日本映画鑑賞雑感



 2003年(平成15年)
『母と娘』【1953年(昭和28年)丸山誠治監督
  サラリーマン小説で有名な源氏鶏太さんの原作です。東京の下町・月島で暮らす大工の棟梁の磯吉(藤原釜足)のところに小料理店で働いた未亡人の多江(水谷八重子)が後妻に来ます。しかし、磯吉の家には家出をした長男を始めとして六人の子供と同居することになった義理母(三好栄子)までもが住む大家族でした。ユーモアとペーソスがあふれる日常生活を長女昌子(有馬稲子)を始めとして六人の子供たちや義理母の交流を通じて、家族や人情の機微を丁寧に描く、心暖まるホームドラマ映画の秀作です。特にベテランの義理母役の三好栄子さんと家族をまとめる中心的な役割の長女役の有馬稲子さんがを好演しています。(日本映画専門チャンネル)
『女人哀愁』【1937年(昭和12年)成瀬巳喜男監督】
  楽器店に勤める河野廣子(入江たか子)は、裕福な家庭の堀江新一(北沢彪)と見合い結婚をします。しかし、嫁ぎ先の家族では両親や兄弟たちは廣子を女中のように扱います。そんな嫁ぎ先の冷淡な態度に耐え続けていましたが、義妹(澤蘭子)とその恋人・益田(大川平一郎)の問題で新一から叱責されたのを契機に夫と別れ自立する決意をします。最後は青空の広がるビルの屋上で良介(佐伯秀男)と話す場面は、自立する廣子の気持ちを暗示するがの如くでした。
  戦後の成瀬巳喜男監督作品は、夫婦の危機を耐え忍んで乗り越える物語が多いのとは対照的な結末なのが興味深いところです。また、戦前の作品としてはかなり先進的な内容のように感じます。成瀬巳喜男監督の映画らしく、入江たか子さんを始めとして嫁ぎ先の姑役の清川玉枝さん、義理の妹役の水上怜子さんなど女優が銀幕での生き生きした姿が印象的です。(日本映画専門チャンネル)
『恋と金』【1956年(昭和31年)枝川弘監督】
  原作は中野実の「谷底は花ざかり」です。山奥にある旅館・河田屋の女将ゆき(山根寿子)は、戦争中の意中の軍人の椎名(上原謙)のことが忘れられずに独身を通しています。海軍の隠匿物資の金塊が隠されているとの噂に自称旅芸人、自称作家、自称地質調査師、沈み込んだ若夫婦などの泊り客が大挙押寄せて来ます。女中と二人の河田屋はてんやわんやの大忙しとなります。そして、ゆきの意中の娘さんの椎名ひとみ(山本富士子)と本人の椎名までもが訪れます。名脇役たちの活躍とユーモアとペーソスのある軽快な物語の展開の映画です。枝川弘監督が自作の作品中で一番の傑作だとインタビューに答えている映画です。(日本映画専門チャンネル)
『お嬢さん』【1937年(昭和12年)山本薩夫監督】
 吉屋信子の原作で、後に社会派作品を多く手掛ける山本薩夫監督の第1回監督作品です。上流階級のお嬢さんとして何の不自由なく育ってきた規矩子(霧立のぼる)は、家族から縁談の勧め嫌い、理解ある叔父(三島雅夫)に依頼して九州の小島の女学校の英語教師として赴任します。規矩子のモダンな感覚は、東京に憧れる女学生の人気者になります。しかし、学校の同僚や島の住人の中には決して快く思わない人々もいました。小島の生活に慣れるに従い、その現実の社会の厳しさを知ります。そして、自分の世間知らずの「お嬢さん」だと痛感し、教職を辞して東京へ戻ります。霧立のぼるさんの華やかさとそれとは裏腹の現実社会の厳しさを描き出した佳作です。霧立のぼるさんは、戦後テレビドラマ『どじょっこさん』などに出演し、その艶やな演技が印象に残ります。(日本映画専門チャンネル)
『乱れ雲』【1967年(昭和42年)成瀬巳喜男監督】
