053.ミンカン区役所は何のため?


2005.4.27

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 横浜市港南区役所が“民感区役所”宣言をしたのは2003年のことだ。「区民の皆様の感覚を大切にし、民間企業の経営感覚を取り入れた区役所」を実現すると謳っていた。
 公と民とは相対する概念だと思っていたから、ミンカン区役所と聞いたときは、ホットコーラ※1のような違和感を感じた。いや、冷やし鍋焼きうどんだった だろうか。ともかく、民間企業の経営感覚を取り入れた区役所とは一体どんなものなのか、いろいろと想像をしたものだ。


ミンカン区役所 妄想レベル1
 区役所にお越しになる区民は「御客様」だ。御客様が神様なのは三波春夫氏以来の日本の伝統。だから、ミンカン区役所は区民を決してぞんざいに扱わない。
 窓口に御客様が見えたときは、まず「いらっしゃいませ」と声を掛けお辞儀をする。角度は45度。一番深い所で一呼吸置いてからゆっくりと顔を上げる。そしてトークはマニュアル通り明るく丁寧に。
「今日は住民票ですか。印鑑証明ですか。婚姻届と出生届のセットですと、今なら手数料が大変お安くなっております。お値段そのままで出生届を離婚届に変えることもできますよ!」
もちろんスマイルは0円※2だ。

ミンカン区役所 妄想レベル2
 儲けてこそ民間企業。どこかの政府のように収入の半分も借金の返済に使っていたら、企業活動はとても成り立たない。
  そこで、港南区の施設は全て有料にする。例えば図書館での本の貸し出しは、TSUTAYAのようにレンタル料を頂くのだ。あまりに安価だったスポーツセン ターなどの施設 利用料は、利潤を得られるように計算し直す。119番はタダだと思っていないだろうか? これからはちゃんと運送料を頂く。タクシー並みに最初の2kmが 660円だ。家庭ゴミも産業廃棄物同様、処分料がかかるようになる。そうそう、道路も管理しているっけ。区内道路の走行距離に応じて通行料金を 納めるシステムを導入しよう。
 その代わり、ミンカン区役所では市民税は頂かない。必要とする人だけにお金と引き換えでサービスを提供するようになるからだ。えっ、福祉はどうするって? お客さん、区役所は慈善事業ぢゃないんですぜ−−

ミンカン区役所 妄想レベル3
 民間は競争社会。安価で質の高い商品やサービスが世の中に出回るには、企業間の競争が不可欠だ。古くは電卓、最近ならADSLがその代表例と言えよう。
 そこで、区役所にも競争原理を導入する。横浜市民は好きな区に住民登録(=納税)できるようにするのだ。ある人が港南区に魅力を感じれば、たとえ港北区に住んでいても港南区民になれるというわけ。
 人気のあるなしは人口に反映されるから、それぞれの区役所の価値はたちどころに分かってしまう。やがて、人気のある区役所の区民はその区民であること に、まるでブランド物のバッグを手にしたときのような満足感を覚えるようになるだろう。住民が増えればその区役所はより豊かになり、さらにその 区の価値を増すことができるようになる。区民サービスも向上する。
 一方、うかうかしていて人気が無くなった区役所は加速度的に没落していく。区民が住んでいるのに金が入らないのだから当然だ。で、最終的には合併に至る。銀行を真似て緑青葉区役所とか南保土ヶ谷区役所なんてね(区名はあくまでも例示)。
 自分が応援する自治体に税金を納めたいーー長野県の田中知事が泰阜(やすおか)村転居問題※3で果たせなかった想いが今現実に!(←妄想だってば)


 しかし、最近分かったのだ。どうも民間区役所と民感区役所とは別のモノのようだ。私が考えていたのは民間区役所で、民感区役所はいわゆる「お役所仕事」を廃し、区役所を訪れた人の満足度を向上させようという改善運動のことらしい。

 例えば港南区役所がこれまで取り組んできたことを列挙しよう。(<民感通信>※4から。「→」以降は作者による内容説明)
「お客様案内係(コンシェルジュ)の設置」→入口に案内係を配置して庁舎内をご案内します。
「上大岡行政サービスコーナーの案内表示の改善」→よく見えるよう、大きな案内板を取り付けます。
「区役所職員、ボランティア活動に参加」→福祉施設で、職員が障碍のある子供と一緒に過ごしました。
「2階エントランス周りのイメージを一新します!」→入口周囲の壁を明るい色にします。
「第2・第4土曜日窓口オープンします!」→これはそのまんま。
「お客様の待ち時間の短縮をめざして」→待ち時間が増えた場合は、応対する職員数を増やします。

 うーん。意気込みは分かるが、これで「民感区役所」とはちと大仰なネーミングじゃなかろうか。やらないよりは良いけれど、案内係を付けたりテラーを増やして客の待ち時間を短縮するくらいは、銀行だったら特に宣伝もせずに前々からやっているサービスだ。



 実は、港南区役所がここまで大々的にやらなければならない訳があるようだ。それも、対外的にというよりは対内的に。ここからはちょっと小声で話そう。

 先日、港南区役所では、百貨店や私鉄の顧客サービス担当など外部者6人に、職員の身だしなみや窓口対応の速さ、言葉遣いなどを評価してもらったという<讀賣新聞05.1.22>。接客のプロが区役所職員の応対を採点したわけだ。
 それを受けていくつかの改善策が決まった。身だしなみの面では、勤務中のサンダル履きをやめる申し合わせをしたという。理由は「見た目が悪いし緊急時の 対応が取りにくい」から。私も職場でサンダルを履いているときがないわけではないが、人と会うときはちゃんと靴を履く。ま、社会の常識だと私は思っていた。
 ところがある情報によると、この申し合わせに区役所職員から不満の声が上がっているらしい。
「サンダルの何が悪い!」
「そんなことを我々に押しつけるな!」
「水虫になったらどうする!」
公務員の皆さん、何か論点が違うような気がしないだろうか。

