留学在台湾

2001年度に台湾中央研究院文哲研究所に訪問学員として滞在しました。少ない例だと思いますので、参考にどのように留学したのかを書いておきます。博士課程学生の研究所留学についてですので、台湾への語学留学や、正規の学生としての留学を考えている方には全く参考になりません。他のサイトで情報をお探しください。

なぜ台湾を選んだのか

なぜ中央研究院中国文哲研究所を選んだのか

留学の手続き

留学の実際-長所と短所


なぜ台湾を選んだのか

台湾留学について語る前に、何故留学をするかということから説明する必要があるだろう。これは東大中文の場合、博士課程1年次または2年次で1年間乃至2年間の中国留学が半ば必修化されている(これは日本の多くの中国関係学科でそうだと思う)。そのため、私も修士課程在学時点で博士課程に進学した場合中国留学にいくのが当然と考えていた。ただ、この中国留学は現地の大学で教育を受けるという目的もあるが、他の人の場合、中国でしか閲覧入手できない資料の調査も兼ねている。しかし私の研究する志怪の場合、当時の書物は残っておらず、また出土文献というほど古くもないので、中国大陸で特にこの資料が見たいというものがなかった。また志怪研究という点から考えても、大陸にはあまり志怪研究者がおらず、いたとしても書誌資料をまとめるといったような基礎研究が中心であり、特にこの先生につきたいという人がいなかった。それに対し、台湾の方は志怪研究も大陸に比べれば盛んであり、また台湾の学位論文、雑誌論文は日本で閲覧しにくいものが多い。ならば、できれば資料的にも台湾に行った方がよいのではないだろうかと思ったのが学問的な理由である。

また、大陸留学の場合大抵は中国政府奨学金か文部科学省の奨学金であちらの大学の高級進修生になるというのが一般的だが、私の場合、学振の特別研究員になってしまったため学生としての留学はできなくなってしまった。学振DCの場合は、研究指導の委託という形でなら海外に行くことができ、実際その手続きを取って中国大陸に留学している人もいる。しかしその場合、授業料や寮費を自分で納めることになり、大陸でも年間約100万円ほどかかる。学振でなければ、奨学金に申し込めることも考えれば何となく勿体無い気がした。いっぽう台湾の場合、外国人対象の奨学金制度はあるが、大陸の高級進修生のような制度はないため、正規の学生にならなくてはいけない(多分。私の調べた限りでは)。また台湾(中華民国)とは正式な国交がないため、文部省奨学金も台湾は対象地域になっていない。台湾の中央研究院に行く場合、生活費はどうしても大陸よりかかってしまうが、授業料などは納める必要がないため、年間100万円強かかるという点では大陸と大差ない、ならば台湾に行くほうが得というのが身分的、金銭的な理由である。

あとは、もともと台湾の人が好きだったから、また大陸よりも生活の苦労が少なそうなどというのも補助的な理由。

なぜ中央研究院中国文哲研究所を選んだのか

まず台湾の大学で、短期で勉強させてくれるという制度があるかどうかが良く分からなかったから。大学院に正規に入学する前に日本でいう研究生のような形で授業を聴講するという制度はあるようだけれども、私は台湾で正規の学生になって学位を取得する予定はない。すると中央研究院で訪問学員になるという選択肢しかなくなってしまう。文哲所に中文の先輩がいたこと、また東大中文と文哲所の間で人員相互受け入れの協定があるということもあり、勝手の分かる中央研究院中国文哲研究所に行くことにしたのである。

台湾自体を研究対象としている場合、交流協会(日台間で大使館的な役割を果たしている機関)が日台研究支援事業派遣研究者募集を行っており、大学院生・研究者に応募資格がある。また私の留学当時は、松下国際財団の松下アジアスカラシップ(当然対象地域は台湾とは限らない)で来ている人もいた。参考まで。

オマケ:中央研究院って?

