切手収集おともだち

第3話 ヒンジ

 今回は、現代流切手整理法の本質にかかわる重要な話ですので、だいぶ長くなりました。本論に入る前に、少々前置きから。

切手の整理法いろいろ

 皆さんは、郵便局や切手屋さんで買った切手を、どのように保存していますか。せっかくの切手ですから、いつでも美しく観賞できる形に整理しておきたいものです。買ったときの袋に入れたまま箱に入れておくのでは、せっかくの切手が宝の持ち腐れです。

 切手の整理法はいろいろあります。買った切手をセットするだけで美しいアルバムができあがるような、図入りアルバムというものが、昔から売られています。最近では中味の切手つきで売られることも多く、このようなものを使えば簡単に、見栄えのするアルバムを手にすることができます。中には各国の郵政当局から、このような形で新切手が売られることもあるようです。

 忙しい人には便利なシステムで、それなりに利用価値はあります。収集を始めたばかりのうちは、このようなものを利用するのも悪くありません。しかし少したつと
   アルバムに収録されているすべての切手を買わされる
  
あまりにインスタントすぎて物足りない
  
誰のアルバムを見てもみな同じ
といったあたりに、不満を感じるようになるものです。特に最近のようにおびただしい数の新切手が発行されるようになると、図入りアルバムによるお仕着せの収集では保管場所の問題も起こってきます。例えば最近の日本切手を貼る図入りアルバムでは、1年分が20ページ以上を要しています。新切手を1枚ずつ買って整理するだけでも、1冊のアルバムに2年くらいしか入らない計算になります。

仮貼りアルバムの薦め

 そこでおすすめするのが、切手収集の原点に戻ったマイアルバムの製作。たとえ見栄えは悪くても、手間をかけて作った自分だけのアルバムは、他のどこにもない宝ものになります。ここでは右の写真のような仮貼りアルバムの形で、手に入れた切手を種類別、図案別などの形で整理しておくすることをおすすめします。(右の例では平成11年のふるさと切手を、地域ごとにまとめて貼り込んでいます)

 このような整理法は、使用済切手の場合に特に有効です。20世紀シリーズ切手の使用済を1枚ずつ手に入れたときなど、このような形で整理しておかないと、自分がどの切手を持っているのかすら、わからなくなってしまいます。

  きっちりレイアウトされたアルバムと比べて見劣りしますが、自分がどんな切手を持っているかがわかるという点では、最低限の要求を満たした整理法と言うことができます。将来いろいろな郵趣知識を得た上で、他人に見せるためのちゃんとしたアルバムを作るときにも、この仮貼りアルバムはそのベースとしてとても役立つものです。

 

ヒンジの使い方

 さて前置きが長くなりましたが、図入りアルバムにせよ仮貼りアルバムにせよ、切手を台紙に止めるための道具が今回のテーマです。その目的のために古くから使われてきたのがヒンジです。この切手用ヒンジというものは特殊な品物ですので、その使い方・買い方を以下に詳しく説明いたしましょう。

       ヒンジとは英語で蝶番(ちょうつがい)のこと。ドアの回転軸のところについているアレです。もちろんこの蝶番で切手を止めようと言うのではありません。切手収集用のヒンジは、上の写真のような糊引きされた薄い紙片でできていて、途中に折れ目が入っています。折れ目の片側をちょっと湿らせて切手のウラに貼り、他方を同様に台紙に貼ることにより、このヒンジを介して切手を台紙に貼り付けることができます。下の解説図を見ればわかるように、まさしく蝶番の役割を果たしていますね。切手をちょっと浮かせれば、ウラの状態を確認することも簡単です。

 ヒンジに使われている裏糊は、切手の裏糊と同様に舌などで湿らせて使うのですが、ひとつ重要な性質があります。それは完全に乾燥した後で、簡単にはがすことができること。ただし切手の側に多少の『ヒンジ跡』が残ります。使用済切手の場合は、気になるのでしたら再度『水はがし』すればよいのですが、水につけられない未使用切手の場合はこの跡がいつまでも残ります。

 このヒンジ跡を最小に押さえるには、切手側のヒンジ面については、湿らせるのを最小限にとどめることが大切です。切手の裏糊は溶かさず、ヒンジ側の糊のみ溶かすといった感じです。使用済切手の場合も、あまり湿らせすぎると切手の表面にまで水分が浸透し、表面が凸凹になってしまいます。一方湿らせ方が足りないと、台紙に貼った切手が脱落してしまいます。切手側の接着面の湿らせ方にはちょっとしたコツが必要で、充分練習する必要があります。

 またこのあたりはヒンジの糊の品質も関係しています。よいヒンジの裏糊は、しっかりと切手を接着し、かつヒンジ跡を残さずにはがせるという、いわば相反した要求をみたさねばならないことになります。現在切手屋さんで売られているヒンジは、事実上欧米メーカー製のものだけです。どれも一応の水準には達した製品ですが、糊の強弱の程度などは微妙に違っています。このあたりは実際に使ってみて、自分の好みにあった製品を見つけるしかありません。初めてヒンジを買う場合は、切手屋さんの店頭で相談に乗ってもらい、おすすめ品を買うのがよいでしょう。しかしヒンジというのは1袋1000枚入りで300円程度という安いものですから、そんなに神経質にならずにいろいろな製品を買って使ってみる、というのでもよいでしょう。

