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今週(3/14)の雑学大学は銀座スエヒロの社長上嶋棟一郎さんと原料理長の「安くておいしい牛肉の見分け方」でした。上嶋さんの語り口に魅了されて、雑学大学の出演をお願いしたとき、「味」は話だけでは絶対に解らないと、実地に試食しながら、理解をして戴くことになりました。
ラッキー!
●私は、銀座ではシャブヤまたはテキヤと呼ばれている。何か危ない響きのある綽名だが、「しゃぶしゃぶ」と「ビフテキ」から発している。ちなみに「しゃぶしゃぶ」というネーミングは、大阪北新地の永楽町スエヒロ本店で、前社長の三宅忠一が考案し、昭和30年に商標登録した。
ところで、「しゃぶしゃぶ食べ放題」は昭和49年に私がはじめて商品化したものである。当時、牛肉の価格は上がる一方で、このままではお客様の肉離れが起きると心配した。追加料金なしで、安心してお肉をたべてもらう方法はないかと考えて、バイキング料理にならって "食べ放題"とした。
銀座四丁目スエヒロ、価格は2500円から始めたが、1年も経たぬうちに大変な人気になり、道玄坂店、新宿店、吉祥寺店と広げた。いまは、何処もかしこも"しゃぶしゃぶ食べ放題"が行われているが、ちょっと、複雑な気持ちである。商標登録のことを知っているお店は、しゃぶしゃぶの名称を避けて「しゃぶ鍋」とか言っている。
雑学大学には94年の6月4日に、出演したことがある。
その時は「ハワイアン音楽を楽しみましょう」というタイトルで、ハワイアンの歴史やウクレレの変遷などをおしゃべりしてから、「サウンドQ」の楽団演奏をした。私はスチールギターの担当だった。ご記憶でしょうか?(覚えているぞ・・・の声)
今日は、程々の人数でもあるので、質問にお答えしながら牛肉マーケットの裏話などを話してみたい。でも、あまり調子にのって喋り過ぎると、刺される恐れがある。まさか、ご出席の方に、デパート、レストラン、お肉屋さんはいらっしゃらないでしょうね。
私が最初、総合的なお話をするが、話を聞いただけでお肉が分かる人はいない。一番良く分かるののは、「見て」、「食べる」ことです。そのために今日は料理長を連れて来ている。この場で、お肉を見て、食べて判断して頂きたい。
また、食べるだけではもったいないから、プロの焼き方もこの際、教わって貰いたい。
「ご家庭で、安いお肉を上手に焼いて、美味しいお食事をされますよう。皆さんのご家庭で、お肉を美味しく焼いたからといって、スエヒロの売り上げが落ちるわけもないでしょうから、今日お集まりの皆さんには、特に原料理長が、ステーキの焼き方の秘伝を伝授いたします」
そんな前置きで、前回はアロハシャツの出演だったが、今日は蝶ネクタイに取り替えて、お肉の話をさせてもらいたい。 まず、業界用語から。
こんな言葉をご存知でだろうか?
「ぬき」
どなたかお分かりになりますか?
