2000年10月30日(月)

防衛施設庁
 長官 大 森 敬 治 殿
那覇防衛施設局
 局長 山 崎 新之郎 殿

防衛施設庁のジュゴン調査に対する緊急申し入れについて(要望)

ジ ュゴンネットワーク沖縄
〒901-2223 沖縄県宜野湾 市大山5-3-9
リン ガールプロダイブ気付
世話人 :棚原盛秀ほか7名
事務局長:土田武信
連絡先 Tel:098-832-2948
FAX:098-831-7924 (沖大研究室内)

はじめに

 私たちは、10月18日、防衛施設庁が沖縄島(本島)周辺海域でのジュゴン調査を実施する報道に接した。しかし、率直に申し上げると、私たち、主に沖縄島沿岸海域におけるジュゴン保護のために調査研究を行ってきた団体として、貴庁による調査をどう受けとめてよいのか、躊躇している。

 絶滅の危機に瀕している日本(沖縄)産ジュゴンを保全するため、「即時に実効性ある保護措置が講じられなければならない」(日本弁護士連合会「ジュゴン保護に関する要望書」2000年7月14日)など、基本的な知見は、すでに明らかになっている(ジュゴンネットワーク沖縄「沖縄におけるジュゴン保護のために(要望書)」2000年1月27日、日本哺乳類学会「沖縄に生息するジュゴンの保護を要望する決議」2000年9月30日参照)。

 調査費用約8千万円にものぼる今回の調査が、ジュゴン保護とその生息環境保全のための調査であるならば、私たちは、これを歓迎したい。しかし、この度の調査計画の実施主体が、普天間飛行場移設計画を推進する立場にある防衛施設庁であり、また、報道によると、「『同庁は調査実施について岸本建男名護市長からも要請があり、代替協議会の協議を円滑に進めるために行う』」などとも説明しており、いかなる目的のために、この度の調査が実施されるのか、疑問を感じざるを得ないからである。

 ところで、私たちは、この度の調査について、報道された内容以上の情報を得られていない。そこで、本「緊急申入れ」に際し、いくつかの質問もさせていただきたい(別添「質問事項」)。私たちは、その回答をいただいてから要望いたしたいのであるが、今月中にも調査がスタートされると伝えられているので、やむなく、本「緊急申入れ」を行う次第である。

緊急申入れ事項

1 ジュゴン保護とその生息環境保全のための調査であること。

 日米両政府も参加した国際自然保護連合(IUCN)の第2回世界自然保護会議は、2000年10月4日〜11日にヨルダンのアンマンで開かれ、「沖縄島のジュゴン、ノグチゲラ、ヤンバルクイナの保全」勧告決議を採択した。

 その中で、ジュゴンについては、日本政府に対し「ジュゴンの生息場所やその周辺における軍事施設の建設に関する自発的な環境アセスメント(EIA)を、できるかぎり早急に完遂すること」、そして「ジュゴン個体群のさらなる減少をくい止め、さらに、その回復に役立つジュゴン保全対策を、できるかぎり早急に実施すること」を要請し、アメリカ政府に対しても「協力することを要請」している。

 日米両政府は、棄権にまわったものの、日本政府代表は「我々は、ジュゴン、ノグチゲラ、ヤンバルクイナの生存を保証するために最大限の努力をする」という発言を決議集の中に盛り込むよう求め、また、アメリカ政府も「本決議の意味を考慮しながら、アメリカ政府は絶滅のおそれのあるこれらの種とその他を保全するための努力を支持する」という発言を行った。私たちは、この発言を評価したい。

 そこで、まず、今回の調査はこのような日米政府の公約と国際的な注視の下に行われる調査であり、なによりも、決議が述べているように、「ジュゴン個体群のさらなる減少をくい止め、さらに、その回復に役立つジュゴン保全対策を、できるかぎり早急に作成」するための調査であることが求められている。

2 ジュゴン「生息地等保護区」指定など、ジュゴン「保全対策」作成のための緊急調査であること。

 私たちの要望する「ジュゴン個体群のさらなる減少をくい止め、さらに、その回復に役立つジュゴン保全対策」(上掲・IUCN勧告決議)は、具体的には、ジュゴンを、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」における「国内希少野生動植物種」に指定するとともに、「沖縄島東部沿岸域のジュゴンの採餌域となっている海草藻場を中心とした海域を、『生息地等保護区』に指定すること」である。

 ちなみに、私たちは、そのような要望を盛り込んだ前掲の「沖縄におけるジュゴン保護のために(要望書)」を、本年1月末、環境庁、文化庁、水産庁各長官に対し郵送した。その後、5月1日と2日には、環境庁、水産庁、文化庁の各関係職員と面談し、改めて、同要望書に基づき沖縄産ジュゴンの保護を訴えた。しかし、その保護対策は、残念な がら、行われてきていない。