  成瀬巳喜男監督の遺作となった交通事故の被害者の由美子(司葉子)と加害者の三島史郎(加山雄三)の恋愛へと変貌する関係を描いた秀作作品です。由美子は妊娠中の身でありながら交通事故でエリート官僚の夫(土屋嘉男)を失った不幸のどん底にたたき落とされます。また、加害者である明治貿易の三島史郎は裁判で不可抗力による交通事故で無罪とされが、青森へ左遷されてしまいます。最初の二人は由美子の憎しみとそれに晒される三島であったが、慰謝料をめぐっての交渉、運命の悪戯や人生の偶然でいつしか憎しみが親しみに、そして愛情へと変化していきます。その変貌の過程を成瀬巳喜男監督の演出らしく、言葉だけではなく表情や視線などで表現しています。私が好きな成瀬巳喜男監督作品の一つです。(日本映画専門チャンネル)
『夜の鴎』【1957年(昭和32年)佐分利信監督】
  戦前より俳優としても名高い佐分利信さんが監督としてメガフォンを取った田中澄江さんの原作を映画化です。けい子(新珠三千代)は、再婚の夫の佐山安夫(田崎潤)や時岡謙作(佐野周二)を次々と事故で失っていく美しくも薄倖の女性です。東京の木場を舞台に様々な出来事を通して人を愛することと人間の死とは何かについて知り、困難にも負けずに鋭い洞察力と持ち前の明るさで力強く生きていく様を描いていきます。
  けい子役の新珠三千代さんが、不幸運命にも負けずに健気に生きていく女性を好演しています。また、昭和30年代初めの木場の風景も懐かしく楽しめます。佐分利信さんは、この映画以外にも『あゝ青春』(1951年)や『慟哭』(1952年)などの映画を監督しています。(日本映画専門チャンネル)
『悪太郎』【1963年(昭和38年)鈴木清順監督】
  今東光原作の大正ロマンの青春映画です。時代は大正時代の初め頃、悪太郎と異名をとり転校を繰り返す中学生の紺野東吾(山内賢)が、兵庫の豊岡で医者の娘の岡村恵美子(和泉雅子)に激しい恋に落ちる物語です。恵美子は母親の短い生涯と同じく十九歳でこの世を去り、二人は永遠の別れを告げます。
  紺野東吾役の山内賢さんの悪童ぶりと岡村恵美子役の和泉雅子さんの純真さで好演しています。また、近藤校長役の渋い演技は絶品でした。この映画は、鈴木清順監督を始めとして、スタッフや出演者が絶賛する隠れた文芸作品です。今回もチャンネルNECOで「日活 陽のあたらない名画祭」のなかで放映されました。鈴木清順監督を語るうえで忘れることのできない美術監督木村威夫氏との最初の作品でもあります。また、当ホームページで紹介している照明技師・安藤真之助氏の作品でもあります。(チャンネルNECO)
『噂の娘』【1935年(昭和10年)成瀬巳喜男監督】
  ロシアの作家・チェーホフ原作の「桜の園」をベースにした成瀬巳喜男監督のオリジナル脚本による作品です。没落していく灘屋という老舗の酒屋を舞台に、実家の商売を手伝うしっかり者の姉・邦江(千葉早智子)と自由奔放に遊び周る妹の紀美子(梅園龍子)との対照的な性格の姉妹を描いた映画です。
  没落していく老舗の酒屋、性格の正反対の姉妹、妻と別れた父親(御橋公)とその恋人(伊藤智子)、商売を婿任せの先代(汐見洋)などの人生の喜怒哀楽を五十数分間に見事に描き出された作品です。いつも深刻な面持ちの御橋公さんが様々な苦悩に立向かう婿役を好演しています。(日本映画専門チャンネル)
『女の歴史』【1963年(昭和38年)成瀬巳喜男監督】
  フランスの作家・モーパッサンの「女の一生」をヒントに笠原良三さんがオリジナル・シナリオを書いた女性の一生を描いた作品です。日中戦争のときに嫁いだ信子(高峰秀子)が、波乱の時代に翻弄させられながら嫁ぎ先の倒産、夫の戦死、息子の交通事故などの不幸に逢いながらも必死に生きていく姿を描いた女性一代記です。
