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311日の雑学大学の講座は葭原幸造さんの「賢い海外旅行のノウハウ教えます」でした。葭原さんは永年にわたって海外旅行会社を経営され、また専門家として海外旅行学校の講師を勤め、実地に経験したノウハウをツアーコンダクター希望の後輩諸君に指導してきました。一昨年までは、オーストラリアの観光大学で3年間教鞭をとっておりました。また旅行ジャーナリスト協会の理事として、書籍、雑誌等に今日まで多くの著作を発表しております。

 

 

旅行業とは、人様を旅行させて自分が収入を得るという職業である。「日本旅行会」は、現在の「日本旅行」の前身である。戦前は日本へ観光に訪れる外国人に対して「フジヤマ・ゲイシャガール」風の受け入れの商売がほとんどだった。戦後の昭和三十四年あたりから外貨もたまり、日本人が海外に行けることになった。

 

日本から外国へ行くには、当時でも、もはや船は考えられず、飛行機であった。プロペラ機があるにはあったが、運賃が高すぎて庶民のものではなかった。なんといってもジャンボ機の就航があって、初めて日本人が海外へ旅行することができるようになった。最初は、「ハワイ八日間の旅」が三十万円だった。契約者は羽田空港で、見送り人にバンザイをしてもらって出発した。

 

その時代の、大学出のサラリーマンの初任給が八千円だった。一万円にしても三十倍である。今は初任給が二十万円になっているから、換算すると「ハワイ八日間の旅」は六百万円という値段だったことになる。ヨーロッパは六十万円だった。六十万円もかけるのだから、ヨーロッパ全部を廻ってしまえとばかり、各国一泊のスケジュールになっていた。

 

どこをどう廻ったかも覚えられなくて、帰ってからパチパチ撮った写真を並べて、ようやく思い出すという時代だった。そういうことが過ぎて、トラブルなども多くなったので、「旅行業法」ができた。私は当時日本旅行業協会(JATA。運輸省外郭団体)の委員をしており、旅行業の法律作りをした。その辺りから、旅行業のあるべき姿が、だんだんに示されるようになってきた。

 

当時の私は、旅行業などは胡散くさい商売の「虚業」であると思っていたから、親類縁者には勤め先を隠していた。いまや、大学生の行きたい会社ベスト10には、航空会社や旅行会社が必ず入っていて、まさしく隔世の感がある。

                                

その当時、私は日本航空へ入ろうと思い会社を訪問したが、本社には軍靴をはいてジャンパーを背中にしょった連中がごろごろして、とても新人が入れる雰囲気の会社ではなかった。特攻隊で空を飛んでいたが、平和になってパイロットに職を得たという人たちだった。

 

さて、そんなわけで旅行業法という法律ができて、旅行業も正規認知される職業になった。皆さんにお尋ねしたい。「旅行会社の店頭でそれをお見かけしたことが、ありますか?」

業法は、旅行会社の壁にB4判の額に入れて掲示してある。細かい字でびっしりプリントされているが、離れてはほとんど読めない。

 

これが旅行約款である。客と旅行業者が取引して、トラブルが生じた場合のことが全部書いてある。しかし、この掲示では読めないし、それに気付く客もいないので、旅行パンフレットにその要約を載せている。お手元のレジメの、「ご旅行条件」(要旨)のコピーがそれである。これも保険の契約書同様に字が細かくてとても読めない。

この中の、ポイント部分だけをお話する。

「旅行の申し込み」

すなわち、どの時点で契約が成立するかということだが、旅行会社に電話で頼んだ、または申込書に書いて店頭で店員に渡した、というのは仮申込みである。金を払ってから、ようやく「契約は成立する」と書いてある。

 

たとえば、正月やゴールデンウイークのように、席が足りなくなる時期に、申込みをしてあるから、大丈夫だと思っていても、金を払っていなければ席がなくても苦情は成立しない。金を払った客が優先することは、当然である。

 

次の「キャンセルチャージ」の解釈には、お客さんの勘違いが非常に多い。

出発の間際まで申込金を払わないでいた方が、万一キャンセルした場合はキャンセル料を払わずに済むのではないか、と思う人もいる。これは飛んでもない間違いで、申込金とキャンセル料は、まったく別問題なのである。キャンセル料は、金額別、旅行開始日からの日数別に金額規定があり、申込金を払っていなくても旅行会社から、正式に請求がくるようになっている。

 

