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課長 「木村君! データー入力が
   抜けてるじゃないか! 
   しっかりしてくれよ」
のぞみ 「はい、すみません・・・」

またしても やってしまった。。。
みんなの冷たい視線を感じながら 
デスクに向かった。

女社員 「いや〜ね、木村さんて 
   誰とも喋らないのよね、
   どうして あんなに暗いのかしらね?」
のぞみは 女子社員の言葉を背中に聞きながら
データ-の修正に 取りかかった。

普段から 自分がどんな風に
噂をされているのかは 判っていた。

しかし それに対して反発したり、
言い訳する気力が 沸いてこないのだ。

のぞみ 「私って、ホントに
   何をやってもダメなんだ…
   一生懸命やってるつもりなのに」
パソコンの画面が 涙で滲んで見えた。
京子 「のぞみさん、まわりの視線なんて
   そう気にせんと・・」
京子が 机に伏しているのぞみに 声をかけた。

のぞみ 「ありがとう・・京子さん、でも
   私ってドジが多いの、怒られても仕方がないよ
   自分が 悪いんだもの」
京子 「うぅん、あの主任 口うるさいから、
   早くしないとまた、嫌味を言われるわ・・
   私 手伝ってあげるよ、何でも言って・・
   気兼ねなんかいらないわ」
京子は いつものぞみを庇ってくれ、
自分に自信が無く、
心を 閉ざしがちなのぞみに
あれこれ 話しかけてくれていた。

のぞみ 「ありがとうございます。
   でも 大丈夫ですから…」
京子の優しさを 有難いと思いながらも
どうしても 素直になれない のぞみだった。
それは、幼い時からの自閉症が 
今も 後をひいているのか 
誰にも 心を開く事が できずにいたからだった。

しかし そんな のぞみにも もう一人だけ 
いつもあたたかく 見守る青年がいた。
青年の家は のぞみが毎日通勤する道にあった。
なにげなく  ふと目が合い「おはよう・・」と
青年が挨拶したのが 最初であった。

当時、男性から声を掛けられた事のないのぞみは、
恥ずかしそうに 会釈をし 通り過ぎていた。

そんなある日、
青年 「のぞみさん、近頃
   元気ないように見えるけど・・
   会社で何かあったの・」
のぞみ 「えぇ、そんな風に見えるかしら・・
   今日も頑張らなくちゃ、、行ってきまーす」
青年 「いってらっしゃーい」と青年。
のぞみは、こんな会話を楽しんでいた。
名前も 年令も知らない人だったが、
声を かけてくれるときの笑顔が 好きだった。

他人と話す事が苦手なのぞみにとって
“知らない人”である青年は
唯一 構えずに話せる 相手だった。

主任に言われた書類の データ−を入力し直し、
もって行くと もう夕方7時を回っていた。
部屋に残ってる人も無く のぞみは慌てて
机をかたずけ初めた。

すると…
そこへ 外回りから 戻ってきた人がいた。
斉藤さんだった。
見ると 帰る様子もなく 
デスクに書類を投げだし、
大きな溜息をつき PCに向かい始めた。

のぞみは 斉藤にそっと 
あたたかいお茶を 差し出した。
斉藤 「ん?」
斉藤は びっくりした顔で のぞみを見上げた。
斉藤 「君も今まで かかってたんだね、
   ご苦労様。 お茶いただくよ ありがとう」
優しい笑顔だった。

それでも のぞみは ただ黙って
会釈をする事しかできず そのまま社を後にした。
のぞみは、駅の近くのスーパーへより
夕食の材料を 買い込んで
レジを 通り過ぎようとした。

青年 「お客様、お忘れ物ですよ」と 店員の声。
振り向くと朝 よく挨拶をする青年であった。 

のぞみ 「どうも済みません」
青年 「今、お帰りですか」
のぞみ 「ええぇ、少し遅くなっちゃって」
青年 「はい、どうぞ気をつけてね、
   有り難うございました」

のぞみは あの青年が スーパーにいることを
初めて知った
青年の明るい声に 見送られながら
のぞみは店を出た。
アパートの近くまで来て 入口の所に
立っている京子に 気がついた。

のぞみ 「えっつ どうして…・」
ビックリしているのぞみに向って
京子は 大きく手を振った。

京子 「こんばんわ!!突然ごめんなさい。
   社員名簿の住所録で調べてきたのよ」
のぞみ 「でも・…どうして」

京子 「あのネ、実はあなたに折り入って
   頼みたい事があったのよ。
   会社で言う訳にはいかないので。
   中に入れてもらえないかしら?」
のぞみ 「あの…・・」
京子 「ごめんなさい突然。
   じゃあその先にある喫茶店で待ってるから!!
   荷物置いてから来て欲しいの。お願い!!」
のぞみ 「ただいまお母さん 遅くなってごめんね」
荷物をかたずけながら会社の人が待っているので
出かけることを告げると、
 「無理しちゃ駄目よ のぞみちゃんの心は
   とっても傷つきやすいんだもん」

のぞみ 「うん、わかってるよ じゃ行ってくるね」

つづく