  戦争や戦後の混乱の中で夫の友人秋本(仲代達也)との恋愛感情の機微を見事に描き出しています。二時間を越える映画ですが、時間を経つのを忘れるほど物語の中に観客を吸い寄せていきます。主演の高峰秀子さんや姑役の賀原夏子さんが好演しています。(日本映画専門チャンネル)
『父ちゃんのポーが聞える』【1971年(昭和46年)石田勝心監督】
  難病に冒され、21才で亡くなった実在の少女の松本則子さんの詩集「父ちゃんのポーが聞こえる」の映画化です。不治の病とされているハンチントン舞踊病に冒された薄幸な少女則子(吉沢京子)と蒸気機関車の運転手の父親(小林桂樹)との交流を暖かく描いた物語です。時代の流れで消えていこうとする蒸気機関車と死に直面しながらも健気に生きていく少女の運命が重なり観る者に感動を与えます。最後に遠ざかる汽車の汽笛の音とともに「苦しみぬいたと自惚れてはいけない。苦しみきれぬと絶望してはいけない。失ったものを数えるな。残ったものを数えろ。」と朗読する則子の詩が心に刻まれます。(日本映画専門チャンネル)
『幸福さん』【1953年(昭和28年)千葉泰樹監督】
  源氏鶏太の新聞連載小説の映画化です。駈落ちした娘の置き去りにした子供と2人きりで過ごす丹丸さん(三津田健)は、孫と釣堀へ行くのが趣味です。そこで元気で溌剌なお婆さん花子さん(田村秋子)と知合いになります。丹丸さんの離れには気立てのいい娘さんのみさきさん(有馬稲子)とその兄(小林桂樹)が暮らしています。みさきさんの恋愛を中心にサラリーマン生活や人々との出会いの機微を描いた佳作です。春原政久監督の『うちのおばあちゃん』(1955年)でも働き者で明るいおばあちゃん役を演じた田村秋子さんが好演しています。明るい物語の中にもほろ苦い人生の苦悩を散りばめ、それを暖かく見守る人々がいる映画は、悲しい場面でも心温かい気持ちで観る余裕と幸福感を与えてくれるように思います。(日本映画専門チャンネル)
『大いなる感情』【1941年(昭和16年)藤田潤一監督】
  長野県の訪湖畔の町にある老舗の貴金属細工店・天竜堂の娘である篤子(原節子)は、遭難した町に工場の建設を計画している省一(鉄一郎)を助けたことで知合います。二人は親しくなり、省一は結婚も申し出ますが篤子は実家の実情を察して断ります。兄の雄平(黒川弥太郎)が招集免除となり、事態は好転へと向かって行きます。
  第二次世界大戦前夜の作品で兄の帰還報告や慰問袋など戦争の影はありますが、地方の町を舞台にした数十年来の人の運命や因縁で繰り広げる人間模様が丁寧に情緒的に描いた佳作です。篤子役の若き日の原節子さんが好演しています。(衛星劇場)
『雪崩』【1937年(昭和12年)成瀬巳喜男監督】
  大佛次郎の原作を映画化した作品です。日下五郎(佐伯秀男)は、蕗子(霧立のぼる)と恋に落ち、親の反対で名古屋に駈落ち同然で行き、結婚します。しかし、五郎は次第に蕗子に飽きて幼馴染の弥生(江戸川蘭子)に惹かれて行きます。出演者の心理的な独白の場面では、画面に紗が降りるなどの手法が展開されています。会話の内容が濃く、特に日下五郎とその父親(汐見洋)は観念的な台詞が多く使用されており、成瀬巳喜男監督作品では異質な感じがしました。P.C.L(現:東宝)入社第一回作品となる霧立のぼるさんが夫を信用し切っている蕗子役の好演しています。(日本映画専門チャンネル)
『世紀は笑ふ』【1941年(昭和16年)マキノ正博監督】
