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前編
「今日はヒナイサ−ラの滝に行くから....」 その声を聞いて、私は飛び起きた。声の主は昨日、このキャンプ場で出会った 女の子だった。私はテントから出て彼女に声をかけた。 こうして私の、西表でのタイヘンな一日が始まった。
前日 朝のフェリーで与那国島から一旦、石垣島に戻り、そのまま再び高速艇で西表島に渡った私は、港からすぐにこの星砂キャンプ場に来た。すでに夕方になっていた。ここは、八重山の中ではとても整備されたキャンプ場で、テントはたくさん張ってあるけど誰も外には出てなかった。なんだか一人で寂しそうだなあ....と不安に思うと、与那国からの旅疲れがどっと出てきた。 私はキャンプの受け付けを済ませ、テントを設営したあと、ぶらっとキャンプ場内を散歩してみた。相変わらず人の気配はほとんどなかったけど、キャンパーらしき2人がテントの前で座って話をしていたので、とりあえず声をかけてみた。ラッキーにもそこは、一人旅キャンパーのたまり場になっていた場所だった。よかったー、これで今日は寂しくない。キャンパーとのお喋りで疲れた気分も吹き飛んでいった。 たまり場になっていた所は、一人のライダーのテント前だった。彼は元大工で、仕事や辞めて西表に来て、もう2週間になるという。夜になると一人旅キャンパーがいろんなところから帰ってきて、5、6人の輪になった。私はそこで、「誰か明日ヒナイサ−ラの滝に行く人いない?」と声をかけた。有名な滝と言っても、なにしろ亜熱帯のジャングル、一人で行くのは危険すぎる。私はこのキャンプ場で適当に誰か見つけて、ヒナイサ−ラくらい行けるだろうと考えていた。 しかし予想に反して誘いに乗る人は誰もいなかった。彼等はもう何日も西表にいて、みんな滝探検や西表縦走をし、明日石垣に帰る人ばっかりだったのだ。そっか...残念。まあいいか、明日また考えようと思ってその日は寝た。 朝。目が覚めると外で話し声が聞こえた。誰かが、今日ヒナイサ−ラの滝に行くという話をしていた。声の主は昨日少し話をした女の子だった。炊事場で朝食の準備をしていた彼女に、さりげなく近づきその話を切り出した。彼女は気軽に応じてくれ、後で私のテントまで来て、と言った。 大きなテントの前に彼女と、その彼氏らしき人のマウンテンバイクが倒してあった。もともと民宿に泊っていた彼女は、西表にきてから彼と知り合い、一緒にキャンプすることになったようだと元大工が言っていた。そういう事もあるんだなあ、どうりで彼女は小奇麗で可愛い感じで、とても一人でキャンプするようには見えなかった。 「いいですよ、一緒に行きましょう」、彼も快くOKしてくれ、私は念願のヒナイサ−ラに行くことになった。やったー!ええと、何か持っていくものは.... 「とりあえず、ずぶ濡れになってもいい格好で、お昼ご飯になるものを持って9時半にみどり荘ユースホステルの前で待ち合わせしましょう」え、ずぶ濡れって、泳ぐんですか?「まあ、一応...水着があったら下に着ておいたら」じゃ、カメラとかは...?「だめだめ、リュックごと濡れるよ」え、そんな大変なとこなの...? 「僕らはマウンテンバイクで行くから、バスで行くんなら時間調べておいた方がいいよ」あ、はあ....。キャンパーでヒナイサーラに行くのは私たちだけで、あとはみどり荘ユースホステルの人達のようだった。 私は軽く朝ご飯を食べてから、水着を着てその上からTシャツと短パンをはいた。ポケッタブルのリュックにタオル、少しの小銭と水中メガネを入れ、期待に胸をはずませながらバスを待った。 星砂キャンプ場から5分ほどで、バスはユースホステル近くに停まった。私は降りて、近くの商店でお昼ご飯を買い、ユースの前で彼等の到着を待っていた。朝のユース前は出かける人、迎えにくる車などでにぎやかだ。ひとりぽつんと待っている私の前を、いろんな人が嬉しそうに出かけて行った。本当にここでよかったのかな....ちゃんと滝に行けるのかな....どんどん不安が押し寄せる。時間は9時半をとうに過ぎて、私はすっかり待ちくたびれていた。誰かに声をかけた方がいいのだろうか、どうしたらいいんだろう.....いろんな考えが頭をめぐらしている時、ようやく、マウンテンバイクでやって来る彼等を見つけた。 一緒に行くのは男6人女3人の計9人、皆親しそうだったが、いろんなところから集まり、いつの間にか仲間になったような感じの人達だった。中にはかなり慣れている人もいるようで、私一人が場違いな感じがした。 10時頃、車で送ってもらい船浦大橋に着く。いよいよ滝探検のはじまりだ。まだ満潮の為、船浦湾にはたっぷりと水が張っている。「さ、中に入って」...え?ここに入るの?嘘でしょ、思いっきり川やん......躊躇している女性陣を尻目に、男の子達は次々に湾に飛び込んだ。西表に詳しい、間寛平にそっくりなその名も「寛平隊長」と、何十回となく西表のジャングルに入っているという「ダイスケ」がグループを引っ張る。私は仕方なく後についてヒナイ川の河口を胸まで水に浸かりながら歩いた。透明度の高い湾内にはシマシマ模様の海蛇もなにげに泳いでいた。 河口に着くと今度はマングローブの森である。ヒルギが生い茂る森の中は20センチほどのぬかるみになっていて、足を抜くのに苦労する。初めからいきなりずぶ濡れ、泥まみれになってしまった。 ヒナイサーラまでの道は、今となってはあまり覚えていない。マングローブを抜けて、山道を1時間半程歩いて、滝の上に出た。話に聞いてはいたが、やはりここの眺めは素晴しかった。西表の全てがここにある、絶景だった。そこでみんなで昼食を取った。そこまでは、まだそこまでは普通の滝探検だった。 「行けるとこまで行ってみようか」寛平隊長が言い出し、川に添って沢登りを始めた。 |
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