構造モデルを必要としない
粉末X線結晶構造解析プログラムの開発
1.結晶構造解析プログラムSMAPの開発
1-1 はじめに
1-2 SMAPの考え方
2.構造解析プログラムSMAPの応用
2-1 Brookite(TiO2)の構造解析例
2-2 Forsterite(Mg2SiO4)の構造解析例
2-3未知物質CaMg2Al6O12の結晶構造解析
3.まとめおよび今後の問題
参考文献
1.結晶構造解析プログラムSMAPの開発
1-1はじめに
粉末X線回折法による結晶構造解析は図1-1-1に示すような手順で行われる。すなわち未知結晶物質の粉末X線回折実験を行い、プロファイルに指数をつけ、格子定数を決定する。格子定数および消滅則から空間群の候補を絞ることができる。別途化学分析と比重の測定値あるいは推定値から単位格子内に含まれる原子の種類と数を決めることができる。以上のデ−タをもとに構造モデルをつくり、リートベルト法で構造を精密化する。リートベルト法では粉末X線回折パターン全体を測定値に一致させるため、バックグランドのプロファイルを示すパラメーター、原子座標、温度因子、回折ピークのプロファイルを示すパラメータ、定向配位パラメータ、席占有率など多くのパラメーターをまとめて精密化する。パラメーターの数が多く、解くべき方程式が非線形のためかなり正確な初期値を必要とし、初期値の精度が悪いとうまく収束しない。リートベルト法は全く未知の構造を解くことはできず、既知の構造を精密化するものであるので何らかの方法で構造モデルを作成しなければならず、全くの未知物質の構造を調べる場合は大きな困難が伴う。
粉末X線回折デ−タから構造モデルを作る方法には同型鉱物の構造デ−タを利用したりして試行錯誤でモデルを構築するトライアル法の他に、Two step method と Direct space method と呼ばれる方法が提案されている。Two step methodでは粉末X線回折デ−タからピーク分離法で積分強度を算出し構造因子を求め、あとは単結晶と同じように直接法で構造を解こうとするものである。この方法を用いるにはなるべく多くの回折ピーク強度が必要なので放射光を用いて分解能の良いデ−タを得るなどの努力が必要であり、回折ピークの数が少ないとうまく行かない。一方Direct space methodではXRDパターンから直接モデルを導出する方法で、モンテカルロ法やシュミレーテッドアニーリング法などが提案されている。有機物では分子を一つの剛体として扱えるため構造パラメーターの数を減らすことができ、モンテカルロ法などでうまく構造を解けた例が報告されているが、無機物ではすべての原子をモンテカルロで解いたという例は報告されていないようであるし、そのような目的で使えるプログラムも公開されていない。また、シュミレーテッドアニーリング法では初期モデルが必要である。本研究では初期モデルを必要とせずに構造モデルを探索することを目的にモンテカルロ法を用いたプログラム(Structure Mod-Assemble Program: SMAP)を開発した。
目標としたのは、@空間群、A組成式とZ数(単位格子中の式数)、B格子定数、C粉末X線回折デ−タ(d値と積分強度)、が与えられたとき、構造を自動的に捜し出し原子座標を精密化することである。温度因子は等方性としB=1.0で固定したので、求めるべきパラメーターは各原子の部分座標(x,y,z)である。原子座標が決まれば理論的に粉末X線回折デ−タを計算することができ、測定値と比較してモデルの適合度(R因子:低いほど適合度が高い)を判定することができる。単純に乱数で原子座標を発生させ、R因子で選別するプロセスを検討したが、R因子が低くても全く意味のない構造が多数得られるのでR因子以外の制約条件を導入した。一つはポーリングの第一則であり、「原子間距離はお互いのイオン半径の和より大きい」という条件を用いた。さらにエワルドの方法によりエネルギー計算を行い、エネルギー値が正になるモデルも棄却した。本研究で開発したプログラムではこの方法をいくつかの構造既知の物質に試みたところ、実用的な時間内で構造を解くことができた。また、独立な原子が6個の構造未知の合成物質に対し本プログラムを用いたところ結晶構造を解くことに成功し、以上の考え方が有用であることが証明された。粉末法による結晶構造解析の重要性は今後さらに増大するものと思われ、本研究のような結晶構造モデル探査プログラムもその重要性を増すであろう。