  生涯250本以上の映画を監督として活躍したマキノ正博(マキノ雅弘)監督で、既に失われた作品だと考えられていました『世紀は笑ふ』が、検閲前のオリジナル公開版がロシアのゴスフィルモフォンド(ロシア国立映画保存所)で発見されました貴重な作品です。
  兄弟のように仲の良い二人廣田大造(廣澤虎造)と杉野凡作(杉狂児)は裏日本のとある街で暮らしていました。しかし、廣田大造の浪曲の才能が認められると二人の不協和音が生じます。二人は浪曲師と映画俳優と違う道を歩み成功を収めます。最後は懐かしい街で凱旋公演をします。浪曲師・廣澤虎造の成功物語を織り交ぜながら、人生の機微を描き出した佳作です。(チャンネルNECO)
『たそがれ酒場』【1955年(昭和30年)内田吐夢監督】
  新宿の大衆酒場を舞台にその開店準備から閉店までの約七時間の酒場に集う人々を描いた作品です。薄幸で過去に傷を持つ老ピアニスト江藤釿也(小野比呂志)とその弟子の歌手丸山健一(宮原卓也)、筆を棄てた老画伯梅田茂一郎(小杉勇)、酒場の踊り子エミー・ローザ(津島恵子)を始めとしてヤクザ、旧軍人、大学講師、学生らで賑わう酒場で、一夜に起きる様々な事件と人間模様が展開される秀作です。また、日活で監督としても活躍する小杉勇さんを始めとして名優たちが多く出演しているのも作品に重みを与えています。(衛星劇場)
『屋根裏の花嫁』【1940年(昭和15年)矢倉茂雄監督】
  信念と正義感の強い弁護士の山田善三(徳川夢声)は、娘のまき子(霧立のぼる)と書生・沼野大吉(柳谷寛)と三人で質素な暮らしをしています。まき子は子爵の鬼小路家に嫁へ行きますが、その暮らしぶりは決して楽ではありませんでした。ある日にクラス会で婚礼衣装を寄附すると約束し、不憫に感じた父親は同窓生の令嬢・美枝子(堤真佐子)から預かっていた離婚の弁護費用に手をつけようとするが留まります。貧しいながらも河辺を明るい笑顔で歩いていく父善三と娘まき子の姿がありました。
  様々な境遇に置かれた人間模様と人生の機微をきめ細かく描いた佳作です。霧立のぼるさんの健気さと真面目な書生役の柳谷寛さんが好演しています。(日本映画専門チャンネル)
『秀子の応援団長』【1940年(昭和15年)千葉泰樹監督】
  秋晴れの後楽園球場では巨人軍と対戦した高嶋二郎監督(千田是也)率いるアトラス軍は、猛打を浴びて大惨敗を喫しました。高嶋監督の姪の秀子(高峰秀子)は、従妹の百合子(音羽久米子)とともに「青春のグランド」の応援歌を作りアトラス軍を声援します。大会社の娘である秀子が、野球に熱中することに母親(澤村貞子さん)と父親(小杉義男)はよく思いません。特に母親は稽古事をさせるために甘やかす祖母(清川玉枝)に抗議します。しかし、秀子の父親の商談相手が大の野球ファンだったことから野球に理解を示すようになります。秀子たちの応援にも支えられてアトラスは優勝することができます。
  昭和15年の暗い世相へと向っていく時代に高峰秀子さんの若さ溢れる演技で明るい青春映画になっています。また、巨人軍のスタルヒンや水原などの往年の名選手も見逃すことができません。(衛星劇場)
『嫁ぐ日まで』【1940年(昭和15年)島津保次郎監督】
  妻を失くした実直なサラリーマンの生方光三(御橋公)には、二人の娘・好子(原節子)と浅子(矢口陽子)がいます。好子が家庭を切盛りして仲良く暮らしていましたが、叔母(清川玉枝)の世話で光三が再婚することになります。死んだ母親の面影を忘れることのできない浅子は、心配する好子と父親を他所に後妻の常子(澤村貞子)に馴染もうとしません。好子は求愛する戸田(大川平八郎)を諦めて、浅子のことを心配しながらも外交官の妻として嫁いで行きます。新婚旅行先から好子は浅子もいつかは嫁ぐ日がくるのだから真直ぐな気持ちで暮らすように手紙を託します。
