ねこさん皇国/トモキ編/ストーリー

第1話【桃園の三姉妹】

 鎖のアクセサリがついた光沢のある革の服、いわゆるヘビメタ服に身を包んだボーイッシュな女の子が、ネコミミのついた赤いショートヘアを小刻みに揺らしながら不機嫌そうに、実際に不機嫌なのだが、街中を歩いていた。
 彼女の名前は美咲。ねこさん皇国に住む「ねこさん」で、自称は「励まし系ねこさん」。
 つりあがった目と広いおでこがトレードマークである。

 その日の美咲の怒りの原因は双子の姉の義美んが自分を差し置いて、他のねこさんと義姉妹の契りを交わしてしまったことである。
 そのことについて美咲が問い詰めると、義美はあっさりと答えた。
「んーー、その場のノリってやつかな。(笑)」
 おいおい最後の『(笑)』ってどういうことよ!?

 ちなみに、ねこさんは、ねこさんといっても猫ではないので「にゃー」とか鳴かないし、人間と同じような姿形をして人間のように二足歩行し、人間の言葉を話し、なんかよくわからないものを食べて生活している。
 しかし、猫っぽい耳と尻尾がついているので便宜上、「ねこさん」と呼んでいる。
 それがねこさんである。
 ねこさん皇国とは人間の想像空間にある、「ねこさん」たちが暮らす国である。

 そんなこんなで、美咲は昔からの知り合いである、愛矢の家にやってきた。
 愛矢はクセのあるロングな銀髪とフリルが付きまくったゴスロリ服が似合うねこさんで、自称は「和み系ねこさん」。しかし、静音は「ボケねこ」または「ゴスロリねこ」と呼ぶこともある。(例:ケンカのとき)
 もちろん頭にはネコミミがついている。

 美咲は開口一番、愛矢に言った。
「愛矢ちゃん、私と義姉妹になって!!!!」
 それに対する愛矢の回答は一言。
「いいよー。」
 その考えの全くない一言に美咲は選ぶ相手を間違えた気がしてきたが、とにもかくにも義理の姉妹を確保した。
 しかし、ここで重大な問題が起きた。
 愛矢曰く「美咲が頼んできたんだから、私がお義姉さんね!」
 美咲曰く「愛矢ちゃんは私がいないと何もできないから、私がお義姉さんよ!」
 ちなみにねこさんは全て(1万)17歳であり、姉妹の上下関係は年齢では決まらないのだ。
 美咲と愛矢が愛矢の家の前で解決の糸口がないまま言い争っているところに、たまたま真恋が通りかかった。

 真恋はストレートでショートな黒髪にネコミミを付けた巫女衣装のねこさんで、自称は「癒し系ねこさん」。修行で諸国を放浪中であった。
 真恋は自分も義姉妹に入れてほしいと頼んだ。
 また、姉妹の順番を決める方法を提案した。
「三国志という中国の歴史書では後に蜀漢国の皇帝となる劉備と義弟の関羽、張飛の3人が兄弟の契りを交わした古事を『桃園の契り』と言いますが、このとき兄弟の順番を木登り勝負で決めたそうです。
 私たちも3人ですし、ちょうどここに来るときに近くに桃園と大きな木がありましたので、ここは木登り勝負で姉妹の順番を決めてみては?」
 こうして、三人のねこさんは木登り勝負で姉妹の順番を決めることになった。

 三人は一番高い木の下に集まり、いっせいに木登りを始めた。いや、正確には約一人、木の幹を爪で引っかいているだけのねこさんがいた。
 愛矢だ。
 うっかりものの愛矢は自分が木登りできないことをすっかり忘れていたのだ。根元で足掻いている愛矢を尻目に、美咲は着々と木をよじ登った。
 美咲の登り方は幹の隙間に猫爪引っ掛けながら腕力にものを言わせてよじ登るパワフルなスタイルである。実は、美咲は木登を得意とし方法は美咲にとってまさにお家芸ともいえるのだ。
 美咲の眼中に愛矢はない。真恋は能力が未知数であるものの、巫女衣装のようなひらひらした服を着てそんなに速く木登りができるわけがない。
 つまりこの勝負は始まる前から美咲の勝利が確定していたのだ。
 しかし、美咲はふと先ほどから姿が見えない真恋のこと気になった。木の裏側を登っているためだろうか?
 突然、美咲を呼ぶ声がした。しかも木の上の方から。
 声の主は真恋だった。信じられないことだが、真恋はすでに木の頂上にいた。
「そんなばかな!!」
 実は、真恋は美咲のように木にしがみついて登るのではなく、枝から枝へ次々と飛んで移動したのだ。さらに枝同士の距離が離れたところは三角飛びを駆使し、その姿はまるでムササビのようであった。

 勝負がついた。
 三人は木から下りて、正確には愛矢は登ってないが、集まった。
 真恋はうれしそうに言った。
「1位は私、2位は美咲さん、3位は愛矢さんですね。」
 ガックリとうなだれる美咲。
「えへへ」と照れる、意味を理解してない愛矢。
 美咲としては愛矢より上であることがせめてもの救いだった。

 「ところで桃園の契りの話の続きですが、木登り勝負が終わった後に長兄の劉備はこう言いました。
『長兄というものは、根元をしっかり支える存在であり、枝葉となって働くのが弟である。』
 こうして、木の頂上まで登った張飛が三男、木の途中まで登った関羽が次男、根元にいた劉備が長兄にきまりました。つまり、私たちに置き換えると、私が三女。」
「ちょっと待って!!じゃあ、、、」
「はい、途中まで登った美咲さんは次女。根元にいた愛矢さんが長女ということになります。」
 あまりの展開に美咲は絶句してしまった。
「一番上に登った人が長女とは一言も言ってませんよ。それに私、前からお姉さまがほしかったんです。二人もお姉さまができて、今日はとてもいい日ですわぁ。」
 真恋はとても満足そうに微笑んでいた。
『このコ、黒い!!!』
 美咲は真恋に底知れぬ策略家の才能を感じた。

 しかし、ふと愛矢と真恋を見比べてみた。
 まん丸のかわいい目で上目づかいに美咲を見つめる真恋。
『で、でも、かわいいじゃない!!!!
 愛矢ちゃんの妹になるのは屈辱としても、真恋ちゃんが妹になってくれるんだったら、ここは、真恋ちゃんの言うとおりにした方が得策か。』
 ちなみに長女に選ばれた愛矢はそのときすでにお昼寝をしてた。

 この後、三人は桃園にシートを引いて季節はずれの宴を開いた。それはお菓子とジュースという、宴というよりもお泊り会に近いものだった。
「私達三人。」
「生まれた日は違うけど。」
「願わくは同じ日に死なんですわ。」
「じゃあ」
「乾杯!!」
桃園で義姉妹の契りを交わしたことから、後に『桃園の三姉妹』と呼ばれるようになる三姉妹がめでたくが誕生した。

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