1-2 SMAPの考え方
1-2-1 必要なデ−タ1-2-4 軸の取り方の任意性
構造モデルの妥当性を判断する基準はモデルから計算した粉末X線回折ピークの積分強度である。よって未知試料の粉末X線回折強度を正確に測定しなければならないが、本プログラムではピーク高さを読みとる程度でも十分である。ピーク分離法のプログラムが使えるのならより正確な値が得られるであろう。
1-2-6 構造モデルを比較する方法
原子座標を乱数で決定し、R因子をもとにモデルの取捨選択を行う。R因子は次の式で計算される。 
回折強度計算に用いるLp因子は
を用いた。回折装系やモノクロメータの有無などによりLp因子の式もかわるが、強度測定も高精度なものを想定しているわけではないのでいままでのところ問題はない。
1-2-7 構造モデルに与える制約条件
R因子のみでモデルを選別して行く場合、粉末X線回折ピークの数が動かせるパラメーターの数(この場合は原子座標)に比較して少ないと真の原子座標とは全く異なった位置に収束してしまうことがある。パラメータの数(原子座標)より充分多くの測定値(回折強度)が無いと最小二乗法が成り立たないのと同じ事情である。これをさけるにはなるべく多くの回折ピークを基に計算するか、R因子以外の条件も考慮する必要がある。R因子が低くて無意味な構造とは同種の原子が局所に集まっていたり、配位多面体が大きくゆがんでいたり、配位数が異常であったりなどの構造なので、経験的に知っている法則から判断して除去する必要がある。この目的のためには(1)原子間距離はイオン半径の和よりも大きくなければならないという条件と(2)格子エネルギー計算の2つの条件を考慮に入れて構造モデルの取捨選択を行っている。


1-2-8 遺伝的アルゴリズム


1-2-9 計算の流れ
以上のことを考慮して次のようなプロセスを考え、プログラムを作成した。独立な原子の組み合わせをユーザーが指定した後、プログラムが以下の計算をする。
[計算準備]
@最大の回折角内に入る指数の組み合わせを格子定数と消滅則から計算する。
Aラウエ対称から独立な指数だけを選び出し、dの順序にソートし格納する。
B各指数の多重度とLp因子を計算する
[第1ステージ]
C各原子のワイコフ位置を乱数により決定する。
D各原子の座標を乱数により決定する。
・原子間距離>イオン半径の和×係数の条件を満たすようにする
E粉末X線回折パターンを計算し、実測値との比較からR因子を計算する。
FR因子でソートし、上位300個のモデルを残す。
・格子エネルギーによる選別
G良さそうなモデルが絞れてきたと判断された場合はHへ
判断されない場合はCへ
・300個のモデル中に同じものが多数あり、まとめると10個以下になる
・R因子の1番目と300番目との差が0.1以下になった時
・あらかじめ指定した回数の計算ループを終了した時
[第2ステージ]
Hモデルの各原子位置を中心にして1/10の範囲で座標を動かし、最適値を探す。
IHへ戻る、収束してきたらJへ、
[第3ステージ]
J計算値と実測値の比較表をファイルに書き出して終了
各ステージの目的
ステージ1:たくさんの候補の中からR因子の良いものを探す
ステージ2:R因子の良いモデルの近傍を細かく探索する
ステージ3:得られたモデルを印刷し終了する
次のステージへ移るかどうかは次の点で判断している。
・ステージ1からステージ2 へ移る判断
(1)ループの回数がLoopmaxの値を超えたとき
(2)コントロールファイルから指示されたとき
(3)R因子の1番と300番の差が0.1以下になったとき
・ステージ2からステージ3 へ移る判断(もうこれ以上収束しないとの判断)
(1)ループの回数がLoopmaxを越えたとき
(2)コントロールファイルから指示されたとき
(3)最も良いR因子が0.05以下になったとき
1-2-10 原子散乱因子
原子散乱因子のデ−タはファイルasft.datに下記のようなsinθ/λが0.05毎の表のかたちで収められている。これはUNICS(Universal Crystal System)のフォーマットそのまま用いている。デ−タにない原子やイオンを使いたい場合は同じフォーマットでasft.dat の最後のendの前に付け加えればよい。asft.dat はテキストファイルなのでエディターで読み書きできる。
