折々の雑文 第15回

サンタクロースの話をしよう

折々の雑文 #15

 こんにちは。
 私は8さいです。サンタクロースなんかいないなんて言う友だちがいます。『サン』に書いてあることならほんとうのことだといつもパパが言っています。ほんとうのことを教えてください。サンタクロースはいるのですか。
ヴァージニア・オハンロン

* * *

 これは今から百年ほど前に、一人の少女が『ニューヨーク・サン』という新聞に送った手紙である。少女の手紙に新聞社は社説で答えた。副編集委員フランシス・チャーチが書いたこの社説は名高く、クリスマスが近くなるとしばしば引用されるものなので、ご存じのかたも多いだろう。

 そう、サンタクロースがいるかいないかは少女にとって、重大な問題なのである。僕がサンタクロースがいないのを知ったのは小学一年の冬のことであったが、かの野比のび太氏は小学四年になっても固く信じていた。おそらく世界記録であろう。だから、百年前の8さいの女の子が知らないのはなにも不思議でない。今の世は三歳の子供ですら、「サンタなんていねえんだよ」と夢のないことを抜かすに違いないが。

 そう夢がないのだ。「サンタさんがいないことが」をヴァージニアは受け入れないのだ。世間が許しても体が許さないのだ。人間きっとそういう時期があるのだろう。
 『サン』の社説は、無難な「サンタさんは見えないものけど、いるんだよ」的なズルい逃げ方をしたが、僕ならこう答えよう。

「ヴァージニア、確かに友達の言ったことは間違えていないよ。でも、よく考えてごらん。本当にサンタクロースがいたらどうなる? 君が思っているより、きっとつまらないものだよ。世界中にはたくさんのこどもたちがいるんだよ。サンタさんが一人で全部の仕事をできるとおもうかい? サンタさんがたった一日で配れるハズがないじゃないか。
『それじゃあ、サンタさんが、人を雇えばいいじゃないか』と君は言うかもしれないけど、ヴァージニア、それも無理な話なんだ。今の大阪府労働局が定める最低基準が日当約5500円。おそらく何万人も雇うことになるから、人件費だけでもとんでもなくお金がかかる。それにヴァージニア、君は犬ぞりを引いたことがあるかい? これが意外と難しいんだ。それがトナカイでしかも空を飛ぶのだから、バイトの兄ちゃんに扱えるシロモノじゃないんだ。あのコンコルドが落ちる時代だよ。こんなの悪質ドライバーだったら危なくってしょうがない。もし一人でも落ちたら、やれ労災だ、賠償金だ、サンタさんの負担は天文学的なほど高くなる。ただのジジィのサンタさんに、そんなことできっこないよ。

 けどヴァージニア、がっかりしてはいけない。サンタクロースがいなくて、さみしい? とんでもない! 例えばきみが将来大きくなって、サンタクロースの格好してハイスクールで、マシンガンを乱射してごらん。どこの誰もサンタクロースを『よいもの』と思わなくなる。みんなサンタクロースを『悪いもの』と思うようになるよ。所詮、サンタクロースだってそういうものなんだ。かたちあるものに騙されてはいけないんだ。

 ところで、こんな季節に何故クリスマスの話をするのかって? そう、ヴァージニア。僕は暑さのせいで、おつむがちょっとイカれているんだ。」

(2000/8/6)

雑文速報祭出品作品)

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