迅速化を図ることにあり、制度の沿革からしても、少額多数被害の救済を目的としたものではない(小林秀之編著「新民事訴訟法の解説」新日本法規 68〜69頁)。確かに、平成8年の民事訴訟法改正の過程では、当初、少額多数被害の救済を促進する見地から、選定者募集のための広告制度の導入をも含めた選定当事者制度の拡充が検討されてはいたが、経済団体などからの反対により立法化に至らなかった。結局、同年の改正では、選定当事者制度による訴訟追行が生ずる場合として、従来の類型に加えて、新たに、他人間に訴訟が継続している場合に、選定当事者及び選定者と共同の利益を有する者であって当事者となっていない者が、その選定当事者を自己のためにも選定当事者として選定することができることを認めたに過ぎず、選定当事者制度が利用されない理由として従来から指摘されていた、個々の選定行為、すなわち「書面による授権」を要件としている点は変更されていない。また、選定当事者制度を利用し得るためには、多数の者が「共同の利益」を有していなければならないところ、冒頭で述べたような消費者被害における契約時の状況は、個々の消費者ごとに異なることから、このような場合に果たして「共同の利益」を有すると言えるかについても疑義がある。
 第二に、司法アクセスの改善については、日本司法支援センターを中心とした総合法律支援構想や弁護士の大幅増員、ADRの拡充、司法書士への簡裁代理権の付与等の様々な施策が講じられつつあるものの、これらの施策によって司法アクセスの抜本的な改善が図られるにはなお相当の年月を要すると考えられること(我が国の民事法律扶助制度に充てられる国家予算が諸外国に比べて圧倒的に少ない点からも、そのような予想を立てざるを得ない)。
 ところで、報告書は、損害賠償制度それ自体の持つ、「利益の吐き出し」という機能の重要性について全く言及していない。上記Dでは、「利益の吐き出し」を、消費者個人の損害賠償請求権を前提としないものと位置付けた上で、「消費者団体による損害賠償請求の根拠を利益の吐き出しに求めようとする考え方は我が国において一般的ではない」と結論付けている。しかし理論的には、消費者個人による損害賠償請求が徹底された場合、事業者が不当に得た利益はすべて吐き出されることとなる。その意味では、損害賠償請求と利益の吐き出しは表裏の関係にあるのだ。ところが現実は、先に指摘した選定当事者の件や司法アクセスの件のように、法の考える制度理念が必ずしも十分には機能せず、このために個々の消費者による損害賠償請求権の行使が消極的となり、結果的に不当な利益が事業者の手許に残されてしまうのである。
 違法事業者から不当な利益を吐き出させることの必要性は既に指摘したとおりであり、報告書がこの点に全く言及せずに「制度の必要性も含めて、慎重に検討されるべきである」としている点には大いに疑問が残る。むしろ、消費者団体訴訟制度の導入を契機に、悪質事業者への制裁と再発抑止機能を重視した、新しい発想に基づく損害賠償請求の制度化が強く求められる。

第2 諸外国の法制度

(1)英米法と日本法の背景の違い
不当な利益の吐き出し法制について報告書は、わが国の実情に馴染まないとの理由で導入には極めて消極的な立場を取る。一方で諸外国の法制度を俯瞰すると、いわゆる懲罰的損害賠償制度を含んだ、悪質事業者が不当に得た利益を吐き出すことを目的とする法制度が確立している国が多く、これが消費者団体訴訟制度の一環として制度化されている国も少なくない。 ところで、不法行為法の機能については、@)いったん被害者に生じた損害を加害者に回復させることにより、加害者被害者間で財産状況の調整を図ることを目的とするもの、A)それに加えて損害賠償制度が存在することで潜在的な加害行為を抑止できるという副次的効果までをも目的とするもの、の二つに大別されると説明される。
不法行為法の「損害補填機能」を重視する前者は、ヨーロッパ大陸法系の国々で採用されている考え方であり、日本の不法行為法もこの立場をとる。損害賠償を文字どおり「生じた損害の補填」に留めるべきとするこの考え方は、被害者の焼け太りを許さないことにもつながる。
 一方、「損害抑止機能」に注目する後者は、英米法系(コモン・ロー)の国々で採用されている考え方であり、損害補填機能を基本に置きつつも、それと共に、損害賠償制度に加害者の悪性に着眼した制裁機能を認めている。後述するように英米法系、ことにアメリカでは、「名目的損害賠償」や「懲罰的損害賠償」といった、もっぱら制裁機能に着目した損害賠償制度も確立している。
 日本に比べ、アメリカにおける損害賠償額が著しく高騰化する理由は、以上のような法制度の違いに起因するのである。