Mg
12.0000 11.5070 10.4720 9.5020 8.7350 8.0780 7.4460 6.8170
6.1940 5.5950 5.0340 4.5200 4.0590 3.6520 3.2970 3.0130
2.7290 2.5230 2.3170 2.1695 2.0220 1.9170 1.8120 1.7360
1.6600 1.6030 1.5460 1.5025 1.4590 1.4230 1.3870 1.3510
Fe
26.0000 25.3040 23.6780 21.8290 20.0460 18.3540 16.7440 15.2330
13.8450 12.5980 11.5020 10.5570 9.7530 9.0770 8.5120 8.0785
7.6450 7.3340 7.0230 6.7840 6.5450 6.3440 6.1430 5.9590
5.7750 5.5975 5.4200 5.2450 5.0700 4.8975 4.7250 4.5525
asft.dat には以下の原子の原子散乱因子が含まれている。
H He
Li Be B C N O F Ne
Na Mg Al Si P S Cl Ar
K Ca Sc Ti V Cr Mn Fe Co Ni Cu Zn Ga Ge As Se Br Kr
Rb Sr Y Zr Nb Mo Tc Ru Rh Pd Ag Cd In Sn Sb Te I Xe
Cs Ba
La Ce Pr Nd Pm Sm Eu Gd Tb Dy Ho Er Tm Yb Lu
Hf Ta W Re Os Ir Pt Au Hg Tl Pb Bi
U
1-2-11 空間群の対称性
空間群毎の対称性のデ−タはitvolaf9.datにテキストで収納されている。
以下にP2の二つのセルチョイス(A0031とA0032)の例を示す。
デ−タは空間群の記号(A0031)、空間群名(P2)、対称心の有無(0:無 or 1:有)、一般等価位置の対称操作の数(2、対称心があるときはその半分)、ワイコフ位置の数(5)が書かれており、以下各ワイコフ位置毎にワイコフ位置名(2e)、座標(x,y,z)、対称操作のマトリクス(回転部分3x3、並進部分3x1)が同価な位置の数だけ書かれている(対称心があるときは対称心で一致する位置の片方)。最後に非対称単位の情報が書かれ、endでひとつのセルチョイスが終了する。
注:2000年11月現在、セルチョイス2以降は一部未完成である
A0031
P2
0 2
5
2e
x y z
1 0 0 0 1 0 0 0 1 0.0000 0.0000 0.0000
-1 0 0 0 1 0 0 0 -1 0.0000 0.0000 0.0000
1d
0.5 y 0.5
0 0 0 0 1 0 0 0 0 0.5000 0.0000 0.5000
1c
0.5 y 0
0 0 0 0 1 0 0 0 0 0.5000 0.0000 0.0000
1b
0 y 0.5
0 0 0 0 1 0 0 0 0 0.0000 0.0000 0.5000
1a
0 y 0
0 0 0 0 1 0 0 0 0 0.0000 0.0000 0.0000
0 1
0 1
0 0.5
end
A0032
P2
0 2
5
2e
x y z
1 0 0 0 1 0 0 0 1 0.0000 0.0000 0.0000
-1 0 0 0 -1 0 0 0 1 0.0000 0.0000 0.0000
1d
0.5 0.5 z
0 0 0 0 0 0 0 0 1 0.5000 0.5000 0.0000
1c
0 0.5 z
0 0 0 0 0 0 0 0 1 0.0000 0.5000 0.0000
1b
0.5 0 z
0 0 0 0 0 0 0 0 1 0.5000 0.0000 0.0000
1a
0 0 z
0 0 0 0 0 0 0 0 1 0.0000 0.0000 0.0000
0 0.5
0 1
0 1
end
2.構造解析プログラムSMAPの応用
2-1 Brookite(TiO2)の構造解析例
