Update:1998/11/01 「911の基礎知識(エンジンオイル潤滑システム)」

No.6

 911の基礎知識(エンジンオイル潤滑システム)

 最近、ポルシェ専門誌で「エンジンオイル」についての記事が目につきませんか?ポルシェ指定オイルや各オイルメーカー推薦オイルとか。オイルについての詳しい説明(成分、粘度値など)とかは、いろいろな雑誌に載ってますので省略します。

 そして今回のこのコーナーでは「911の基礎知識」としてエンジンオイルの潤滑について書いてみます。いろいろな雑誌などでも取りあげられてますのですでに知っている方もいらっしゃるとは思いますがおつき合い下さい。

 また、別コーナー(職人のひとりごと)では、エンジンオイルについて私の個人的なひとりごとを書きましたので、そちらも読んでみて下さい。


 システム説明の前に911のオイル調整について。

 オイル調整についてよく質問を聞きますので、ちょっとしたアドバイスを。

 911でもそのタイプにより多少の差がありますが、今回はSCで説明します。’89 3、2L カレラまでは大体同じです。

 基本条件は、

 1、エンジンアイドリング時。(エンジンはかけたままで。)

 2、油温は80度〜90度の間で。

 3、傾斜のない水平な場所で。

 完全暖気しない内は、 オイルレベルが低く表示されます。この時にオイル調整をしてしまうと、暖気後、オイル量が多くなってしまいマフラーからオイルの白煙がモクモクと出てきます。そうなると触媒の中にオイル分が残ってしまい清掃が大変です。

 油温80度ってメーターで見るとどのあたりでしょうか?

 SCですと上の写真のとおりです。ポルシェ専門誌や1部ドライバーズマニュアルにも記載されてますね。

 私はカレラタイプの電動ファン付きオイルクーラーを搭載しているのですが、夏場ではメーターで120度を超えないとファンが回らないのでちょっと心配になることがあります。

 ところで、80度だとか90度だとかの油温表示ですけど実はこのメーターにも記載されているって、みなさんはご存じでしょうか?メーターの縁に隠れていて正面から見ても見えません。

 下の写真のように横方向から見ると見えます。ただ、思わず双眼鏡で見たくなるほどの小さい文字です。

 オイル調整はエンジンをかけながら行いますから、ベルト類にも注意しなければいけません。巻き込まれると大けがをします。ネクタイ、ロンゲなどは要注意です。

オイル注入口 

 ドライバーズマニュアルでは「レベルゲージの2,5cm下に調整。」と書いてありますが、メーター誤差により場合によってはオイルメーター表示が低く出てしまうので、私は1,5cm下に調整します。(下の写真の緑色のあたり)

 UPレベルとLOWレベルの容量差は約1,75Lです。

 調整時の油温が80度から90度と書きましたが、フロントオイルクーラーにオイルが廻らなくては調整してはいけません。オイル交換の時は手や衣服が汚れています。そんな時はいちいちメーターなど見てられないので私はオイルクーラーラインを触って確認してます。ただし、ギュッと掴んではいけません。かなり熱いですので、ヤケドをしてしまいます。チョコチョコと触れてみて暖かければオイルクーラーにオイルが廻ってます。

 やけどに注意!!!

 964系などインナーフェンダーが付いている車種では、フェンダーを触ってもわかると思います。ちょっと時間がかかりますけど。(下の写真参照)

 911はオイルラインが長いですから、できるだけ4輪水平に近い状態で調整しましょう。

 ドライサンプとウエットサンプ。

 911のオイル潤滑方式はドライサンプです。

 『ドライサンプ』『ウエットサンプ』聞いたことがありますか?知っている人は知っていて、知らない人はまったく知らない自動車専門用語です。

 簡単に説明しますが、まず、サンプ(sump)とは、オイルパンのことです。

 ウエットサンプ(wet sump)とは、サンプ(オイルパン)にオイルを保有するタイプのことで、ほとんどのクルマがこのウエットサンプです。

 それとは逆にドライサンプ(dry sump)とは、サンプにオイルを保有しない潤滑法で保有しない分、別にオイルタンクを装備しています。供給用と返送用の2つのポンプを備えていて、オイルタンクからエンジンに供給されたオイルがサンプに集まったところで、これを返送用ポンプがオイルタンクへ吸い上げて循環させる方式です。(911は、1つのポンプで供給、返送2系統をカバーしてます。)

 なぜ、911はドライサンプなのでしょう?

