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弁理士 村山悦昭

  1. はじめに (2001/5/16)
  2. 特許出願の前に考えておきたいこと (2001/5/16, 2001/7/13修正)
  3. 特許ストーリーの登場人物 (2001/6/1)
  4. 特許事務所はどうやってさがせばよいか (2002/2/19)
  5. 特許権とは (2001/6/12, 2001/7/13修正)
  6. 特許を取得するための要件 (2001/7/3, 2003/1/9追加)
  7. 特許取得までの手続 (2001/7/13,2004/1/13修正)
  8. 職務発明制度 (2002/9/20)
  9. その他の制度(2001/7/25,2004/1/13修正)
  10. 特許を取得したあと (2001/8/30, 2002/12/10追加,2004/7/4修正)
  11. 外国への出願について (2003/7/15)
  12. 特許制度の目的 (2004/1/13)
  13. 実用新案制度について (2002/12/1,2004/7/1修正)
  14. 参考書・リンク (2002/12/1)

6 特許を取得するための要件

    特許を取得するためにはどのような要件を満たす必要があるかを、特許を受けようとする発明に対する要件と、出願手続上の要件に分けて見ていきます。

    「出願手続上の要件」はどちらかというと客観的に判断できる要件であり、出願前にしっかりチェックしておくべき要件でもあります。しかし「発明に対する要件」については、出願人はこれを満たしていると考えていても、特許庁の審査官がそう考えてくれないような場合もあります。このような時には、意見書という形で特許庁に出願人の考えを説明したり、出願書類の記載内容を補正したりして、特許の取得をめざすことになります (「7.特許取得までの手続」参照)。


発明に対する要件

  • 出願の対象が「発明」であること

    特許を受けるためには、特許出願の対象、すなわち発明として出願するものが特許法上の「発明」でなければなりません。特許法には「発明とは、自然法則を利用した技術的思想のうち高度のものをいう」と定義されており、特許庁の考え方も審査基準という形で公表されています。ここでは「発明」の定義のうちでよく問題になる点を以下に挙げてみます。

    自然法則を利用していること

    発明であるためには、自然法則を利用している必要があります。

    自然法則とは例えば、水は高所から低所に流れるとか、丸太は水に浮かぶというようなものです。ニュートンの運動法則のようなものはもちろん自然法則ですが、そのような法則だけではなく、経験上、一定の原因によって一定の結果が生ずるものすべてを含みます。機械的な装置のほとんどは自然法則を利用していますし、電気回路、コンピュータも同様です。

    このような自然法則について、発明者はその仕組みや理論をはっきり認識している必要もありません。また、その法則によって 100% 同じ結果が生じる必要もありません。むしろ基本的な発明は成功率が低い場合が珍しくありません。

    自然法則ではないものとしては例えば計算方法、作図方法などの人間が考え出したもの、金融制度、保険制度、遊技方法などの人間が決めた取り決めなどがあります。最近話題になっているビジネス方法も、それ自体は人間が決めたビジネスをする方法であって、自然法則を利用するものではありませんから、特許の対象である「発明」には該当しません (ただしその方法をコンピュータやネットワーク機器等の自然法則を利用した装置を使うことで実現するものであれば「発明」に該当する可能性があります (「ビジネスモデル特許・初めの一歩」参照)。

    また、特許法の条文でははっきりしていませんが、現在の特許庁の運用ではコンピュータプログラム、植物の新品種なども自然法則を利用しているものとしており、発明に該当します。

    技術的思想であること

    ここでいう技術とは、一般的な意味で使われる技術とほぼ同じと考えても間違いではありません。「芸術的な思想」の現れである文学や音楽が「発明」にはならないということです。なお、演奏技術や立法技術等も技術ですが、これらは自然法則を利用していないために、発明にはなりません。

    技術とは知識として伝達できる客観的なものである必要があります。したがって、カンとかコツというようなものは、教えられた通りにやってみても誰でも同じ結果が得られるわけではないため、技術には該当しません。例えば「フォークボールの投球方法」などは技術ではなく技能というべきであり、「発明」にはなりません (「フォークボールを投球するピッチングマシン」であれば発明に該当する可能性があります)。

    一方、思想とは技術そのものではなくその後ろにある抽象的な概念のことです。例えば、コンピュータプログラムの発明の場合、プログラムリスト自体は、そのプログラムを組んだプログラマが発揮した技術の結果ですが、これは「発明」ではありません。そのプログラムリストを作成する前の段階の発想、プログラムリストという形式で表現される基になるもの - フローチャートで表される問題解決方法など - が特許法の保護対象である「発明」なのです (なお、プログラムリスト自体は著作権法で保護される可能性があります)。

