STAGE4:ゲリラライブ


 いよいよ歌番組”サタデーミュージックホール”の当日である。マネージャーは前日美奈子の携帯電話に電話を入れる。しかし何度電話をしても、
「おかけになった電話は、現在電波の届かない所にあるか、電源が入っていないため、かかりません。」
とアナウンスが流れるだけである。自宅にも何回も電話をしたが、美奈子の両親から、
「友達のところにでもいるんじゃないですか?」
とシラを切られるだけだ。事務所の人々やテレビ局のスタッフ達は、
「美奈子が失踪した!」
と大騒ぎし始めた。

 で、当の美奈子はというと、都内から遠く離れた海岸にある、つまはじきのドラマー村田茂人の自宅にいた。その家は大きく、土蔵を改造して作った練習スタジオ兼ライブハウスもあるので、数日前から美奈子達”新生つまはじき”は全員、密かにここへ移り、まるで合宿のような生活をして日夜猛練習に明け暮れていたのである。加えてここは携帯電話の電波も届きにくく、海からすぐ後ろに山がずっと続いているような所にポツン、とある寂れた漁村の外れでもあり、外部との連絡も取りにくい。美奈子自身事務所にはこのつまはじきのことなどは一切しゃべってないので、少しの間潜伏するにはもってこいである。ここならうるさいプロダクションやマスコミの連中からも見つかる心配もないだろう、ということでこうなった。この日は練習は午前中で切り上げ、午後はリビングでテレビを見たり、音楽を聴いたりしながらゆっくりしている。茂人も相当音楽に詳しく、美奈子に色々なロックバンドや、その前身であるブルース、R&B のアルバム等をたくさん聴かせてくれた。美奈子は茂人お勧めの映画「ブルースブラザーズ」のビデオを見ては、
「ハハハハ!ある意味今の私達みたいですよね!ぶっ飛んだようなことばっかりしているって言うか。」
と笑い飛ばしたりもした。
 夕方になっても、清志郎達は出発しようとしない。美奈子は時計を見、
「そろそろ出かけないとやばいんじゃないですか?」
と促した。清志郎は、
「バ〜カ!時間厳守で行ったんじゃゲリラライブにならねえじゃねえか!まあ、飯でも食ってゆっくりしてろや。」
と酒を飲み続けながらクダを撒くように答えた。それからすぐ、出前の寿司が来た。寿司はすべて特上、おまけに刺身や酢の物などもついた豪華品である。
この漁村には、世間からは殆ど知られていないが腕利きの寿司職人がいる寿司屋があるのだ。しかもネタは全て地物の海産物だ。これらは清志郎、加納、茂人達3人のおごりである。しかし相当豪華そうだ。美奈子はちょっと悪い気持ちがし、
「本当にいいんですか?こんなにいいものばっかり頂いて。」
とちょっと心配しながら聞いてきた。清志郎は、
「いいんだよそんなこと心配しなくても!これは俺達の大事な出陣式だからな!実はライブの時までに、こうして4人でパーティを開いて見たかったんだ。富士夫の供養も兼ねてな。」
と豪語する。メンバー4人がリビングに集まり、
「よっしゃ、俺達新生つまはじきの船出を祝って、乾杯!」
と乾杯をし、夕食兼小パーティーとなる。昼から酒を飲み続け、もうほろ酔い状態の清志郎はかなりハイテンション気味だ。一同は極上の寿司に舌包みを打ち、出発までの楽しいひと時を過ごした。楽しい出陣式(?)となった。