 台紙側の接着面については、あまり気を遣う必要がありません。多めに湿らせてしっかりと貼り付けましょう。ただし未使用切手の場合は、あまり湿らせすぎると水分がはみ出して切手の裏糊を溶かしてしまう恐れがありますから、気をつけてください。切手を台紙上で貼り替えるときは、切手側の接着面をはがすとそのたびにヒンジ跡が増えるので、台紙側の接着面をはがします。はがしても糊が残っているので、1〜2度程度なら、別の場所に貼り直すことができます。何度も貼り直して糊が利かなくなったら、もう1枚の新しいヒンジを『貼りつないで』ください。その後は2枚目のヒンジだけを取り替えていけば、切手側の接着面をはがすことなく何度でも貼り直しができます。何度も使っているうちに1枚目のヒンジが破損したら、切手側の接着面をはがして、1枚目のヒンジを交換することになります。

 ヒンジで切手を台紙に貼るとき、切手やヒンジは第2話で取り上げた切手用ピンセットで扱ってください。多少は直接指で触るのもやむをえませんが、それは最小限にとどめる習慣を身につけておきましょう。

未使用切手の場合

 上にも書きましたが、裏糊のついた未使用切手も、ヒンジを使って台紙に貼ることができます。貼り方に注意が必要ですが、よいヒンジを使って上手に貼れば、ほとんどヒンジ跡を残さずにはがすことができます。

 しかしどうしてもそのヒンジ跡がいやな場合は、切手用マウントというものを使います。これは1辺を接着した2枚のフィルムの間に切手を挟むという収集用品です。切手のサイズに合わせてカットして使うのですが、専用のカッターを使わないと、きれいにカットするのは難しいものです。日本切手の場合は、切手のサイズに合わせて正確にカットされた製品もあります。マウントの裏側には糊がついていて、直接この糊を湿らせて台紙に貼り付けることができます。ただしこのマウントの糊は普通大変強くて台紙を傷める恐れがあるので、上に書いたヒンジを使って台紙に貼る方が扱いやすいでしょう。

 マウントの欠点は高価(切手1枚あたり数円)なこと、マウントの中で切手がずれがちなこと、厚みの分だけアルバムがかさばることなどです。これらの欠点があっても、ヒンジ跡をつけずに切手を整理できるという特徴を買われて、マウントの利用がこの数十年の間、未使用切手の整理法の主流でした。ヒンジ跡のついた切手は価値が低い、売るとき不利、というのが大きな理由です。

 しかし最近の記念切手の、業者買い取り価格をご存じでしょうか。日本切手の場合、おおむね東京五輪(1964年)以降に発行された記念切手は、ごく一部のものをのぞき、完璧な状態の完璧なシート状態であっても、額面(郵便局で買ったときの価格=郵便料金として使える価格)を大幅に下回っています。最近では特に、昔シート買いされた切手が市場にだぶついていて、額面の半額でしか引きとってくれないことが多いそうです。それらの切手は結局、大半が郵便に使うために引き取られてゆきます。

 このような現状では、切手を売るときのことなど考えても意味ありません。昔の20円記念切手が、どうせ10円でしか売れません。そもそも1枚ずつに切り離した切手の場合は、手間がかかるので買い取ってくれないことも多いようです。一方万一収集をやめてその切手を郵便に使ってしまうのであれば、ヒンジ跡の有り無しなど関係ありません。こうした現状を考えると、マウントに比べてヒンジの方がずっと気楽に使えます。未使用切手も、どんどんヒンジで整理してしまいましょう。本講座ではこの昔ながらのヒンジ貼り整理法を、あえて現代流収集法としてお勧めしておきます。

 ただし、1枚に1000円以上出して買ったような高価な切手の場合は、話は全く異なりますので注意してください。日本切手では高額の普通切手類や、昭和20年代以前の記念切手の場合が、それにあたります。これらの切手の中には、完全な状態の未使用切手がほとんど残っていないというものも多く、それらは大変貴重です。完璧な状態の未使用切手にヒンジ跡をつけてしまうのは、自分だけの問題ですまず、収集界全体の損失になるという場合すらあります。切手に対する十分な専門知識を持っていないうちは、これらの未使用切手はマウントで整理するのが無難です。もちろんそれは、ヒンジに限らず陽焼けや湿気の防止など、さまざまな面での充分な保存対策の一環としてということであって、単にヒンジだけが問題になるわけではありません。

変則構成シ−トの場合

 20世紀シリーズのように変則的な構成で発行される記念切手が増えています。これは日本だけのことではありません。このような記念切手のシートは、耳紙にも美しい図案が印刷されていて、シートのまま保存・観賞するようになっています。

 最近のこのような切手をシートのまま整理するためには、今回説明したヒンジやマウントは便利な道具でありません。このような切手をどのように整理すべきかは、実は難しい問題で、古くからの収集家の多くも、このタイプの切手の整理法に頭をひねっているというのが実情です(たぶん)。これについては、講を改めて書くことにいたします。ただ、例えば日本の20世紀シリーズでは、シートの耳を全部捨てて、1枚ずつの普通の切手として整理するという方法もあるということだけ、ここでは記しておきましょう。