JCPDS29-1361ではbrookiteの空間群をInternational Tables for X-ray Crystallography(IT)での標準的な軸の取り方とは異なったPcab(62)としている。ITでの標準的な軸の取り方はPbcaであり、本プログラムでも標準的な軸の取り方に基づいて計算するので格子定数をこれに合うように変更した。化学式TiO2で、Z=8であるから、8個のTi原子と16個のO原子が単位格子内に存在する。一般等価位置(8c)の数は8であるので、独立な原子はTiが1個、酸素が2個となる。これらの原子位置を非対称単位内で乱数により決定しながらR因子の低くなる位置を探した。入力したデ−タを表2-1に示す。
表2-1-1 Brookite計算の入力デ−タ
Number of Formula in a Unit Cell: 8
Cell Constants
9.1819, 5.4558, 5.1429, 90.000, 90.00, 90.000
Space Group: Pbca
Indipendent Atoms
Atom radii Wyckoff Pos.
Ti1, 0.7, 8c
O1, 1.3, 8c
O2, 1.3, 8c
第1段階として50億個のモデルをランダムに作成し、原子間距離の制限を満足したモデルについてR因子を計算し上位300個を残した。300個のモデルを得るのに90万個のモデルを乱数で作ったので、原子間距離の制限を満足したのは3000個に1個の割合であった。上位300個のモデルのTi原子の位置の変化の様子を図2-1-1に示す。ここで示したモンテカルロ数は原子間距離の条件をクリヤーしたモデルの数である。図は単位格子の内の非対称単位(0<=x,y,z<=0.5)内の原子位置を(001)面に投影したものである。サイコロを振る回数の増加に伴いR因子の良いチタン原子の位置が明瞭に見えるようになってくる。第2ステージでは得られた300個のモデルの原子位置の周りに原子を少しずつランダムに動かしながらR因子のさらに良くなる位置を探索した。

図2-1-1 Brookiteの原子位置収束の様子
最終的(50億回のトライアル)で得られた上位10個の結果を表2-1-2に示す。表2-1-3には各モデル毎の得られた原子座標と、XRDデ−タの強度の入力デ−タと計算値の比較を示している。w は得られた300個のモデルの内同じものがいくつあるかを示している。 e は内部エネルギーであるが、今回は内部エネルギーによる制限を行っていないのですべてゼロになっている
表2-1-2 R因子で上位10個のモデル
R x y z x y z x y z
1: 0.069 0.129 0.108 0.128 0.223 0.140 0.460 0.490 0.418 0.188
2: 0.073 0.131 0.104 0.124 0.220 0.120 0.459 0.494 0.414 0.196
3: 0.073 0.129 0.102 0.132 0.000 0.412 0.311 0.222 0.133 0.466
4: 0.073 0.129 0.103 0.129 0.220 0.136 0.463 0.496 0.401 0.186
5: 0.073 0.130 0.104 0.135 0.000 0.404 0.315 0.226 0.140 0.461
6: 0.073 0.129 0.103 0.129 0.220 0.136 0.463 0.496 0.401 0.186
7: 0.073 0.129 0.103 0.132 0.000 0.404 0.310 0.226 0.138 0.462
8: 0.073 0.132 0.091 0.130 0.015 0.341 0.339 0.220 0.107 0.459
9: 0.073 0.132 0.091 0.126 0.012 0.342 0.339 0.216 0.105 0.455
10:0.073 0.131 0.102 0.129 0.000 0.420 0.307 0.224 0.134 0.460
表2-1-3
Observed and Calculated XRD DataNo = 1 R-factor = 0.069 w = 127 e = 0.0
Ti1 8c 0.129 0.108 0.128
O1 8c 0.223 0.140 0.460
O2 8c 0.490 0.418 0.188
Dobs. Dcal. Iobs. Ical. H K L
3.510 3.513 100 100 2 1 0
