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ジュゴンは東アフリカ沿岸から東南アジア・大洋州諸国にいたる熱帯のサンゴ礁にすむ草食大型獣である。肉を目的とする捕獲、漁網による事故死、沿岸の開発などにより、各地において個体数の減少や生息地の分断が起こっている。世界自然保護連合(IUCN)は、このような事態により本種の存続が脅かされていると判断し、1996年に本種を新基準によるVulnerable (VU A1cd:危急)に分類した。 我が国の南西諸島はジュゴン分布の北限に位置する。台湾におけるジュゴンの生存が絶望視されている現在、南西諸島のジュゴンの存在は、我が国の生物相の多様性のみならず、世界における本種の生息環境の多様性などの観点からも貴重である。世界自然保護基金(WWF)は南西諸島の沿岸生態系を「保存すべき世界の自然環境 "グローバル200"」の一つとしてリストしている。また、日本哺乳類学会は、日本のジュゴン個体群は成熟個体が50頭以下であるとして、1997年に絶滅危惧種に指定した。 南西諸島にはジュゴンが有史以前から生息していた。明治時代には奄美大島以南に普通に分布するとされていたが、次第にその数と生息範囲を縮小して現在に至ったと推察される。1997年から開始された調査では、本種は先島諸島では確認できず、偶発的な捕獲・漂着・目視などの記録も1970年以降は沖縄島周辺に限られている。本種の周年の存在が確認されたのは、沖縄島の東海岸の勝連半島から伊部にいたる約52kmの範囲に限られている。この水域は南西諸島のジュゴンの最後の生息地である。 我が国のジュゴンの保護の必要性については1930年代から指摘されてきたが、1955年に琉球政府による天然記念物指定があり、沖縄の日本への返還後は日本政府が天然記念物に指定した(1972年)。また、1993年には水産資源保護法によって採捕が原則禁止された。しかし、これらの指定や保護対策はジュゴンの意図的な捕獲を禁止するにとどまり、事故死の防止あるいは生息環境の保全という積極的な対策はとられてこなかった。 沖縄島東海岸における網漁業の密度は他水域に比して低いとはいえ、1970年以降に南西諸島で報告されたジュゴンの漁業事故10例中9例は、この水域の定置網や刺し網などで発生している。このような人為的要因による死亡事故を根絶し、生息環境を保全し、生息数の回復を図らないかぎり、ジュゴンは我が国の沿岸から消滅する恐れが非常に大きい。このような状況に鑑み、日本哺乳類学会は、沖縄県下に残るジュゴンの小個体群を保護し、安全な個体群レベルまで回復させることを目的として、以下に述べる諸対策を実施するよう、環境庁、文化庁、水産庁、防衛施設庁およびその他の関係諸機関、ならびに沖縄県に対して要望する。 1.沖縄島東海岸の勝連半島より伊部に至る、水深90m以浅の水域をジュゴン保護水域と指定し、刺し網や定置網などジュゴンの事故死を生じさせる漁具は、この水域で使用を停止するよう緊急に対策を講じる。なお、漁業者に対しては十分に配慮する。
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参照:日本哺乳類学会編(責任編集:川道武男)『レッドデータ 日本の哺乳類』(1997年9月 文一総合出版)
なお、同書233ページは、以下のとおり指摘する。
---------------------------------------- 海牛目 SIRENIA(担当:粕谷俊雄・宮崎信之) 154. ジュゴン Dugong Dugon
哺乳類学会評価:南西諸島沿岸=絶滅危惧
新基準仮評価(IUCN評価):CR D1(種として VU A1cd)
沖縄県に生息する本種はきわめて稀な報告状況から見て成熟個体数は50頭未満と考えられるのでCR D1と分類した。また、仮に成熟個体が250頭いたとしても開発や漁業活動により、彼らの生息環境は劣化の方向にあることは明確であり、この場合にはCR C2bと分類される。