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5月8日 奇跡的に朝から快晴。八重山に来て初めて見る、抜けるような青空だった。まだ誰も起きていない。顔を洗いに東屋まで歩いていった。 東屋に座って歯を磨いていると、ちょうどMTBでニトロが帰ってきた。結局夜中の3時頃にタケさんは帰ってきて、将棋をしてすぐ寝たと言っていた。ニトロはMTBを押しながら浜を歩いていった。私は日焼け止めを塗ってから、キャンプに戻った。 キャンプに戻ると既にみんな起きていて、出勤前のキム君がマシンガントークを繰り広げていた。 話のターゲットはコブ平だった。昨日の夜の事ではなく、彼が半年後に青年海外協力隊でミクロネシアの島に赴くことについてだった。彼は大学で農学部だったため、南の島でのいちご栽培に取り組むという。仕事を辞めて来たという話は聞いていたけど、そんな将来を心に決めていたんだ。なんとなく合点がいった。彼の表情にはいつも少しの曇りがあるような気がしていた。その決断がもたらす少しの不安が、そうさせていたのかもしれない。 最後に、キャンパー5人で記念撮影をした。私たちは同じキモチを持ってニシ浜に集まった兄弟のようだった。今でもその写真を見るたびに、切り取られたあの瞬間が、永遠のように思える。 朝一番の船で石垣に戻るというコブ平に、結局昨日のことは聞けなかった。 彼はさっさと撤収し、笑顔でキャンプを後にした。 私は朝ご飯を食べてから、この旅で初めて、海に入った。西表で足を怪我したため、今まで躊躇していたが、こんな良い天気では入らない訳にはいかなかった。海の色も昨日までと全然違う。太陽の光に照らされて、どこまでも透き通り、輝いていた。 テントの中で水着に着替えて外に出ると、照りつける太陽が夏を告げている。純君とニトロはもう泳いでいた。静かに海に入る。ニトロのシュノーケルを借りて珊瑚礁を見つけに泳いだ。強烈な日差しにつめたい水が心地いい。 30メートルほど泳ぐと、そこは別世界だった。美しい珊瑚礁、いくつかのちいさい熱帯魚と、コバルトブルーの大きなヒトデを見つけた。感動的な海だった。海を上がると波打ち際で純君が寝そべっていた。少しはなれて私も浜に寝そべった。波が足首をさらっていく。目を閉じて深呼吸をする。 そのとき私は、なぜか自分が、この一瞬を求めて旅を続けてきたような気がした。私達だけの、誰もいない海。何をしていたわけでもなく、ただ真っ白い浜に寝そべり、眩しい太陽と遠くに泳ぐ友をぼんやりと見ていた。それは、きっとずっと忘れることのできない、輝いた一瞬だった。 夕方の船で石垣へ戻る私とニトロは、早めの撤収を終えてタケさんちに向かっていた。最後にタケさんちでお昼をごちそうになる約束をしていたのだ。 途中、再びキム君に会った。今日もしけで釣りにならないらしい。「また波照間で会おう」そういって別れた。 タケさんちでそうめんチャンプルーをごちそうになり、そのまま3人で港に向かった。今日帰ることがまだ信じられない。また明日、ニシ浜でみんなと会える気がしていた。晴れた波照間の景色を、目に焼き付けながら、歩いた。後ろからチャリで純君が追いかけてきた。19歳の仙台少女にも手を振った。みんな見送りに来てくれる。港の待合に着くとキム君までもが現れた。おおーっと歓声があがる。彼にしては意外な行動だった。或いは私達が勝手にそういうイメージを持っていたのかもしれない。彼はすっかり私達に心を許しているようで、それが余計その場の雰囲気を和ませた。 4時半を過ぎて、夕暮れにさしかかった海に石垣への最終便が着いた。 客はほとんどいなかった。ニトロは自転車を積んで、私もザックを座席においた。出航までのわずかな間、ちいさな船の甲板に出て出航を待った。見送られる時はいつも、見送ってくれる人の温かい感情と、別れのせつなさが入り交じって言いようのない気持ちになる。最後にひとりひとりと握手をかわした。会えて本当に良かった、そんな気持ちが手のひらから伝わってくる。とても純粋な感情だった。たった3日、旅の途中に、この島で同じ時間を過ごしただけ、ただそれだけかもしれない。でも私もみんなも、きっと出会うために、この島に呼ばれたんだと、そんな気がしていた。 もう船が出る時間だった。 私とニトロは何も言わず、ずっと手を振っていた。そうしていないと、あの波照間での夢のような時間が消えてなくなってしまいそうだった。込み上げてくる涙を笑顔で隠しながら、ずっとずっと、小さくなる彼らと島に向かって、手を振り続けた。 終わり
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