年末年始やゴールデンウイーク、夏休みなどのピーク時の場合は、キャンセルチャージが高くなる。特に年末、十二月二十八日以降は旅行会社が休みになってしまう。ツアーに申込んだ人には、ツアーコンダクターや責任者の個人の電話番号を教えているはずである。この連絡は土日でもOKである。万一、ご家庭でご不幸があって、キャンセルがやむを得ないこともあるが、一日ずれた連絡で、非常に高くつくこともあるので、注意が必要である。

                           

旅行会社、消費者ともに、この旅行業法を守らないといけない。消費者からのクレームの大半は、旅行業法を解っていないためのものである。日本旅行業委員会に苦情処理委員会があるが、私もその一人であった。お客のクレームは運輸省へ言ってくるが、それが苦情委員会に廻ってくる。

 

それを、委員会が第三者的に判断して裁定する仕組みである。はじめの頃には旅行会社の方に無理があったが、最近は八割が消費者の方の無知によるものである。つまり、予約やキャンセルチャージに関する旅行業約款を理解していないからの苦情である。

次に「チップ」に関すること。

普通団体旅行の場合は、チップは旅行会社が払う。現地のホテルについて、荷物をボーイさんが部屋まで届けたときに、チップを払わなければいけないのは何故だ。という消費者の疑問がある。

 

これは、荷物がホテルのロビーに届けられるまでが団体行動であることを理解していないからである。ロビーから自分の部屋までは、プライベートの問題であるから、荷物を自分で運べばチップは払うことはない。約款を読めば、「団体行動中のチップは、旅行代金に含まれる」と書いてある。

「お客様の傷害・疾病に関する医療費」という項目がある。

海外旅行には、傷害保険がつきものである。海外では健康保険が使用できない。仮に盲腸になると、医療費は200万円程度掛かってしまう。旅行会社は出発前に、お客に傷害保険に入るか、入らないかを必ず訊ねる。

 

それは、客が海外で怪我や病気になったときに掛かった医療費について、旅行会社が、出発前に傷害保険に加入することを奨めなかった、というクレームを防止するためである。つぎに「一人部屋の料金」について話をする。

 

普通、海外旅行料金は二人一部屋を標準に、商品設計がされている。したがって、一人部屋を希望すると、差額料金を請求されることになる。ホテルの料金体系が、部屋に対する料金となっているためである。二人一部屋で旅行する場合、最初から一緒に泊まることが決まっている場合を除いて、知らない者同士の組み合わせとなる。

 

そのとき相手がイヤだったら、料金を追加して代わればいいと思って、旅の途中から一人部屋を希望する人も結構いる。女性同士の二人部屋の場合、一人がトイレを使うお化粧が長くて、朝集合時間に間に合わないとか、男同士の場合、よくあるのは相手の鼾がすごくてとても寝られないとかである。

 

金を払うから一人部屋にしてくれといっても、これが実は勘違いで、自分が一人部屋になることは、相方も一人部屋になるわけだから、差額は相方の一人部屋料金も負担する金額となって、愕然とする結果になる。このようなケースもあることが予想されるから、最初から申し込んでいくほうがいい。

                                

「旅行会社が負う責任」

賠償:お荷物に関する賠償限度額は一人最高15万円となっている。たとえ、紛失したスーツケースの中に、お金や、高価な貴金属、宝石類が入っていたとしても、賠償金は15万円しか出ない。高価なものは、肌身放さず持っていて、旅行カバンには無くなっても困らないようなものを入れておく。

 

空港では、旅行カバンの類は最終的には無くならない。やがて出てくる。インドのボンベイの倉庫を見たことがある。日本人名の名札がついたスーツケースが山に積まれていた。しかし、荷物積み替え作業のインド人には解らない(あるいはズボラで)から、すぐには処置せず不明分に分けられる。それが三ヵ月もしてから解って、成田へ回送されてくる。

「免責」

次のような場合、原則として旅行会社は責任を負わない。天災地変、戦乱、暴動、運送・宿泊機関等の旅行サービス提供の中止、官公署の命令その他当社の関与し得ない事由により、旅行の継続が不可能になった時。これはどういうことかというと、旅行は必ずトラブル(Trouble)が起きる。Troubleが、Travel(旅行)の語源になっているくらいである。

 

日本では江戸時代、旅に出る時には水盃を交わした。旅というのは、何が起るか予測はできない。現在、旅行会社は航空機、列車、バスなどを利用する旅を企画するが、かといって自分で飛行機を飛ばし、列車を動かしているわけではない。したがって、旅行会社が管理できないことには、責任を負えない。

 