(2)ドイツでは
 ドイツでは、2001年の法律相談法の改正により、公的資金援助を受けている等の一定の要件を満たした消費者団体が、消費者から損害賠償請求権の譲渡を受けて、事業者に対し、損害賠償請求をなすことが可能となった。法律相談法とは、日本における弁護士法72条とその例外に相当する法律で、他人間の法律問題の処理を一定の資格を有する者に限って取り扱わせようとするものである。同法により、消費者団体が一定の活動(法律問題の処理など)を行うことが認められている。 すなわち、同法の2001年改正により、「公の資金により支援された消費者センター及びその他の消費者団体が、消費者保護の利益において要求される場合に、消費者から回収目的で債権の譲渡を受け、裁判上の回収を行うこと」が許されるに至った(法律相談法1条3項8号)。これにより、消費者団体が消費者から損害賠償請求権等の譲渡を受けて、事業者に請求することが可能となったのである。消費者から債権の譲渡を受ける際に、消費者と消費者団体との間で、回収が受けられた場合の金銭の分配について合意することも可能であるとされている。
 また、2004年7月には不正競争防止法の全面的な改正が行われ、事業者が不正競争行為によって得た利益を剥奪するための新たな制度として、消費者団体に対して、事業者の不正な利得を国庫に納付させる「利益剥奪請求権」が付与された。すなわち、同法に故意に違反して多数の購入者の負担で利益を獲得した者に対して、その利益を国庫へ返還するよう請求する訴権が消費者団体に認められたのである。訴権を行使した消費者団体は、訴訟に要した費用を、国庫に納められた利益の金額を限度として、連邦機関に請求することができるとされている。

(3)フランスでは
 フランスでは、個人の利益と公益の中間に位置する、消費者全体・労働者全体といった一定の集団に共通する利益(集団的利益)の存在を積極的に承認するという社会的背景により、1973年に、消費者の集団的利益を保護するための訴訟提起権限(民事訴権)を消費者団体に対して認めた。さらに現在では「民事訴権」を含め、次の4種類の団体訴訟制度が消費者団体に認められている。
@ 「民事訴権」
 民事訴権とは、刑事事件の被害者が被った損害の賠償を求める訴権である。消費法典L421−1条は、刑事事件の被害者に認められたこの権利を、消費者の集団的利益を侵害する事件に限り、認可を受けた消費者団体にも認めている。フランスにおいては、消費者を保護するための規制の多くに刑事罰の規定が設けられているため、事業者による違法行為のかなりの部分について消費者団体が訴権を行使することが可能となっている。民事訴権を用いた消費者団体による損害賠償請求は、消費者の集団的利益が害されたことに対する賠償を求めるものであり、この点で個々の消費者に生じる損害とは異質のものとされている。そのため、事業者から支払われた賠償金は消費者団体が独自に取得することになる。
A 「不正行為差止訴権」
 刑事罰の課されない消費者保護法規に対する事業者の違反であっても、消費者団体のイニシアチブにより差止めを求める訴訟制度。
B 「消費者個人による損害賠償請求訴訟への参加」
 刑事罰の課されない消費者保護法規に対する事業者の違反であっても、消費者による損害賠償請求訴訟が先行して提起されている場合には、この訴訟に消費者団体が訴訟参加して、当該事業者に対して損害賠償請求や差止請求をなすことを認める制度。
C 「共同代理訴訟」
 複数の消費者から書面による委任を受けることを条件として、消費者団体が、彼らの損害賠償請求権を代理して行使することを認める制度。
 このようにフランスには消費者団体が行使できる数種類の訴訟制度があるが、この中で最も活用されている制度は「民事訴権」であり、2002年の1年間に提起された民事訴権による事件数は464件に上る。しかしながら、現実に認められる賠償額は少額であることが多い。このことから、フランスにおいて、消費者団体がイニシアチブをとって損害賠償(金銭)請求をする「民事訴権」制度は、利益の吐き出しよりも、むしろ犯罪の抑止的機能により、消費者被害の未然・拡大防止に一定の効果をあげているといえる。

