折々の雑文 第7回

プールは黒く染まるのか?

折々の雑文 #7

 その日のI君はやたら晴れ晴れとした表情をしていた。
 I君の髪は茶色く脱色されていた。それは明らかに自分で脱色したのが分かるぐらい、あまりうまい仕事ではなかった。
「おお、I、髪の毛染めたんか」
 彼の友人たちは、彼の茶色い頭を見て茶化したりしていた。I君はやや嬉しそうだ。

 しかし、恐い担任の高田先生が朝のホームルームに来る時間が近づくと、I君は急に慌てだした。
「ヤバイ、高田にシバかれる。黒染めされるかもしれへん」
 当然、うちの中学も茶髪は禁止である。そんなこと彼も、判っていたはずである。I君は不良なのに妙に臆病なところがあった。そして、彼は何を思ったのか、絵の具セットの中から黒の絵の具(ポスターカラー)を取り出し、自分の茶色の髪に塗り付けだした。一応遠くから見ると、ごく普通の黒髪だが近くで見ると、不自然な黒光りをしていた。

 幸いにも、高田先生は彼の頭には気付かなかった。しかし、I君がその日の一時間目は体育しかも、水泳であることに気付いたのは先生が去った後だった。
 プールは黒く染まったか、染まらなかったかはあえて書かない。

* * *

 いまから5年ほど前の思い出である。I君は中学を卒業して働きだした。いろいろ、悪事を働いても、彼も落ち着くところに落ち着くだろう。関係者はそう考えていた。しかし、 そうはならかった。去年の10月2日に彼は自分の家を焼いた。全焼だった。さらに、となりの二軒の家を半焼した。彼はシンナーを吸い、そのシンナーが自分のベッドにこぼれ、それを乾かそうとしてライターであぶった。それが出火の原因だ。きっとラリっていたのだろう。彼は自分の家を焼いた上、重過失失火で警察に現行犯逮捕された。

 彼がたかがシンナーで破滅した。有機溶剤であるシンナーはよく燃える事をラリった彼は理解できなかった。中学時代の彼は勉強は嫌いだが、それほど馬鹿ではなかった。薬物の恐ろしさを今更ながら知った。I君には頭に黒い絵の具を塗った気持ちでもいいから、ぜひ社会復帰して欲しい。

(2000/2/8)

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