(1)
| 課長 「木村君! データー入力が 抜けてるじゃないか! しっかりしてくれよ」 のぞみ 「はい、すみません・・・」 またしても やってしまった。。。 みんなの冷たい視線を感じながら デスクに向かった。 女社員 「いや〜ね、木村さんて 誰とも喋らないのよね、 どうして あんなに暗いのかしらね?」 |
|
| のぞみは 女子社員の言葉を背中に聞きながら データ-の修正に 取りかかった。 普段から 自分がどんな風に 噂をされているのかは 判っていた。 しかし それに対して反発したり、 言い訳する気力が 沸いてこないのだ。 のぞみ 「私って、ホントに 何をやってもダメなんだ… 一生懸命やってるつもりなのに」 パソコンの画面が 涙で滲んで見えた。 |
|
| 京子 「のぞみさん、まわりの視線なんて そう気にせんと・・」 京子が 机に伏しているのぞみに 声をかけた。 のぞみ 「ありがとう・・京子さん、でも 私ってドジが多いの、怒られても仕方がないよ 自分が 悪いんだもの」 京子 「うぅん、あの主任 口うるさいから、 早くしないとまた、嫌味を言われるわ・・ 私 手伝ってあげるよ、何でも言って・・ 気兼ねなんかいらないわ」 |
|
| 京子は いつものぞみを庇ってくれ、 自分に自信が無く、 心を 閉ざしがちなのぞみに あれこれ 話しかけてくれていた。 のぞみ 「ありがとうございます。 でも 大丈夫ですから…」 京子の優しさを 有難いと思いながらも どうしても 素直になれない のぞみだった。 |
|
| それは、幼い時からの自閉症が 今も 後をひいているのか 誰にも 心を開く事が できずにいたからだった。 しかし そんな のぞみにも もう一人だけ いつもあたたかく 見守る青年がいた。 |
|
| 青年の家は のぞみが毎日通勤する道にあった。 なにげなく ふと目が合い「おはよう・・」と 青年が挨拶したのが 最初であった。 当時、男性から声を掛けられた事のないのぞみは、 恥ずかしそうに 会釈をし 通り過ぎていた。 そんなある日、 青年 「のぞみさん、近頃 元気ないように見えるけど・・ 会社で何かあったの・」 のぞみ 「えぇ、そんな風に見えるかしら・・ 今日も頑張らなくちゃ、、行ってきまーす」 青年 「いってらっしゃーい」と青年。 のぞみは、こんな会話を楽しんでいた。 |
|
| 名前も 年令も知らない人だったが、 声を かけてくれるときの笑顔が 好きだった。 他人と話す事が苦手なのぞみにとって “知らない人”である青年は 唯一 構えずに話せる 相手だった。 主任に言われた書類の データ−を入力し直し、 もって行くと もう夕方7時を回っていた。 部屋に残ってる人も無く のぞみは慌てて 机をかたずけ初めた。 すると… |
|
| そこへ 外回りから 戻ってきた人がいた。 斉藤さんだった。 見ると 帰る様子もなく デスクに書類を投げだし、 大きな溜息をつき PCに向かい始めた。 のぞみは 斉藤にそっと あたたかいお茶を 差し出した。 斉藤 「ん?」 斉藤は びっくりした顔で のぞみを見上げた。 斉藤 「君も今まで かかってたんだね、 ご苦労様。 お茶いただくよ ありがとう」 優しい笑顔だった。 それでも のぞみは ただ黙って 会釈をする事しかできず そのまま社を後にした。 |
|
| のぞみは、駅の近くのスーパーへより 夕食の材料を 買い込んで レジを 通り過ぎようとした。 青年 「お客様、お忘れ物ですよ」と 店員の声。 振り向くと朝 よく挨拶をする青年であった。 のぞみ 「どうも済みません」 青年 「今、お帰りですか」 のぞみ 「ええぇ、少し遅くなっちゃって」 青年 「はい、どうぞ気をつけてね、 有り難うございました」 のぞみは あの青年が スーパーにいることを 初めて知った |
|
| 青年の明るい声に 見送られながら のぞみは店を出た。 アパートの近くまで来て 入口の所に 立っている京子に 気がついた。 のぞみ 「えっつ どうして…・」 ビックリしているのぞみに向って 京子は 大きく手を振った。 京子 「こんばんわ!!突然ごめんなさい。 社員名簿の住所録で調べてきたのよ」 のぞみ 「でも・…どうして」 京子 「あのネ、実はあなたに折り入って 頼みたい事があったのよ。 会社で言う訳にはいかないので。 中に入れてもらえないかしら?」 のぞみ 「あの…・・」 京子 「ごめんなさい突然。 じゃあその先にある喫茶店で待ってるから!! 荷物置いてから来て欲しいの。お願い!!」 |
|
| のぞみ 「ただいまお母さん 遅くなってごめんね」 荷物をかたずけながら会社の人が待っているので 出かけることを告げると、 母 「無理しちゃ駄目よ のぞみちゃんの心は とっても傷つきやすいんだもん」 のぞみ 「うん、わかってるよ じゃ行ってくるね」 |
つづく