(4)アメリカでは
 アメリカでは、消費者個人による損害賠償請求権の行使を後押しする制度として、次の四種類の制度が存在している。
 @「クラスアクション」
 クラスアクションは、共通の利害関係を有する一定の範囲の多数者を代表して、一人又は数人が、全員のために原告として訴え、又は被告として訴えられる形態の訴訟である。一つの加害行為によって多数の被害者が存在しているものの、一人一人の被害額は小さく、個々に訴訟を提起していては経済的に釣り合わない場合に、複数の請求を統合することを可能にするものである。クラスアクションの結果としての判決、和解の効果は、クラスの全構成員に及ぶのが特徴である。
 A「名目的損害賠償」
 名目的損害賠償は、補填すべき実質的な損失が認められないか、又はそれを証明することが困難である場合にも定額の損害賠償を認めるものである。
 B「重畳賠償」
 重畳賠償は、ある行為によって一人の消費者が被る損害は小さくても、不当な行為によって事業者が得る利益が大きい場合に、特定の消費者による訴訟提起の果たす公益的な役割を評価し、それを促すために実際に受けた損害額の二倍、三倍の賠償を認めるものである。
 C「懲罰的賠償」
 懲罰的賠償は、非道な行為をなした者を処罰し、当該行為をなした者だけでなく、他の者が将来において同様な行為を行うことを抑止する目的から、実際の損害額を超えて高額な賠償を認めるものである。
 さらに、アメリカにおいては私人による民事訴訟の提起だけでなく、行政が主体となって民事裁判を提起し、あるいは行政処分によって、違法行為者に対して民事制裁金を課す制度や、行政が被害を受けた消費者に代わって損害賠償請求訴訟(民事裁判)を提起し、あるいは行政命令によって、違法行為者から賠償金ないし不当な利益を吐き出させた上で、これを被害者に分配する制度(父権訴訟・ディスゴージメント)が存する。
 このようにアメリカでは、私人および行政がそれぞれの立場で法の執行主体としての重要な役割を果たし、事業者が違法・不当な行為によって得た利益を徹底的に吐き出させることで、悪質事業者のやり得を許さない仕組みが構築されている。
(5)台湾では
 台湾では、1980年創立の民間団体である中華民国消費者文教基金会(以下、「消基会」という)が、長年にわたって消費者の権益を保護する機能を果たしてきた。消基会は、消費者からの苦情を受け付け、トラブル解決に向けた交渉や、企業への賠償請求を支援する団体として、1981年から90年の10年間に、4万件近くの苦情を受理している。
 その後、1994年に施行された消費者保護法に基づき、行政院に「消費者保護委員会」が設置されるとともに、各県や市にも消費者サービスセンターが設置されている。同法には、20人以上の被害者が集まれば消費者保護委員会が消費者に代わって団体訴訟を提起し、損害賠償を請求できる旨の規定が置かれている。

第3 提言

(1)消費者団体に損害賠償請求権を認めるべきである
 事業者の違法・不当な行為によって消費者が損害を受けた場合には、被害を受けた個々の消費者だけでなく、一定の要件を満たした消費者団体にも損害賠償請求権を認めるべきである。その理由は、すでに述べたとおり、事業者が違法・不当な行為によって獲得した利益を吐き出させることで、当該事業者及び他の者が今後同様な行為をなすことを防止する必要があることと、少額多数被害のケースにおいて、個々の被害者の損害回復を可能にすることの二点に求められる。
 この場合、現実に損害を受けたわけではない消費者団体が、損害賠償請求をなし得る根拠をどこに求めるかが問題となる。この問題を解決するためには、個々の消費者の持つ損害賠償請求権を前提としながらも、従来の我が国における不法行為理論の枠を超えた新たな損害賠償制度の創設が必要と考える。ここにおいて、前述のフランスにおける「集団的利益」という考え方を参考にし、公益と私益の中間に位置付けられる集団的利益の追求のための新たな権利としての損害賠償請求権を消費者団体に付与することを提唱するものである。
 すなわち、個々の消費者による損害賠償請求権の単純な総和としての損害賠償請求ではなく、消費者団体が独自に、集団的利益の追求のために事業者を訴えることを認めるべきである。先の報告書の言を借りるならば、「このような考え方は我が国において一般的ではない」が、社会において真に有用な制度であるならば、たとえそれが我が国において一般的ではなくとも、積極的に立法化を検討すべきである。既に述べたように、現にアジア及び欧米諸国においては消費者被害の未然防止及び損害回復のために様々な工夫を凝らした法制度が整えられており、我が国は後塵を拝していると言わざるを得ない。我が国においても、前述のとおり、一定の犯罪行為が行われた場合に犯人から犯罪収益を剥奪し被害回復に充てるといった、これまでに無かった、その意味ではまさに「我が国において一般的でない」全く新たな法制度の導入が検討されている。躊躇すべき理由は何ら見当たらない。

