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今週(10/22)の雑学大学は萱嶋 泉さんの「クモも化粧して見栄を張る」でした。萱嶋さんは世界的なクモ博士として著名ですが、雑学大学には原則として毎年ご登場いただいております。当年89歳のご高齢にもかかわらず、大変お元気で、終始お立ちのまま講義をされました。

 

その一つは「化粧グモ」である。これはケハイと読む。毛が生えるではなく、化粧するという意味のケハイである。もう一つは「宮グモ」の話である。

 

人間が化粧するときは、顔に化粧料を塗る。

クモは自分の身体になにも塗らない。塗らないけれども化粧をする。その化粧は、太陽光線を利用する。この絵は普段のメスの、「化粧グモ」の状態を描いたものだが、繁殖期になってオスがやってくると、パーッと黄金色に光り輝く。

 

人間だって、色々塗りたくらずに太陽光を利用したら、もっと綺麗に見えるのではないかと想像するくらいである。繁殖期でないとそれをしないということは、そこにフェルモンの関係があると考えられる。「化粧グモ」は普段、茶褐色の地味な色をしており、あまり目立たない。

 

私たちは、クモというと巣を張る、その巣は大体丸いと思っている。しかし、このクモは縦に長い長方形の巣を張る。それも碁盤の目に、綺麗に揃っている。この図では下にメス、上にオスがいる。クモ全般に云えることだがオスとメスの身体の大きさは、圧倒的にメスが大きい。

 

このクモの差は、それほどでもないが、やはりメスの方が大きい。普段は別々に生活している。しかし、繁殖の時期になると、色が変わってくるのはフェルモンの関係である。それだけではなく、プラス太陽光線に当る場所に、メスが出てくるからである。であるから、遠い場所からでもメスグモの存在が分かる。

 

メスは縦長の巣の表側にいる。オスは、初めは裏の方から訪ねてくる。そして、巣を肢で揺らす。メスはだんだん位置を変えて、巣の下の方に下がる。下がった隙間にオスが出てくる。そして受信糸という粘りけのある糸を、そこにつけて逃げる。

 

オスは、次に巣の表側に出て、糸を引っ張る。すると、今まで下を向いていたメスがくるりと上を向く。太陽光線に光り輝くメスが、そこにいるという劇的な段取りである。その写真をお見せしたいのだが、フラッシュをたくと瞬間に「化粧グモ」の美しい光が失せてしまう。遠くから望遠で撮ることを多くの研究者が考えているが、誰も成功していない。

 

このクモの北限は、台湾である。

フリッピン、ボルネオ、マレー半島、ミヤンマー、スマトラ、ジャワ、セレベス、ハルマヘラなどに棲息している。しかし、樹木の幹に沿って縦に網を張るから、見逃すことが多い。ただし、繁殖期にはメスが光るからすぐ目につく。

  

さて、私たちの考えでは、クモの巣とは丸い形が常識であるが、いまお話したように長方形のものもあることを知って戴きたい。しかも碁盤の目に巣を作るとは、想像を越えている。丸い巣の場合は、枠糸を張ってから足場糸を渡し、粘るヨコ糸を渦巻き状に張るのが常識だが、碁盤の目状の、巣の場合は縦糸から張ってから横糸を張る。

 

大きな樹木に張る場合は、大きな長方形の巣ができるが、幹が細いと巣も細長いものになり、一定しない。巣の大きさは、樹の大きさによる。

世の中、不公平だと思われるケースを再々見かけるが、よく観察すると、そうでもないことが、ままあるものだ。

 

クモの世界でも、虫の世界でも、結局は公平になっていることを発見する。クモに対しては、虫はエサである。クモは漢字では「蜘蛛」と書く。虫を殺すことを知っている虫である。すなわち、クモは虫を食べることで生活をする。虫に対して、クモは優位にあると、誰でも思う。

 

ところが、そうでもない。

この絵は「宮グモ」の絵である。お宮でよく発見されるから「宮グモ」という。鳥居とか、社の板塀や柱などにいる。

肢の形を、よく見て貰いたい。

 

八本の肢のうち、第一、第二、第三は前を向いて、第四は後ろを向いている。すると、形状から察せられように、このクモは前に進むのは得意だが、後ろに下がるのは苦手である。そして、柱の穴などに縦長の袋状の巣を作る。巣の入り口に受信糸を出しておき、虫が糸に触ると袋の中から素早く出て、袋の中に引き入れて食べる。

 