 辺りが暗くなった頃、一向は村田のワゴン車に乗り込み、出発した。ちなみに美奈子以外は皆酒を飲んでしまったので、運転手は村で漁師を営む村田の長男である。

 時はそれから3〜4時間程後だろうか。舞台は移り変わり、某テレビ局のサタデーミュージックホールの撮影現場であるスタジオである。今日は美奈子のほか何名かの歌手が出る予定である。番組開始の数時間ほど前から、番組撮影の準備が始められた。だがしかし、美奈子は一向に現れない。番組のあの悪者プロデューサーは、美奈子のマネージャーを怒鳴りまくっている。
「何やこれは!美奈子はどないしたんや!いまだに連絡すらとれんって?お前それでもマネージャーか!」
 すごい剣幕で怒鳴り散らすディレクター。マネージャーは、
「・・・・申し訳ありません、今事務所のスタッフ一同で何とか探している最中ですので・・・・。」
と必死に謝り続けるくらいしか出来ない。外では、美奈子の事務所のスタッフ達が必死で美奈子を探し続ける。だが番組開始直前になっても、美奈子は発見されず、当然スタジオにも現れない。ディレクターは歯軋りしながら、
「しょうがないのお!とりあえず美奈子なしで番組スタートや!」
と指示を出した。その為に出演者達の出演順など、番組のプログラムも急遽変更せざる終えなくなった。
 
 まずは他の出演者に歌ってもらい、美奈子を待つ。番組開始から30分近くになっても、美奈子は来ない。この番組の司会者は元々漫才師であった某有名男性お笑いタレントであるが、彼はとうとう痺れを切らし、
「今日は小松美奈子さんも出演される予定だったのですが、いまだにご本人はスタジオに来てくれません。どうしたものでしょうか?」
 といってしまった。客達もしかめっ面をしている。ディレクターはキレ、
「バカ!それを言ったらおしまいやろうが!」
と立ち上がる。

 するとどこからともなく、美奈子の声が鳴り響いた。
「呼んだ?」
 見るとあの小松美奈子が、スタジオ上部にあるギャラリーの上に、壮年のロックミュージシャン3人と一緒に仁王立ちしているではないか!その声、しゃべり方、雰囲気や様子などは全て今までの美奈子と全然違い、けだるくぶっきらぼうで、不良くさい。しかもその衣装はド派手な模様のYシャツを羽織り、中にはロックミュージシャンのものと思われる白黒写真が入ったTシャツを着、下はこれまたロックミュージシャンが履いているようなスリムのレザーパンツにウエスタンブーツ。ちなみにTシャツの写真は、無論実父柴田富士夫のアップ写真で、わざわざこの日のために仕立てたものだ。メイクも今までにない位派手なものだ。このメイク、清志郎がライブ前、某パーキングエリアで休憩した際美奈子に施したものだ。顔全体に塗られた分厚い光沢のあるファンデーション、黒く塗られた目の回り、サイケデリック(幻想的)で怪しい雰囲気を引き立てるダークレッドの口紅。ズバリこれも、つまはじき時代の富士夫を真似したものである。どこからどう見ても正真正銘のロックミュージシャンだ。他のミュージシャンらしき男達もかなり派手なメイクをしている。