 そこで、私たちは、この度の調査が、ジュゴン「生息地等保護区」指定など、ジュゴンの具体的な「保全対策」作成のための「緊急調査」であること要望をする。

3 沖縄(日本)産ジュゴンの保全を図る長期的なジュゴン保護(個体数の回復)と生息環境保全(回復)対策を展望する調査計画をたてること。

 「沖縄のジュゴンの長期的な保全のためには、その個体数の回復を図る必要がある。」から、その目的のためには、その調査対象範囲について、琉球弧(南西諸島)全海域を対象に、また、ジュゴンの生息する近隣海域をも視野に入れた、少なくとも周年的な調査計画を早急に策定する必要がある。そのような調査によって、沖縄島沿岸海域に生息するジュゴンのもつ意義も明らかになろう。

 これまでの調査研究では、ジュゴンに関する個体の生態や生活圏、繁殖生態などの細目は、ほとんど分かっていない。また、数年に一度の妊娠で、一年近い妊娠期間と信じられていることから(ちなみに、3〜7年に一度の妊娠で12〜14ヶ月の妊娠期間という見方もある)、数年以上の個体観察も必要とされている。

 生息環境についていえば、海草藻場の衛星データの解析はもちろん、海中調査は海草の季節により生育の変動を考慮し周年、しかも、異常気象など特殊な年となる可能性など配慮すれば複数年にわたる調査を行うべきであろう。

 また、陸域の開発行為による餌場である海草藻場への影響、埋め立てによる藻場の 減少、刺し網・定置網などによる漁の影響をはじめ、軍事基地からの汚染物質の流入の有無、海草藻場や生活路、休息地での海上演習による危険、海上汚染、騒音汚染など、人間活動による影響なども、長期にわたって調査する必要がある。

4 本調査が、想定される普天間飛行場移設計画(軍民共用空港計画含む)をも視野に入れるものであれば、本調査は、その計画が、「ジュゴンの安全ならびに生息環境の保全に対して無害であること」を立証するものであること。

5 調査計画やプロセス、その結果を事前・事後に公表すること、また、国内外の専門家や自然保護の民間団体(NGO)を参加させるべきであること。

 今回の調査は、国際自然保護会議に参加する各国政府や世界の自然保護団体が注視するもとで行われるものであり、専門家を含め誰もが納得できる調査方針と計画、実施方法、調査結果(英訳も)の公表などが必要であることはいうまでもない。

 ところが、今回の調査は「予備的調査」というだけで、どのようなメンバーの下にどのような方針、どのような基本計画に基づいてなされるのか、明らかにされていない。このことは、調査結果の信憑性、科学性にかかわることだけに重大な疑問点である。

 本来、今回の調査を信頼性のあるものにするためには、国内外の専門家や自然保護の民間団体も、調査の基本計画策定の段階から参加させるべきであった。そのメンバーや調査計画も公表し、計画の段階から調査結果の公表まで、秘密裡ではなく国際的な世論の目にたえ得る透明性をもつものでなければならない。

6 今回の調査計画や方法にかかわる具体的な要望事項

1)ジュゴンの生態に即した調査であること。
 単に、ジュゴンの生息場所や生息数の確認に止まらず、ジュゴン生存の基本的条件、すなわち、餌場である海草藻場の確保、休息地と考えられる沖合い(人間活動との棲み分けか)の静穏性、海草藻場と沖合いとをつなぐ生活の道の安全性、つまり、ジュゴン個体群の安全な生活圏の調査が肝要である。

 そこで、その「生活の道」にかかわる刺し網・定置網などの漁業活動や、ジュゴン生息海域における海上(軍事)演習などの調査も不可欠である。

2)良好な条件のときに調査すること、短期的調査のもつ限界性に留意すること。
 10下旬から3ヶ月という調査時期は、相対的に天候の悪い時期だからである。ジュゴンの個体数を確認する飛行機による目視調査は重要であるが、ちょっとでも波立つと目視が不可能になるなど天候に左右されることや、飛行時の調査員の確認視界が狭い範囲であることにも、留意する必要がある。

 また、生態がほとんど知られていない状況もあり、琉球弧全海域にわたっての長期の、こまやかで継続的な調査計画と実施が必要である。ちなみに、海外の例では「ジュゴンは採食場となる豊かな海草帯Seagrass bedを一つの『核』として順次に沿岸海域の海草帯を巡り、また自分のCore Seagrass bedに戻る小規模な『索餌回遊』を繰り返す」などという指摘もあるから、沖縄産ジュゴンの短期的調査に際しても、留意する必要があろう。