3.470 3.466 80 80 1 1 1
2.900 2.901 90 90 2 1 1
2.729 2.728 4 5 0 2 0
2.476 2.476 25 24 1 0 2
2.409 2.410 18 18 0 2 1
2.370 2.369 6 5 3 1 1
2.344 2.345 4 3 2 2 0
2.332 2.331 4 3 1 2 1
2.296 2.295 5 4 4 0 0
2.254 2.255 8 9 1 1 2
2.244 2.243 18 15 2 0 2
2.133 2.134 16 13 2 2 1
----- 2.116 --- 3 4 1 0
1.969 1.969 16 24 3 0 2
1.893 1.893 30 30 3 2 1
1.851 1.852 13 16 3 1 2
-------------------------------------------------------------------------------------------
No = 3 R-factor = 0.073 w = 102 e = 0.0
Ti1 8c 0.129 0.102 0.132
O1 8c 0.000 0.412 0.311
O2 8c 0.222 0.133 0.466
Dobs. Dcal. Iobs. Ical. H K L
3.510 3.513 100 100 2 1 0
3.470 3.466 80 79 1 1 1
2.900 2.901 90 90 2 1 1
2.729 2.728 4 8 0 2 0
2.476 2.476 25 25 1 0 2
2.409 2.410 18 17 0 2 1
2.370 2.369 6 4 3 1 1
2.344 2.345 4 1 2 2 0
2.332 2.331 4 2 1 2 1
2.296 2.295 5 4 4 0 0
2.254 2.255 8 8 1 1 2
2.244 2.243 18 16 2 0 2
2.133 2.134 16 13 2 2 1
----- 2.116 --- 2 4 1 0
1.969 1.969 16 21 3 0 2
1.893 1.893 30 30 3 2 1
1.851 1.852 13 15 3 1 2
---------------------------------------------------------------------------------------
No = 8 R-factor = 0.073 w = 52 e = 0.0
Ti1 8c 0.132 0.091 0.130
O1 8c 0.015 0.341 0.339
O2 8c 0.220 0.107 0.459
Dobs. Dcal. Iobs. Ical. H K L
3.510 3.513 100 100 2 1 0
3.470 3.466 80 79 1 1 1
2.900 2.901 90 92 2 1 1
2.729 2.728 4 6 0 2 0
2.476 2.476 25 22 1 0 2
2.409 2.410 18 16 0 2 1
2.370 2.369 6 6 3 1 1
2.344 2.345 4 4 2 2 0
2.332 2.331 4 3 1 2 1
2.296 2.295 5 5 4 0 0
2.254 2.243 8 10 2 0 2
2.244 ----- 18 --
2.133 2.134 16 14 2 2 1
1.969 1.969 16 16 3 0 2
----- 1.957 --- 3 4 1 1
1.893 1.893 30 30 3 2 1
1.851 1.852 13 22 3 1 2
---------------------------------------------------------------------------------------------
