1995年3月18日「朝日新聞」朝刊より
ギャンブル益金は通産省の小遣い銭?
 官庁街の霞ヶ関ビルの三十階にある財団法人産業研究所。前通産事務次官の熊野英昭氏は昨年末に退職した後、ここの常勤顧問に就任した。二月には、向かいの商船ビルにある分室に入った。秘書もつく。
 その前任次官の棚橋祐治氏は、霞ヶ関ビルのほうの一室を事務所に使う。
 産研の顧問に通産事務次官が就くのは十九年前の設立以来のならわしだ。
 「とくに仕事はない。民間企業などに天下るまで世話になることだ」と理事の一人は説明する。それでも給料は出る。

調査の九割を委託
 この産研を支えているのが、競輪とオートレースの資金で゛ある。両者からの資金などを積み上げた基本財産は約69億円に膨らみ、年間約2億5千万円の運用益が出る。それ以外に、年間約17億円もの事業費を得ている。
 「産業全般の調査研究」が産研の目的。ところが、研究部は休眠状態、研究担当の職員は一人もいない。多い年で150ほどある調査は、9割を他の団体に委託する。報告書も「通産省内で使ってもらえばいい」と公開しない。 
 調査委託の実態がはっきりしない。産研の委託で「新しい中小企業のあり方に関する調査研究」を一昨年まとめた財団法人中小企業総合研究機構。担当者は「テーマはこちらで考え、見積もりも出した」という。
 産研は「調査費はすべて委託先にまわす」という。しかし、ある通産省幹部は「調査費の一部しか委託割きに流さない団体もある。これで人件費や事務所の賃貸料をひねり出す」と明かす。
 競輪やオートレース資金の補助名目は「調査」が中心。これが通産省関係の団体を養っている構図だ。

通産省「主計局長」
 通商交渉の業界対策にも用いられる。1979年の日米皮革交渉で輸入枠を廃した際、財政資金に業界負担を加えて、業界向けの債務補償基金を創設した。当時の秘密文書には、業界負担の一部をまかなうために、競輪資金を迂回させて使った、と記されている。
 ある通産相経験者は「競輪資金は使い方が私的になっている」という。93年に産業政策局長が辞職させられた通産省の人事騒動のときは、競輪資金のいかがわしさを指摘する怪文書が出回った。
 競輪資金を配分するのは日本自転車振興会。新年度は「機械工業振興資金」として270億円弱を出す。オートレースは日本小型自動車振興会が50億円
弱を各団体に補助する。
 ただ使途を実質的に決めるのは通産省だ。例年12月から2月中旬まで省内で「査定」までしている。収益の厳しい今年は当初、「一律二割カット」のかけ声が飛んだ。
 担当の機情局総務課は、省内各課が出す所管財団・社団への補助金の要求を調整する。最終的にまとめる機械情報産業局次長の立場は「まるで通産省の大蔵省主計局長」(通産省OB)といわれる。


●運輸省、競艇に食指
 補助対象は、競輪が約200団体、オートレースが約70団体。通産省のOBはその多くの役員や幹部職員になる。通産省の歴代次官に機情局次長の経験者が多いのは、天下り先の面倒を見るからだともいう。
 通産省は補助先の団体名と金額を明らかにしない。300億円を超す資金が大蔵省の査定も国会審議も受けずに配られているわけだ。
 先月24日に閣議決定された特殊法人見直し案で、運輸省は協定の日本船舶振興会に「交付金の配分の透明性・公平性の確保」と注文をつけた。
 他の公営競技団体が、農水省の競馬を含めて施設やファンサービスの改善ぐらいで済んでいる中、競艇が突出していた。
 船舶振興会は特殊法人ながら、運輸省に会長の任命権はなく、笹川良一氏が設立以来、会長をつとめる。収益の配分も振興会が独自に決めている。
 運輸省としては、昨年摘発された振興改善事務局長の汚職事件などを機に、巻き返したいところだ。黒野国彦官房長は「資金の配分先も振興会の人事も笹川色が強すぎる。これを薄めて政策目的にかなうようにしたい」と語る。
 通産省の幹部はこう解釈する。「競輪やオートレースの資金の使い方を見れば、運輸省も同じようにしたいと思うだろうね」