(2)当会が提言する損害賠償制度
 消費者被害の未然防止及び損害回復を図るべく、事業者が不当に得た利益を吐き出させ、可能な限り消費者の損害回復に充てるとの理念に基づき、概ね以下のような制度とすべきである。
@一定の要件を満たした消費者団体(報告書における「適格消費者団体」を指すこととし、以下、「適格消費者団体」という)が、事業者に対して損害賠償請求(訴訟外での請求も含む)をなすことを認める。
 適格消費者団体に認められるべき損害賠償請求の対象(範囲)については、フランスの民事訴権に倣い、刑罰法規に違反した場合に限るとする考え方や、台湾の消費者保護法を範とし、一定の人数以上の被害者が集まることで提起を可能とする考え方、あるいはより広範に、適格消費者団体が事業者による一定の違法行為及びそれによる消費者被害の存在を知った場合に提起できるとする考え方などが想定される。
 この点、日本法は、フランス法のように刑事罰の設けられた消費者保護規定が多くないため、損害賠償請求権の対象を刑罰法規違反行為に限定することは、その実効性を期待できない結果を招く。その一方で、経済界の指摘する「濫訴の防止」もまた重要な課題の一つであることは確かであるから、台湾方式を採用し、被害者の人数としては10〜20名程度の比較的少人数と定めることが適当であろう。
A適格消費者団体が請求できる損害賠償の性質はどう考えるべきか。この点は、以下の四点を基本とすべきである。
@)公益と私益の中間に位置する「消費者全体の有する集団的利益」の存在を認める。ここにいう「集団的利益」とは、消費者被害を未然に防止する利益ないし消費者被害の拡大を防ぐ利益と考えられる。
A)事業者の行為により、一定人数以上(10〜20名とするのが適当であることは先述した)の消費者が損害を被った場合、当該集団的利益もまた侵害されたものと評価できる。
 ところで、適格消費者団体は、当該集団的利益の確保を目的とする団体である。よって適格消費者団体は、個々の被害者の被った実損害に加え、当該集団的利益が害されたことによって、消費者全体あるいは適格消費者団体自身が被った損害の賠償をも、請求することができる。
B)この場合の「損害」は、次のふたつに大別できる。
 ひとつは、個々の消費者の被った実損害であり、この点は、従来の不法行為法における損害補填機能から導かれる。
 もうひとつは、集団的利益が侵害されたことによって消費者全体あるいは適格消費者団体自身が被った観念的損害である。この点は、不法行為法のもうひとつの機能である損害抑止機能から導かれる。
 そもそも、消費者団体訴訟に損害賠償請求訴訟を導入することの必要性は、従来の損害補填機能だけでは、現実の被害回復に様々な困難が伴い、結果として事業者に不当な利益が残ることにつき、立法的な解決を図ることにある。であれば、損害抑止機能に注目した、集団的利益の侵害に対する損害を積極的に肯定し、事業者には個々の被害者の被った実損害以上の賠償義務を課すことは、社会の要請なのである。
C)集団的利益の侵害に対する損害は観念的損害であるから、その額は、一定のルールを定め、そのルールに基づき算定されなければならない。
 考えられるルールとしては、アメリカの重畳賠償を範とし、個々の消費者の被った実損害の総和と同額とする方法や、あるいは、我が国の独占禁止法7条の2を範とし、個々の消費者の被った実損害の総和に一定の率を乗じる方法等が考えられる。  なお、いずれの場合も、消費者の被った実損害の総和を適格消費者団体が主張立証しなければならないが、この点は、事業者の顧客名簿や販売伝票や銀行口座を調査したり、提携先の信販会社に報告を求めたりする方法により、相当程度の特定が可能となろう。
