同人シンデレラ

第16夜

 舞踏会から数日が過ぎました。
その間、世間では王族の「人探し」の話題で持ちきりです。
これは、王子が花嫁を探していると告知すると、我こそはと名乗り出る偽者が大挙して押し寄せてくることを懸念しての処置でした。
 シンデレラの描いた原稿はコピーされていたるところに貼られ、テレビでは連日のようにシンデレラが描いたヤオイ原稿を画面狭しと紹介されていました。
その内容を見た一般市民は、
「ややっ、これは面妖な。」
「男同士がくんずほぐれつ…」
と一様にイヤなものを見る反応を示しました。
そして、王様が同性愛に目覚めたとか、王妃が浮気相手を探しているとか、様々な噂が飛び交い、事はすでに一ヲタクの社会復帰どころの騒ぎではなく国家的行事に発展していました。

 そして、その日ついに王子が警視総監と専属の護衛隊長を連れてシンデレラの家に訪ねてきました。



 父母と姉2人の一家4人は満面の笑みで王子達一向を出迎えました。
花嫁探しのことは公には伏せられていましたが、数日経つころには各種メディアによりその全貌が明らかになっていました。
王子は直感的にこの姉2人は違うと思いましたが、念のため審査を受けさせることにしました。
警視総監が、王子の「人探し」の概要と審査方法を説明します。その審査方法とはズバリ「漫画」。「S」が残した手掛かりが漫画の原稿しかないため、自ずと審査方法も実際に目の前で漫画を描いてもらうしかないのです。
2人に与えられた時間は15分。出来上がった原稿をSが残した原稿とくらべて似ていればS本人であるという仕組みです。

 姉2人は漫画を描き、15分が経過しました。
2人の姉は作業の手を止め、まず上の義姉が書き上げた下書きの原稿を王子一向に渡しました。そこにはプロにもひけをとらない耽美な絵柄の漫画が描かれています。
上の姉は鼻高々に自分の描いた原稿を自画自賛しましたが、王子は冷ややかな目をして感想を言いました。
「たしかに上手い絵だ。しかし、絵柄が違う。」
上の姉は顔の色をリトマス紙のように一瞬で真っ赤に変えて抗議します。、
「何ですって!私はこの絵柄で毎回3000部完売しているのよ!!私の絵に文句あるの!?」
たまらず継母がなだめに入ります。
「お前、同人と王子様とどっちが大事なの!?」
「同人よ!!」
「・・・」
重苦しい空気が幾重にも満たされました。
上の姉は終わりました。

 続いて、今度は下の姉が描き上げた下書きの原稿を王子一同に渡しました。 一同が2つの原稿を比べると、 どちらも全く同じ人が描いたとしか思えない絵柄です。
「こいつは素晴らしい。 微妙なラインまで、どこから見ても同じ絵柄だ。王子、これはもう決まりに違いないぜ。」
そう言って護衛隊長は感嘆の声をあげました。
 実は、下の義姉は模写を得意としているのです。 しかもただの模写ではなく、デッサンやアングル、 ラインの強弱までまるで本人が書いたように描くことができるのです。 まさにプロの漫画家が一家に一人欲しいアシスタントの鏡のような存在なのです。
「うむ、確かに非のうちどころもないほど似た絵だ。」
王子がそう感想をもらすと、下の姉は大して高くない鼻を高々とかかげ、 継母は今後の裕福な生活を想像して同人誌10冊書けるほどの妄想を繰り広げました。
 しかし、王子は原稿を見つめたまま何かが納得できない様子です。 それを見ていた護衛隊長がふと、あることに気が付きました。
「そうか、これではカップリングが違う。 この原稿では『庵×京』になっているが、あの娘が残した原稿は『京×庵』だ。」
それを聞いた王子も我が意を得たりとばかりに下の姉に描き直しを命じました。
「これは失礼しました。た、直ちに。」
継母は満面の笑みを崩さず、下の姉に書き直しを命じました。
「・・・だめよお母様。私には描けない。」
「なぜなの!?理由を言いなさい!!」
「京サマは受けに決まっているの!!庵が受けなんて邪道よ!!
いくら王子様の命令でもできることとできないことがあるわ!!」
「お前、京と王子とどっちが大事なの!!!?」
「京サマ!!」
「・・・」
重苦しい空気が幾重にも満たされました。
下の姉も終わりました。