 いろいろと理由はあるのですが、代表的な3項目。

 1つめは、もうお解りでしょう。911(996は除く)は空冷ですのでエンジン冷却のためには、大量のエンジンオイルが必要になるのです。水冷エンジンでは水を使って冷却しますが、911は水のかわりにオイルを使っているのですね。ですからオイルの量をたくさん使いますので、容量の大きなオイルタンクが必要になるのです。

 2つめは、サ−キット走行などハード走行で横Gが連続してかかった場合、オイルパン内のオイルが片寄してしまいポンプがオイルを吸い込まずにエアを吸って、そのため1瞬オイル切れ状態になり、焼き付きを起こしたりしてしまう事があるからです。こんな場合は、ドライサンプ方式が有効なのです。最近のクルマではオイルパン内にセパレーターなどが付いていオイルの片寄が起こりにくく出来ていますし、あくまでもハード走行を仮定しての話ですが。それに911の基本設計は古いですし、この後に書く3つめの理由が大きく影響していると思われます。

 3つめの理由として、レーシングカーや1部スポーツカーでも使われているこのオイル潤滑法はオイルパンの容量を小さくできますので、その分エンジンの高さが低く作れます。みなさんも、モーターショーなどでエンジン単体を見たことがあると思いますが、例えば、直4の国産車のエンジンを思い浮かべてください。オイルパンが小さくできれば、エンジンの高さが5分の4、もしくは5分の3位に出来るのではないでしょうか?そうすることにより、車高の低いクルマが作れて、さらにはロールセンターも低くでき、クルマの運動性能を良くできるのです。元々、911は水平対向エンジンですので、これだけでもかなりエンジンがコンパクトにできているんですけど。

 もし911がドライサンプでなかったら、絶対2シータ−になってたでしょうし、あのカエルのようなスタイリングにもなってなかったでしょう。

 ところで996はというと、ボクスターの水冷エンジンから採用されている「集中ドライサンプ潤滑システム」と同じです。996になってからは「インテグレーテッド.ドライサンプ潤滑システム」とちょっと言い方が変わってます。

 このシステムですが、水冷になってエンジンオイルの量が大幅に減り、外部オイルタンクの必要性がなくなり、エンジンの下部にオフセットしてリザーバータンクが付いてます。このタイプはセミドライサンプと言われるものです。クランクシャフトに余ったオイルが直接かからないとでも申しましょうか。

 新機構としてスウォールポットなるものも付いていて、オイルの泡立ち防止に一役かってます。走っているとどうしてもエンジンオイルがオイルパンに戻ってくるまでに泡立ってしまいます。先ほど書いたようにオイルではなく、エアを吸い込むと良いことはないですし、油圧タペットにも悪影響を及ぼします。以前、ボクスターエンジンの講習を受けた時、単純な構造ですけどなるほどと思えました。

 この単純な構造でも他を納得させてしまう。これもポルシェの魅力です。968でお目見えしたバリオカムなんかも日本の自動車メーカーに「やられた!」と思わせた代物です。

 余談ですが、友人が旅行でポルシェの工場見学をしたときに、たまたま「インテグレーテッド.ドライサンプ潤滑システム」を開発した人に会ってこのシステムの凄さを自慢されたそうです。


 オイル潤滑系について簡単に説明しましたがドライサンプの3項目だけでも他にもいろいろな理由があります。もっとくわしくお知りになりたい方は、911専門書籍(たとえば、ポール フレール著「911ヒストリー」など)や自動車工学書籍をお読みになってはいかがでしょうか?


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