「宮グモ」は袋を作るときに、穴の形いっぱいの大きさには作らない。必ず空間に余裕を残して小さく作る。その袋の大きさのために、自分は中で回転ができない。だから袋から出る時は、肢の形状からも素早く行動できるが、降りるときはお尻から下がるので、動作が緩慢になる。

 

「宮グモ」の巣の作り方を、調べたことがある。

様々な太さの竹を準備して、「宮グモ」を飼育して様子を見たが、一般に大きな竹を選んでその中に巣袋を作る。かといって大きく作ることはなく、体の大きさに合わせて作る。その「宮グモ」には、面白いクセがある。

「宮グモ」は袋の入り口の糸に、食べた餌の残骸を結わえておくのである。クモは餌を食べるとき、まず餌に消化液を注入して消化したものを吸引する。これは体外消化という。そこで、餌の殻が残ることになるが、宮グモは餌を食べたあと、まるで戦果を誇るように殻を入り口に飾る。

 

宮グモが何を何匹食べたか、すぐ分かる。図はシロアリモドキである。羽根があるところはシロアリと似ているが、シロアリではない。日本には沖縄・九州あたりの暖かい地方にはいる。宮グモの巣の入り口には、シロアリモドキの食べられた殻がいっぱい飾られている。すなわち宮グモは、シロアリモドキが大好物なのである。この関係を見ると、絶対に宮グモが優位にあるように思える。

 

ところが、である。

宮グモは単独行だが、シロアリモドキは集団で生活をする。一対一ではシロアリモドキは宮グモに敵わないが、シロアリモドキが集団で襲うと宮グモはかわいそうなほど、やっつけられる。

 

シロアリモドキは、カビとかの菌類や草を餌とするが虫は食べない。大きな樹木の割れ目や、建築物の柱の割れ目に巣を作る。昆虫が糸を出す場合、口や尻から出すものがほとんどだが、シロアリモドキは手(前肢)から糸を出す。穴状の巣を作るときに、中に潜んで粘っこい糸を出して入り口に蓋をする。

 

陽に当ると綺麗に光るから、たやすく発見できる。

樹木の幹に割れ目があると、そこは宮グモの巣作りにも適地である。シロアリモドキは、鋭い牙で樹の内部を掘り進んでいって、ついには宮グモの巣の底を食い破る。

 

巣の上部にいる宮グモは下の異常な気配を感じるが、頭からは下がれないので、尻から降りる。すると、シロアリモドキの牙で尻をかじられる。宮グモは上に逃げる。シロアリモドキはどんどん押し寄せ、巣を占拠する。宮グモは、ついには自分の巣から放り出されてしまい、別の場所に逃げて新しく巣を作る。

 

宮グモが、巣の中で反転ができれば、こんなことにならないだろうに。

もっと広い巣を作っておけば、反転ができるのに何故か、穴は大きくても宮グモの巣は狭い袋なのである。前述したように、クモは虫に対して絶対優位にあるかに見えるが、このような場面に出くわすと、自然は公平な配慮をしていることを感じる。

 

クモが化粧することもある、とお話した。しかし、それは人間のように色を塗って化粧するのではなく、クモは自分の体から出るフェルモンと太陽光線を合わせて、特別な光のある色を出す。見栄を張るということは、あるいはメスがオスに対して注目させるという自然の摂理である。

 

私は、メスは常に特別な存在であると思う。

クモを研究して知ることだが、以前に話したミズグモは例外的にオスがメスより大きい。これは珍しくオスが優位と思うと、さにあらず。オスは重労働するために大きいのである。

 

ミズグモを水槽の中で養っていると、ミズグモは藻の間に空気の部屋を作る。その部屋の中に、ミズクモは水上から空気を運ぶ。クモの体毛に付着する空気の泡が、藻の中の網で作った空気部屋を形成する。空気部屋が出来るまで、気の遠くなるような回数を水面から部屋まで、上下する。それがオスの仕事だ。

 

繁殖期にはオス・メスが一緒に生活する。一つの部屋に二匹がいるから、すぐ空気がなくなる。すると、メスが肢でオスをポンと蹴り出す。オスは空気取りに上下を何回も往復する。メスが空腹になると、またポンと蹴り出される。

 

オスも腹減っているが、一所懸命に水槽の中を探し回って、餌を捜し出す。部屋に届けるとメスが、それを全部食べる。オスは、その部屋では充分食べられないから、小さな自分部屋を作って食べる。生殖が終わるとオスはメスに食べられてしまう。クモの世界でも、メスはそんなにエライのである。

終わり

(文責 三上 卓治)

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