 たまらず警視総監がシンデレラの父に詰め寄ります。
「この家には他に娘はおらぬのか」
「はは、まだ一人、前妻の生みました娘がいることはいますが、 あれは漫画を描いたことなどなく、王子様のご期待には添えないかと。」
それを聞くや、警視総監がシンデレラの父に耳打ちしました。
「お主は勘違いをしているようだな。
本物かどうかなどはこの際関係ない。王子が生身の女性の興味を抱いたことが重要なのだ。
王子が気に入ってしまえば、たとえそれが舞踏会で出会った女性でなくてもよいということだ。<ひでー(笑)
わかったらさっさと連れまいれ。」
あわててシンデレラを呼びに向かうシンデレラの父に、さらに警視総監が声をかけます。
「よいか王子がその娘を気に入れば、貴殿は皇父になれるのだぞ。(そしてそれを世話した俺の地位も安泰だ。)」
「こ、皇父!?」
シンデレラの父の声はすでに上ずっていました。

 数分も経たたずにシンデレラをつれてシンデレラの父が戻ってきました。
シンデレラはぼろぼろの服を着て化粧もしていませんが、バランスのよい目鼻立ちはすっぴんでもそれとわかるほどの美貌の持ち主でした。
護衛衛長が王子に耳打ちしました。
「王子、俺が思うに、このコは違うと思うぜ。だから、俺がもらってもいいだろ。」
王子はむっとして答えました。
「まだ違うと決まったわけでわない。」
王子は2人の姉と同じようにシンデレラにも原稿を描くよう促しました。
しかし、シンデレラの筆はなかなか進みません。なにしろシンデレラは舞踏会の後、漫画から手を引く覚悟をしています。ましてやシンデレラが描くのはハードやおい。とても観客がいる中でかけるようなシロモノではないのです。
制限時間はどんどん過ぎてゆきます。
焦る王子と警視総監。懸命に喜びを押し隠す護衛隊長。

 たまりかねた王子は一計を案じました。
「そうだな。ポーズをとれば描きやすいんじゃないかな。」
言うが早いか、庵のコスをした王子は自分のシャツのボタンを外し、厚いわりに繊細なラインの胸元をはだけさせました。 さらに、ポーズだからと言って、京のコスをした護衛隊長の手を自分の胸元に入れ弄らせます。 しかも、護衛隊長もその気になってきたのか、 弄る手に力が入ったようで王子は恍惚の表情を浮かべました。
眼前でリアルヤオイを見せられているシンデレラの心臓はバクバクです。

「すばらしいいいいいいいいいぃぃぃ!!!!」
突然、警視総監が脳天からマグマが噴出しそうな甲高い声で叫びました。
驚くシンデレラ。
さらに驚いたことに、先ほどまで胸元をはだけてさせてリアルヤオイを演じていたはずの王子と護衛隊長が拳を構えて向かい合っています。
「あぇ・・・、さっきのヤオイは・・・、なぜファイティングポーズを・・・」
 そのときシンデレラは気付きました。王子がポーズといったのはファイティングポーズのことだったのです。そしてその後のリアルヤオイは全てシンデレラの妄想が生み出した産物だったのです。
(「ポーズ」の一言であっちのスイッチが入ってしまったようです。)  それだけでなく、信じられないことですが、シンデレラは妄想しながら無意識のうちにその妄想通りの原稿をかいてしまったのです。原稿は絵柄、カップリングの向きともS本人であることが疑いないものでした。

 王子はシンデレラに優しく語りかけました。
「やはり、あなただったのですね。」
「あの・・・、王子様、私、本当はこんな貧相な姿で、可憐でも花穂でも咲耶でもなくて・・・」
「そんなことはどうでもいいんですよ。僕が愛したのは可憐のコスでも、花穂のコスでも、咲耶のコスでもなく、目の前にいるあなたなのです。」
その言葉にシンデレラは上気しました。
王子は言葉を続けます。
「シンデレラ、お願いです。僕の・・・、僕の妹になってください。」

第17夜へ続く  |  目次に戻る