「去勢牛でしょう」、と会場から声あり。
「すごいですね。どしてこんな、専門的なことをご存知なんですか?」
答えたのは、準ご常連の久保田さん。もと新聞社勤務の物知りだ。素人相手の講演で、いきなり正解が出たのは初めてだ。いきなり結論が出て、講演の段取りも少し狂った。「ぬき」というのは、お答え通り去勢牛である。(対比してオス種牛の「たまつき」もある)では、なぜ去勢牛が必要になるのか。
肉牛の母親から、オスの子供が生まれたら、まずほとんどを去勢する。なぜなら、肉が柔らかくなるからである。メスはそのままで育てる。乳牛のメスは大変価値のある商品だ。子供が取れるから生産性が高い。以前はオスが生まれたら、普通は8〜12ヵ月で仔牛の料理に廻される。
動物は、全てオスとメスに分かれる。オスは子供を産まないし、乳も出ない。
牛のオスは、人様に食べられる価値しか残されていない。私たちが食べている牛肉は、肉牛(ややこしい)の肉である。肉牛とは、黒毛牛、褐毛牛、短角牛の三種だけを和牛といい、あとは国産牛といっている。
和牛はしかし、値段が高い。 そこで、安い乳牛の肉が国産牛として供給される。和牛と国産牛は違うことを、殆どの消費者は知らないから、国産牛を和牛にしては安いと思って買い求めるケースも出てくる。門用語である。
これがさらに安い牛肉になるわけだが、安い肉の需要増に対応して、 乳を取る目的以外で、20年くらい前から日本でも、生産されるようになった。肉牛のオスは、優秀な血統の中の立派な奴が、子供を生ませる目的で、別に飼育される。
これには、業界の写真入のランキング表があり、ポスターの最上位にいる牛は、横綱よろしく、辺りを払うような威厳がある。お尻も大きくて、大人の背丈ほどの高さがあって、慣れている私でも怖いと思うくらいだ。これらの牛の精液が売買される。先日報道されたが、たまに精液の盗難事件も発生する。
盗まれるくらいだから、それだけ価値があるということになる。これらの牛は「玉つき」という業界用語で表現される種牛である。種牛は、台に跨って精液を抜き取られ、精液は直ちに冷凍される。売られた精液は牧場の獣医さんの手で、メス牛にちょちょっと差し込まれて、受精が完了する。
美味しい牛肉は、和牛のメス肉というのが、これまでの業界常識であった。しかし、最近事業が少し変わって、牧場によっては、メスばかり飼うところや、オスの「ぬき」ばかり飼うところも出てきた。アメリカでも同様の傾向がある。価格、飼い方、餌の種類などによる、肉の味の、多様化のためである。
牛肉は、和牛、国産牛のほか、アメリカ、カナダ、オーストラリア産などを扱っているが、今日はオーストラリアの食肉公社にスポンサーになって貰ったので、オーストラリアの国旗や公社のロゴなどで会場を飾っている。試食は二種類のオーストラリア牛肉で、食べくらべて戴く。
いろいろ、食べてみると自分の標準も、好みもはっきりしてくるので、その中で選択すべきである。消費者としては、肉の性別や、好みの味も大切だが、食品としての安全性にも注目しなければいけない。アメリカの宇宙開発局が選んだHACCP(ハサップ)が、世界の安全基準になっている。
一昨年、かいわれ大根がO-157の餌食になった。動物の腸の中に必ずある、かねてから外国では注目されている雑菌であるが、日本では死者が出たことから騒ぎが大きくなった。牧場から消費者の手に渡るまでの衛生管理は、オーストラリアの食肉業界が、自分の実地体験では世界一厳しいと思う。
オーストラリアの安全基準の程度は、アメリカよりもかなり上位にある。私は肉を仕入れるとき、必ず処理場を見ることにしているが、世界標準は日本より非常に高いレベルにある。食肉教本によれば、東京都は大腸菌について、食肉の面では加熱調理するために、規制する必要がないという判断であったのを改善した。(以前はO-157という情報が流れなかったので、大腸菌として大雑把に扱われていた)
わが国の厚生省がハサップ規準の省令を出すことによって、漸く重い腰を上げた。問題発生に対する予防措置の考え方が、欧米先進国ではどんどん進められている。オーストラリアでは、食肉業者が一度事故を起こすと、即、再起不能の厳しい措置が取られる。わが国の消費者としては、安全に対して、大いに関心を持つべきである。