飛行機が落ちても、空港がストライキで閉鎖になっても、旅行会社の責任ではないと言っている。JATAなどにも、旅先の航空機の遅延などで損害が出たと、訴訟をちらつかせて苦情を持ちこむ客もいるが、「絶対に勝ち目はありませんよ」と言っている。

「特別補償」

お客が当社の旅行参加中に、急激かつ偶然な外来の事故により、生命、身体または手荷物に蒙った一定の損害について、約款特別補償規定により、一定の補償金または見舞金を支払う。お客は知らないことであるが、旅行会社自身が保険をかけている。ヨーロッパ向けは¥1000、東南アジア¥800程度(ともに一人分)の掛金である。

 

これは、仮に飛行機が落ちた場合、旅行会社には責任がなくても、客の安否の問い合わせは旅行会社にくるので、ホテルなどに事故対策本部を設けて対応する。または現地に家族を連れて行くなど、費用が発生する。そのための自己防衛的な保険である。特にわが国の場合、事故が発生すると家族を現地に運ぶ作業がついて廻る。

 

家族だけでなく親類縁者までついて行くこともある。場合によっては、それらの人たちの飲み食いまで含めて滞在費用がかかる。むかし、トルコ航空がパリで墜落したことがある。落ちた場所が悪かった。パリのブローニュの森で、毎年慰霊祭をやってくれと、遺族からの申し入れがあった。三回忌までは付き合ったという話だ。 

                               

落ちた話に関連するから申し上げるが、航空業法上は亡くなった人に対する弔慰金は、あれほど多額にはならない。しかし、日本航空にしても、全日空にしても、社長以下の役員が揃って遺族の前に叩頭陳謝する。外国の飛行機が墜落しても、社長も専務も出てこない。報道陣がその後の情報を質問しても、情報が無ければ、その後の情報はきていない、といって終わりである。

 

ところが、日本では何かしゃべらないと、収まりがつかない。国民性の問題なのだろうか。私が知っているJALにいた青年は、入社して退社するまで、御巣鷹山の事故に関わっていた。「私は、何のためにこの会社に入ったのか」と、その男は泣いていた。わが国の場合、事故の後始末は、長くなる傾向がある。

その他の項目として、気をつけて欲しいのは、人に物を預けないことである。

預かった人はその場を動けないし、万一物がなくなると、お客同士の争いになる。私がツアー・コンダクターをしていた頃は、「かたつむり」と一緒で、『自分で担いで歩けない荷物は持つな』ということにしていた。

 

また、うっかり外国人から預かって、それが麻薬だったりしたら、麻薬密輸の共犯者にされてしまう。シンガポールやマレーシアで、外国人からちょっと預かった荷物の中を麻薬取締官に調べられ、中から麻薬が出てきたばっかりに終身刑となって、服役している日本人がいっぱいいる。シンガポールでは、麻薬密輸は死刑であるが、情状酌量されて終身刑になっている。絶対に、人にものを預けない。人からものを預からないことだ。

「航空券」

海外航空券の表紙の裏に、細かい英文の注意書がプリントされている。世界の主な航空会社がワルソーに集まって、条約を作った。これを「IATA(国際輸送協会)」という。

その91011項に大事なことが書いてある。

「運送人は、相当なる速さで旅客および手荷物を運送するために、最善の努力を払うようにします。時刻表、またはその他のところに表示されている時刻は、保証されたものではありません」とある。飛行機の時刻表は、あくまでも飛行機が飛ぼうと思っている時間なのである。出発が遅れても、文句が言えないことになっているのだ。

 

「運送人は、予告なしに運送人を他の運送先に変更し、また航空機を他の空港に変更することができる」「また必要な場合は、この航空券に示されている飛行地を変更することができる」「接続を変更し、また省略することができる」「スケジュールは予約なしに変更できる」「運送人は接続をなすことに、一切責任がない」・・・・…。

 

飛行機というのは、なぜ、こんなに勝手なことばかりいうのか。それは、安全第一だからである。「飛行機材」「気象条件」が100%OKでなければ、空に飛び上がってはいけないのである。飛び上がってから、止めたというわけにいかない。

                              

安全第一のため、すべて航空会社のフリーハンドとなっている。スケジュールが変わろうが、コースが変わろうが、接続が変わろうが、遅延のために乗り換えの便に遅れようが、すべて責任を負わない。という内容である。最後に、「運送人の代理人、被用者または代表者は、この契約のいかなる規定も変更、改定し、またいかなる権利を放棄する権限を有しない」とある。

 