  青春の感性の強い難しい娘浅子とそれを暖かく見守る好子を中心に家族の愛情や機微を見事に描いた秀作です。原節子さんの文金高島田の花嫁姿は眩いばかりです。(日本映画専門チャンネル)
『娘時代』【1940年(昭和15年)青柳信雄監督】
  親の薦める見合い結婚に女性の一生を左右されることへの疑念と葛藤を描いた大迫倫子原作の映画化です。中流家庭に育った野村弓子(桜町公)は親の女性の一生を決める結婚が見合いで決まることへ懐疑的でした。そこへ女学生時代の友人の縁談相手から素行を聞かれてからさらに輪を掛けました。心配した両親は、祖父(菅井一郎)のもとで生活させることにします。素朴な生活と友人の正江(山根寿子)の生き方や娘たちとの交流のなかで次第に結婚する意味を感じるようになり、帰京して高倉達雄(藤田進)と見合いをします。
  見合い結婚が当然だった時代に懐疑的な女性を通して、結婚の意味を描いた佳作です。冒頭で「護れ傷兵 郷土の誉れ」がクレジットや満州へ嫁ぐ話しは、この映画公開した時代を表わしています。主人公の弓子役の桜町公さんが、結婚について葛藤する当時の現代娘役を好演しています。(日本映画専門チャンネル)
『放浪記』【1962年(昭和37年)成瀬巳喜男監督】
  「浮雲」「晩菊」や「めし」などの作品で有名な女流作家林芙美子(明治36年-昭和26年)の自叙伝的小説を映画化した文芸作品です。
  幼少の頃より義理父親(織田政雄)と母親(田中絹代)と行商して全国を転々とする生活した芙美子は、女学校を卒業した後の昭和の初めに東京で母と暮らします。しかし、生活苦からカフェーで働く芙美子の詩の才能を見抜いた男性作家たちとの交流が始まります。しかし、詩人・福地(宝田明)を始めとする結婚生活は次々に破綻に帰してもとのカフェーの女給生活に戻ります。そんな芙美子にチャンスが訪れ作家の道を歩み始めます。貧しさに喘ぎながらも数奇な人生を生きていく女流作家の生き様を高峰秀子さんが見事に演じています。(日本映画専門チャンネル)
『ノンちゃん雲に乗る』【1955年(昭和30年)倉田文人監督】
  文部大臣賞を得たベストセラー石井桃子さん原作を映画化したファンタジー映画です。
  田舎で病気療養中の小学二年生のノンちゃん(鰐淵晴子)は、森の木にのぼって池を見つめていると、枝が折れて池に落ちてしまいます。すると急に白ビゲのお爺さん(徳川無声)が現れてノンちゃんを拾い上げられて雲にのせてくれました。そして、ノンちゃんはそのお爺さんに様々な家族の話をします。そして、気がつくと木から落ちて気を失って心配したていたノンちゃんを家族の人たちやお医者さんが見つめていました。
  天才ギタリストの子役鰐淵晴子さんのデビュー作です。ノンちゃんの成長を暖かく見守る母親役の原節子さんが印象に残ります。また、名脇役として多くの映画やテレビドラマで活躍した名古屋章さんがトラックの運転手役で映画デビューした作品でもあります。(日本映画専門チャンネル)
『人情紙風船』【1937年(昭和12年)中山貞雄監督】
  二十代で召集令状で戦地に赴き病死した中山貞雄監督の遺作となった三村伸太郎さん脚本で前進座の全面協力で製作された人情時代劇の傑作と言われている映画です。
