十号法廷
折々の雑文 #11
3月30日、僕はこの春から某私大に通う悪友Mと京都地方裁判所にいた。ただ急に、裁判が見たくなったのだ。京都地裁は、よくテレビに報道される大阪地裁のように大きな建物ではなく、普通の小学校ぐらいの大きさだった。建物内は廊下が狭く、病院のような内装だった。法廷の入り口にはその日ある裁判の被告、罪状、今日の裁判の手続きが記載されてあった。十号法廷は、一階の入り口からすぐ入ったところにあり、今日の公判も道路交通法違反から殺人(※これは次回詳しく書く予定)まで幅広い裁判があった。とりあえず入ってみた。
京都地方裁判所第十号法廷は、予想外に狭く、天井が低かった。京都地裁で一番大きな法廷だが、傍聴人は40人ほどしか入れないだろう。しかし、傍聴人は僕とMを含め、三人しかいなかった。罪状は業務妨害。今日は判決が出される。被告人は頑強な二人の警察官(正式には矯正職員と言うそうである)に囲まれ、さらに手錠をかけられ紐で繋がれて出廷した。本当に紐を繋がれた人を見ると、ショックだった。もちろん、テレビのようにモザイクなどかかっていない。
被告人の身長は165ほどのやや小柄な男だった。衣服は、高校のサッカー部員が着るようなジャージを着ていた。顔はよくファミ通に登場している、カプコン取締役の岡本氏をご想像いただきたい。そっくりでした。裁判長はゆっくりと出廷してきた。彼は大きな皮の椅子に着き、「被告人は座って、判決を聞くように」とあまり凄みのない声で、判決文を読み出した。
「判決主文。被告人○○を懲役八月に処す」
法律特有の読み方で、懲役八月は“ちょうえきはちげつ”と発音する。
「被告人は指定暴力団A組に所属し……」
僕と悪友は、A組と聞いて震え上がった。全国的に有名なヤクザの老舗だ。なんでも、彼はパチンコ屋に客を装って(そりゃ店員のフリはしないでしょう)侵入して、店の中でほかの暴力団員に携帯電話をかけている振りをして脅迫したようだ。
「ええ、兄貴。これはどうも。ご無沙汰しとりますわ。へい。兄貴の方はシノギどうでっか? そらよろしいなあ。こっちはもう締め付けがきつうて」
判決文では触れていなかったが、こんな事を言ったのだろうか。なんてベタベタなことを。さらに、彼は他の客のパチンコ箱をひっくり返したり、コーヒーをこぼしたり、トイレの便器におしぼりを詰め使用不能にするなど、乱暴狼藉を働いた。
これほどの事をしたなら、業務妨害罪の限度懲役三年をいっぱい食らいそうだ。裁判官も「犯行は悪質」と断罪している。ただ、「犯行は悪質」と言っている裁判長の言葉が妙に軽く聞こえるのだ。この人、本当に悪質と思っているのか? たぶん、判決文を書く時は必ず「悪質」書かないといけないようだ。そのうえで、裁判官はよく反省して組から足を洗うなどの点を考慮に入れ、刑を軽くしたようだ。本当に組を辞めれるかは知らないが。ちなみに、被告の指の数はちゃんと十本あるかは見えなかった。後でMから聞いたのだが、裁判が終わり被告が退廷する際、被告人は閑散とした傍聴席を見渡し、僕らを睨み付けたらしい。僕は下を向いていて気付かなかったのだが、Mはややビビリながら、「やっぱりプロは違う」みたいなことを言っていた。
何のプロやねん。
(2000/4/15)
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