 まさにゲリラ的登場である。

 場内は皆騒然とする。4人はギャラリーを降り、こちらに向かってくる。マネージャーが、
「美奈子ちゃん!あなた何やってるの!」
と美奈子を呼び止めようとするが、そのすぐ後ろを歩くミュージシャンが、
「ウルセエ!どけよ!俺達を誰だと思ってるんだ!」
と脅しを入れる。そのミュージシャンが誰であるかをマネージャーは悟り、まるで魂を抜き取られたかのように驚愕した。
「な、仲野清志郎・・・・・。」
 そのマネージャーも、若い頃は熱烈な清志郎崇拝者だったのだ。他の2人も業界ではかなり名を知られた逸材である。スタッフ達は彼らを見て皆びっくりしている。まさかあの今をときめく売れっ子アイドル小松美奈子が、あの日本を代表するロックシンガー仲野清志郎と一緒に出てくるとは・・・・。ディレクターは、
「何や、こんなの聞いておらへんど!」
と立ち上がる。が、清志郎からぐっとにらまれ、恐ろしさのあまり黙り込んでしまった。客は突然起こった出来事に目を疑いながらも、それでも美奈子が来てくれたことに歓喜し、拍手を送る。テレビを見ていた客達もみな騒然とする。ただ、美奈子の両親、それと猫のニャンちゃんだけは、彼女をテレビの前で温かく見守っていた。
 清志郎、富士夫の盟友であった北川景、及びその娘麗子もテレビでそれを見ていた。麗子はブラウン管に映し出された光景が信じられず、自分の目を疑っている。
「み、美奈子・・・・、どうしたのよこれ・・・・?」
 景は微笑みをを浮かべ、言った。
「あなたのお父さんと、美奈子ちゃんの本当のお父さんは、あんなふうにロックバンドをやっていたのよ。'70年代の始め頃、世間を騒がせていた「つまはじき」って言う伝説的ロックバンドよ。美奈子ちゃんの本当のお父さんは柴田富士夫って言って、今の彼女のお父さんのお兄さんで、彼女のお母さんの前の旦那さんよ。富士夫さんは私とも、今美奈子ちゃんと一緒に出てる清志郎ともとても仲がよかった、いやとても尊敬されてたカリスマ的ロックギタリストだったのよ。」
 景の旦那で麗子の父である浅田哲夫も、数年前他界している。景は美奈子たちを見守りながら、
「これは変なことなんかじゃない。きっと富士夫さんの魂が、2人をめぐり合わせたのよ・・・・。」
とつぶやいた。その心はきっと自分の夫や富士夫のことを思っていたのだろう、彼女の目には涙がたっぷり込められていた。

 司会者は目の前の出来事が受け入れられずにいながらも、
「み、皆さん!お待たせしました!小松美奈子さんです!しかも何と、あのロックミュージシャン仲野清志郎さんを連れての登場です!果たしてこんなことが、本当に起こり得るのでしょうか!全く驚きです!」
と興奮気味に一行を紹介した。