Tiの位置は何も制限しないとx=1/4を通る(100)面、y=1/4を通る(010)面、z=1/4を通る(001)面で対称となる合計8個の低いR因子を与える位置が得られる。これらはいずれも正しい位置である。正しい位置が8個も得られるのは重原子(とは限らずどれか一つの原子)は空間群の非対称単位内を動かせばよいのではなく、もっと狭い範囲、すなわちチェシャー群の非対称単位内を動かせば十分である。Pbcaに対しては0<x<1/4、0<y<1/4、0<z<1/4であるので、ここではTiの位置を制限している。プログラムは上位10個以内にの。No.1、No.3、No.8の3つの異なったモデルをあげているが、No.3とNo.8のO1とO2とを入れ替えるとO1はみな同じになり、O2も対称操作で展開して比較すると同じものである事がわかる。
2-2 Forsterite(Mg2SiO4)の構造解析例
JCPDS 21-1260 のデ−タを用いて構造を解いた。各原子の多重度の組み合わせを以下のような6種についてそれぞれ乱数でモデルをつくり、原子間距離の制限をクリヤーしたものが30,000個になったときのR因子の様子を調べた。表2-2-1にワイコフ位置(多重度)の組み合わせと結果を示した。(6)の組み合わせは原子間距離の制約が大きいため、乱数で発生させた原子位置の組み合わせの大部分が採用されず、R因子の計算される回数はなかなか増加しないので途中で計算を打ち切っている。表に示したように最もR因子の収束が良い(4)のモデルを用い、さらにループを増やして計算を行った。
表2-2-1 ワイコフ位置の組み合わせとR因子
(1) 8 4 8 + 8 0.552 0.775
(2) 8 4 8 + 4 + 4 0.521 0.792
(3) 8 4 4 + 4 + 4 + 4 0.536 0.792
(4) 4 + 4 4 8 + 8 0.466 0.727
(5) 4 + 4 4 8 + 4 + 4 0.456 0.779
(6) 4 + 4 4 4 + 4 + 4 + 4 0.834 0.945
図2-2-1にモンテカルロ計算の回数とR因子の変化をしめす。ループの第1段階では多重度4の位置のワイコフ位置を乱数で決定した。4a(0、0、0)や4b(0、0、0.5)の位置は固定された位置なので、ワイコフ位置を決めるだけで確定できるが、4c(x、0.25、z)や8d(x、y、z)では自由度のある座標をさらに乱数で決定している。得られた上位300個のモデルが解に近いモデルを含んでいると判断されたときは第2段階に移る。この判断は理論的な裏付けはないが、いろいろな構造で試してみた経験的な値から判断している。最良のR因子と300番目のR因子の差が0.1以下に成ったときはほぼ収束したと判断し、第2段階に移るようにしている。ここでは第1段階で得られたモデルを基に少しづつ原子位置を修正しながら最良のR因子を示す座標を探索する。これをやると図2-2-1に示したようにR因子が急速に低下し正しい構造モデルを得ることができた。表2-2-2に得られたモデルから計算した回折強度をJCPDSのデ−タとともに示す。

表2-2-2 Forsteriteの計算結果(構造モデルと回折強度)
Mg 4a 0.000 0.000 0.000
Mg 4c 0.875 0.250 0.437
Si 4c 0.916 0.250 0.616
O 4c 0.057 0.250 0.154
O 4c 0.689 0.250 0.065
O 8d 0.310 0.051 0.285
Dobs. Dcal. Iobs. Ical. H K L
5.100 5.098 20 12 2 0 0
4.310 4.310 1 1 1 0 1
3.880 3.880 64 63 2 1 0
3.720 3.723 22 23 0 1 1
3.500 3.497 15 15 1 1 1
3.480 ----- 14 --
3.010 3.006 6 6 2 1 1
2.991 2.991 18 16 0 2 0
2.764 2.765 62 59 3 0 1
2.579 2.579 1 1 2 2 0
2.509 2.510 80 85 3 1 1
2.457 2.457 100 100 1 2 1
----- 2.378 -- 3 0 0 2
2.344 2.345 12 2 4 1 0
2.316 2.316 10 4 1 0 2
2.267 2.267 44 29 2 2 1
2.246 2.245 30 30 3 2 0
2.160 2.155 20 21 2 0 2
2-3
未知物質CaMg2Al6O12の結晶構造解析Akaogi et al.(1999)により21.8GPa、1200oCで合成されたCaMg2Al6O12の結晶構造をSMAPを用いて解き、リートベルト法で精密化した。この構造はAlに富む珪酸塩の高圧相にも見いだされており、マントル下部に実際に存在する可能性がある。
