| 同人シンデレラ |
| ■ 第2夜
シンデレラはおばさんに声をかけました。 「あ、あの、もしかして、お母さんのお知り合いの方ですか?」 おばさんはシンデレラの方を振り返りました。 「お母さんということは・・・、もしかして、あなたはシンデレラ?」 シンデレラはおばさんが自分の名前を知っていることに驚きました。 おばさんは、年齢は40歳くらい。 身長は自分と同じくらいでやや肉付きがよく、女社長の風格がありました。 「私は昔、あなたのお母さんにお世話になったことがあるの。 あなたと直接あったのは今日が始めてだけど、写真は見たことがあって、 あ、でも、赤ちゃんのときのことだから、見てないのと大差ないわね。」 考えてみたら、シンデレラはお母さんの知り合いの人に会うのは初めてでした。 シンデラレのお母さんは家で読書や編み物をすることが多く、 社交場は苦手のようでした。 お母さんのお葬式のときも弔問に来たのは父親の会社と取引がある人ばかりでした。 シンデレラはこのおばさんに母親と同じ雰囲気があることにふと気づきました。 「ところで、何か悲しいことがあったの? 目の周りが真っ赤よ。 よかったら話してくださらない。」 シンデレラは目の周りを真っ赤にして、涙の跡もはっきりくっきり残していました。 「そういえば、ちゃんとした自己紹介をしてなかったわね。 私の名前は『ハル・ナー』、『ハルおばさん』と呼んでもらって結構よ。」 こうしてシンデレラはお母さんの知り合いのおばさんの屋敷に招待されました。 ◆ ハルおばさんの屋敷は教会から歩いて15分ほどの距離にある、 小高い丘の途中にありました。 そこは、建物自体はそれほど大きくないものの、 門や窓などには見事な彫刻が施され、 一見してお金がかかっていることがうかがえられました。 シンデレラは応接間に通されました。 「さて・・・、 辛いことがあったときは、話してみるとちょっとは気が晴れるから、 何があったか話してみてちょうだいな。」 シンデレラは、ハルおばさんに出会えたときから驚きの連続で、 すでに今日のことは忘れそうになっていましたが、 思い出しながら話し出しました。 しかし話していくと、お母さんが死んでからの辛い記憶までが次々と蘇り、 また涙がこぼれてきました。 ハルおばさんはシンデレラの話に、時にはうなづき、 時には驚きながら応えました。 一通り気が済むまで話して落ち着いたシンデレラは、 あらためて応接間を見回しました。 そこは10畳くらいの広さで、 むしろシンデレラの家の応接間の方が若干広いくらいでしたが、 ここの応接間は視界の250度が床から天井までびっしりの本棚になっていました。 しかも本の背表紙には、「鋼の憐憫づくし」、「バイブ、黒いっス!!」、 「サブだ!!トルーパー」など、どこかで聞いたことがあるけど 絶対に自分が知っているものと違うに違いないタイトルが並んでいました。 「ふふ、本が気になるのかしら。」 「あ、は、はい。」 「それは同人誌といって、あなたのお義姉さんが描いているのも 同じといえば、同じ同人誌ね。 まあ、あそこのサークルは規制ぎりぎりのハードヤオイが売り物だから 生理的には対岸に位置するけど。」 どうやら同じだけど同じに見られたくはないらしい。 シンデレラはそう理解しました。 「この同人誌も昔はもっといっぱいあって、 港のコンテナを2棟借りてたときもあったのよ。 でも、この家に入るときにほとんど処分してしまって、 残っているのはここにあるのと、あと押入れにちょっとあるくらい。 見たいときにすぐに見れない本は無いのと同じだから。 ここにあるのは余程気に入って他の人にも読ませたい本か、 資料性の高い本だけなの。」 ここにある本だけでも探すのは大変なんじゃないかとシンデレラは思いました。 ふとシンデレラは本棚の隅で布切れがかかった部分を見つけ、 気になりました。 「おば様、どうしてそこの棚だけ布がかかってるんですか?」 ハルおばさんは一瞬驚いたような表情を浮かべました。 「それは、私にとって思い出の本だから・・・。 辛いことも思い出してしまうから普段はそうしているの。 読んでみる?」 「でも、そんな大事な本を汚してしまったら大変だから・・・」 「いえ、むしろあなたは読んでおいた方がいいと思うわ。」 ハルおばさんから手渡された本は、 不遇な兄弟が助け合いながら逆境に立ち向かう話でした。 特に絵が上手いわけではなく、 鉛筆とサインペンで書いたような独特のタッチでしたが、 不思議と心に残るものがある作品でした。 こうしてシンデレラは同人誌を読ませてもらうため、 たびたびハルおばさんの家を訪ねるようになりました。 |