 4人がステージに上がり、インタビューのスタンバイが整う。司会者が、
「美奈子さん、びっくりしましたよ。これは一体どういうことなんですか?」
と美奈子に尋ねようとすると、それにはすかさず清志郎がふざけた様子で答えた。
「ヘヘヘ!俺達組んだんだよ!驚いただろ〜〜〜!!!!」
 清志郎は酒臭い顔のまま美奈子の肩を抱き、ハイテンション気味である。一同は目を真ん丸くする。特に美奈子のマネージャーはもうショックでブッ倒れそうだ。
 司会者は冷や汗をたらしながら、
「え?清志郎さん、美奈子ちゃんとバンドを?」
とまた質問を入れる。清志郎は、
「そうだよ!悪いか?」
とちょっとガラが悪い言い方で返す。司会者はちょっとビビリ、
「じゃあお2人はどういう関係なんですか?」
とうかつにも聞いてしまった。清志郎は更に美奈子をぐっと抱き寄せ、
「ヘヘヘ、俺達愛人関係なんだよね〜〜!」
とふざけて言った。ちなみに清志郎は当然ながら既婚者で、子供も数人いる。これには美奈子自身も一瞬ぎょっとし、客席からもエ〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!と声が上がる。 すると清志郎は、
「そんなことあるわけないだろう!このスケベ!」
と司会者の頭を平手でバン!と叩く。司会者は痛そうに頭を抑え、客席からはどっと笑いが起こる。まるでドツき漫才の世界である。ちなみに彼は元々ドツき漫才の代表選手的存在で有名なドツき漫才師で、しかも昔一度だけ歌手デビューした時清志郎が曲を書いてくれた仲でもあるので、多少こんな乱暴なことをしても彼ならギャグと受け取ってくれるだろう、と清志郎は本番前、美奈子にこっそり告げていた。それにしても清志郎の人脈、芸能界への影響力とは凄まじいものである。
 清志郎は、
「美奈子はな、俺の友達のロックミュージシャンの実の娘なんだ。そのうち分かる時が来るだろうがな。だからこの子は俺の娘みたいなもんさ。俺はこの子を、一人前のロックミュージシャンに育てようと思い、バンドを結成したわけさ!他のメンバーも、この子の実の親父と一緒にバンドをやっていた仲間さ。」
とやっとまともに答えてくれた。司会者がそれに、
「ほう、そのミュージシャンのお名前は?」
と質問を入れると、後ろから加納が、
「ウルセエな!ごちゃごちゃいわねえで早く演奏させろよ!」
と司会者の頭をゲンコツで思いっきりボカッ!と叩く。もう既にむちゃくちゃムードになり始めていたが、美奈子はその中でもずっと腕を組んだまま沈黙を保ち、笑顔一つ見せない。その目はいつもと違い、血に飢えた野獣のようにギラギラしている。今までの清純派アイドル的イメージと全く異なり、何だか迫力すら感じる。いや、ロックミュージシャン特有の威厳のようなものを感じさせた。それはやはり、彼女の体の中に流れる血がそうさせているのであろう。
 司会者は”何て連中だ!”と思いながらも、インタビューをこの辺で打ち切ることにし、
「そ、それでは演奏していただきましょう。小松美奈子さんと仲野清志郎さんで・・・・・。」
と言った時、今度は何と美奈子から後ろからドカン!と蹴飛ばされ、
「つまはじきだよ、つまはじき!」
と吐き捨てられた。その時の美奈子は、まるで天使が悪魔にでも突然変異したかのようだった。これは他のメンバーよりも、美奈子が自分で言いたかった。勿論これは今は亡き実父柴田富士夫とその実父が作った同バンドへの思いからでもある。マネージャーは、そのバンド名を耳しに、どこか懐かしさを感じた。彼女のTシャツの写真を見、マネージャーは、
「ま、まさか・・・・。」
となぜ彼女がそのバンド名を口にしたか、また先に清志郎が美奈子を”娘のようなもんだ”と言い出した理由をようやく理解し始めた。だが、マネージャーもそれを今まで知る由もなく、”まさかあの子が・・・・”となかなかそれを受け入れられないでいた。
 美奈子から蹴飛ばされた司会者は、あ、あの美奈子ちゃんが・・・、と愕然とするが、何とかすぐに体制を取り戻し、
「で、ではつまはじきさんで、曲は・・・・・。」
と言おうとした。そうしたら既にスタンバイに入っていたドラムの村田が突然それをかき消すかのようにドカドカ!とドラムを叩き、
「そんなのどうだっていいじゃねえかよ!このハゲジジイが!!」
と司会者にスティックを投げつける。このように美奈子や清志郎達から散々イジメられ、もう踏んだりけったりの状態だが、司会者はこれは面白くなってきたと開き直り、
「そ、そうですよね、そんなことどうでもいいですよね!ハハハハハ・・・。では、どうぞ!」
と言い放ち、ステージから逃げるように去っていった。


 茂人がチャンチャンチャンチャン!とシンバルを格好よく鳴らすと、スタジオにはまるで地鳴りのような轟音が鳴り響いた。それは無論、清志郎、加納、茂人の演奏である。歪んだ音で、イントロのギターリフを弾く清志郎。重圧かつドライブの効いた加納のベース。爆発的なパワー、スピートでドラムを叩きまくる茂人。それはとても五十路を過ぎた壮年達の演奏とは思えなかった。美奈子はマイクスタンドを両手に持ったままそれを見守り、歌い始めた。その歌詞は、今までの美奈子の曲しか知らない人々を仰天させ、唖然とさせた。


いやな世の中

頭の中が爆発しそうだ
このくだらねえ世の中にはよ
能書きばっか達者なだけの
バカな奴の天下じゃねえか!

テレビや何かに出てやがる
有名人どもを見てみなよ
どっかの腹黒い親父どもの
あやつり人形ばっかりじゃねえか!

政治家どもはバカばっかりだ!
官僚どももバカばっかりだ!
資本家どももバカばっかりだ!
どいつもこいつもバカばっかりだ!

頭の中が爆発しそうだ
このくだらねえ世の中にはよ
いっそ津波か何かに飲まれて
なくなっちまったほうがまだましだ!