 港南区役所だけではない。今話題の社会保険庁では、年金管理にコンピュータを取り入れたとき、公務員の労働組合である自治労(じちろう:全日本自治団体労働組合)が猛反対したという <日経ビジネス04.8.30号>。普通に考えると、ある業務がコンピュータ化されれば職員はだいぶ楽になるはず。それを職員自ら反対するとはどういうことなのか。
「コンピュータの導入で組合員の仕事が無くなると困る。」
「便利になると相談者が押しかけて労働強化になる。」
からだそうだ(脱力)。
 民間の会社員を読者層に持つ雑誌だということを割り引いても、労組の言い分は(本当だとすれば)あんまりだ。自民党員ではない私だって、「こんな社会保険庁なんか解体しようよ」という気分にもなってくる。

 さらにこんな話もある。昨年連合が開いたかながわ中央メーデーでは、市長選挙で連合支援候補のライバルだった中田市長が初めて挨拶に立った。その時、公務員系の組合員から「帰れ!」という怒号が飛んだという<神奈川新聞04.4.30など>
 中田氏が進めている改革がいくら気にくわないものであっても、仮にも彼は我々横浜市民から選ばれた市長だ。市民が選んだ市長に暴言を浴びせた組合員は、350万人の市民に暴言を吐いたも同じ。とっととクビにされるべき だ。田中知事が誕生した際、彼からもらった名刺をテレビカメラの前で折り曲げてみせて世論の非難を受けた長野県幹部職員※5がいたことを忘れたのだろうか。

  これら3つの話に共通するのは、彼らの発言が彼らのサービスの受け手である市民・国民を全く意識していないところだ。自己の待遇ばかりを考えていて、自分の給料が誰から出ているかが全く分かっていない。
 いずれも言っているのはほんの一部のダメダ メ職員だろうが、もし民間区役所であったら妄想レベル1にも達しない意識の低さと言って良い。不祥事が起こった社会保険庁はともかく、横浜市は民感区役所宣言!などと大々的にきっかけを作らないと、役所とい うのは全然変わらないようなのだ。


  できることなら、市民の存在が見えない・感じられないこんなダメダメ公務員には退場願いたい。でも、彼らは終身雇用だから、辞めさせるのも簡単ではない。で、こんなことを考えた。
 どこかの区役所が「うちは変わりません。昔ながらの区役所です。」と宣言してはくれないだろうか。いわば反民感区役所宣言だ。愛称(?)は鈍感区役所。そこに、全区役所から選抜されたダメダメ職員を集めて飼い殺してしまうのだ。それだけでも他の17区役所は相対 的にサービス水準が向上するに違いない。ただし、恐ろしいことに鈍感区役所だけは、公務員の役人らしさが最大限に発揮されることになるのだ。例えばこんなふうに。

*   *   *
 あなたは区役所の中に入った。中央で仕切られた木製のカウンターが受付窓口で、その向こうに職員が働いているのが見える。一番奥で窓ガラスを背に新聞を広げているのは課長だろうか。手前側では ひとりの男性が受話器に向かって話している。島になっている6つのデスクでは、勤務中にもかかわらず職員たちがお菓子の袋を手に何やら楽しそうにしゃべっている。

 さあ、住民票の写しを請求してみよう。カウンターに立って「すみません」と声を掛ける。すると、お菓子を食べていた中から、メガネを掛けた50代の男性が面倒 くさそうに出てくる。パタ、パタ、と音がするのは、履いているサンダルのせいだ。メガネをちょっと下にずらし、上目遣いにあなたを見つめるだろう。
 ところがあなたが手にしている申請書に気づくとアゴを左の方へ振り、声も出さずにプイと自分の席に戻ってしまった。どうやら窓口が違ったらしい。男性に教わった通り、左隣の窓口へ行ってみよう。

 その窓口にはやはり60歳近い男性がいた。腕組みをして椅子にふんぞり返っている職員に、あなたは「お願いします」と言いながら申請書を手渡す。
「ハンコ押してないよ。」
申請書を一瞥して突っ返す職員に、あなたは顔を真っ赤にしてハンコを持ってきていないことを告げなければならない。すると、彼は周りに聞こえるほど大きな音で舌打ちをしたが、
「じゃあ、いいや。」
と言って奥へ引き込んでしまった。(なんだ、ハンコが無くて済むなら最初から言ってくれればいいのに)と思いながら、あなたはその場で住民票の写しが来るのを待つ。……待つ。………待つ。
 やっと職員が戻ってきたのは10分後だった。手にした住民票の写しは微かにタバコの臭いがする。どうやら自分の席で一服してから来たらしい。それでもあなたは「ありがとうございました」と丁寧に礼を言って区役所を出なければならない。
*   *   *

  こんな区役所には二度と行かない、と思うだろう。実は住民票の写しなら横浜市ではどこの区役所でも取ることができるから、誰だって次には他の区役所へ行く に違いない。こんな人が増えていけば、やがて鈍感区役所に来る人はいなくなる。そして鈍感区役所への非難も高まる。役所そして公務員はこれからどうあるべ きか、その頃には労組の皆さんも分かるようになるに違いない。

※1 社会科の写真/ホットコーラ
※2 スマイル0円の言い訳/スマイルください
※3 おりえんとひすとりい/田中知事、実態の無い虚偽の住民票移転事件
※4 横浜市港南区/トピックス
※5 同志社女子大学/児童文化研究室/じゃのめ見聞録No.3


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    横濱 きのう今日あした (C)2005 Yokohama Taro

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