つまり、航空会社は勝手にこれを変更できないという意味である。たとえば、ロンドンからパリへ飛ぶ予定が、吹雪のため飛ばなくなった。そこで航空会社がホテルを手配して、ここで泊まってくださいということになった。だが、このホテルは三流だ。けしからん!と怒っても、これは客の勘違いである。

 

航空会社と客の契約は、「A地点からB地点まで運ぶ」だけである。

ホテルを手配するのは、航空会社のあくまでも営業的なサービスである。契約上は、客をほっといてもいいのである。ロビーでごろごろ寝ていて貰ってもいいのだが、当社はこんなにサービスがいいですよとの態度を見せるためにホテルを手配している、のである。仮に、料理が不味くても文句は言えない。

 

ヨーロッパあたりで見かける光景だが、こちらの飛行機は吹雪のために飛行中止と決まったのに、どんどん飛び立つ飛行機もある。あれは一体どうなんだと思うことがある。飛行機は空港に置いている間は駐機料というチャージがかかる。一晩数万ドルかかるから、弱小航空会社は金が無いこともあり、何がなんでも飛んで行っちゃう。逆にいうと一流航空会社ほど、安全飛行を心がける。

 

航空会社のアナウンスは、最初、「機材の都合で出発が遅れます」「レストランでドリンクをご自由に」などという。そのうちに「食事を提供しますから、ごゆっくり召し上がってください」になる。これはもう、その日は飛ばないということをいっているのと同じである。この段取りは、航空会社がホテルの手配のをするための時間稼ぎである。

 

400人乗りのジャンボ機が飛ばないと、400人が一遍に泊まれるホテルを探さないいけないが、当然ない。そんな暇なホテルはない。そこで分宿となる。バスで出発して、100人ほど最初のホテルに泊まる。次のホテルで50人。

 

要領の悪い人は、あっちこっち引っ張り廻されて朝までバスの中ということになってしまう。エヤーラインの人は、手配だけで同行しない。それでも、本来、航空会社の責任範囲外のことであるから、文句もいえない。航空会社は安全第一。そんなのけしからんという人は、自分で歩いていくしかない。以上が、航空法の基本である。この基本的なことを自覚していいるか、いないかで、旅のトラブルに対する自分の不満度が変わってくる。

                              

「飛行機が遅れた。なんとかしろ!」

旅のトラブルで、これが実に多い。日本に帰るときに、飛行機が遅れたために、乗りつぎの飛行機は明日でないと飛ばない。会社社長らしい人物が「明日、何百万円の商談があるのだ。何がなんでも日本へ帰らないとダメだ。飛んでる飛行機があるじゃないか。それで帰るから、その費用を出してくれ」

 

このようなケースは、まず断られる。

理由は「団体旅行だから」である。社長は「あとで請求する!」といって別便で日本へ帰ってしまったが、これはいくら争っても金は出ない。航空会社の飛行機は遅れても、文句をいうなと約款にちゃんと載っているのである。海外旅行では、この種のクレームが最も多い。お客に約款を読んで聞かせると、「えっ、そんなことが書いてあるの」とびっくりする。もっとも約款というのは、保険約款と同じく、見える最小限の小さい字で書いてあるので、まともに読む人はいない。

 

さらに、IATAの契約条件の説明の末尾には、「お断り」と称して「この航空券の日本文で記載されている契約条件は、旅客の参考のためのものであり、英語によるものが成文となっております」と書いてある。すなわち、日本で発売するものだけに、「参考に」訳してある、ということである。

最後尾に、「国際旅客への責任制限に関するお知らせ」がある。

その5項目に「旅客一人あたり75,000米ドルを超えない証明された損害」という文面がある。墜落で旅客が死んだ場合の金額についての責任限度をいうのであるが、一人あたり75,000米ドル(約800万円)しか出ないという規定である。落ちて死んだら何千万円くれるなどは、むしろおかしい。

 

国によって、たとえば中国などは、日本の二十倍くらいの価値があるわけだから、75,000米ドルなら1億六千万円となろうが、日本の貨幣価値感覚では、極めて安い金額である。ワルシャワ条約に書いてある金額は75,000米ドルだが、日本航空がそれ以上に何千万円か上乗せして払う場合は、当社は営業政策で、こんなにプラスαしていますよという態度の表明である。

 

そのように、墜落して死者が出た場合の支払い金額は、航空会社によって違う。なるべく多い方がいいに決まっているが、規定は75,000米ドルである。怪我した場合は20,000米ドル(約220万円)となっている。あまり楽しくない話ばかりで恐縮だが、次は海外旅行トラブル集。