  貧乏長屋は老いた侍の死で大騒ぎとなります。同じ長屋に住む侍海野又十郎(河原崎十郎)は妻のおたきと二人暮しで紙風船張りの手内職で生計を立てています。髪結いの新三は白子屋の娘(霧立のぼる)を誘拐しますが、又十郎をも巻き込んでしまいます。ヤクザに呼び出され死を覚悟で向う新三、そして誘拐の手助けをしたことに絶望した又三郎夫妻は死を選びます。
  ラストのおたきの手作りの紙風船が風とともに長屋を転がり出て、溝に落ち、流れてゆく場面は印象的です。昭和12年という戦争に向う時代の閉塞感を表した作品でもあります。山中貞雄監督は、この映画封切日に召集令状を受取り、「『人情紙風船』が山中貞雄の遺作ではチトサビシイ」と書き残したと伝えられています。(時代劇専門チャンネル)
『女優と詩人』【1935年(昭和10年)成瀬巳喜男監督】
  中野実さんの原作の映画化で成瀬巳喜男監督が『乙女ごゝろ三人姉妹』(1935年)に続くトーキー第二作目です。主演の舞台女優千絵子は、成瀬巳喜男監督と後に結婚する千葉早智子さんが出演しています。
  物語は売れない童謡作家の二ツ木月風(宇留木浩)と舞台女優千絵子(千葉早智子)との夫婦を通して描く風刺喜劇です。生活力のある千絵子に代わり月風が家事の仕事をし、千絵子に頭が上らず夫婦喧嘩もしたことがありません。しかし、月風の友人の三文文士の能勢梅童(藤原釜足)が下宿することになり、本格的な夫婦喧嘩となります。だが、喧嘩を通して仲睦まくなります。
  噂好きの主婦・お浜さん役の若き日の戸田春子さんや能勢梅童役の藤原鎌足さんが好演しています。先月(2003年11月)他界された佐伯秀男がダンディで自殺未遂を図る青年役で出演しており感慨深いものがありました。(日本映画専門チャンネル)
『街に出たお嬢さん 』【1938年(昭和13年)大谷俊夫監督】
  自由放任なお嬢さん杏子(霧立のぼる)が、縁談で煩い家族と離れてアパートで一人暮らしを通して、様々な人間模様や騒動を経験して家族の暖かみを噛み締める物語です。
 我侭な性格で丸の内でタイピストとして働く杏子は、縁談で煩わしい家族と離れてアパートで一人暮らしを始めます。美貌の杏子はアパートの人気者となりますが、喧嘩の耐えない夫婦や杏子を毛嫌いする妾などが様々な事件を起こしては杏子を悩まし続けます。気楽と考えて一人暮らしが、実は厳しい現実があることに気づき家族の暖かさに気がつきます。家に帰り早速見合いをしますが、その相手は杏子が以前から気になっていた男性でした。空の青空は、杏子の気持ちを代弁するかの如く澄み渡っていました。
  愛くるしい霧立のぼるさんの魅力や堤真佐子さんの杏子とは対照的な環境の中でも逞しく生きていく姿が印象的でした。当時の丸の内のオフィス街や住宅街の町並みも見ることができます。また、先月(2003年11月)他界された佐伯秀男が霧立のぼるさんの見合い相手で出演しており、当時の人気の高さが窺えます。(日本映画専門チャンネル)
『愉しき哉人生』【1944年(昭和19年)成瀬巳喜男監督】
  第二次世界大戦の戦況が悪化する中で作製された心のもち方次第で明るくも楽しくもなるという喜劇的な物語を展開させていく戦意昂揚映画です。公開当時は、戦意昂揚にならぬ愚劣な映画であるとして、上映プリントの一部が検閲で切られてしまったという作品でもあります。主演は喜劇俳優の柳家金語楼さんで、その他山根寿子さんや渡部篤さんなどの個性的な俳優陣が出演しています。また、子役として中村メイ子さんも孫役で出演しています。