次に、肉牛の分類をもう少し詳しく説明する。
日本国内で生産される牛を、すべて和牛というのかと思うと、さにあらず、「黒毛」「褐毛」「短角」の三種のみを指すことは、前に述べた通り。ところが「国産牛」を「和牛」と表示して売っているお店が、実に多い。
乳牛とか、外国種の牛でも良質の肉で、「和牛」と同じクラスですよという気持ちで「和牛」と表示する店(好意的な解釈で?)が多い中で、吉祥寺の三浦屋では、明確に区別して販売していた。私はこの良心的な表示に感動すら覚えたが、ことほど左様に正しい表示は少ない。
外国産の肉は「輸入肉」と言われるが、現在はオーストラリア産と米国産がともに30万トンと圧倒的に多い。ついで、カナダ、ニュージーランドの順になる。95年の資料だが、日本では年間100万トンの消費があるなかで、約60%が外国産の肉である。
しかし、肉屋の店頭で、オーストラリア産とかUS産とかの表示は、あまり見かけない。では、店頭表示の中の、和牛ブランドものと言われる「松坂牛」などは、一体どんな流通のなのか。
松坂牛という表示を、肉屋さんやレストランでもよく見かけるが、松坂牛はそんなに沢山いるのだろうか。東京・芝浦に日本一の肉処理場がある。平成9年のデータで、年間を通して、松坂牛は1603頭しか入ってこない。営業日200日として1日あたり8頭程度である。
近江牛は生体で2202頭。神戸牛は、なんと、0である。
では何故、レストランやホテルで、それらのブランド牛の肉が提供されているのか。言い訳としては、生産者から直接仕入れた場合には、統計データに載らないのだ、ということはできる。
スエヒロは大阪の出身だから、東京・芝浦市場を通さずに現地の生産者から仕入れするルートを持っている。自分は生産者の顔の見えない仕入れはしない主義で、外国産の牛でも、現地の生産者を確認してから買う。そのような仕入れをする会社は、多分百社に一社もいない。
また、松坂牛や、近江牛、神戸牛などの生産現地へ最近出向いたが、何牛が何処へどのくらい出ているかは、すぐに分かる。ここで、最初の定義に戻って考えると、外国の輸入肉のいいのが国産牛になり、国産牛が和牛になるという、上の方へのスライド表示で売られていることが分かってくる。
松坂牛とは、一つのランク表示なのだ。お客さんは「松坂牛はいい肉だ」と信じている。お店側では、この肉は「松坂牛並みよ」という意味の表示をする。このように理解したら、腹も立たない、ということになる。
では、ここで、設問。松坂牛とはなんぞや。神戸牛とはどういう意味か。
牛は、生まれて10〜12カ月になったら子牛市場で取り引きされる。その牛が引き取られて、大人になるまで育った場所が、牛の名称になる。
もう一つ、例えば遠い場所で育った牛が松坂に運ばれて、松坂で肉処理されたもの。これも松坂牛となる。
牛の肉の人気が、ブランドを育てるのである。松坂牛は元、伊勢牛といっていた牛の流れである。昭和30年ころに、松坂の牛の味が人気を呼んで、「松坂牛」と、トップブランドになった。
牛は血統もさるさることながら育て方で、味を創ることが出来るのである。
さて、ここで牛肉と国民性の話に入りたい。
最近、テレビのグルメ番組を見て感じることだが、料理を食べる出演のタレントの感想は、きまって「まあ、やわらかーい」である。「固くて美味しいわね」なんて感想は聞いたことがないが、一説には日本人は農耕民族だから、あごが弱いので「軟らか好み」だという。
ごの強い狩猟民族の西欧人で、日本の肉は「噛み応えがない」という人も結構いる。噛み締めて味わうのも、肉の食べ方の基本の一つだ。
「軟らかい」ことがそんなにいいのかとも思うが、商売としては、お客さんの嗜好に合わせる必要があるので、軟らかい牛肉を出している。
肉を軟らかくする方法は、このあとで原料理長が詳しく説明するから、お好みで今晩お試しあれ。薬で軟らかくする方法もあるが、食べたお腹の胃や腸がとろけては困るので、それは店でもやらないし、お教えできない。