                               

格安航空券とは何か。

冬場、ロンドンまで七万円、八万円とか。何でそのような値段が可能なのか。航空会社と旅行会社は、人の顔を見てから値段をつけるといわれている。まず、東京―パリのファーストクラス往復の定価は140万円とする。料理はフランス料理の選り取りみどり。日本食は吉兆の和食料理だ。

 

余談だが、航空食は選択があっても、定員全員に行き渡るように手配する。ということは、必ず余るのである。現役の頃、よくやっていたが、スチュワードと親しくなって、「今日、いい?」と暗号みたいなサインを送る。そしてファーストクラスの後方席で、吉兆のお弁当などをおいしく戴いたものだ。

 

次にビジネスクラスは、ファーストクラスの半分の価格、70万円である。昨今、不景気になっているので、かってファーストクラスに乗っていた社長級が、軒並みビジネスクラスに格下げになっている。しかし、座席だったゆったりしているし、食事もかなり高級である。考えてみると、わずか十数時間我慢するだけで70万円も違うのは、ちょっとひどい気がする。

 

いくら食べ物が違うといっても、一人で70万円は食べられない。実は、航空会社が新聞広告などで海外旅行の宣伝をするのは、ファーストクラスとビジネスクラスの二つを売るためである。エコノミーをセールスするためではない。エコノミーの値段はビジネスクラスの半分、35万円となっている。

 

パリ往復が10万円、15万円という売り物がある時代に、35万円とはおかしな話である。これはエコノミークラスの下に、グループ運賃(団体席)があるからである。GV30という符号は30人の団体で、数が多くなるほど一人単価は安くなる。一番安いのはチャーター機である。

 

GV運賃は、エコノミークラス35万円の更に半分、約17万円となる。これらが、シーズン外に活躍する航空運賃である。しかし、それにしても、市中にはもっと安い格安運賃がある。

では、それらは、どうしてできるのか。

 

航空会社の営業マンは、旅行会社にグループ席をセールスする。パリ行きの一番便利な便は、東京発パリ直行便である。これは乗り換えなしだから日本の航空会社便か、エールフランス便となる。そのキックバック(K/B)を活用して価格構成をする。KBが8万円なら178=9万円。KBが9万円なら8万円の値段でセールスできる。10万円なら7万円という値段になる。

 

航空会社も長年の統計データで、毎年の何月、何週目がガラガラということが解っているから、前もって手を打つ。飛行機が空いているときは、当然ホテルも空いている。航空機会社とホテルは、芸者の置屋と同じで、「おちゃっぴき」になったら、一銭にもならない。何が何でも、客を集めないと食っていけないのである。

                                                    

航空会社は、座席をできるだけ高値で早く決めたい。代理店は手のうちを読んで、ぎりぎりまで延ばす。締切り時間が迫ってくる。値下げして、これ以上待ってもあと5席が決まらないという段階で、自社社員研修に使うか、上得意先に超特別価格で提供するかの決断の時がくる。得意先には、日頃お世話になっているので、超特価一万円ですから、他所には絶対黙って下さいといって渡す。

「絶対」というのに、こんな話は絶対に洩れる。他の人は35万円も払っているのに、「私は1万円!」では得意にならざるを得ない。一杯やっていい気分になった時、ひょいと口から出てしまう。すると、これが大クレームに発展することになる。

 

公務員が、海外出張する時の航空運賃も問題である。運輸省は格安運賃を認めていない。したがって、出張規定は公務料金になる。仮に35万円のところを、9万円で行けたら差益が21万円。ずいぶんお土産が買える。しかし、これをやって首になった公務員がかなりいる。

 

飛行機の座席に座ると、35万円払った人も、9万の人も区別できない。同じサービスを受ける。まったく同じだったら、これは不公平である。何事も起らなければ、それはそれで済む。格安航空券の裏には、「No Refund(払い戻しできない)」と印刷してある。

 

普通航空券は一年間有効の金券であるから、予約した飛行機でなくても、東京―パリなら、どの会社の便にでも乗れる。格安航空券には更に「No Endorse(裏書禁止)」と印刷してある。これは他の飛行機には乗れないという意味だ。パリからの帰りに、自分の予約した飛行機が飛ばなくなっても、他社の航空機の利用はできない。

 

