[ホームページに戻る]
今日(11/21)の雑学大学は、萱嶋 泉さんの講座「アリ植物とアリとクモ」でした。萱嶋先生は雑学大学には17回の登板記録をお持ちです。本年めでたく米寿を迎えられましたが、極めて健康、例のごとく2時間におよぶ講座を立ちっぱなしで務められました。講演が終わってから、友人の奥様と二人のお孫さん(小学生)から、米寿を祝って花束が贈呈されました。
●今日は、マカランガという妙な名前の植物と、その木と共生するムシの話をしたい。ムシの中には、アリとか、カイガラムシとか、クモとかの、昆虫でないムシが上手に共生して、ともに利益を分かちあって暮らしているものがいる。お手元に、話の舞台となるマカランガの木のコピーをお配りした。
マカランガの葉は、新聞紙2枚分ほどの大きさがある。太陽の光による光合成で成長の原動力を得て大きくなり、20メートル以上に成長する。葉が大きく茂るから、見上げても上の方は見えない。大変珍しい木だが、残念ながら、わが国には存在しない。
近い所では、台湾の南端の小さな島に一種類のマカランガがある。熱帯雨林に生える植物だから、杉とか松が生える地帯には育たない。
暑くて雨の多い地帯
を好むから、観察条件が悪い。したがって調査記録情報も少ないことから、あまり知られていなかったという樹木である。私が、今から55年前に高橋良一先生のお供で、マレー、スマトラ、ボルネオを調査したときに、マカランガの木を発見し、スケッチしたものがお手元のコピーである。葉は新芽のときは小さいが、大きくなると座布団2枚分は楽にあるほどに成長する。大きい葉っぱを、小さく克明にスケッチしたものだ。
当時は、マカランガの学名はあったが、和名がなかったので一応「アリが寄生する木」とした。しかし、後で葉っぱが大きいから分かり易い、「オオバギ」という和名になっている。このマカランガに「シリアゲアリ」というアリの仲間が寄生する。木の茎にアリが出入りする穴が、二つ開いているのが見える。
←――――
このアリは、極めて攻撃的なアリである。誤って、マカランガの木の枝を折ったりすると、即時、アリの総攻撃を受ける。このアリは侵入者を噬む。噬まれた後がまた大変である。あちこちが痺れて1週間ほど直らない。このアリはマカランガを棲家としている。
マカランガは幹の中は空洞になっているので、このアリ、すなわち「シリアゲアリ」に宿を貸している。しかし、「シリアゲアリ」はマカランガから養分を摂るのではなく、「カイガラムシ」を探してきて、マカランガの中に養う。アリは「カイガラムシ」が出す蜜を吸う。
蜜を貰う代わりにアリは「カイガラムシ」に餌を与えるのだ。
この蜜月関係が長く続くと、アリも「カイガラムシ」も増えてくる。増え過ぎると、アリの住居であるマタランガの中が狭くなるし、餌も不足してくる。そこでカニグモの出番となる。このクモは嚢(フクロ)を作って餌を捕食するので、「フクロカニグモ」と呼ばれている。
さて、このカニグモは適当に「カイガラムシ」を食べてくれる。と同時に、アリも食べる。カニグモの、アリの捕食の仕方がまた、面白い。カニグモは自分の糸で嚢を作ると、天井に穴を開け、自分は中に潜んで、蓋をする。アリが周辺に集まっている頃合いを見計らって、蓋を開けて、自分はアリ周辺を歩きまわる。
アリは、クモを餌かと思って周辺に集まると、クモはそろそろ歩いて、自分の嚢の中に入る。アリが数匹クモのあとについて嚢に入ると、クモはすかさず嚢の蓋を閉める。アリは逃げようとするが、クモに噛まれて一時失神してしまう。クモはゆっくりアリを食べてしまう。クモは嚢の底に穴を開け排泄物やゴミを捨てる。捨てたあとは、しっかり穴をふさぐ。
マカランガの木の中で、カイガラムシとアリが増え過ぎると、カニグモが、その両方を適当に食べて、数を調整するのである。マカランガは葉っぱが大きいから、蛾やチョウの幼虫が葉裏に住みついて、葉っぱを食べるが、アリはそれらを駆逐して、マカランガを守る。
という循環で、このグループはお互いの領域を守りながら、生活している。これは、関係するすべてが利益を得ながら生きているという、共生の理想の形である。ある学者が、この共益関係を立証するために、アリを外して実験したことがある。結果は、葉に蛾の卵が植え付けられ、幼虫の成長ともに、マカランガの生育は止まってしまった。