3)捕獲や拘束、追跡行為等を伴う調査は避けるべきであること。
 日本産ジュゴンの個体群は、低レベルである。本種の調査研究活動に際し、ジュゴンの個体に危害やプレッシャーが加えられないよう捕獲や拘束等はこれを避けるべきである。

 ジュゴンが音に敏感であることは、よく知られている。ジュゴンの個体識別調査などの名のもとに、空(ヘリや飛行機)と海上(船)とが連携し、とくに、空からの目視情報を得ての船によるジュゴン追跡行為は、慎むべきである。

おわりに
 ジュゴン調査には、当面する緊急のジュゴン保全対策のための緊急調査と、そのような保全対策の実施と並行して行われる、長期的な保全対策立案のための綿密な調査研究計画とが必要である。

 また、今回の調査が、そのような当面の緊急保全対策の目的以外に、なんらかの結論に結び付けるため、形式的調査やデータのみを収集、公表するものであれば、今や国際世論が許さないことを肝に命じ、調査に着手すべきである。

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質問事項

1 本調査の目的について
1)貴庁による本調査の目的は何ですか?

2)海草藻場での潜水調査で、何を調べるのですか?

3)陸域の開発行為による沿岸海域への影響調査を行いますか?

4)航空調査で何を調べるのですか?

5)本調査は、想定される普天間飛行場移設計画(軍民共用空港計画含む)を視野に入れて行われるものですか?

6)本調査が、想定される普天間飛行場移設計画(軍民共用空港計画含む)を視野に入れて行われるものであるとするれば、かかる計画が、ジュゴンおよびジュゴンの生息環境に及ぼす影響についても、調査・分析するのですか?

7)調査全体として、ジュゴンの何を調べ、何を明らかにし、そして、その調査結果に基づいて何をする計画なのですか?

2 本調査計画立案の根拠について
本調査計画の立案の根拠となった全資料を公表していただけませんか?

3 ジュゴンの、種の保存法への適用について
 調査結果を受けて、種の保存法(「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」)をジュゴンに適用する等の検討を行いますか?

4 「生息地等保護区」について
 調査結果を受けて、「生息地等保護区」等、何らかの保全対策を立てるよう検討しますか?

5 漁網調査や「生息地等保護区」等指定に伴う漁業補償
 定置網、刺し網等漁網の調査を行いますか?調査結果を受けて、「生息地等保護区」等の指定、あるいは、何らかの「漁網」対策や漁業補償のあり方を検討しますか?

6 軍事演習について
 ジュゴンの生息海域は、米軍等の軍事演習海域と重なるところがある。その軍事演習海域とジュゴンの生息海域との関係について調査する計画はありますか?

7 「予備的調査」について
 報道によると、普天間飛行場移設「工事着手前に行う環境アセスメントとは別に予備的調査を行う」という。この「予備的調査」が遵守する手順(基準)は何ですか?それ とも、環境影響評価法を適用するのですか?

8 本年10月下旬から調査期間3ヶ月について
 相対的に天候が安定していない(むしろ悪い)、この時期に設定した理由と、調査期間3ヶ月となった理由は何か?あるいは、どのような検討を経て、決められたのですか?

9 中城湾の泡瀬沿岸海域について
 中城湾の泡瀬沿岸域は、豊かな干潟や海草藻場があり、ジュゴンの食み跡(ジュゴントレンチ)らしい個所の目撃情報も寄せられている。ところが、報道によると、海草藻場の分布図には、泡瀬沿岸域が抜けている。報道どおりだとすると、何故、泡瀬沿岸域が記載されていないのか?

10 調査主体について
 野生の海洋哺乳類であるジュゴン保護のための所管庁は、環境庁だと考えられるのですが、何故、防衛施設庁が、この度の調査の実施庁なのですか?貴庁は、今回の調査について、ジュゴンにかかわる環境庁(種の保存法)、文化庁(文化財保護法)、水産庁(水産資源保護法)と、具体的にどのような連携をされてきているのでしょうか?

 また、調査結果について、環境庁や文化庁など関係機関と、どのような連携をされる予定ですか?

11 「緊急保全対策のための緊急調査」と今後の課題について
 沖縄島沿岸海域におけるジュゴン生息の意義は、沖縄全海域の調査を踏まえてはじめて明らかになる。また、ジュゴンの生態は明らかでないことが多い。

 そこで、この度の調査は、沖縄島沿岸海域におけるジュゴン保護のための緊急保全対策立案のための「緊急調査」と位置づけ、今後は、本調査結果に基づくジュゴン保全施策を実施しつつ、調査対象を琉球弧全海域に広げ、周年的な調査期間を設定する等の措置を採った上で、よりきめ細かで、より本格的な保全対策計画を展望するべきである。

 貴庁は、そのような保全対策計画をおもちですか?

12 本質問に対するご回答について
 最後に、いつご回答いただけるのか、ご返事ください。