折々の雑文 第18回

秋の夜長

折々の雑文 #18

 秋の夜は長い。イヤになるほど長い。
 何もやることが無い秋の夜はふて寝か、酒を呑むに限る。

……と思っていたワシが馬鹿だった。飲み過ぎた。ゼミのコンパで二次会まで付いて行ったのがよくなかった。もちろん、後悔してももう遅い。会がお開きになって、店の外に出てからいまさら後悔しても。
 特にビールを空きっ腹に流し込んだのが、よくなかったようだ。気分が悪い。腹が張ったような感じになり、耳下腺から苦い唾液が出る。ガキの頃に苦しんだ乗り物酔いそのものである。そうか、「乗り物酔い」と「酒に酔う」は「酔」という同じ漢字を使うのはその為か。
 神様、もうお酒は飲みません。だから、ゆるしてぇ……。きっと神様は、こんな身勝手な僕には切れた堪忍袋の緒が蘇生する暇がないほどだろうが。

「黒河くん、大丈夫?」
 横の席にいた下宿生の女の子が、心配そうに声をかけてくれた。ありがとう、君は天使だ。彼女の下宿先が、駅方向にあるため一緒に帰ることになった。しかし、さすがの僕でも、酔った勢いでも、
「お願い気分悪いから、きみのうちに泊めて」
 とは、それだけはどうしても言えなかった。もちろん、言ったところで、あとには氷のような彼女の表情が容易に想像できるだけだが……。
「まあ、なんとか家に帰れると思う」と適当に繕い、
「僕のツレに、マグナムドライ1リットル缶を平気で飲める奴がいるけど、あれは理解できへん」
 とか思考能力の鈍った頭が勝手に言いだした戯れ言を、彼女はちょっと笑って、
「わたしもそう思う」と言ってくれた。いい子だ。きっと、俺よりもまともな男に惚れられます。心配せずとも(←余計なお世話だ)。

 途中の交差点で、彼女と別れ、駅に急いだ。最終電車は近い。
 その日は京都では、この秋一番の冷え込みだった。寒い。まだ、十月の中旬なのに息が白い。いかん、寝たら死ぬぞ! 
 僕は終電が来るまでベンチに寝ころび、欠けた月をぼんやり見ながら、僕はわき起こる吐き気を堪えていた。電車の中でも、駅に着いてからの帰り道でも、何度駄目かと思ったことか……。死にそうになりながら帰宅した。

* * *

 顔を洗い、布団に潜っているうちに、少しずつ吐き気が緩和されていったが、まだあまり眠くない。もう既に午前2時を過ぎている。明日も授業がある。早く寝ておかないと、また授業を寝過ごすことになるのに。体は眠りを欲している。なのに、眠れない。
 睡眠と覚醒を行ったり来たりするような心理状態のなかで、急に意味不明な疑問が生まれた。
「全く改造していない原付のスーパカブで鈴鹿を攻めたら、どのくらいタイムを出せるか?」
 なぜ、アルコールの回った頭でこのような不可解な疑問を解く必要があったのかは今となっては思い出せない。きっと、気まぐれというやつであろう。
 しかし、浮かんだ疑問には僕は全力で挑む。酔って、おつむが緩い状態ならなおさらである。問題を全力で挑むことで人類は進歩するのだ。僕は進歩していないけど。

 あなたがどういう経緯でそうなったかは不明だが、スーパーカブで鈴鹿をタイムトライアルするハメになったとしたなら、僕はこうアドバイスしよう。

 鈴鹿の全長は約6キロ(厳密には5,864.03m)。サーキットにしては長い方だ。レコードはF1で1分31秒ぐらい。今年のシューマッハは決勝でも1分35秒代とアホみたいなタイム叩きだしていた。あのスピード狂が(仕事やろ)。ナムコのバイクレースゲイム「MotoGP」によると、WGPなどの500ccバイクで2分5秒前後らしい。
 もちろん、我らがホンダスーパーカブでは、ワープ走行でもしない限りそんなタイム出るワケがない。カブの最高速度が、60キロで鈴鹿の全長が約6キロなので6分前後にはなるだろう。ただ、実はカブにはスクーターのようなリミッターはない(4速カスタムカブは、4速でエンジン回転が高くなったときのみ速度調整機構が働く)。その気になれば、メーター振り切れの時速70キロぐらいはでるのだ。カブを侮る事なかれ。

