ツブシの利かない人
折々の雑文 #42
試験監督稼業が高じて、とうとう入学試験の監督補助まで勤めてきた。入試の監督バイトは、今までで一番楽な上に、昼飯の弁当が先生たちの嗜好からか、野菜が多くて栄養バランスが良く滋養に富んだもので大変旨かった。特に海鮮ちらし寿司が出たときは感動した。これで給料がもう少し高ければ言うことがないのだが。
試験監督業務は、教壇に立つ監督主任は教授で、補助を私のようなバイト学生と事務職員がやることとなっている。試験の二日目は、就職課の方と一緒だった。私が本来就職活動をするべき身分であることを知ると、「君なあ」と苦笑いしながら様々なアドバイスをしていただいた。
もちろん私だって就職活動をしている。現在、私はサラリーマンになるべくスーツ着て合同セミナーに行ったり、会社説明会に行ったり、帰りに立ち飲み屋で酒を呑んだり、家に帰って酒を呑んだりと就職活動をしている。そして、もうどうせ大手なんて無理だから、中小企業を中心に回りたいと言うと、就職部の人は「ダメやなあ」と注意された。
「確かに、中小企業やったら内定はでやすい。でもな、君、中小やったらツブシ利かへんようになるで。中小は研修がないから、リストラされたら再就職が厳しい」
就職部の人はそう返答した。もちろん、これに対する反論はたくさんあったが、それは胸にしまっておいた。確かにそうなのかもしれない。さあ、後輩諸君、この話の教訓はこうだ。
「ツブシの利かない人は良くない」
ここでいうツブシの利かない人とは、あまりにもひとつの仕事ばかりし過ぎ為、他の仕事ができない融通の利かないヤツと言った意味だろう。サラリーマンは基本的に「なんでもする」仕事である(ようだ)。スペシャリストよりゼネラリストだ。今日まで経理で貸借対照表を睨んでいた人も、明日営業課に配属して営業マンとして最善を尽くさねばならないし、もし会社直営の違法カジノに配属されたならバニーガールとして働ければならない。嫌なら代わりの人がたくさんいますよ。その代わりあなたはうちの会社に要りません、というやつだ。嗚呼恐ろしや。さて、晴れてバニーガールとなった元経理マンのサラリーマン氏であるが、違法カジノもまた大変だ。店の前は監視カメラで警察のガサ入れを監視せねばいけない。また、ディーラーの接客指導もしないとダメだ。監視や接客指導をしながら、本職のバニーガールらしく「お飲物はいかがですか?」と営業スマイルで接客するのだ。サラリーマンはつらい。実は、バニースーツは脚を綺麗に見せるために下に肌色のパンストを穿いてから網タイツを穿くため、オッサンの癖に妙に綺麗な脚となるのもつらい。逆に違和感ありまくりである。
もちろん、警察のガサ入れが合ったときも、サラリーマン氏が事態の収拾に努めねばならない。テレビの警察ドキュメントを見たら方はご存じと思うが違法カジノが摘発されると、客も従業員も等しく写真撮影をさせられる。これが証拠品となり、裁判所に提出する起訴状に添付されるのだ。つまりサラリーマン氏は、バニーガール姿が警察に証拠として裁判所に何十年と残るのだ。ああなんという不遇。それでも、サラリーマン氏は企業のために尽くすのだ。
「ははは、ちがいますって。これはあたしの趣味でーす。見て下さーい。あたしのバニー姿。ほほほ、こんな変なおじさんが、バカラ賭博なんてしていませんわ」
哀れサラリーマン氏は会社を守るため、違法カジノをオカマバーと言い張るのだ。賭博場開帳の容疑で逮捕されても、さらにサラリーマン氏は戦う。法廷闘争だ。
「では被告人は、オカマバニークラブ『バックスバニー』を経営していたというのですか」
「はあい」
「バニーガールのリアリティを出すためにバカラテーブルを置いた、と言うのですか」
「はあい」
「では、『バックスバニー』は風俗営業法の出店申請をしていますか」
「それは……」
とたえ追いつめられようとも、サラリーマン氏、もう後には引けない。それに、サラリーマン氏はバニースーツを着た時点で、最後は新宿歌舞伎町二丁目への道しかない「ツブシの利かない人」になってしまったことも、我々は留意しなければならない。(2002/2/14)
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