    創作したものであること

    創作したものとは、これまでなかった物やこれまでなかった方法を新たに創り出したということです。したがって、自然界に存在する天然物質を「発見」しても「発明」ではありません。ただし、自然界に存在する物質の中からある成分を抽出した場合は創作物に該当し「発明」となり得ます。

    なお、アメリカでは「発見」も「発明」の一種として特許の対象とされています。

  • 産業上利用できる発明であこと

    特許法は、産業の発達を通して日本国民の幸福を実現する法律です。したがって、産業上利用できない発明は特許の対象とされません。今日のほとんどの企業活動が産業上の活動と考えられます。かつては金融業 (銀行、証券会社)、保険業などはここにいう産業に含まれないと考えられていました。それはこのような業界では自然法則を利用した「発明」が活躍できる場がなかったからです。しかし現在では、情報技術の発達によってこのような業界でも多くの「発明」が利用されています。

    唯一産業から除外されているのは「医療業」です。病院などで使用される治療方法や診断方法等の発明は、人道上、人類のために広く開放すべきものだからです。ただし、医療業で利用される医療器具や医薬品は特許の対象です。

    また、個人的にしか利用できない発明 (風船ガムをふくらませる方法等)、学術、研究目的でしか利用できない発明、理論的には実施可能であっても実際上実施できない発明なども産業上利用できる発明には該当しませしません。

  • 新規性があること

    すでに他人が完成させ世の中に知られてしまった発明については特許を取得することができません。新規な発明であることが必要なのです。具体的には、以下の発明には新規性がなく、特許を取得することはできません。

    • 日本国内で発明者以外の誰かが知っている発明
    • 日本国内で発明者以外の誰かが公衆の前で実施したことがある発明
      「実施」とはその物の生産や販売、その方法の使用などのことです (「5.特許権とは」の
      発明の実施と特許権の侵害参照)。
    • 雑誌、論文誌、新聞等の刊行物に掲載された発明
      日本で発行されたものか外国で発行されたものであるかを問いません。
    • インターネット等の公衆ネットワークを通じて公開された発明

    これらのいずれか一つに該当すれば、その発明は新規性がないものとして特許は付与されません。

    新規性の判断は特許出願の日を基準にします。他人より先に自分がその発明を完成させていたとしても、自分で特許出願するより前に他人が公表した場合には特許を取得することはできません。逆に他人より後に発明を完成させた場合であっても、その人が公開したり出願する前に特許出願をすれば特許を取得することができます。

  • 進歩性があること

    新規性がある発明であっても、それが誰でも思い付くような発明は進歩性がないとして特許を取得できません。進歩性があるかどうかは、その発明の技術分野の技術者の立場で判断されます。

    進歩性の有無は特許庁での審査でも一番問題になるところです。素人がこれを判断するのは難しいので、出願にあたっては特許事務所に相談する方がよいでしょう。その場合でも、発明の基になった他の発明や既存技術、対比する発明がある場合にはこれを積極的に記載して、その違いをはっきりさせる方が審査上有利な場合もあります。

    なお、特許庁の審査基準には進歩性がない発明として以下のようなものが掲載されています。

    • すでに知られている材料の中から最適な材料を選択しただけの発明や温度範囲等の数値範囲を最適化しただけの発明。
    • すでに知られている発明の構成要素の一部を他の要素に置き換えただけの発明。
    • すでにある発明を実施する場合に必要となる設計変更を加えただけの発明。
    • 複数の発明を寄せ集めただけの発明。


    進歩性 ≠ 発明が進歩していること

    「進歩性があること」とは「発明が技術的に進歩していること」ではありません。もちろん、発明に大きな技術的効果(技術的進歩)があれば、その発明が「進歩性の要件」を満たしているかどうかを審査する際に有利になります。しかし、「進歩性の要件」とは「技術的進歩を必要している」ということではありません。

    特許ニュース N0.10951 (経済産業調査会、平成 14 年 12 月 25 日付) にこの誤解に対する明快な説明が掲載されています (「特許要件としての進歩性(創作の困難性)について - 天声人語の進歩性の論議に関連して - 日本化薬(株)相談役 弁理士 竹田和彦 -- この記事全文およぼその解説が津田弁理士の HP に掲載されています) 。

