敗者たちの部屋
折々の雑文 #16
その教室に「敗者」たちは集められる。
彼らの「敗北」はある一つの試験に不合格したことである。
原動機付自転車免許取得試験。原付免許だ。私も、彼らも、この「誰でも――悪友曰く、『暴走族のアホガキ』でも受かる」の代名詞たるこの試験に落ちた。私はただ絶望に打ちひしがれた。去年の九月のことである。試験を受けた門真運転免許試験場は建物が新しく、原付免許試験などの合格発表を電光掲示板で行われる。私の番号がなかった。
「原付免許取得試験に不合格した方は●●号教室に集合して下さい」
場内アナウンスが流れる。この不合格者の集まる教室はおそらく悪魔の仕業だと思われるが、合格発表をした電光掲示板の正面にある。つまり、負け犬たちは背中に合格者たちの視線を浴びることになるのだ。本来「合格して当たり前」の試験であって、そのことを敗者たちは一番強く認識している。敗者たちの精神的ダメージは計り知れない。私は重い足取りで、不合格者の集まる教室までトボトボ歩いた。部屋に入り周りの者たちは誰も目を合わさない。彼らは一様に憔悴し、ただ自分の不幸を嘆いていた。
「早く中に入って下さい」
教官と思われる人物が、まだ教室に入らない敗者たちを促す。疲れた中年のオッサンはなかなか敗者の部屋へは入りたがらない。気持ちは解らないでもないが、ここで醜態を見せるべきではない。散り際はあっさりするべきだ。日本男児たるものは「原付免許不合格」という現実をきっちりと受けなければならぬ。
教官は教壇から我々を舐めるように見渡す。これが漫画「カイジ」の一場面だったら、間違えなく「この、負け犬どもが!」とでも叫び、我々を侮辱するだろう。
「まあ試験自体はそれほど難しくはないんですけどね……」
この教官、いかにも「公務員」といったニオイのプンプンする人物であり、したり顔(「したり顔」ってこういうときに使うのだろうなあと言うほどの顔)で我々には「判りきった」事項を延々と説明する。傷口に塩をすり込みように、彼の説教はつづく。
「この原動機付自転車免許取得試験に出題されている問題は、『交通の教本』に載っていることがそのまま出てくるのです。もし、今度受ける機会があるなら、しっかりこれを買って勉強して下さい」
と、あげくの果てに「教本買え」と宣伝活動までしていた。私は警察組織の非情さを肌で感じた。最後に不合格者の点数が張り出されていた。あと一問。あと一問で、天国と地獄ほどの差が開いてあった……。門真運転免許試験場からでた私は、逃げるように駅に向かった。ところが、そこで「サクセス」なる運転免許試験の予想ゼミを行っている組織の太った勧誘員に捕まった。原付免許を不合格した者は、午前中に帰ることになる。それを勧誘員知っているようで、サディステックな目で私を見て、「あらら、落ちたんですか?」「うちの予想ゼミを受けていたら、落ちること無かったのに」という意味のことをほざいてきやがる。試験所の寄生虫のようにして利潤得るという存在に、私は愚弄されている。私は殺意すら感じた。
あとのことはよく覚えていないが、気が付いたら家に帰っており、部屋にはアルコール類の空き缶が数本転がっていた。家族も友達も誰も励ましてくれず、ただ、一さいは過ぎていった。彼らは、私は、これから一生「原付免許を落ちた人間」として生きて行かねばなりません。このように、原付免許の試験を落ちることはとても辛いことです。現在の法制度は、原付不合格者への差別や偏見を助長しています。このような被害者が今後でない為にも早急な法制度の改善が望まれます。
(2000/9/17)
←次の雑文へ|前の雑文へ→|折々の雑文一覧|雑文大學表紙