D)適格消費者団体は、消費者の権利擁護を目的とする団体であることから、当然に被害者から被った損害を賠償する権限を委任されているものとし、被害者から事前に委任を受けていなくとも、事業者に当該権利を行使することができる。ただし、適格消費者団体に自己の権利を行使されたくない被害者のことを考慮し、アメリカのクラスアクション制度を参考に、適格消費者団体が被害者の被った損害を賠償する権利を行使する場合は、一定期間、官報及び適格消費者団体のホームページ等に、行使する権利の内容及び当該権利を行使されたくない被害者は届出をする旨を告知しなければならいとする制度を設ける(被害者から届出があった場合は、当該被害者の損害については、適格消費者団体が行う損害賠償請求から除外される)。
B賠償金の支払先として、新たに「消費者基金」を設立する。「消費者基金」設立の提言は、既に独立行政法人国民生活センター発行の報告書「消費者取引分野の違法行為による利益の吐き出し法制に関する研究」においてなされている。同報告書は、「消費者基金」について、「実際の被害者に直接支払うことが困難な損害賠償金の支払先としてや、違法に得た不当な利益の吐き出し先として、財団法人、公益信託、ないしはNPO法人の形で設立することが構想されている」(同報告書87頁)との構想を述べている。
 さらに、「消費者基金」を設立する必要性については、「このような基金を考えることの必要性は、違法行為によるやり得を許さないという理念と、支払いを迫る法執行主体に帰属すべきでない金銭的利益が帰属することを防止するという理念を両立させることにある」(同報告書87頁)と述べている。
 当会は、新たに「消費者基金」を設立すべきであるとする上記の提案に賛同するものである。 C「消費者基金」は、一定の期間内に被害の届出をしてきた消費者に対して弁済又は配当をなすべき旨を公告する(知れたる被害者には個別に通知する)。
D現在、法制審議会刑事法部会で検討されている財産犯等の犯罪収益の剥奪・被害回復に関する法案を参考に、消費者が被害の届出をなすにあたっては、一定の期間内に書面にて、自己が被害者であること及び当該被害額の疎明を必要とし、被害者及び被害額の判断は、「消費者基金」によって設けられた、消費者基金の理事、弁護士、司法書士等で構成される専門委員会が行うものとする。
 なお、消費者が、自らの権利行使によって、損害を回復している場合は、配当の対象にはならない。
E事業者から消費者基金に支払われた金銭が、期間内に届出のあった全ての消費者の被害額の総額を上回るときは、届出のあった全ての消費者の届出債権額に応じて弁済を実施し、残った資金は消費者基金においてプールしつつ、消費者の利益となる事業に役立てることとする(もしくは消費者団体に返還することも考えられて良い)。
F事業者から消費者基金に支払われた金銭が、期間内に届出のあった全ての消費者の被害額の総額に満たないときは、届出のあった全ての消費者に対し、その被害額に応じて按分配当を実施する。

第4 まとめ

 上述のとおり、消費者被害の未然防止及び損害回復を図る上で、我が国の消費者法制が抱える不備は極めて重大である。昨今の肥大化、深刻化を続ける消費者被害を前にしたとき、その不備はもはや看過することのできないものである。一方、既に述べたように、諸外国には、我が国には無い様々な法制度が存在し、消費者保護に一定の成果を上げている。
 以上の点を踏まえて、本提言は、現在我が国において立法化が検討されている消費者団体訴訟制度の一環として、適格消費者団体に損害賠償請求権を付与することの必要性を、強く訴えるものである。消費者被害の未然防止と損害回復のためには、悪質事業者にけしてやり得を許さず、彼らが不当に得た利益を徹底的に吐き出させ、可能な限り被害者への分配に充てることが、何にも増して重要であると考えるからである。

以 上

(参考文献)
@ 消費者取引分野の違法行為による利益の吐き出し法制に関する研究(独立行政法人国民生活センター調査室)
A 諸外国における消費者団体訴訟制度に関する調査(内閣府国民生活局)
B 新民事訴訟法の解説(小林秀之編著・新日本法規出版)


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