肉の硬軟とは別に、美味しさは牛が食べる飼料や、飼育方法によっても変わってくる。牛の飼育には次の二種類がある。
(1)GrainーFed Beef(穀物飼育)
(2)Grass-Fed Beef(牧草飼育)
(1)の穀物飼育は、結果としてコクがある肉になる。アメリカ、カナダは100%この方式である。飼い方はペン(15〜20頭単位)とか、牛舎飼育になるが、牛は運動不足の結果、脂肪太りで、肉は軟らかくなる。時々、スーパーなどで表示を見かける。
(2)の牧草飼育は、放牧で牛は草を食べて育つ。飼育コストが安いから肉も安い。味は当然ながら、あっさりしている。健康的な放し飼いである。オーストラリアとニュージランドの一部は、このGrassーFedである。
また、同国の人々は、この味がお好みである。
近くの「三徳」スーパーのチラシに、「オーストラリア産唐キビ熟成牛」のサイコロステーキ用・・・とあった。これが、GrainーFedである。その意味はGrainだからGrassより美味しいですよ。その割に値段が安いです、と言っているようだ。
次に、美味しさを見分ける決め手をお話する。
原料理長が、まず肉の部位とその名称を解説。ロースとは何処か。サーロインとは何を指すかの牛の図面から説明するが、ちょっと文章化し難いから省略して、調理法に入る。
肉はGrass−FedとLong GrainーFedの2種類。
先程の説明にあったように、脂の色がGrassの方が黄色い。肉はAgeingが進んでいるので、くすんだ色だが、切り身の断面は赤い色を保っている。では、肉を美味しく調理するにはどうするか。
まず 肉は、冷蔵庫チルドルーム(+−0℃)に布をかぶせて熟成さす。肉は−3℃で凍るが、凍らせてはいけない。肉は 結構ドリップ(肉汁)が出るが、毎日それを取り除く。ドリップは腐敗を促すからである。すなわち、乾燥させて、熟成をさせてゆく。スエヒロの日常業務である。
肉を軟らかくする方法は、肉にマリネをするやり方があり、つぎに果物を載せるやり方がある。ハイナップル、パパイヤ、マンゴーなど。焼く2〜3時間ほど前にそれを行うと、野菜や果物の酵素の力で肉が軟らかくなる。もう一つは、センザーライダーという針山のような道具で筋を切る。
焼く人はまず、元気のいい若い女性と、エレガントな奥様風の女性の二人が志願する。
塩、胡椒を片面にまぶして、5〜6分待つ。フライパンは最初から強火。お皿に肉が載った状態で、脂がお客から見て、脂身が右になる形が正しい肉の置き方。その場合の表になる側から焼きはじめること。
焼き出したら、焼けるまで、反対側に反さないことに気をつける。肉汁がフライパンに流れてしまうから。焼きながらステーキをパンのなかで円周を描くように廻す。熱が均等に行き渡る配慮をしながら、端を持ち上げて焼け具合を確かめる。レア、ミデアムの具合を見て、反転させる。
ここで、中年のデザイナー氏が登場。初めてだというが、なかなか手つきがいい。ジュウジュウと肉の焼ける匂い。
美味しそうな焼け具合の頃に、水が浮いてくる。そのあとに肉汁が浮いてきたら、ミデアムの焼き具合である。ブランデーや、ワインを入れる場合は、必ずアルコール分を焼いて飛ばすこと。出来上がりにパンの端に醤油を滴らすのも、ステーキを美味しく食べる知恵だ。
まず、Grainの100gステーキが出来上がり、スエヒロで準備したお皿に盛りつけ、味付けにお醤油をかけて、ナイフとフォークで試食。ついでGrass100gの焼き方と試食。
夫々に味の特徴があって、非常に美味しかった!。
●いやはや、こんなことを、まったくタダでやって貰っていいのでしょうか。
おまけに、余った肉の始末までさせて頂いて・・・。
雑学大学始まって以来の、感動と美味しい匂いが会場に立ち込めたのでありました。
スエヒロさん。有り難う。ご馳走さま。今回ばかりは、居眠りした人は一人もいませんでした。
終わり
(文責 三上 卓治)
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