同人シンデレラ

第9夜

話は戻って、今朝シンデレラが車を降りた直後のこと。

「なあ、ハヤト。
ここにいるのは俺とお前だけだよな。」
「加賀さん、だめですよ。」
「俺はまだ何も言ってないぜ。」
「言わなくてもわかりますって。」
「ちぇ、
でもなぁ、
伝説の同人作家とも言われた『桜葉瑠璃』が目をかけたコの原稿だぜ。
気にするなって方が酷だろ?」
「そりゃあ、あのオーナーが目をかけるほどのコの原稿に興味がないといったら嘘になりますけど…。」
「だろ。」
「でも、あんな迫力で見るな!!って言われたら…
それに車に乗る前に書き始めてせいぜい3時間ですよ。
いくら僕の運転が丁寧でも、車の中で原稿がそんなに書けるわけないですよ。」
「よし、じゃあ最初の1ページだけ見ようぜ。決まり。」
「加賀さん・・・」

結局2人は好奇心に負けしまいました。
このとき2人は完全にシンデレラの力量を見くびっていました。
ほのぼのとしたファンシーな絵を想像していた2人は、 数十秒後に世間の広さを思い知ったのです。



アスラードの中には殺気が充満していました。

「見ましたね?」
殺気の発生源のシンデレラが加賀とハヤトに詰め寄りました。
ハンドルを握る加賀の手は、自分でわかるほど汗でジューシーになっています。
「いいいや、そんなことないぜ」
「そそうですよ、僕たちはハードヤオイなんて見てないよ。」
「バカ、ハヤト!!」
「あ!!」

2人が見たシンデレラが描いていた原稿、
それはまだ下書きの鉛筆書きでしたが、 人気の格闘ゲームの主人公とライバルが、くんずほぐれつのハードヤオイにふける漫画が描かれていました。
アクロバティックな構図と止め処ない汁気と恍惚の表情に溢れた、 シンデレラのウブさからは想像もつかないほどの原稿、
しかも車で移動していた2,3時間で30ページ近い下書きができていたのです。
2人はシンデレラの才能と見た目とのギャップに、 ある種の何かが自分の中で崩れ去るのを感じました。

「約束したのに…」
シンデレラは恥ずかしさのあまり、思わず泣き出してしまいました。
その瞬間、 加賀とハヤトもシンデレラとの信頼関係が音を立てて崩れるのを感じ取りました。

帰りの数時間、アスラーダの車内は重い空気に包まれていました。
このときのアスラーダは、 大型トレーラーとぶつかっても弾き飛ばされるのは大型トレーラーの方に違いないとハヤトは思いました。


ハルおばさんの家に戻ったシンデレラは、 加賀とハヤトに原稿を見られたこと以外のその日のできごとをおばさんに報告しました。
「今日は皆が私のことを『カホだ』って呼ぶんです。」
おばさまはちょっと意地悪な笑いを浮かべて言いました。
「たぶんそれは『家宝』という意味じゃないかしら。」
シンデレラは、 それはありえないだろうと思いつつもそれ以上聞くのをやめました。
自分がそれを知ってはいけないような気がしたからです。

シンデレラはその夜もおばさんの家に泊まりました。

第10夜へ続く  |  目次に戻る