    この記事の見出しにもあるように「進歩性」とは「創作の困難性」であると考えると理解しやすいと思います。もっと簡単にいえば、「誰でも考えつくような発明でないこと」です。

    ついでにいえば、特許はその発明品の動作等を技術的に裏付けるものではありません。その発明について同業者が実施できる程度に詳しく明細書に書いてあり、新規性、進歩性などの特許要件を満たしていれば特許されるわけですから、明細書の記載の通りに動作しないということは大いにあり得ます。その場合には、もともとウソの明細書であるか、その発明を実施するために必要なノウハウが明細書に書かれていないかのどちらかです。後者の場合には無効理由となる可能性があります。

    (2003.1.9、2003.3.30追加)


出願手続上の要件

  • 出願人が特許を受ける権利を有していること

    特許出願をするためには出願人が「特許を受ける権利」を有していることが前提となります。特許を受ける権利がない者が出願した場合には特許は付与されません。

    特許庁の審査官がこの点を審査するのは実質的に不可能ですから、外部から情報提供があったり、明らかに特許を受ける権利を有していない場合を除いて、これを理由に出願が拒絶されることはあまりありません。ただし、職務発明の場合や特許を受ける権利の譲渡があった場合には、譲渡契約の有効性について後から争いが生じることもありますので、特許を受ける権利を譲渡した旨を文書化しておく方がよいでしょう。

    なお、特許を受ける権利も財産権の一つですから、その権利を持つことができるか、すなわち権利の主体となれるかどうかは基本的に民法の規定によります。具体的には、未成年者や禁治産者であってもかまいません。またほとんどの外国人 (パリ条約の同盟国の国民、世界貿易機関の加盟国の国民など) も特許を受ける権利の権利主体となれます。どの国で発明を完成させたのかは問いません。さらに、自然人だけでなく法人でも問題ありません。ただし法人でない団体 (町内会や同好会など) は認められません。

  • 先に出願していること

    まったく同じ内容の特許出願を異なる二人がするということはあまり考えられませんが、あり得ないことではありません。また、出願書類の表現は異なっていても、実質的には同じ発明である場合も考えられます。このように同じ発明について二人以上から特許出願された場合には、誰が特許を取得できるのでしょうか。

    それは先に特許庁に出願書類を提出した人です。どちらが先にその発明を完成させたのかは問題にはなりません。後から発明を完成させても先に出願をすれば特許を取得できるのです。なぜそのようにしたかというと、どちらが先に発明を完成させたかを審査することが困難だからです。逆に、先に発明した人が後から出願しても特許を取得できるとすると、自分だけが発明したと思って特許出願をし、特許を取得しても、自分より先に発明を完成させた人が後から現れて自分の特許が取り消されてしまう可能性もあります。

    このような方式を先願主義といいます。世界でも多くの国が先願主義を採用していますが、アメリカは先に発明をした人に特許を付与する先発明主義を採用しています。

    先願主義の場合には、発明を完成させたらできるだけ早く特許出願をする必要があります。ただし、他人が完成させた発明の内容を盗み出して出願しても特許を受けることはありません。この場合は、本当の発明者は後から出願しても当然特許を取得することができます。

    なお、特許出願の先後は出願した日が先か後かによって判断します。同じ日に二つ以上の同じ発明が出願された場合は、出願人同士の話し合いによって決めます。

  • 出願書類に不備がないこと

    出願書類とは具体的には願書、明細書、図面です。例えば願書に記載した出願人の氏名が間違っていれば問題になるのは当たり前です。しかし出願書類とは、単に特許庁に特許取得の意思表示をするためだけの書類ではなく、完成させた発明の内容を開示する書類でもあります。したがって、特許を取得しようとしている発明の内容を詳細に記載していなければ、特許を取得することはできません。

    特許制度の目的は、出願人に特許権という強力な権利を与えて保護することだけではなく、その発明の内容を広く世の中に公開して、さらに高度な発明が生まれるようにすることでもあります。そのためには、発明の肝心の部分が開示されている必要があるのです。

    一般に出願書類の作成は特許事務所に依頼するケースが多いでしょう。しかし、発明の内容を一番よく知っているのは発明者であり、出願人ですから、特許事務所に依頼して作成してもらった書類に、その発明の肝心の部分が記載されているかどうかは、出願人や発明者がチェックする必要があるでしょう。


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