学問と関係のない人に「中央研究院」といっても「それは何?」と聞かれてしまうので、解説。 中央研究院、英語名はacademia sinica。自然科学、社会科学、人文科学の研究所が全部で25ある。イメージとしては日本における理化学研究所や国文学研究所などの独立研究機関が一つ敷地にまとまっていると捕えると分かりやすい。ただ大きな違いは、日本における上記の研究所は大学と同じく文部科学省の管理下に置かれるのに対し、中央研究院は中華民国の教育部ではなく、総統府直轄であること。台湾内で最も権威のある研究機関である。 院長はつい最近(2006年10月)までノーベル化学賞学者の李遠哲氏だった。 中央研究院ホームページ(big5) (英語版) 場所は南港という台北市の外れ。広い敷地に研究所毎の建物が建っている。文哲所は一番奥。外に出るのに徒歩5分(苦笑)。

留学の手続き

文哲所の場合、外部から来るのには以下のような方法がある。

  • 特約訪問学人:文哲所側が偉い先生を招待し、講演をしてもらう
  • 訪問学人:助教授以上の自費滞在
  • 訪問学員:博士候補以上の自費滞在

他にポスドク研究員やら博士候補研究員という制度があり、これらは中研院側から給料が支払われるようだが私はよく知らない。

私の場合は博士課程の学生なので、訪問学員として留学した。

申請書類(全て中国語)

  1. 申請書
    中央研究院中国文哲研究所で研究したい旨を書く。また金銭的なことも自分のお金でまかなうと明記した。また申請書を送付した時点では博士候補に正式になっていなかったため、文哲所に来る前に博士候補になる予定である旨も書き添えた。
  2. 推薦状
    2通とあったため指導教官及び学科主任の名前のものを用意。
  3. 語学能力証明書
    台湾では今の所中国語能力認定試験のようなものは行なわれていない(近い将来、師範大が作るという動きがあるよう)。よって、問い合わせた上で、日本で受けた各種中国語試験(中検、HSK、TECC)の成績表のコピーを送った。
  4. 研究計画
    東大に提出した博士論文作成計画書の内容を中国語にまとめた。
  5. 履歴書
    全ての書類をそろえて郵送したのが2000年12月下旬。翌年1月20日過ぎに審査を経て訪問学員としての滞在が許可されたとの通知を受け取る。この通知はビザを取るのに必要。
    その後は事務の方と来台日やゲストハウスの予約などについてメールでやり取り。
手続きとしては上記の通りであるが、目下、受け入れを希望する研究者が多数のため、受け入れてもらうためには、内部の研究員の紹介がないと、申請をしても通らないようである。いきなり手紙等を送っても放置される可能性が高いので、まずは、先生の紹介を通じてコネを作るべき。

留学の実際

長所

  • 研究環境
  • 研究スペースが与えられる。訪問学員の場合2人1部屋。ただ私の場合、同室の人がほとんど来ないため実質1人。インターネットもできる。パソコンも電脳室があり、自由に使えるが当然日本語環境ではないため、日本から自分のノートパソコンを持ってきた。

    2004年に再び中央研究院の歴史語言研究所に1ヶ月お世話になったときは、4人1部屋であった。ネット環境はさらなる発達を遂げており、有線LANのケーブルさえあれば、研究室でも、宿舎である活動中心でも、難しい設定なしにインターネット接続ができるようになっていた。また無線LANも使えるらしい(筆者は未利用)。図書館のパソコン端末も、winXPへのバージョンアップにより、日本語検索が簡便にできるようになった。

    書籍も文哲所をはじめ歴史語言研究所傅斯年図書館などの豊富な蔵書が好きなだけ見られる。他の台湾の大学図書館及び、国家図書館もコンピューター検索はしっかりしているし、応対はよいし中国大陸と比べたら本を探すということに苦労がない。
  • 講演会・座談会
  • 授業はないけれども、かなり頻繁に講演会・座談会が開催され、当然出席自由。著名な先生が頻繁にこられお話を聞ける。基本的に講演一時間、質疑応答一時間だが、質疑応答も出席者が研究所の先生方であるため、かなりレベルが高く、聞くだけでも価値あり。多くの刺激が得られる。

短所

  • 授業がない
  • これは他の大学院に行って授業を聴講させてもらえばよいのだが、日本の年度に合わせてきてしまったため、4月5月は学期末。こちらの年度はじめである9月から興味の合うものがあれば出ようと思っていたのだが、自分のことで忙しくズルズル出ないままになってしまった。
  • 学生生活的でない
  • 博士2年生で来てしまうと所内では最年少に属してしまう。大陸留学であれば留学生寮の中で同じ学問を志す人と交流もできるのだろうが、そのようなものが少し弱い。もちろん文哲所にも海外からの研究員の人はいるのでその人たちとの関わりあいはある。

    日本人に関しては、文系の研究者よりも、理科系のポスドクなどとして在籍する人が多いかもしれない。中秋節と春節の前後に、中央研究院の外国人滞在者を対象としたパーティー(参加費無料)が開かれる。