2-3-1 X線回折実験
粉末X線回折実験はグラファイトモノクロメータを装着した回折装置を用い以下の条件で行った。ダ−ゲットにはCrを用い、45Kv,250mAの条件下で2θ=15°〜145°の間をステップ幅0.01°、ステップあたりのカウント時間を5秒で計測した。粉末X線回折デ−タは六方格子で指数付けが可能であり、格子定数はa=8.7616、c=2.7849Åである。組成式はCaMg2Al6O12、Z=1である。Mg:Ca=2:1の狭い組成範囲だけに出現するので両原子がそれぞれ独立な位置を占めると考えられる。
2-3-2 結晶構造解析
透過電子顕微鏡によるa1*-a2*面の電子線回折図形は6回対称を示し、c*軸を含む方向の対称面は見られなかった。この結果ラウエ群は6/mあるいは
に絞られた。電子線回折と粉末X線により00l反射の消滅則を調べたところ、lが奇数の反射は観測されなかったのでラウエ群は6/mであり、可能性のある空間群はP63あるいはP63/mであることが明らかとなった。対称心を仮定し空間群をP63/mと考えて構造の探索を行った。Caは単位格子中に1個しか存在しないので多重度1の位置におかなければならないが、この空間群には多重度1のワイコフ位置はないので、多重度2の2aに置いて占有率を0.5としてモデルをつくった。Mg原子の位置は多重度2の2dと2cの2種であるが、どちらを選んでも同じなので2dに固定した。Alは多重度6の6gか6hの位置に、酸素は多重度6の位置に2個置く方法と多重度12の位置に1個置く方法の2とうりの置き方が可能であるので両方確かめた。予備的な計算を行ったところ、R因子の良いのはAlを6h、酸素を6h+6hに置いたモデルであった。この原子配置でSMAPを用い計算し、R因子の低い構造モデル(R=0.168)が得られた。
表
2-3-1 得られたモデルの原子座標Ca 0.000 0.000 0.250
Mg 0.666 0.333 0.250
Al 0.014 0.365 0.250
O1 0.147 0.618 0.250
O2 0.321 0.189 0.250
表2-3-2 実測値と得られたモデルの粉末X線回折デ−タ比較
7.588 7.588 10 9 1 0 0
4.381 4.381 8 <1 1 1 0
3.794 3.794 8 7 2 0 0
2.871 2.868 6 5 2 1 0
2.531 2.529 100 100 3 0 0
2.353 2.350 24 20 1 1 1
2.247 2.245 8 5 2 0 1
2.192 2.190 6 4 2 2 0
2.106 2.104 34 36 3 1 0
1.999 1.998 52 42 1 2 1
1.898 1.897 6 11 4 0 0
1.873 1.872 4 3 3 0 1
1.742 1.741 8 13 2 3 0
1.722 1.722 32 26 2 2 1
1.680 1.679 16 11 3 1 1
実測のXRDデ−タと良い一致が得られたので、構造モデルは基本的に正しいであろうと判断される。そこでこのモデルを出発モデルとして、RIETAN(Kim and Izumi, 1994)を用いリートベルト解析を行った。最終R因子はRI=6.86%(強度によるR因子)、RF=5.11% (構造因子によるR因子)となった。最終的に得られた構造パラメーターを表2-3-3に、回折図形を図2-3-1に示す。得られた構造をAlO6配位多面体の結合として描いた結晶構造図2-3-2に示す。
表
2-3-3 リートベルト法で精密化したCaMg2Al6O12 高圧相の結晶構造パラメーター
Atom site Occ x y z B
Ca 2a 0.5 0.000 0.000 0.250 2.9(5)
Mg 2d 1.0 0.666 0.333 0.250 1.8(3)
Al 6h 1.0 -0.010(1) 0.342(1) 0.250 1.5(2)
O1 6h 1.0 0.134(1) 0.601(1) 0.250 0.0(3)
O2 6h 1.0 0.306(1) 0.197(1) 0.250 0.5(3)
RWP= 22.29%, RI = 6.86%, RF= 5.11%.