万が一他の航空会社が、乗せてしまった場合は、予約してあった航空会社に35万円を要求できる。日本人客にはあまりないが、外国人客に、たまにある。飛行機が墜落して死んだ場合、正規運賃の35万円の人と、格安9万円の人が同じ補償金を受けることも問題ではないか。140万円、70万円、35万円、9万円の人まで含めると、議論は果てしない。

 

格安航空券があるということは、格安ツアーがあるということである。旅行会社によって高いツアーばかりやるところと、格安ツアーばかりやるところもある。かといって、格安ツアーはインチキだとはいえない。シーズンの選び方とか、航空会社の選び方で、極端に安い値段が可能になる。ヨーロッパ50万円のツアーもあれば、15万円のツアーもある。

 

旅行代金のなかで、食事代などは多寡が知れている。80%は航空運賃である。たとえば、いいホテルを使って、いいルートの航空路を使って安いツアーはいくらでもあるが、これはシーズン・オフのものである。普通じゃ客が集まらないから、極端な値段を出す。その値段でゴールデン・ウイークや夏休みに行こうと思ってもそれは無理である。 

 

航空会社や旅行会社が、人の顔見て値段をつけるというのは、本当のことだ。とにかく、みんなが行きたい、行きたいという時は値段を高くして、行きたくないという時は、値段を下げてタダみたいな価格を出すのだ。日本人ばかりではないが、行く前は千円安い,二千円安いと安値を必死に探す。ところが、現地へ着くと財布の紐が緩んでしまって、無駄な買い物をするから、帰ってきたら、定価で行った人と同じ結果になる人が多い。

 

格安ツアーはどうやって企画するか。

まず、航空ルート。現地へ行ってから、別便であちこちへ飛ぶのは高い。ヨーロ−ッパならローマについてのち、同じ航路をロンドンへ飛ぶのは団体料金内であるから、格安ツアーはそれを利用して行く先を組み合わせる。

現地で、訪問地の関係で移動しなければならないときは、なるべくバスを使う。そこで、バスの定員一杯の人数を募集することになるが、「催行人数」がそれである。このツアーの催行人数は35名とか、40名というのは、全部それだ。バスを満杯にすれば、一人あたりの単価が安くなる、という工夫を必ずしている。人数がワンバスに満たない場合は、列車を使う。

では、ホテルはどうか。

安いツアーは、ホテルを三流、四流にするかといえば、そうでもない。シーズン・オフだと、ホテル側も部屋を空けっぱなしにしてもしょうがないから安い価格でも請ける。また、特別に安い値段の場合もある。私の経験だが、五つ星の高級ホテルで,特別に安いのがあった。なぜ安いのか不明だったが、行ってみて解った。そのホテルは改装中だった。シーズン・オフだったが、窓の外にベニャ板を張って、工事していた。しかし部屋そのものは、ちゃんとしていた。

 

あるいは、そのホテルの200m手前が道路工事中で車が通れない。客は荷物を自分でホテルまで運ばなくてはならない。それが異常に安い理由だったりする。安いツアーで行ったら、文句は言わないことだ。自分がいくら払ったかを、胸の内に収めておけば、そんなに腹は立たない。

 

ギリシャのアテネで、四星ホテルが異常に安かった。工事中でも何でもない。立派な部屋に泊まって、夜、外を見ると真っ暗闇でなにも見えない。ボーイは、「外へは、一人で出ないで下さい。外出するときはタクシーを呼んで下さい」という。眠りについて間もなく、突然窓の下が騒がしくなって目を覚ました。

                                  

トラックの激しい騒音、人の怒鳴り合う声。とても寝ていられない。時計を見ると午前3時半である。そこは、やっちゃば(食品市場)だったのだ。これが安い理由だった。かといって、表通りは静かな雰囲気で、そちら側の部屋はちゃんとした料金だった。  

 

たまたま、旅行学校の学生を引率した研修旅行だったので、格好の教材に早変わり。なぜ安いのか、よく解ったろうという次第になった。旅行会社は安いツアーを組むに当たっては、必ず何かを工夫しているのである。

次はホテルのこと。

個人で旅行する方は、ホテルの確認書も貰うと安心して出かける。しかし、安心するのはまだ早い。確認書とは、予約をしたことの確認であって、泊まれる保証はない。なぜか?