 さて、具体的に各コーナーを説明していきたい。基本的には、一度スタートのストレートで3速に繋げば、後はシフトダウンする必要はないだろう。
 第1カーブ、S字、逆バンク等は余裕である。このあたりは昔に鈴鹿の観光用カートで縁石ギリギリに攻めた(?)経験があるので、自信を持って言える。減速するとしても、エンジンブレーキで曲がれると思われる。
 デグナー、ここからは僕にも未知の領域だ。今年のF1日本グランプリでもジャン・アレジ等幾人かが餌食となった鈴鹿の第一の難所である。だがこれも、50ccのカブならそれほど、恐いカーブではない。デグナーを過ぎた後、立体交差をくぐり、さすがに減速の必要なヘアピンカーブさしかかる。多分、おもいっきりカブを傾ければ60キロ以上でも走り抜けることは可能かもしれないが、カブのステップやレッグガードをアスファルトに擦り、バランスを崩す可能性が高いので、少しだけ減速したほうがよい。

 複合コーナーのスプーンはおそらく、第一コーナーの要領で走れば問題ないだろう。スプーンを抜け、鈴鹿最長のストレートの後にはマシンはいよいよ鈴鹿最大の難所、130Rに差し掛かる。
 このコーナーは見た目には角度が緩い。角度が緩いということは、「スピードが出せる」ということだ。しかも、900メートルほどのストレートの後にあるのだ。その後にも、またストレートが控えてある。ここをスピードを出さないとタイムが伸びない。大変悪意のあるレイアウトだ。こんなデザインを思いついた奴は、ロクな死に方をしなかったに違いない。
 かのBAR HONDAのエースドライバー、ジャック・ビルヌーヴはかつて「鈴鹿の130Rにはエクスタシーを感じるね」とかのカーブを評した。つまり、レーサーどもには大好評なコーナーなのだ。ところで、僕がうちの近所に「●●大前130R」と勝手に呼んでいるカーブがある。それは、交通量の少ない道で、テレビや鈴鹿サーキットをシュミレーションしたゲームでの130Rとほぼ同じ角度なのだ。
 正直に言います。いっぺんちょっと頑張りました。原付なのに、50キロオーバーでコーナーに飛び込みました。……少しだけ、ジャックの言いたかったことが分かったような気がする。ビルヌーヴどころか、野中幹事長も感じちゃうバイアグラもビックリな凄さである。但し、もし●●大前130Rでコースオフしたなら、サーキットのようなタイヤバリアではなく、コンクリートの壁に激突する事となる。もちろん、あとには死あるのみだ。こんな馬鹿の真似してはいけません。

 そして、130R後のストレート後にあるシケインカーブ。別名、カシオトライアングルとも呼ばれる。これまた、悪名高いコーナーだ。F1マシン等には非常に厳しいカーブだが、カブはさっきのヘアピンと同じ要領で、少しの減速で何とか曲がり切れるだろう。

 以下の注意でそれなりにタイムが上がるだろうが、あとこれ以上タイムを上げたければ、反則かもしれないが、前を100cc以上のバイクで走ってもらって各ストレートでスリップストリームを利用するしかないだろう。

 ここまで、このようなアホなことを布団の上で考えていたのに、眠りは未だやってこない。ああっ、また疑問が浮かんだ。「どうして、人は吐くまで酒を飲むのか?」ああ、これもまた難問だ。

 夜はまだ続く。

(2000/10/23)

第五回雑文祭出品作品)
※この雑文では判りにくい鈴鹿のコース図は、ここの解説でなんとか解ると思います。

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