作詞:H.Saitou



 曲はハードかつスピードがあり、パンク顔負けの破壊力、押しの強さを持ったバリバリのビートロックである。あえて言うなら、60年代ビートルズ、ローリングストーンズと並んで”3大ロックバンド”と称されたザ・フーの代表曲、「マイジェネレーション」を思わせる。ともかく世間や社会への不満を大声でブチまけ、怒鳴りまくっているような感じの歌詞、曲である。美奈子は今の自分を取り巻く環境や業界へのやり場のない怒りを爆発させるかのように吠えまくり、クダを撒き散らすような歌い方で、ガンガン押し捲る。実父柴田富士夫の曲なので、当然男言葉であるが、そんなこと彼女にとってはどうでもよかった。ともかくこの曲を亡き実父に捧げたい、そういう思いもあるからだ。もうこれが本当にあの小松美奈子なのだろうか、というくらいだ。しかし見ていると本当にカッコイイ。今までの美奈子と全然違う凄さ、エナジーを感じる。声量、パワー、突っ込み、どれをとっても素晴らしすぎる。かつての山下久美子、アン・ルイスなど、持ち前のパワフルヴォイスで日本中を熱狂させた女性ロックシンガー達をも凌ぐほどだ。もう見ている人、聴いている人に全く有無を言わせない程だ。練習中、清志郎はよく彼女に、
「いいか、お前の体の中には、ロックミュージシャンの血が流れてるんだ。間違えてもいいから思いっきり歌うんだぞ!言っとくが歌はお前にすべて任せる。コーラスなんかも絶対入れねえからな!覚悟しとけ!」
と言っていた。その清志郎の煽り文句も、美奈子自身の精神と肉体の中に眠っていたロックスピリットをここまで目覚めさせる原動力となったのだ。それにしてもよくもまあ、こんなとんでもない歌を、あの清純派アイドル小松美奈子が歌ったものである。しかし、こういう過激なこと、世間をギャフンを言わせるようなことをかっこよく歌い上げるのが、本当のロックンロールなのではないだろうか。今これだけのロックを歌える人物が、どれだけ残っているだろうか。
 その傍らで、ギンギン歪んだ音で、ガンガン弾きまくる清志郎のギターも素晴らしい。ファン達は、あの清志郎がこんなにもギターがうまかったのか、と目から鱗が落ちるような思いでそれを見守った。その音色、音使いはやはり、美奈子の実父柴田富士夫を強く意識している。美奈子はそれがとてもうれしかった。ギターソロの時は特にそれを感じさせた。まさに伝説のロックギタリスト柴田富士夫直伝の極上ロックンロールギターだ。ただ清志郎はこの時完全にエキサイトしてしまっていて、ライブ終了後どんなフレーズを弾いていたかも全く覚えていないといっていたが・・・。加納や茂人のベース、ドラムワークも凄い。もう視聴者に有無を言わせない程のパワー、持久力、集中力だ。もう50をとっくに過ぎているとはいえ、長年ロックミュージシャンとして数知れない程の修羅場をくぐってきたからこそ、こんなすさまじいリズムワークができるのだろう。もう檻から解き放たれた猛獣がステージの上に現れ、獲物を求めてがむしゃらに暴れているようである。客もいつしか狂ったように拳を何回も振り上げたり、狂ったように踊ったりしていた。まるで戦争か暴動のようだ。

 曲はいったんクライマックスへとなり、バックの3人はジャ〜〜ン!と轟音を出し、美奈子も左手にマイクスタンドを持ったまま大きく右手を天めがけて振り上げ、ポーズをとる。それが鳴り止み、曲が終わるのかと思ったらそうではなく、茂人がまた速い2ビートを叩き始め、美奈子がマイクスタンドを片手に、
「ONE!1234!」
と絶叫すると、先程の「いやな世の中」のイントロと同じようなリフが別のキーで演奏され、また美奈子は歌いだした。そう、実はこの曲、同じ曲に2つの歌詞を載せた2部作なのである。つまり「いやな世の中」をキーをAにして演奏したのが前半、それが終わってキーを今度はDにし、以下の歌詞で歌ったのが後半である。

ムカつく奴

オレの話を聞いておくれよ
ムカつく奴の話なんだけど
オレ達のことをピエロ扱いして
こき使ってばっかりいる奴がいる!

