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「世の中にはもっと不幸な人もいる」に隠された悪意

「日本人は贅沢だ。断水になったくらいで、ぎゃーぎゃー騒いで。
世界には水道の無い国で、水不足に苦しめられながら生きている人もいる」

このようなことを、あるテレビ番組で、立派な身なりをした有識者が言っていました。
私はこのような「世の中にはもっと不幸な人もいる」と言って、不満を押さえつけるやり方に怒りを覚えます。

それなら、あんたの家の水道が断水になったら、あんたは不満を言わないのかい!?
トイレの水が流せなくて困らないのかい!?


おそらく答えはノーでしょう。
水道があるのが当たり前の生活をしていて、不満を感じない訳がありません。
彼は、断水の苦境に立たされた人の気持ちをまったく想像せず、道徳観念を押し付けているのにすぎないのです。

このような「世の中にはもっと不幸な人もいる」という理屈は、言い変えれば、
「私はお前を助ける気が無い」と言っているのと同じです。
他人に手をさしのべるつもりも無いくせに、上から見下ろした説教をしているのです。


このような理屈を言う人は、決して断水になって困っている他人を助けようとはしないでしょう。
がまんするのが当然と見放し、それが大人の態度だと悦に入るだけです。

実はこれ、「上見て暮らすな下見て暮らせ」という江戸幕府も採用した、
身分差別の観念である支配階層には非常に都合の良い論理です。


江戸時代の士農工商の身分制度で農民たちは建前としては上位に置かれました。
しかし、江戸中期以降は都市部と農村との貧富の差が拡大し、彼らの不満が大きくなっていました。
そこで、現在では名君と呼ばわれる暴れん坊将軍こと八代将軍徳川吉宗が、
四身分のさらに下の身分を作り、農民たちに「もっとひどい者たちがいる」と我慢を強いたのです。
この困っている人を助けずに、差別意識を利用して不満をそらす巧妙なやり方は、今でも脈々と続いています。


「世界には飢えで喘いでる人が10億人以上いる。
日本のホームレスは飢え死にしないだけでマシだ」
 ↓
ホームレスが飢えても関係ないし、助ける気もないよ。


「世の中には、もっと劣悪な環境で低収入で働いている人もいる。
お前は正社員であるだけマシだ」
 ↓
お前を低賃金でこき使っても文句を言うな。


ホームレスは飢え死にしないだけマシだという方は、いますぐホームレスになってみてください。
当事者の気持ちに立たずに美辞麗句を並び立てるのは、本当は「お前なんかどうでも良い」という姿勢です。


「世の中にはもっと不幸な人もいる。キミはそんなことも知らんのかね? その人たちに比べたら、キミは恵まれているよ」
このような言葉の裏には、だから、キミが困っていても関係無いという、酷薄な本心が隠されています。
この言葉を使って楽になれるのは、口に出して言う方だけでしょう。


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