 

ホテルには、先に滞在している客に優先権がある。予約があるからと、その人を追い出して、次の客を泊めるということはない。ホテルには、そのような規定がある。仮にパリの空港でストライキがあって、全飛行機が飛べなくなったとする。アメリカの団体がホテルに滞在して、何百人という人が帰国できなくなった。

 

そこへ、日本の団体が到着した。が、ホテルはそのような事情だから入れない。そのような場合、日本人は必ず、社長を出せ!支配人を呼べ!と怒る。しかし、怒っても規定上話はつかないから、このケースにおいては、「我々はこのような権利を持っている。あなたの責任において、同格のホテルをアレンジせよ」と指示を与えないと、相手は日本人が騒いでいると思うだけで、話は先に進まない。

 

だから、旅行会社の添乗員は、空港へ到着した時点で、バスが来なかったらどうするか、ホテルに泊まれなかったらどうするか、という心配をしているのである。つねに、悪い状態を予想しておく。そうすると、実際にそうなったときの対処が早くできる。自分一人ならどうにでもなるが、50人、100人の団体を抱えているから、対処のシュミレーションを怠れない。

次にツアーコンダクターのこと。

私は永年、旅行学校でツアーコンダクターの養成講座を持っているが、ツアーコンダクターとして最も適任なのは、三十代、四十代、五十代の女性である。若すぎるとよくない。成田の空港で、アフリカへ行くツアーに対して二十歳くらいの娘が「わたしツアーコンダクターの○○でーす」と挨拶している光景を見ると、みんな大丈夫かなと思うのではないか。

 

ツアーコンダクターという職業は、ある程度社会的経験がないと、ツアー参加者に信頼されない。三十代以上で子供の手が離れた、そして過去に航空関係に勤めた経験のある女性が一番よろしい。下手な男性パート(臨時にツアーコンをやる人)よりよほど好評で、頑張っている女性が多い。           

 

海外旅行のトラブルと解決研究。

  1. 比較的に多いトラブルのキャンセルチャージは、既に述べた。
  2. 団体旅行の遅れから他航空会社へ乗り換えた料金請求。これも話した。
  3. ホテル関係のトラブル。
  4. a.A夫人とB夫人が部屋に並べておいたブランド品のお土産五つ無くなった。これは、並べておいた方が悪い。ホテルの部屋はオープンだと理解しておくこと。ベットメーキングや掃除の人は、自由に出入りできるからだ。大事なものは、スーツケースへ。汚れ物は外に出しておくこと。ホテルにクレームをつけても成り立たない。

    b.Cさん(35歳。ミス)の部屋に外国人男性から電話が入り、恐ろしくて夜も寝られないとのクレーム。これはご主人の会社の取引先の社長が、日本の得意先の社長令嬢がパリに来ているので、ご機嫌とりに食事のお誘いをしたことが、あとで分かった。

    c.D夫人とE夫人が、買い物から帰って風呂の湯を出して寝てしまい、お湯を溢れさせた。カーペットは水浸し、下の階の部屋の天井にしみが出てしまった。ホテルは修理費100リラの賠償を要求している。さてどうするか。かかったものはしょうがないから、払うこと。だから、損害保険に入っておきなさい・…ということになる。

  5. 海外旅行する20人に一人くらいは、エンターテナー的な人がいる。逆にみんなと

仲良くできない根暗らな人も、必ずいる。ツアコンはエンターテナー的な人を盛り立てやると、旅が上手くできる。根暗な人にも目配りを怠らない。しかし、こんなことがあった。

 

ローマ滞在中、ナポリへのオプショナルツアーが予定されていたが、ツアーの中にイタリヤ語ができる自称イタリヤ通Z氏(40才・男性)がいた。旅行社のツアーの半分の費用で行けるからと男性2人、女性3人を連れてナポリへ行ったが、夜にZ氏だけが戻ってきた。

 

Z氏は「私は添乗員ではない。ただ、ナポリまで一緒に行っただけだ」と無責任にいう。心配していると、5人は深夜に2台のタクシーを飛ばして帰ってきた。高いタクシー代がかかり、現地では3人がジプシーの子供のスリ集団にバックを盗まれ、2人は逃げる時転んで怪我をした。

 

5人とZ氏が口論になった。また5人はツアコンが止めなかったのも責任があると言い出した。このケースでは、やはりツアコンのリーダーシップに問題がある。Z氏を盛り立てるのはいいが、計画からはみ出した行動には、毅然とした態度もって制限をすべきであった。

                              

次に人間関係。

ツアーコンダクターは、旅行会社の社員であれば、旅行中は営業に行っているようなものだ。ツアコンには二種類あって、派遣社員(フリー)のツアコンは、ツアーコンダクター業務をアフターサービスとして行うのが仕事である。会社としては、お客とあまり親しくなっては、むしろ困る。

 