オレが言いたいこというだけで
黙れと抜かす奴がいやがる
オレがやりたいことやるだけで
やめろと抜かす奴がいやがる!

いっつもイバってばっかリいるけど
そんなにテメエがエライのかよ
オレ達を商売道具にしやがって
悪金稼いでるだけじゃねえか!

テメエの言うことこのままいつまでも
聞くと思ったら大間違いだぜ
テメエの組織や権力なんざ
俺が全部ブチ壊してやる!

そんなに俺が気にいらねえなら
オレの所へやってきなよ
オレのギターを壊してみなよ
オレのことを殺してみなよ!

作詞:H.Saitou


 この歌詞は前半の”いやな世の中”以上に過激で、美奈子の今現在の気持ちを代返しているといえる。これを書いた富士夫も、きっと当事こんな心境だったのだろう。それを物語るかのように、美奈子は前半よりももっとエキサイトし、絶叫し、暴れまくった。自慢のストレートロングヘアを振り乱すだけ振り乱し、体がバラバラになりそうなくらい激しくムチャクチャな踊りを思いつくまま無我夢中で踊る美奈子。本当に(体が)バラバラになってもいい!と美奈子はエキサイトしながら本能的にそう思った。カメラマンが一人、美奈子に近付いて来たが、美奈子はそのカメラを奪い、床に思いっきり叩きつけ、カメラマンにパンチ、飛び蹴り、体当たりをたて続けに喰らわせた。ちなみにこのカメラマン、時々美奈子たちアイドルのパンチラなどをわざと撮ったりすることがあり、美奈子たちからも評判が悪かった。美奈子もその被害(?)にあったことがあり、この暴行はそれに対するはらいせでもあった。それも「怪傑ヴィーナス」なる格闘ドラマを演じていただけあってなかなかの威力であり、カメラマンは体ごとぶっ飛んでしまった。
 美奈子の歌はいったん止み、清志郎のギターソロが始まる。その直前辺りから、清志郎は口に花火を咥え、引火させた。清志郎の口に咥えられえた花火から、おびただしいほどの火花が飛び散る。これは昔爆風スランプ(サンプラザ中野がいたことでも有名)というコミックバンドの得意技「人間花火」という荒技だ。
「どうせやるなら徹底的に派手に過激にやるべきだ!」
 清志郎はミーティングでいっていたが、これは美奈子達も聞いていなかった。こういう風に突然意表をつく行動に出る辺り、さすがは長年に渡り日本のロック界を引っ張ってきたロックミュージシャン、仲野清志郎である。美奈子はマイクスタンドを天井めがけて放り投げ、落ちてきたそれを拾わずにステージを降り、スタジオ内を走り回り、ギャラリーへと階段を上っていく。大体2階建ての人家の屋根のてっぺん位の高さであるギャラリーの上から、美奈子は特大ジャンプを披露した。ギャラリーのフェンスの上に立ち、そこから思い切りジャンプし、空中で丁度ウルトラCの要領で何回転かし、素晴らしいほどタイミングよく足をかがめ、ステージの上にピタッと舞い降りる美奈子。まるでサーカスのようだが、これまた格闘ドラマで得た過激アクションである。そんなスーパーパフォーマンスを見せた美奈子に、客達から歓喜の拍手が起こる。だが美奈子は、彼らに決して笑顔を見せず、”うるせえんだよテメエらは!といわんばかり上目使いでにらみまわす。その鋭い眼差しには、これがあの小松美奈子かというくらいの眼力、迫力があり、彼女の実父柴田富士夫の魂が乗り移っているかのようだった。ステージ上に転がっていたマイクスタンドを拾い上げ、また歌が始まると、美奈子は今度猛然とダッシュして客席になだれ込み、客達の間を練り歩き始めた。これもファンサービスというよりも、群がる客を蹴散らし、掻き分け、無理矢理歩き回っているような様子だ。どさくさにまぎれて体を触ってこようとした男に、思いっきりヘッドロックを食らわせる美奈子。ギターの清志郎、ベースの加納、ドラムの茂人もどんどんどんどんヴォルテージを上げて行き、場内の興奮度は最高潮に達しようとしていた。
 