ところで、このマカランガという植物は、わが国には生育していないのだろうか。南の国、沖縄から九州にかけて、若い研究者たちが探し回ったことがある。可能性が高かったのは、沖縄の南端、西表島や与那国島であった。中でも動植物分布の環境的に、マカランガ生育に適しているのは、与那国島である。
ウォーレスという学者をご存知だろうか。イギリスの学者ウォーレス(1823〜1913)はジャワ島で動植物の進化論を研究していた。ほぼ同じ時期に、チャールス・ダーウインは、世界探検をしながらイギリスで進化論を纏めた。両者同じテーマを、同じ時期に研究して、完成したが、ヨーロッパに住むダーウインの研究成果が世界に早く浸透した。
そのウォーレスが、生物地理学上の線を地図に引いたのがウォーレス線という。
研究者の誰もが認める、生物分布の区分線である。バリ島とロンボック島の間に引いた線の左が東洋区、右がオーストラリア区である。バリとロンボックはすぐ近くであるが、成り立ちが異なることは、島の動物、植物を見るとよく分かる。
河野忠男という学者がいた。旧制台湾高校時代に1学年を2年づつかけて卒業した。台湾からフィリッピンの山野を駆け巡って、動植物の研究に忙しく、1学年を終えるのに2年を要したという人物である。フィリッピンのルソン島の首切り族とも、仲良く、親しく会話ができたという。
河野氏の研究は、ウォーレス線の誤り部分を修正する成果をもち、後に河野線と唱えられるほど、高く評価された。その河野氏ですら、西表島と余那国島については、マカランガが存在することについては、調査不十分のまま、戦時中フィリッピン戦線で行方不明になった。
マカランガ探しの決め手は、手掛かりを見つけることだ。
ひとつの事実は、次の事実に関わりがある。その関わりを探っていくことによって、目的に到達するのだ。マカランガ探しの手掛かりは、葉を食べる蛾の幼虫にもあるが、共生というテーマからすれば、カニグモが最もよい。しかし、カニグモは西表島にも、余那国島にも、まだ発見されていない。
地球上で、いま、人間の自然に対する横暴は、極まれりの感がある。
マカランガの木を巡る、木とアリとクモの共生は、我々に色々なことを教えてくれる。 ダイオキシンをはじめとする環境ホルモンの諸問題など、環境に対する人間のあり方が、厳しく問われている今日、マカランガは最高の教師である。
公害については、人それぞれに知識を持っている筈である。しかし、同時に若干の利害関係もあるので、公害の撲滅については、あまり前進しなかった。
マカランガの研究は、環境に対する人間のあり方について、多くの示唆を持っている。その意味で、マカランガの研究は今日的に面白い。
このあとは、皆さんからの質問にお応えする。
Q. シリアゲアリはどの位の大きさか?
A. 日本にいないアリなので、図鑑にも載っていないが、アリとしては非常に 大きい。かつ攻撃的で、噛まれると痛い。1週間ばかりヒリヒリする。クモを研究して人は、マカランガには入り難いが、カイガラムシを研究している人
は、マカランガとシリアゲアリには入りやすい。クモ研究者の努力が、もう一つ足りないと思う。
Q. マカランガとアリとクモはすべて共生なのか?
A. 必ずしもすべて共生ではない。ジャワ、スマトラ、マレーシア、タイなどでは共生が見られるが、オーストラリアでは、アリはカニグモの一方的な犠牲になっている。
シリアゲアリの攻撃性が、クモに利用されている。
Q. カニグモとは、カニの形をしているから、そういうと思うが、クモはみんなカニと
同じ形をしているのに、なぜカニグモだけそういうのか。
A. とくにカニグモというのは、カニのハサミと同じ食指が2本、脚が八本でほとんどカ
ニに近いから、その名がついた。
Q. クモの中で、網でなく嚢で捕食するクモは他にもいるか。
A. ジグモは木の幹に細長い棒状のフクロを作る。地上のフクロと同じ長さのフクロを
地下に作る。普段は地下に潜って様子を見ており、虫が木の幹のフクロに止まると、
素早く駆け上がり、フクロの中から脚を出して虫を羽交い締めにする。その場所に
穴を開け、虫をフクロの中に引入れて食べる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・とまあ、クモの話は尽きない。
まだまだ元気。山野を駆け回って、クモの研究をを続けているご様子でした。 終わり
(文責 三上 卓治)
[ホームページに戻る]