旅行会社の社員ツアーコンダクターは、アフターサービスに行くのでない。

というのはお客と一週間も、二週間も行動を共にし、他と隔絶した状態で同じ飯を食い、同じ景色を見る。そして、飛行機もバスも一緒に乗る。本来なら会うこともできないような偉い人や、忙しい人と共にいる。その人たちから信頼を受ければ、会社の社員旅行などの大型受注も期待できる。

 

優秀な営業マンは、ツアコンに出て客を掴まえるのだ。セールスマンのようにカバンを持ち、個別訪問して旅行へ行きませんかとやるわけではない。顧客の方も、優秀な営業マンを旅行に関しては、コンサルタント的に使うという関係になる。

 

人間関係となれば男女関係となるが、旅行中に何組かの恋愛関係が成就し、私が結婚式に招待されたうれしい経験もある。かと思えば、逆に旅行中の喧嘩がもとで、夫婦別れになったものもあるし、よく昨今の話題になる成田離婚というケースもあった。やはり旅行というのは、ドラマなのだろうか。

最後に「海外旅行で危険を避ける三十ヵ条」

 

これは、私がむかし作ったテキストであるが、お蔭様で運輸省あたりでも教育に使っているようだ。私は海外旅行を200回ほど行っているが、一度も金をスラレたりしたこともないし、怪我したこともない。幸運といえば幸運なのだが、やはり、何かがあるのだ。一番大切なのは警戒心だと思う。

 

外国へ行くと、こっちが外国人である。つまり、目立つ。悪い奴が狙いをつけ易い存在だ。そのときに、「俺はお前に負けないぞ」という警戒心を常に表現していると、連中は寄ってこない。簡単にいうと、「つねに狙われている」と思うことだ。女性客に多いのは、外を歩いているときは緊張しているが、いったん貴金属店などに入ると、隙だらけになる。

 

ショウケースのダイヤモンドのネックレスに、「まあ、すばらしい!」と見とれている間に、バックをやられてしまう。女性のバックで上に口金がついたデザインのものが、もっともやられ易い。相手は、そういう人を狙って一日中ついて歩き、機会を狙っているのである。第一条はつねに緊張していること。

 

ついで第二条は、単独行動をしないこと。

特に夜間は、一人では出歩かないこと。外出する場合は、ホテルのドアマンに呼んでもらったタクシーに乗ること。帰りはホテルの玄関まで乗りつけるようにする。するとチップが要るじゃないかと心配する向きもあるが、これは社会システムで必要なものだから、ポケットに小銭をつねに持ち歩くことだ。

 

第三条.手荷物、カメラなどは一瞬も手放さない。よく空港の待合室などで、日本人の癖で、荷物を置いたままちょっといなくなる人を見かけるが、手放すとは、放棄したと同じことである。第四条、夜間女性だけでは外出しないこと。欧米では、女性の外出には、男性が必ずエスコートする。夜、女性が一人で歩いている場合は、売春婦と見られても仕方がない。

 

第五条、ホテルのドアの外は公道と同じと考えよ。ドアの向こうは外と考えれば、どの程度安全か良く分かるはずだ。ノックされても、必ずドア・チェーンのまま話をすること。男性たるもの、美女の訪問には特に気を付けるべし。部屋に入ったら、突然衣服を脱いで大声でわめき出し、この男性に暴行されたと警察に電話した。客は逮捕されて、あとは慰謝料をというケースもあった。

 

第六条、バック、カメラの類を椅子の背もたれに架けないこと。肩からかけて電車の車掌バックのように、前で持つことで、警戒している姿勢を示すことで、悪い奴は後を追わない。第七条、知らない人にカメラのシャッターを頼まないこと。そのまま持っていかれることも、結構ある。

 

第八条、アイスクリームなどで、衣服を汚されるケース。この場合は相手からさっと離れた方がよい。第九条、ジプシーの子供に取り囲まれたら、遠慮せずに足を蹴っ飛ばすこと。日本のシニアが随分被害にあっている。親が隠れて指令しているが、こちらが強く出ると、子供はさっと逃げる。

第十条。タクシーに乗って、この町は初めてなどと言わないこと。

第十一条。三種の神器(お金、パスポート、航空券)はセフティ・ボックスへ。大切なものはすべて安全ボックスへ入れて、小額紙幣、小銭だけを持ち歩く。脅迫されたら抵抗せず、小額紙幣を差し出す。ニューヨーク、ロンドンの強盗の事件発生率は、東京の100倍である・・・・・・・・・等々。

                                 終わり

                             (文責三上卓治)

  

 

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