 美奈子がステージに戻り、歌い終わると一回曲はぴたっとブレイクし、その直後バックの3人はこれまでにない騒音をジャ〜〜〜ン!と鳴らし始め、ここから本当のクライマックスとなる。茂人はこれまでにない程激しく乱れ打ちをドラムキット全体にお見舞いし、加納はその乱れ打ちに合わせて雷のようなベースソロを弾く。清志郎はギターを弾いているというよりはフィードバックやアーミングなどで凄まじいノイズを出しながら、ザ・フーのギタリストであるピート・タウンゼント、またはロックギターの革命児ジミ・ヘンドリックスのような過激パフォーマンスで大暴れを始めた。美奈子は体を大きくゆっくり何回転かさせたようなダンスを見せた後、マイクをマイクスタンドから外し、スタンドを床めがけて思い切りバン!と放り投げ、長〜いマイクコードをマイクをつけたまま、まるでチェーンのようにブンブンブンブン振り回し始めた。最初はマイクのコードを短めに持っていたが、段々段々それを長く伸ばして振り回し続ける美奈子。丁度ザ・フーのヴォーカリスト、ロジャー・ダルトリーを思わせる過激ステージングだ。マイクからは大量のノイズが発せられる。そのノイズはバックの3人が出すノイズとゴチャ混ぜになり、スタジオ内はもうノイズの地獄と化している。やがて美奈子はマイクを天井めがけて思い切り放り投げ、再びマイクスタンドを手に持ち、その下の足の部分を中心に、何やらスプレーを盛んに吹きかける。これはグリススプレーで、スプレーの中身がなくなると美奈子は空スプレーを思い切り放り投げ、ライターでマイクスタンドに火をつける。美奈子はステージ上のあちこちを走りまわりながら、メラメラと炎に包まれ燃え盛るマイクスタンドをまるで凶器のように振り回し、床のあちこちに叩きつけたり、他のマイクスタンドや照明スタンドをなぎ倒したりして最後の大暴れを試みた。それを見た清志郎はギターを床に何回も何回も叩きつけ、粉々に壊してしまった。加納もベースを叩き壊し、茂人もドラムキットをバラバラに蹴散らし、シンバルやスティックをあちこちに投げまくった。
 
 こうして美奈子達新生つまはじきのゲリラライブは終わり、メンバーはステージに立ち尽くす。4人とも全身全霊のパワーを使い果たしてしまったかのような様子だ。皆頭の中には何も思い浮かんで来ない。清志郎が他のメンバー達に”おい、ずらかるぞ”とサインを出し、4人はスタジオを去って行った。出口の手前で、ディレクター達が立ちはだかるが、清志郎はディレクターに思い切りパンチを喰らわせ、ぶっ飛ばした。
「ヘン!いつまでも権力者面してんじゃねえぞ!このドスケベ親父が!」
 倒れこんだディレクターに捨て台詞をお見舞いし、去っていく清志郎。清志郎もこの悪者ディレクターから何度となく酷評されたことがあるのだ。それに美奈子、加納、茂人が続き、一向はどこかに去っていってしまった。茂人はスタジオを出る際、大量の爆竹をスタジオ内に投げ込んだ。それはスタジオ内のあちこちで、ババババ〜〜〜ン!と鳴り響き、人々を唖然とさせた。
 
 もう、4人を止めるものなど、誰もいなかった・・・・。



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