折々の雑文 第27回

カラオケに潜む罠

折々の雑文 #27

 カラオケは危険だ。僕の言うことが嘘だと思うなら、故荒井注氏の事件を思い出してほしい。ヤツは、彼の夢を粉々にうち砕いた。しかも本来客観的に判断しても、薄暗い密室で数名の男女が仲良く歌うという実に不健全な娯楽だ。それ以外の理由でで数名の男女が薄暗い密室にこもる理由と言えば、僕には乱交以外思いつかない。どこのカラオケボックスでも、監視キャメラがついているのは、その為だ。裏ビデオ製造機として。

 頭の悪い前置きはこれくらいにして本題にはいるが、僕はそれほどカラオケが好きでない。もちろん、二次会等で連れられたら元を取るために、しっかり歌うけど、自分で歌いに行くほどは好きではない。理由は言うまでもなく、歌が下手だからだ。

 セガカラと言われるカラオケ機具がある。あの負け組セガ・エンターテイメント社が編み出した機械であるが、こやつは人が歌ったのを失礼にも採点しやがる。僕が天才的なボーカルセンスを発揮した、スピッツの『ロビンソン』に対して、255点(1000点満点)という驚異的な評価を下した。高音域の「ルララ……宇宙の風に乗り」と言う箇所まで声を張り上げて歌ったのに、人の努力を認めない凶悪な機械だ。非道いよ、あんた。

 もう一つ問題がある。僕は曲のレパートリーが貧弱なのだ。僕はサザンオールスターズを狂信し、彼らの最高傑作『世に万葉の花が咲くなり』などはCDがすり切れるほど聴いた。今聴いても、鳥肌が立つ。もし、僕がミュージシャンなら「影響を受けたアーティストは?」とのありがちな質問には、「サザンオールスターズ」とサングラスを取って答えてやりたいほど狂信している。だから、カラオケでも基本的にサザンの歌を歌う。今更、カラオケの為だけに、GLAYの歌を覚えるのもかったるい。「TSUNAMI」はあまり好きでないけれども。

 ご存じの方も多いと思うが、サザンの曲というのは、エロい歌詞が多い。「熱い乳房を抱き寄せて」とか「惚れたはれたの真ん中で」とか「夢に悶える処女のように」とか例は腐るほどある。挙げ句の果てには、『マンピーのG★SPOT』ですよ、お客さん。露骨にも程があるでしょう。

 こんな歌を婦女子がいるところで歌えば、射抜くような目で睨まれ、「なんて卑猥な歌詞なの」「セクハラオヤジ」「こんな歌を歌うヤツは変態だ」「だから、モテへんのや」「この変態が」「この淫乱な雌豚が」「このダメ人間が」「このダメ雑文書きが」と僕の全人格を否定され、トイレの個室でおいおいと泣くハメになるのだ。

 そんなわけで、僕はカラオケが苦手だ。しかも悔恨の歴史がある。前に書いた雑文の続きを書こう。あの一次会の後、二次会はさらに呑み、三次会は木屋町のカラオケボックスとなった。時刻は既に終電を越えていた。平井堅なら、カシスソーダでおなごを誑かす時間だ。

 うちのサークル員はたくさんいるので、部屋を二つ取り、その二つの部屋を行ったり来たりして、朝まで歌い明かすのが、三次会の趣旨だあるようだ。狙っている理絵(仮名)ちゃんと同じ部屋に入った。といっても、他にも数人の部員がいるので、さすがの僕も露骨な行動は取らない。紳士だから。

 はじめに、理絵ちゃんはポルノグラフティーの『サウダージ』歌った。上手い。理絵ちゃんカラオケが好きなんだなあ……。次に、俺の歌う番らしい。僕はあんしんパパ『初めてのチュウ』などという阿呆な曲を選んだ。ちなみに最近、Hi-Standardというロックバンドがカヴァーした英語版ではない。酒が理性、適正な判断力を奪っていた。歌い出しの「眠れない夜 君のせいだよ」を鼻をつまんで歌うと、それなりにオリジナルの声質と似た声を得ることができる。周りも酒が入っているので、笑いだか、失笑だかが漏れる。となりの先輩も「微妙に似てるな」と言う。微妙に。その調子だ、あんしんパパ。

 ところが、例の「初めてのチュウ 君とチュウ」のサビの部分になると、その失笑が爆笑に変わった。理絵ちゃんの顔が赤くなった。僕は愕然とした。やっと、自分の失態に気づいた。理絵ちゃんや周りの人たちは、黒河の求愛行動と見なしているのだ。口説きの歌が「初めてのチュウ」……。これでは勘違いされても仕方ないだろう。でもそんなつもりじゃないんです、裁判長! 誤解です。被告は酒をしこたま飲まされた為、心身耗弱が成立します。いや、成立すべきです。裁判長……。「AH― なぜか 悲しい気持ちが AH― いっぱい」俺も悲しいちゅうねん。歌い終わった後、僕は理絵ちゃんの顔を見ることができなかった。

 ちなみに、赤面していた理絵ちゃんも、今は彼氏を見つけてラブラブだと。ううう……。


(2001/3/28)

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