  物語はある日、相馬太郎(柳家金語楼)、娘の英子(山根寿子さん)とめぐみ(中村メイ子)の三人が引越して来て「よろず工夫屋」の商売を始めます。最初は警戒していた街の人々も相馬一家の気の持ちようと工夫で生活は愉しくなるとの考えに同調者が増えていきますが、突然街を去って行きます。
  映画は戦意昂揚を目的にしていますが、その考えは現代の生活の中でも考えさせられます。戦時中にも拘らず情緒的な作品になっているのは成瀬巳喜男監督の影響が大きいように思われます。(日本映画専門チャンネル)
『兄とその妹』【1939年(昭和14年)島津保次郎監督】
  真面目な会社員敬介(佐分利信)とその妻(三宅邦子)、そして敬介の妹(桑名通子)で英語が堪能な会社員の三人家族の日常生活での葛藤を情緒的に描いた秀作です。
  会社員の敬介は碁が趣味で会社の重役の相手をよくするが、それを出世のためと誤解して快く思わない同僚との間に不信感が芽生えてきます。一方、英語が堪能な会社員の妹は、女学生時代の友人が結婚や出産するにも拘らず縁談にはあまり興味がなく、自分の意思を通す現代的な女性です。ある日、日頃の人間関係の軋轢がもとで敬介は会社で同僚と喧嘩となり会社を退職します。妻や妹に後ろめたく感じていた敬介も新天地として満州で働くことを決意し、妻と妹ともに飛行機で大空へ飛び立って行きます。
  佐分利信さんと三宅邦子さんは、戦後もテレビドラマ『暖春』や『お嫁さん第1シリーズ』などでも夫婦役を好演しています。(衛星劇場)
『巷に雨が降るごとく』【1941年(昭和16年)山本嘉次郎監督】
  主人公のエノケンこと榎本健一さんが演ずる紙芝居屋の金ちゃんを中心に同じアパートで暮らす人々の交流と人生の運命と機微を哀歓豊かに描いた人情物語です。
  紙芝居屋で人気者の坂本金次郎(榎本健一)は、サロンフジの女給みどり(山根寿子)に密かに心を惹かれていました。しかし、土地のヤクザ者の山口(如月寛多)がみどりをつけ狙っていることを知り、身を挺して助け出しますが、本当にみどりが好意を寄せていたのは金ちゃんの友人アコーディオン弾きの碌さん(月田一郎)でした。そのことを知った金ちゃんは、二人の幸福を願い、梅雨の明けた街では金ちゃんの紙芝居の合図の太鼓の音が響き渡っていました。
  フランスの詩人ポール・ヴェルレーヌ(1844-1896)の詩「巷に雨が降るごとく(ll pleure dans mon coeur)」をモチーフとした物語です。喜劇映画で活躍していた榎本健一さんが好演しています。また、雨の降るアパートで碌さんが「巷に雨の古ごとく われの心に涙ふる かくも心ににじみ入る この悲しみは何やらん」と朗読する場面は印象的でした。(衛星劇場)
『東京ラプソディ』【1936年(昭和11年)伏水修監督】
  藤山一郎さんの唄で有名な「東京ラプソディ」(作詞:門田ゆたか・作曲:古賀政男)をモチーフとした歌謡映画です。当時35万枚を売上げる大ヒットになった曲です。
  歌の上手いアコーデオン奏者の洗濯屋の青年・若原一郎(藤山一郎)が歌手としてデビューして有名になりますが、昔からの仲間や恋人と疎遠になり売名行為に嫌気が差して歌手を辞めようとしますが、そんな自分を叱咤激励してくれる友人や幼馴染のために再び人々のために歌を歌います。新曲「東京ラプソディ」は大都会東京で人々の元気な明るい歌声として響き渡っていきます。
  最後の「東京ラプソディ」の合唱の輪が広がっていく場面では、藤原釜足・岸井明・千葉早智子・堤真佐子なども出演しており、昭和10年頃の東京の風景などとともに興味深いところです。また、マキ役で出演していた星玲子さんは2003年(平成15年)10月24日に88歳の生涯を閉じました。(日本映画専門チャンネル)