2-3-3 新高圧相構造の特徴
新高圧相はCaAl2O4とMgAl2O4成分が2:1の比率で混合して合成したものである。両端成分はカルシウムフェライト構造を取るが、新高圧相の結晶構造はカルシウムフェライト(CF)の構造と比較して以下の点で相違がある。
(1) 両構造とも[metal-O6]八面体が稜を共有して2重鎖を作るが、2重鎖同士の結合様式に違いが見られる。新高圧相では2重鎖による3角形のトンネル構造をつくる。
(2)CFのCaは8配位であるが、新高圧相ではイオン半径の大きなCa原子は9配位で統計分布し、イオン半径の小さなMgは6配位である。
(3)新高圧相中の等価な二つの2a位置(0,0,1/4)と(0,0,3/4)間の距離は1.39Åであり、イオン半径1.26ÅのCa原子は両方の位置を同時に占めることはできない。どちらかの位置だけを占有した状態でほぼ密に充填された状態となる。


6個のAlO6多面体で囲まれた大きな原子がCaで、小さい方の原子がMgである。
3
まとめおよび今後の問題以上述べてきたように、モンテカルロ法による構造モデルの作成と、幾何学的制限を組み合わせることにより、リートベルト法のスタートモデルに必要な精度の構造モデルを作り出すことに成功した。全ての原子座標の組み合わせをある精度のステップ幅で計算しようとすると計算時間が膨大になるが、乱数で座標を発生させ全体を見渡してR因子が比較的良くなるような場所を探し、原子位置を絞り込んで行くようにすれば計算時間を短縮でき、パーソナルコンピューターでも簡単な珪酸塩の構造を解くことが可能である。結晶構造中に重原子が存在する場合は他の原子よりも大きな影響を構造因子に与えるのでR因子の良いモデルのみ残して行けば重原子から収束して行く。単位格子とその中に入る分子の形が分かっているときに分子の位置と方位をモンテカルロ法で決めた例はあるが、今回試みた方法では分子の形など構造に関する知識を全く必要とせずに構造を解くことができる。
今後必要と思われる改良箇所としては
以上の点を改良しつつ、さらなる発展を目指したいと考えている。
参考文献
Akaogi, K., Hamada, Y., Suzuki, T., Kobayashi, M., and Okada, M. (1999) High pressure transitions in the system MgAl2O4-CaAl2O4: A new hexagonal aluminous phase with implication for the lower mantle. Physics of the Earth and Planetary Interior, 117, 67-77.
Kim, Y.I. and Izumi, F. (1994) Structure Refinements with a new version of the
Rietveld-Refinement program RIETAN, Journal of the Ceramic Society of Japan, 102,401-404.
三浦裕行(1997)充填構造から考える結晶構造モデル作成プログラム
Journal of the Ceramic society of Japan,105,536-540.
Miura, H. and Kikuchi,T.(1999)
Crystal Structure Model-Assembly Program Using the Monte Carlo and the R-factor
Method, Journal of Chemical Software,5,163-172.
Miura,H., Hamada,Y., Suzuki, T., Akaogi, M.,Miyajima,N, and Fujino, K.(2000)
Crystal structure of the Al-rich new high pressure form.
American Mineralogist
本研究に関するコメント、プログラムのバグに関する情報等ありましたら、下記へ連絡いただきますようお願い致します。
北海道大学理学研究科地球惑星科学専攻
三浦裕行
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